イケメンがご乱心すぎてついていけません!

アキトワ(まなせ)

文字の大きさ
8 / 70

7.イケメンが突然ご乱心しました

しおりを挟む
 

(えーと、、これは一体どういう状況なんだろ…?)

 俺は困惑と羞恥で現在パニック中だ。
 掴まれたままの身体を強張らせることしか出来ない。

 同性の(α様である)友人(化け物級イケメン様)が俺の匂いを嗅いでくるなんて……!!


(うっひゃああああ!…や、やめてぇえ!!)


 こんなイケメンに、汗ばんだ体臭を嗅がれるなんて! 俺のHPが保たないっ
 俺を羞恥で殺す気か、このイケメン様は!?

「あ、あああの、和南城さん?? 俺、汗かいてる!だから首っ、離そうか…!」


 男に抱え込まれながら、項の匂いを嗅がれるなんて普通は鳥肌ものなんだろうけど、和南城の性別を超えた男前フェイスの前だとそれすら吹っ飛び、羞恥しか感じられない。
 しかも嗅いでくる和南城からはコロンなのか柔軟剤なんだろうか…とてもとても良い匂いがしている。
 そんな匂いまでイケメンな相手に、汗臭い首元を嗅がれている俺。

(い、いたたまれない……)

 もういっそ殺して欲しい。
 せめてシャワー後に嗅がれるんだったらまだマシだった。
 いや違うし!
 嗅がれたいわけじゃないんだって…! 落ち着け俺!
 パニックになりながらも、心の中でひとりツッコミを入れてしまう。

 和南城はそんな俺の内心なんかどこ吹く風なのか、うなじに懐いたままだ。
 ハァ…と熱いため息をこぼしながら、さらには俺の首元に頬をスリスリと擦り寄せている。
 
 なんなんだこの状況……!!
 イケメンのご乱心か何かか!? 


「三由の匂いは…なんだか落ち着くな」

 項から耳の裏に鼻を滑らせると、もう一度匂いを確かめるように、スンッと鼻を鳴らしている。

 だーかーら──っ!

「止めろって和南城ぉ……。俺汗かいてるんだってぇ。バッチイからよしなさいっ」

 掴まれている腕を離そうとジタバタ暴れてみるも、一向に離してくれない。どころか制服の襟と首元の隙間を縫うように、無理矢理鼻を付けてくる。


(~~~~~───…ッッ!!)


 声にならない悲鳴が喉から漏れた。

(この男前は何してくれてんだよ!!)

 死ぬ。死ぬ。マジで死ぬ。
 俺を憤死させる気だろお前っ!

「わ、な、じょぉおッ!」

 首を竦めるようにしながら名前を叫ぶ。

「三由の汗…Ωの匂い、とはまた違うけど……。嗅ぐと何だか心が満たされる。不思議な感じだ」

 ウットリした低音ボイスでそう囁かれるけど。
 あのね、俺の汗の匂いの説明なんて誰も聞いてないよ? 匂いレポートなんてしなくていいからっ

「あーもう。……お前イケメンなのに、男の汗の匂いなんか嗅ぐなって。今、超絶残念イケメンになってるぞ。分かってる?」
「構わない。だからもう少し三由の匂いを嗅がせて」

 呆れてこっちはため息をついてるってのに。このα様ときたら、首元にへばりついたまま離れようとしてくれない。
 どうしてくれようこのイケメンめ!と思案していたら突然。


 ――カリッと、甘く、歯の当たる感触が…。


「ほぇえあ……ッッ!?」

 ビックリして変な声が出ちまった。
 心臓がバクバクしてくる。


(コ…コイツ……今…)


「…っ、な、なん……っ!」

 後ろを振り向きたくても、和南城の頭が項に当たっているせいで、上手く首を巡らせられない。
 そして驚きすぎて舌噛んじまった。あ痛てててっ!

「あ、悪い三由……。うっかり首、噛んでしまった」
「うっかりで噛むなよ。心臓跳ねたぞ、こっちは!……あのな、そういうのはΩに対してするものだろ? β相手にそんなことするのはαの名折れだぞ」
「……あぁ。ごめんな三由」

「痛かったか?」と言いながら、強張る俺の首元に再度唇を寄せると、噛み付いた箇所を優しくあやすように唇を押し付けてくる。

 少し離した後に、今度は深く―――…


「……っン…っ!」

 ザワッと肌が粟立った。思わず鼻にかかったような声が喉から漏れる。
 突然こんな官能チックなまねをしてくる和南城が、不気味でならない。
 頭の中では『!?』マークが飛び交いつつも、身体を這うゾワゾワとした妖しいざわめきのせいで、さっきから背中の震えが止まらない。

「……あっ。あ…、わなじょ…っ?」
「ん。もう…痛くない、だろ……?」

 和南城の声が甘い。
 ほんとお前誰…ッ!? てかそれよりもっ!

(痛いも何も、軽くしか咬まれてねーんだから、咬み跡さえ残ってないだろっ!)

 そう言ってやりたくても、押し付けられる唇のせいで、乱れそうになる呼吸を抑えるので手一杯だ。
 触れられた箇所がジンジンする。
 なんだこれ…。ちょっと俺の身体敏感すぎじゃね? 
 唇を押し付けられてるだけなのに、何でこんなに甘く疼くような刺激に感じてるんだ?


(嘘だろ……。やば…、なんか気持ちいいんだけど…)


 「うぁ…っ、わなじょ……。はぁ…、んん…っ」
 
 同じ場所に何度も口づけを落とす和南城の滑らかな唇が、うなじを優しく食んでくる。
 刺激に、ゾクン…ッ!と跳ねる身体を、腰に回された右手が押さえつけてくる。
 そのままゆっくりと…落ち着かせるように脇腹からお腹に向かって撫でられた。
 ビクビクビクッと腰が跳ねる。

(うっわ…何そのヤラシイ動き……!)

 鳩尾にひきつるような甘さが加わり、勝手に下半身が戦慄くように震えるけど、自分ではうまく止めることが出来ない。

「は…っ、あ……」

 ハッハッ、と小刻みに乱れる息が苦しい。空気が密度をもったように重く感じる。
 昂ぶった身体からブワリと汗が吹き出た。
 官能を誘うかのように、ゆったりとした動作でお腹周りをなぞってくる和南城の手首に爪を立てながら、反応しそうになる身体を必死で抑えつける。
 背中に感じる和南城の体温が熱い。熱で温まったのか、コロンの香りが変化している。
 グリーン系だった香りが、今は林檎のような甘酸っぱい匂いに変わっていた。


「三由―――…」


 何かを和南城が囁やこうとした時、資料室の外から女性徒達の楽しげに話す声が聞こえてきた。
 その声に、お互いハッとしたように我に返る。
 重かった空気もすっかり霧散し、今は何処と無く、いたたまれない空気だけがその場に残っている。
 そして焦る俺。

(びびびびっくりしたーっ、俺ってば何を途中から気持ち良くなってんだよっ!)

 慌てて和南城の腕から転がるようにして身体を離す。今度は抵抗なく簡単に抜け出ることが出来た。
 乱れた制服を直しながら、この何ともいえない空気をどうすればいいんだ、と内心頭を抱えてるけど。

「あー…っと、悪い。せっかく助けてくれたのに、何かおかしな空気になっちゃったな。ハハッ」

 とりあえず気まずい空気を払拭するために、意味もなく笑っておいた。


 ふぅ。
 下腹部は少し熱くなったけど、元々が不甲斐ないクララ様のお陰もあって、和南城相手に完勃ちするという愚行を犯さなかったことだけは褒めてやってもいい。セーフだ俺!
 男相手に、盛り上がってしまった気恥ずかしさからは、逃れられねぇけど……。
 首を掻きながら、視線をやや下に向けるようにして、とりあえず和南城には謝っておく。
 
「えっと…庇ったときに身体痛めてねぇ? ごめんな」
「いや大丈夫。……オレもちょっとおかしかったな。嫌がっていたのに悪い」

 チラリと見た和南城の顔はいつもの無表情に戻っていた。感情を窺うのは無理だけど、視線がしっかり俺を捕らえているのだけは分かる。
 慌てて顔を俯けてみたけど、その刺すようなピリピリとした熱い視線は、肌に感じたままだ。

(う…。流石の俺でも、今はちょっと気まずいから、あまり見ないでほしい)

 視線から逃れるように、資料室を流し見た。そして愕然とする。
 やべぇ…!落とした紙を、そのまま散乱させっぱにしてるじゃんか!
 床に散らばらっているのは、幸いにもホチキスで留められた束だけみたいだ。これがもし束になっていない紙の方だったら、と考えるだけでゾッとする。

 慌てて紙を拾う俺の指を、和南城が上からそっと押さえてきた。さっきまでされていた行為が頭を過って、思わず指が震える。

「ここと残りの束はオレが片付けておくから。三由はそろそろバイトに行った方がいい」

 俺の指が一瞬震えたことには気がついていたはずなのに、和南城は何も見なかった振りをすることにしたのか、そこには触れずに俺に優しく声をかけてくれる。
 ただ俺自身が何を言われているのか、一瞬分からなかった。
 『バイト?』と頭に疑問符を浮かべた後に血の気が引く。

 そうだ……! 今日ってバイトの日じゃん!!
 
 すっかり忘れてた!
 その言葉にギョッとして時計を見れば、確かに思っていた以上に時間が経過している。
 今から帰ったらギリギリ間に合うか、くらいの時間だ。
 でも、

「いや、俺が散らかしたものだし…」
「いいよ。オレが余計な事をしたせいだから気にするな。早く行かないと、本当に間に合わなくなるんじゃないのか?」

 少し逡巡したが、バイトは信用が第一だ。
 心苦しいけど、ここは和南城に甘えさせてもらおう。

「悪い和南城!この埋め合わせはちゃんとするから!」
「――…悠」
「え?」

 和南城が呟いた言葉が、聞き取れなかった。
 聞き返すように和南城を見つめてみれば、紙を拾うために片膝をついたままの和南城が、俺を見上げるようにもう一度言葉を繰り返してきた。


「悠って名前で呼んで。三由」



しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

最愛の番になる話

屑籠
BL
 坂牧というアルファの名家に生まれたベータの咲也。  色々あって、坂牧の家から逃げ出そうとしたら、運命の番に捕まった話。 誤字脱字とうとう、あるとは思いますが脳内補完でお願いします。 久しぶりに書いてます。長い。 完結させるぞって意気込んで、書いた所まで。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

番に囲われ逃げられない

ネコフク
BL
高校の入学と同時に入寮した部屋へ一歩踏み出したら目の前に笑顔の綺麗な同室人がいてあれよあれよという間にベッドへ押し倒され即挿入!俺Ωなのに同室人で学校の理事長の息子である颯人と一緒にα寮で生活する事に。「ヒートが来たら噛むから」と宣言され有言実行され番に。そんなヤベェ奴に捕まったΩとヤベェαのちょっとしたお話。 結局現状を受け入れている受けとどこまでも囲い込もうとする攻めです。オメガバース。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

処理中です...