マイアの魔道具工房~家から追い出されそうになった新米魔道具師ですが私はお師匠様とこのまま一緒に暮らしたい!~

高井うしお

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20話 空中散歩

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「楽しかったぁ」

 その夜マイアはベッドに寝転がりながら昼間の飛行実験の事を思い出していた。マイアは機体に乗っていた訳ではなかったが、オーヴィルの気持ちの高揚を感じながら一緒に横を飛んだ感覚がいつまでも残っていた。

「……何かを一緒に作るのもいいかもね」

 レイモンドの言っていたようにオーヴィルさえ良かったら、これからマイアの手に負えない加工は彼に依頼したい、とマイアは思った。ものづくりの先輩として、彼から学びたい事がまだまだある気がする。

「いつかできるといいな……飛行機……」

 マイアはコートかけに吊してある風の魔法のマントに目をやって、風の魔道具を搭載したあの試作機の事を考えていた。……その時、ふっとある考えが降ってきた。

「あれ? このマントがあの機械だとしたら……あ!!」

 マイアはガバッとベッドから起き上がった。そして机の上の箱を開いた。そこにはカイルから貰った魔石がしまってある。

「魔石……そうよ……なんで気が付かなかったの?」

 マイアは今度はコートかけのマントを手に取った。その襟元に縫い付けられた魔法陣をマイアはそっとなぞる。
 それは呪文の詠唱をきっかけに、魔法使いの魔力を元に飛行の魔法が発動するように細工したもので、一般的に『魔道具』というのはこうしたものだった。

「ここに魔石をつければ魔力が……少なくとも節約できる」

 風の属性の神霊との契約にも魔力がいるのでこのまま誰もが使える、とは言いがたかったが……これでマイアの街への往復は随分楽になるはずだ。
 マイアは小さな風の魔石をかき集めて魔法陣に縫い込んでいった。

「よーし……」

 マイアは魔石で省エネ化を図った魔法のマントを寝間着の上にそのまま羽織って、静かに自室のドアを開け抜き足差し足で家の外に出た。

「風の霊よ、契約の印に従いて我に集い翼となれ」

 ふわりとマイアの足が草むらを離れる。そのまま森の木の上まで、そしてさらにその上までマイアはマントを使って上昇していった。

「楽ちんっ!」

 マイアの目論見どおり、最初の契約の呪文以外は魔力の消費している感覚がほとんどない。あとは体のバランスをうまく使う事に神経を払えば良かった。
 マイアは試しにスピードを上げて進んでみた。今までが嘘のように簡単に飛ぶ事ができる。そう、まるでアシュレイのように。

「あ……もう街……」

 マイアの目の前には家や酒場や夜市の明かりで輝くティオールの街が見えていた。

「綺麗……」

 マイアは少し離れたところでぷかぷかと浮きながら夜の街を眺めていた。

「こんな時間になにやってる」
「きゃっ」

 マイアは急に襟首を掴まれた。こんなことをするのはただ一人である。アシュレイだ。

「アシュレイさん、魔石で風のマントを改良してみたんですよ。飛行中の魔力を魔石で補って……」
「それはいいが若い娘が夜中にうろちょろするんじゃない」
「えー? 空の上ですよ?」

 こんな上空までやってくる暴漢なんて聞いた事もないとマイアが文句を言おうとすると、アシュレイは人差し指をマイアの口に当てた。

「心配した、と言っているんだ」
「……はい。ごめんなさい」

 マイアは翌日になるまで我慢できず、こっそりマントの試運転をしてしまった事を反省した。

「まあいい。そうか……魔石のマントか……」
「これはちょっとズルですかね? 私、街までの移動を楽にしたくて」
「いや、マイアは飛行の魔法の基礎はキチンと習得している。足りないのは魔力量だけだからな。工夫のひとつだと思うよ」

 アシュレイにそう言ってもらえてマイアは微笑んだ。アシュレイはそのご機嫌そうな顔を見て苦笑した。

「ほら、ここまで来られるか?」
「い、行けます!」

 からかうような口調でアシュレイはグン、と高度を上げた。マイアは一生懸命その後を追った。そしてアシュレイのいる高さまで飛んで、その周りの光景に息を飲んだ。

「星が近い……月も……」
「周りに何もないからそんな気がするだけだ。実際はもっともっと遠くにある」
「不思議ですねぇ」

 マイアとアシュレイの眼前には一面の星、そしてぽっかりと浮かんだ月。その星空の下にぽつりぽつりといくつかの街の明かりが見える。何もかもが小さくてまるでおもちゃのように見えた。

「ちょっと寒いですね」

 上空の大気の冷たさにマイアはブルッと身を震わせた。体を温める為、火の魔法を使おうとしたが上手くいかない。魔石で補っているとはいえ魔力をいっぺんに使い過ぎたみたいだ。

「おいで、マイア」

 それを見たアシュレイは自分のマントを広げてそこに来るようマイアを促した。

「嫌ですよ」
「……風邪を引くだろう」
「そうしたら回復魔法で治します」
「いいから来い」

 アシュレイは指を鳴らした。するとマイアの体は勝手に引っ張られてアシュレイのマントにすっぽりと包まれた。

「……もう子供じゃないんですけど」

 マイアはそう言いながらもアシュレイの腕の中の温かさにじっとしていた。

「そろそろ戻ろう。明日に響く」
「そうですね」

 アシュレイはマイアを包み混んだまま、家に向かって進路を変えた。

「ねぇ……アシュレイさん……」
「ん? なんだ」
「このマントを作ったのは街に行きやすくしたかったのもあるんですけど……アシュレイさんと一緒に空を飛んでみたかったんです。横に並んで」

 アシュレイと街に行くとき、マイアのスピードに合わせていたら時間がかかりすぎるのでマイアは手を引かれているばかりだった。このマントならアシュレイのスピードに追いつくことが出来る。

「……そうか」

 アシュレイはそれだけ言って、マイアの頭を撫でた。マイアはこの時ばかりは文句も言わずにされるがままになっていた。
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