高嶺の花には彼氏ができない！？

絆の花

第61話：廊下の先で

「高橋さんは演劇部の部長ですっごく演技上手なんだよ」  

　私は少し誇らしい気持ちで高橋さんを紹介した。

「へー、二年なのに部長か」  

　お兄ちゃんが感心したようにうなずく。

　二年生なのに、一つの部を引っ張るなんて簡単なことじゃない。

「はい。三年生がいなくて、」  

　高橋さんが控えめに答えた。

　その言葉に彼女の責任感と真面目さが滲み出ていた。

　そんな彼女だから、今回の球技大会も責任を感じているんだろうな。

「美月と一緒にいるところあんまり見なかったから、美月と仲良くしてくれてありがとね」  

　お兄ちゃんが高橋さんをじっと見つめながら言う。

　その言葉に私は一瞬驚き、同時に恥ずかしくなった。

　お兄ちゃんがこんな風に真面目なことを言うのは本当に珍しい。

　いつも適当なことばかり言っているのに、今だけは違う姿を見せるなんて、なんだか変な感じだった。

「い、いえ、こちらこそです、」  

　高橋さんが少し照れくさそうに答える。

　その言葉には気遣いが込められているようで、彼女に負担をかけてしまっているような気がして少し申し訳なくなった。

「もう！お兄ちゃんみたいなこと言わないで」  

　私はお兄ちゃんを少し睨みながら言った。

　いつもふざけてるくせに…

「みたいって、お兄ちゃんでしょ」  

　お兄ちゃんが軽く肩をすくめて笑う。

　…分かった。

　友達の前でいい顔したいだけだ。

　うん。きっとそう。

「いつも適当なくせに、いきなり真面目なこと言うのやめてよ」  

　私は眉を寄せながら言った。

「妹を見守るのがお兄ちゃんの役目でしょ？」  

　お兄ちゃんが肩をすくめて得意げにそう言う。

　その調子に私は少し呆れつつも、軽く肩をすくめてしまった。

　こういう時だけ、お兄ちゃんとしての役目を口にするんだから。

「見守るどころか邪魔してるだけ…」  

　心の中では少しだけちゃんと分かってるつもり。

　だけど、口にするのはなんだか負けた気がして、わざと強く言い返してしまった。

　お兄ちゃんはわざと大げさにショックを受けたポーズをとり、

　私はそれに少し呆れたけれども、小さく笑いが漏れてしまった。

「そんなこと言うなら、球技大会忍び込んじゃおっかなー」  

　お兄ちゃんがふざけた口調で言う。

　その軽率な発言に、私は呆れと恥ずかしさで思わず声を上げてしまった。

「もう！どうしてまたその話になるの！」  

　私は声を張り上げ、お兄ちゃんを真っ直ぐに睨んだ。

　高橋さんの前で、余計なことを言わないでほしいのに。

「だって心配なんだもん。美月が怪我しないか」  

　お兄ちゃんがふざけた口調でそう言う。

　昔はよく転けて怪我したりしてたけど、私だって成長したんだから。

「怪我なんてするわけないでしょ？球技のなかでもバスケは得意なんだから」  

　私は胸を張りながら強気に返した。

　自分でも少し大げさに言っているのは分かっていた。

　バスケが得意だと言い切れるほどの自信はないけど、ここで弱気なところを見せたくなかったから。



　お兄ちゃんに心配されるのがなんだか悔しかった。