俺様王子から逃げられない

ダヨ

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19 王子は理解の範疇を超えてます

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なら、どうして俺を探していた?

おばちゃんは、王子は黒髪黒目の人を探しているっていっていた。

それとも、あれは風のうわさだったのだろうか。
それか、違う人を探しているとか?

まあいい。どちらにせよ噂は噂だし、王子は実際たまたま俺を見つけたと言っている。こんな普通の街を何回も視察にくるなんて少し疑問が残るが、関わらないに越したことはない。

しかも、この前のことも水に流してくれた。王子が直接、許してやるなんて言うのは意外だったが、許してくれるのなら大いに歓迎だ。本当によかった。

俺はもうてっきりダメかと


ならもう俺に用はない。はず。
たまたま見つけて、声をかけたのもきっと、知人の挨拶程度のものだろう。
一度会ったことがあり話しかけるか迷ったが、挨拶くらいはしとこう的な?

うんうん。きっとそんな感じだ。
じゃあもう俺に用はない。なんて、頭の中にある疑問を放置しながら自分に言い聞かせた。



ーー許してやることにした

「!そうですか。それは、その、、ありがとうございます。」


俺はお前を許してやることにした。
随分と上からだが、まあそれも王子だから仕方ない。
また返答に困ってしまったのでとりあえずお礼をした。
王子も満足気にしているので間違ってはなかったのだろう。



それはそうと、もう用事がないなら帰ろうと思った俺だったが……

俺が先に帰るのも失礼かと思い王子が退くのをまっていたのに、一向に動く気配がしないのはなぜだろう。

雨の中無言で向き合うというシュールな感じになってしまった。


「………」

「………」

「…あの?」

あの、早く動いて貰えませんかね?
俺は伺うようにして王子を見上げたが返答はない。
それどころか、なぜか視線を俺にずっと向けている。なんだよ。まだ何かあるのか。


なぜ王子は何もしようとしていないのか。
勝手に帰ってしまっていいのか。
我慢ならない俺は試しに一歩後ろに下がって見た。

まだ雨除けの範疇にある俺はもう一歩下がると濡れちゃうなとか思いながらも目の前の王子の様子を伺った。

すると王子は一歩近づいてくる。

……ん?

試しにもう二歩さがってみる。

ん?

だが王子も二歩進んでくる。


下がっても変わることのない距離感におれは困惑する。

え、どうしたらいいの?

次は3歩下がることにしたが、一歩、二歩進み3歩目を踏み出そうとしたところで腕を捕まれ引き寄せられてしまった。
 


「……なぜ逃げようとする」


「………え…いや、帰りたいだけで」


何を言っているんだこの王子。
逃げる?捕まえに来たわけでもないのに何故そんなことを言うのだろう。俺は帰りたいだけなんだ。早く帰らせてくれよ。


「おい。濡れるぞ」


そんなこと言いながら離れようとする俺の腕を離してくれない。
いやもうとっくに濡れてます。
捕えられた腕を引き抜こうと後ろへ下がったところでまた引き寄せられてしまう。

あのー離して貰えると嬉しいのですが…


「あの、俺、帰りたいです……」


「だがお前は雨除けを持っていない。」



え?
いやそうだけど、

持っていないからなんだよ。
俺は雨に濡れても帰らなければならない。

とりあえず急いでいる胸をつたえる。


「おれ、店番があるので帰らないと……それに、雨好きなんで大丈夫です…」


なんで離してくれないんだ!

どさくさに紛れて、握られた腕を引き抜こうとするが、腕を掴む強さに驚き断念した。

王子はなんの意図で雨除けのことについて話したかわからないが、俺には店に戻らないといけないという重大な用事がある。


「雨が好き?…変な趣味だな…」

「ハハ…」


別にいいだろ。好きでも。
小馬鹿にするように鼻で笑われた。
相変わらず性格が滲み出てる。



「俺は雨除けを持っているが、お前は持っていない。」

「はぁ……」


だからなんだよ。
俺は急いでるのに…



「…………」


「…………」



どうして何も言わない…


「……何かいうことはないのか」



………はい?


本当に何を言っているのか理解できない。

俺が王子の言葉を待っていたはずなのに、なぜ俺が何か言うことになってるんだ。

雨除けをもっていないことに何か問題でもあるのか?



王子は一度ため息をつき、呆れたアピールをする。

呆れているのはこっちなのに、勝手に呆れている王子は訳のわからないことを言った。


「だから、お前は雨除けを持っていない。」



ええそうですけど。

一度躊躇った表情を見せたかと思うと王子は聞き取りづらいくらい小さな声で…



「…俺が、送ってやるといっているんだ。」


なんて言った。


「え…」




……どーしてそうなる?



ますます訳が分からない。
やっぱ王族の考えてることなんて庶民には見当もつかん。

俺が雨除けを持っていないからって、なんで王子が送ることになる。
見上げてみると、王子は横に顔を背けていた。少し耳が赤い。

なんで照れてるんだよ…


「え………いや…ほんと、大丈夫です。1人で帰れます。」


とんだありがた迷惑だ。

こう言っては失礼だけど、王子に送られてはさらに面倒なことになる。

雨はさっきよりも強くなってるが急いで帰れば全然平気なはず。

俺が丁寧にお断りをすると、王子の眉間にシワが寄り豪華な顔が突如として怖くなる。

やめてくれ、美形の凄む顔は怖いんだ。フランで身をもって知っている。
沸点が分からない王子にまたもや困惑する俺。



「俺が…お前を送らないで風邪でも引いたら後味が悪い。」



いや知りませんけど。

なんだ後味が悪いって。

眉を寄せたままそんなことを言うが、そんなすぐ風邪を引くような貧弱に見えているのだろうか。
たしかに、俺は王子みたいな体格はしていなけど…

雨くらいなんてことない。

でも、王子にも俺が風邪引いたら後味が悪いなんて、そんな良心が残っていたんだ。

でも、俺はそんなぽっちで風邪ひくような奴じゃない。


「いや、そんなヤワでは……」


やんわりと断る俺。
だが、有無を言わさない顔に何も言えず、結局だんまりしてしまった。

…うう。どうしよう。

早く帰りたいのに。
でも、王子がついてくるなんて絶対面倒だ。

けど店ではフランが待ってる。切らした卵をいつまでも待ってる。


王子は俺を送れば満足するのだろうか。


これはきっと俺が折れないと帰してからないやつだ。

後ろの黒髪イケメンをみて察した。

はあ、これだから我儘王子は、、


俺は葛藤の末、妥協してやることにした。

まぁ、雨にこれ以上濡れる心配はなくなるし。

王子と一緒に帰るなんてとんでもないが、王子にほんの少し残っていた良心を無駄にする訳にもいかないしね。

チラリと王子をみると返事を待っているようだった。
これって、俺から言った方がいいのだろうか。


「じゃあ…、王子…送ってもらってもいいですか?」



俺は気遣いが上手なので、
あくまで、俺が送って欲しいと頼んだことにする。
機嫌を損なわれないためにも。
一応王子だし…



「あぁ。送ってやろう。」


王子は満足げに片方の口角をあげ言った。


……なにが、送ってやろうだ。
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