8 / 12
8.弱った心
しおりを挟む
一方一哉は卒業と同時にプロに入った
仲間に囲まれ刺激されさらに成長を続けた
それでも休みの日には必ず公園に出向いた
「いるわけないよなぁ…」
毎回こぼされるため息に自分でも笑えて来る
「帰って来いよ…」
つぶやくように言う
「お前がいないと何かが足りないんだ…」
この半年試合に勝っても心から喜ぶことができない
負けても悔しさが以前ほど沸かない
ファンに囲まれてもその中に紗帆の顔を捜す
仲間からは女を紹介されるが会いたいとも付き合いたいとも思えない
一哉の心はまだ紗帆だけが占領していた
ただ時間だけが過ぎていく
「あの…」
「?」
顔を上げると3人の女の子が立っていた
「一哉選手ですよね?サッカーの!」
「…」
「ファンなんです!これ私たちで作ったんです。受け取ってください!」
彼女たちはそろって頭を下げた
「…悪い。今の俺には受け取る資格がないんだ」
一哉は静かに言うと呆然とする彼女たちを置いて駐車場の車に乗り込んだ
自分の気持ちをごまかすために打ち込むサッカー
決してチームのためではなかった
あれだけ楽しんでいたサッカーを今は楽しいとさえ感じていない
「サイテーだな俺…」
仲間の前でふと漏らす
「何が?」
「いえ…」
「お前最近変だぞ?プレー自体は問題ないけど…」
「すいません」
「いや。攻めてるんじゃないんだ。ただ心配になっただけだし」
「そうだぞ一哉。お前高校サッカーではもっと楽しそうだったじゃねぇか」
そばにいた先輩が口を挟む
「…」
「話くらいなら聞くぞ?」
その言葉にどこか救われたような気がした
「…ある女が頭から離れないんすよ」
「女?お前だったらいくらでも選べるだろ~?」
「そういう問題じゃないだろ。どういう女なんだ?」
「高1の秋に出逢ったんですけど毎日練習に付き合ってくれるんすよ。まぁ向こうも陸上で頑張ってたから一緒にトレーニングしてるって感じだったんですけど…」
「同じ年か?」
「2つ下です。でも変に大人びててどこか冷めた部分のある子で気づいたら守ってやりたいって思ってました」
「へ~」
「多分付き合ってるみたいな状態だったんですけど、何となくはっきりさせたくなってある賭けをしたんです」
「賭け?」
「はい。まぁ賭けと言っても俺が100%勝てるようなものだったんですけど…」
一哉は苦笑する
「でもその賭けの直前に彼女は事故にあった。陸上で日本新出せるって太鼓判押されてたのに…」
「陸上で日本新?それって如月紗帆…?」
「何お前知ってんの?」
「いや、前に騒がれてただろ。16歳の日本記録更新なるかってさ、ごっつ可愛い女の子だって健二も一緒に騒いでただろ」
「あぁ、そういえば…ってあの子なのか?」
「…はい」
「マジかよ?たしかあの少し後に失踪したって…?」
「はい。最後に俺が一番望んだ言葉と一番聞きたくなかった言葉を残して…」
「一哉…」
2人はつらそうな一哉をどう励ませばいいかわからなかった
「ひょっとして休みの度に出かけてるのって…」
「あいつといた公園です。いるわけないってわかってるけど、『いつか帰ってきたときに一言だけ伝えさせてくれ』って書き残していったからどうしても気になって…」
「…じゃぁお前は彼女を待つんだ?」
「待つというよりは戻ってきてくれたらって思ってます。あいつがいなくなってからの俺は抜け殻みたいなもんすから」
「…抜け殻のプレーにしちゃ出来すぎだろ」
「隆」
「悪い意味じゃねぇって。たださ、抜け殻だって言う今があれだったら自分取り戻したときがどんなものなのかって思うと…」
「そりゃそうだけどそんな単純じゃねぇだろ」
「…すんません。何か変な話…」
「気にすんな。俺ら仲間だぞ?同じチームのさ」
隆が言う
「そういうことだ。誰かに話してちょっとでも気が楽になるならいつでも聞いてやんよ」
「健二さん…」
「まぁさ、お前がそれだけ思ってるってことは戻ってくるかも知れないって期待がちょっとでもあるんだろ?だったらお前も頑張るしかねぇだろ。彼女が戻ってきたときに胸張って迎えれるようにさ」
「…そうっすね」
「ま、頑張れや」
2人に励まされて一哉は少し胸が軽くなるのを感じた
その日を境に少しずつではあるものの一哉の本領を日本中の人間が知ることとなった
仲間に囲まれ刺激されさらに成長を続けた
それでも休みの日には必ず公園に出向いた
「いるわけないよなぁ…」
毎回こぼされるため息に自分でも笑えて来る
「帰って来いよ…」
つぶやくように言う
「お前がいないと何かが足りないんだ…」
この半年試合に勝っても心から喜ぶことができない
負けても悔しさが以前ほど沸かない
ファンに囲まれてもその中に紗帆の顔を捜す
仲間からは女を紹介されるが会いたいとも付き合いたいとも思えない
一哉の心はまだ紗帆だけが占領していた
ただ時間だけが過ぎていく
「あの…」
「?」
顔を上げると3人の女の子が立っていた
「一哉選手ですよね?サッカーの!」
「…」
「ファンなんです!これ私たちで作ったんです。受け取ってください!」
彼女たちはそろって頭を下げた
「…悪い。今の俺には受け取る資格がないんだ」
一哉は静かに言うと呆然とする彼女たちを置いて駐車場の車に乗り込んだ
自分の気持ちをごまかすために打ち込むサッカー
決してチームのためではなかった
あれだけ楽しんでいたサッカーを今は楽しいとさえ感じていない
「サイテーだな俺…」
仲間の前でふと漏らす
「何が?」
「いえ…」
「お前最近変だぞ?プレー自体は問題ないけど…」
「すいません」
「いや。攻めてるんじゃないんだ。ただ心配になっただけだし」
「そうだぞ一哉。お前高校サッカーではもっと楽しそうだったじゃねぇか」
そばにいた先輩が口を挟む
「…」
「話くらいなら聞くぞ?」
その言葉にどこか救われたような気がした
「…ある女が頭から離れないんすよ」
「女?お前だったらいくらでも選べるだろ~?」
「そういう問題じゃないだろ。どういう女なんだ?」
「高1の秋に出逢ったんですけど毎日練習に付き合ってくれるんすよ。まぁ向こうも陸上で頑張ってたから一緒にトレーニングしてるって感じだったんですけど…」
「同じ年か?」
「2つ下です。でも変に大人びててどこか冷めた部分のある子で気づいたら守ってやりたいって思ってました」
「へ~」
「多分付き合ってるみたいな状態だったんですけど、何となくはっきりさせたくなってある賭けをしたんです」
「賭け?」
「はい。まぁ賭けと言っても俺が100%勝てるようなものだったんですけど…」
一哉は苦笑する
「でもその賭けの直前に彼女は事故にあった。陸上で日本新出せるって太鼓判押されてたのに…」
「陸上で日本新?それって如月紗帆…?」
「何お前知ってんの?」
「いや、前に騒がれてただろ。16歳の日本記録更新なるかってさ、ごっつ可愛い女の子だって健二も一緒に騒いでただろ」
「あぁ、そういえば…ってあの子なのか?」
「…はい」
「マジかよ?たしかあの少し後に失踪したって…?」
「はい。最後に俺が一番望んだ言葉と一番聞きたくなかった言葉を残して…」
「一哉…」
2人はつらそうな一哉をどう励ませばいいかわからなかった
「ひょっとして休みの度に出かけてるのって…」
「あいつといた公園です。いるわけないってわかってるけど、『いつか帰ってきたときに一言だけ伝えさせてくれ』って書き残していったからどうしても気になって…」
「…じゃぁお前は彼女を待つんだ?」
「待つというよりは戻ってきてくれたらって思ってます。あいつがいなくなってからの俺は抜け殻みたいなもんすから」
「…抜け殻のプレーにしちゃ出来すぎだろ」
「隆」
「悪い意味じゃねぇって。たださ、抜け殻だって言う今があれだったら自分取り戻したときがどんなものなのかって思うと…」
「そりゃそうだけどそんな単純じゃねぇだろ」
「…すんません。何か変な話…」
「気にすんな。俺ら仲間だぞ?同じチームのさ」
隆が言う
「そういうことだ。誰かに話してちょっとでも気が楽になるならいつでも聞いてやんよ」
「健二さん…」
「まぁさ、お前がそれだけ思ってるってことは戻ってくるかも知れないって期待がちょっとでもあるんだろ?だったらお前も頑張るしかねぇだろ。彼女が戻ってきたときに胸張って迎えれるようにさ」
「…そうっすね」
「ま、頑張れや」
2人に励まされて一哉は少し胸が軽くなるのを感じた
その日を境に少しずつではあるものの一哉の本領を日本中の人間が知ることとなった
10
あなたにおすすめの小説
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
優しい彼
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私の彼は優しい。
……うん、優しいのだ。
王子様のように優しげな風貌。
社内では王子様で通っている。
風貌だけじゃなく、性格も優しいから。
私にだって、いつも優しい。
男とふたりで飲みに行くっていっても、「行っておいで」だし。
私に怒ったことなんて一度もない。
でもその優しさは。
……無関心の裏返しじゃないのかな。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる