謎めいたおじさまの溺愛は、刺激が強すぎます

七夜かなた

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 振り返ると、オフショルダーの白のシャツに、膝丈の黒と白の千鳥柄のペンシルスカートの、スタイルのいい女性が立っていた。エナメルの黒ピンヒールが、街灯に照らされ光っている。
 手入れの行き届いた長い髪を耳に掛け、夜でもきっちりお化粧をした顔でジロリと私を睨んだ。
 対する私は通夜ということもあり、ファンデーションと、リップのみ。それも受付でバダバタしていたから、けっこう落ちているだろう。

「もう終わったの? 待ってたんだけど」
「悪い。一服したら行くよ」

 そう言って彼はもうひと吸いしてから、携帯用灰皿に煙草を捨てた。
 ポイ捨てしないんだ。と感心した。

「ごめん、オレ、もう行くね。ありがとう。バイバイ旭ちゃん」

 通り過ぎる際に私の肩をポンと叩いて、私が渡した返礼品を掲げてウインクした。

「唯斗、何か食べに行こう。素敵な夜景が見えるレストランがあるの」

 女性は国見さんの腕に自分の腕を絡め、しなだれ掛かり甘い声を出した。

「う~ん、オレ今ラーメンの気分なんだけど」

 そして彼女は私の方を見て、睨んで来る。彼と話していたのが気に入らないんだろうか。

 でもその後で見下したような顔をした。

 彼女と私ではタイプが違うから、こっちは張り合う気はないのに、ただの接客でも彼と会話した女性は敵だとでも言うんだろうか。

「じゃあ、中華街は?」
「いや、どっちかと言うと、がっつり豚骨ニンニク増し増し。辛いのでもいい」
「え~やだぁ」

 どちらかと言うと、女性の方が国見さんにベッタリみたいだ。二人は近くに駐車していた真っ赤な高級車に乗り込んだ。

「軽い感じの人だなぁ」

 あのビジュアルに、あの雰囲気なら、学生時代はたくさん告白されただろう。今でもモテる筈だ。明らかにスクールカースト上位の人種だ。

「私とは全然違う」

 やるなら図書委員や美化委員。体育祭でも応援団やチアリーダーなんてもってのほか。文化祭の模擬店なら裏方タイプだった。
 ミスター、ミスコンはエントリーはもちろん、投票も出来なかった。

 母が若い男性と駆け落ちしたことで、私は父や祖母からちょっと派手だと思われる装いをすると、すぐに嫌味を言われた。

 妹の穂香は今どきのJKらしく、おしゃれやアイドルに夢中だ。学校にも軽く化粧品をしていく。でも誰もそれを咎めたりしない。
 私には無縁だった花柄のスカートも、ヒラヒラのブラウスも、大きめのアクセサリーも、穂香は当然のように身に着けている。
 このまま、ずっと私はこうなんだろうな。
 尚弥も、派手な女性は苦手だと言って、私といるとほっとすると告白してきた。
 例えば受付の小林さん。
 彼女は、派手系タイプの美人で普段からさり気なく高級品を身に着けている。殆どが男性からの贈り物らしく、で彼氏が途絶えたことがないと、給湯室で話しているのを聞いたことがある。
 バレンタインには、デパートで買ったチョコを渡し、ホワイトデーのお返しはその何倍もする装飾品や服飾品だった。

「そういえば…」
 
 さっきの尚弥の電話の向こうから聞こえてきた声は、やっぱり彼女のような気がする。

『森本さぁん、何しているんですかぁ』

 鼻にかかった甘え声。男性と女性相手では明らかに話し方が変わる。

「やっぱり、あれは彼女かしら」

 所長の思いつきで飲みに行こうとなる時があるので、そうなのかも知れない。

「きっとそうよ」

 誰に話すわけでもなく、自分自身に言い聞かせるかのように、私はつぶやきながら葬祭場に戻って行った。
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