謎めいたおじさまの溺愛は、刺激が強すぎます

七夜かなた

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「お帰り、お仕事お疲れ様、旭ちゃん」

 彼のマンションに着くと、待ち構えていたかのように彼が言った。私が来ることは予測していたようだ。

「お帰り」と言われるとは思わなかったが、些細なことはこのさい無視だ。昨日二人で過ごしたソファに座る。
 私は彼から少し離れて、彼の顔が良く見える位置に座った。

「どういうことですか?」 
「昨日、旭ちゃんが寝ている間に、ネットで旭ちゃんの勤めいる事務所のサイトを見ていたら、クライアント情報が載せてあって、その中で俺の知っている会社がいくつかあった」

 私が切り出すと、彼はスラスラ語った。 
 有名企業がクライアントにあると掲載すれば、仕事が入りやすいのため、会社のウェブサイトがあることは知っている。

「その中に以前、俺に色目を使ってきた受付の子がいる会社もあって、それでそこに電話をかけてその子に尋ねたら、色々と教えてくれた。森本って会計士がその女性に頼んで合コンしたこともあるとか、その時、合コンに参加した子をお持ち帰りしたとか」

 彼が言うには、それはここ半年のことだったらしい。
 尚弥は私と付き合い、小林さんとも付き合い、その女性とも関係を持っていたことになる。

「俺も相手に一途かと言われたら、はっきり『そうだ』とは言えない。でも他に女性がいることを隠したりしない」

 それもいいのかどうかわからないけど、少なくとも騙すよりはいいように思える。

「森本の女性関係について、その女性から芋づる式に繋がった。中には旭ちゃんみたいに、泣かされた子もいたみたいで…だから俺はクライアントにそのことを伝えた。そんな会計士が信用できるのかって。後は勝手に話が広がった」

 
『君はただ、俺に身を委ねてくれればいい。俺が悪いようにはしない』
『安心して。そんなことはしない。まあ、ちょっと、権力? みたいなものは使うかもだけど』

 彼はそう言っていた。あの時既に彼は動いていたようだ。
 ちょっとどころではない。目の前の国見唯斗という人物の、底のない影響力を垣間見た気がした。

「もう二度と、そんなことしないでください。公私混同も甚だしいです」

 私は急に怖くなった。彼のしたことにではなく、私のためにここまでしてくれる過保護な彼の行動を、嬉しく思う自分に。
 
「もちろん。旭ちゃんが望まないことはしない」
「でも、ありがとうございます。私の名誉のために…」

 張り詰めていたものが、緩んだ気がした。

「そうやって、旭ちゃんが俺の前で笑ってくれるなら、何だってするよ」

 自分でも気がつかない内に、私は笑っていたらしい。

 その後、彼は高校を出てからのことを掻い摘んで話してくれた。

 働きながらアメリカを渡り歩いていた時、ラスベガスで大当たりして、そのお金でアメリカの大学に入学した。そこで知り合った友人たちと、向こうで会社を立ち上げて、それが上手く行った。自分の権利を仲間に売って、その資金で日本に戻って会社を立ち上げた。それがリュニックソリューションだった。

 軽く話しているが、結構波乱万丈だった。
 
 いくら当てたのか、どんな人脈があるのか。一体いくらお金があるのか。
 女性遍歴もかなりのものみたいだし、人脈も所長から聞いたように、広くて太いみたいだ。 
 
「俺のこと、嫌いになった?」
「……というか、私とは違う世界の人だなって…」
「そんなこと言わないで。もう旭ちゃんに黙って勝手なことしないから、旭ちゃんに避けられたらおじさん悲しい」

 本当にそう思っているのか、あんな風に人を動かせる人が、私の言葉に狼狽えるなんて信じられない。

 私を甘やかして、全面的に肯定してくれる人。
 
 だけど、誰よりも私のことを思ってくれているのがわかるこの人の側は、私には心地良く安心できるのだ。

「本当に、もうあんなこと、しないでくださいね」
「しない…というか、俺が側にいる限り、旭ちゃんを悲しませたりしない。大事にする」

 彼との関係を知ったら、父や有美さんは、きっと良く思わないどころか、反対するだろう。
 でも、彼らが私を肯定してくれることを期待するよりも、唯斗さんが私を思ってしてくれることの方が大事だと感じた。

「その言葉、嘘じゃないですよね」
「も、もちろん。旭ちゃんに嘘はつかない」

 それが永遠に続くかどうか、何の保証もないけれど、この謎の多いおじさまと、もう少しお付き合いしてみるのも悪くない。

「わかりました。これからもどうかよろしくお願いします」

 何より、彼との日々は刺激的に違いない。
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