ただ愛されたかっただけなのに、許してと言うまで愛された

橘 葛葉

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1=はじまり=

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ギチギチと手首から音が聞こえ、美奈子は顔をそちらに向ける。しかし視界が覆われていて何も見えない。
ひたひたと誰かの歩く音が耳に届き、今度はそちらに顔を向ける。視界が閉ざされている分、音に反応してしまうのだ。
黒い革製のハーネスを着用させられており、拘束感はあるのに大事なところは丸見えである。手首にも革製の手枷が掛けられており、横から引っ張られて左右に大きく開かれている。見えない美奈子からは、それがどこに固定されているのかは不明だ。
ピンヒールを履かされていて、腕は固定されているが足元は不安定というアンバランスな状態である。
「へえ、美奈子ちゃんって下の毛ちゃんと処理してんだ。意識高いね」
ハーネスの腰周辺にある金属に指をかけた男は、くいっと引っ張ると美奈子の耳に唇を寄せて続けた。
「これって、舐めてほしいってこと?」
囁き声から漏れる息が耳の中に入り、びくりと美奈子の肩が跳ねる。
「ふうん、答えないって事は、正解ってことだね」
「う……ふっ……う……」
ボールが口に嵌められていて言葉を発する事ができない。
するりと指が下に伸びてひと撫でする。
「ん……ふ……」
男の唇は美奈子の耳を喰む。そのまま首筋を舐め上げ、鎖骨を行き来したが下へは行かない。
不意に側から離れると、遠くから小さな金属音が美奈子の耳に届いた。
「首も必要だよね」
そう言うと男は美奈子に首枷を嵌める。
「ふふ、大きな鏡に映っている美奈子ちゃん、綺麗だよ」
近づいて男が囁くたび、その髪が美奈子の頬を撫でていく。
「柔らかいベッド」
男の声が少し離れたところから聞こえ、同時に何かが美奈子の腰を打つ。
「ふ……ん!」
弾けるような痛みに、鞭だと分かった。
「安心できる様な抱擁」
また、ぱしんと派手に音が鳴る。
「んんっ!」
「優しい指使い」
「ふっ!ん……ん」
男は美奈子の周りを回りながら、ピシピシと打って行く。音の割に痛みはないが、避けることもできずに腰をくねらせる。
「どれが好みかな?」
どれも今の状況に当てはまらず、返答もできない美奈子は呻くしかできない。そんな美奈子の背後から、両腕が回って胸を鷲掴みにする。
「んん……ん~」
左右から胸を揉みしだかれていたが、しばらくすると右手が下降するのを感じた。指で触られるのだろと予測した美奈子の耳に、突然鳴る重低音の機械音。
「ふ……んんっ!んんっ~!」
強烈な刺激に腰が跳ねる。マッサージ機が当てられているのだと思ったのも束の間、すぐに思考が飛びそうな快楽に包まれた。腰が震えて、足から力が抜けそうだ。
「ほら。まだダメだよ」
かちりと音がして振動が止み、腰を背後から支えられた。
ぐっと股間に押し当てられたマッサージ機は、男が美奈子の耳を噛むのと同時に再び動き出す。
「んー!んー!」
腰を小刻みに震わせていると、駆け上がってくる快楽を感じた。
首を必死に横に振ると、男は美奈子の顎を吸いながら言った。
「まずは一回目かな」
さらに押し当てられたマッサージ機の振動に、美奈子の腰が大きく痙攣する。
声も出せずに絶頂を迎え、やがては脱力した。








少しの間、音もなく人の気配もなかった。脱力から回復した美奈子は、上体を起こして耳を澄ませた。しかし、何の音も聞こえない。
不安になって問いかけようとしたが、口枷が邪魔でしゃべれない。
どうしようかと思っていると、突然、鼠蹊部に男の舌が這った。
「む……ん……」
「ぴくぴくしてるね」
男の声が聞こえて、陰唇が引っ張られる。
「んんっ!」
割れ目に舌が差し込まれ、舐め上げるような感触。
「ん~!」
先ほどの刺激とは違った快楽に、再び腰が跳ねる。
ぴちゃ、ぴちゃ、と安定したリズムのように音が耳に入ってくる。
ちゅっと鳴った音がきっかけだったのか、また人の気配が消える。
「ふ……ん……」
触れられてもいないのに吐息が漏れる。
肩幅に広げられた足の付け根に、つうっと男の両手が触れた。
その手は美奈子の大切な部分まで這っていくと、そこをを押し広げるようにしていた。曝け出された小さな突起を目掛けて、舌の先がチロチロと動く。
時々じゅっと吸われ、大きく腰が跳ねる。
焦ったいような、このまま舐めていてほしいような、不思議な感覚だった。
またチロチロと舌が当たっている。
「あ……むん……んん……」
チロチロ続く緩い刺激に、ピクピク動く腰。しかし、突然臀部をがっしり掴まれて、男の口が噛み付くように美奈子の恥丘を覆った。
「んん!んー!」
強く吸い付くその刺激に、腰が大きく跳ねる。
「んー!んー!」
首を横に振ってそれに耐えようとしたが、大きな快楽に全身が包まれ、またしても絶頂を迎えた。
「あと七回」
美奈子は男がそう言うのを聞きながら脱力した。








「うきゃあ!」
「あ、ごめんなさ……あ、愛衣蘭ちゃん?」
曲がり角で正面に衝突し、互いに尻餅をついて相手を確認する。
美奈子はそのぶつかった人物に見覚えがあり、確認するようにその名を口にした。
一度しか会った事のない人物だが、濃厚な思い出と共にあるその人を見間違うはずなかった。例え、相手の服装が意外だとしても。
「美奈子ちゃん!わー、奇遇だねぇ」
立ち上がり、裾をはらいながら言う愛衣蘭に倣って、美奈子も立ち上がり尻をはらう。
「ボーイシュな格好もするんだね。一瞬分からなかった」
「あー、これね。ちょっとトラブルで、人の服なんだ」
よく見ると顔も薄汚れている。
「大丈夫?」
何があったのか聞く勇気もないが、口が勝手に動いていた。大丈夫じゃないと言われても、美奈子に対応できる事なんてしれている。
ふとカバンにコンビニのウエットティッシュが入っているのを思い出し、チャックを開けて探す。みつけたそれを取り出して愛衣蘭に渡した。
「顔、この辺汚れてるよ」
自分の頬の下を指さし教えると、ティッシュを受け取りながら愛衣蘭がにっこり微笑んだ。
ゴシゴシ汚れを拭き取る愛衣蘭は、そのティッシュをポケットに入れると美奈子に近寄り、ぎゅっと抱きついてきた。
「ありがとー。助かった!」
その時、愛衣蘭着ている服のポケットから、美奈子が腕にかけてたカバンに何かが落ちた。しかし二人ともそれには気が付かない。取手と布に挟まれて引っかかった球体状のものに気が付かぬまま、愛衣蘭は美奈子を解放すると、繁華街の方へ足を向けた。振り返って手を振りながら言う。
「会えて良かった!またねー」
少し汗ばんでいたのか、すえた匂いが愛衣蘭からして意外に思う。服の持ち主の匂いかもしれないが、愛衣蘭が何か大変な思いをしたのかもしれない。
あの場馴れ感は、普段から様々な修羅場を体験しているのかも。
そんな事を取り留めもなく考えていた美奈子は、ぼんやりしたまま歩みを再開させた。
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