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7.最愛【 佐藤優一side 】
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「もしもし? 今、凜ちゃんちの近くにいるんだけど――」
今日は実家の集まりに行く予定だった。
でも運転しだしたら、急に彼女に会いたくなって。
慌ててたけど、可愛いワンピースで駆けて来た。はぁはぁ息切らしながら、すぐそこの花屋に連れて行って。って、たまんないよね~。
どこへ行こうかぁ。
にやにやスマホで検索してるうちに、彼女は早々と戻ってきた。
大きいバスケットいっぱいの花を抱えて!
「どうするの?」
「プレゼントです」
「誰に?」
「優一さんのお父さんです」
えぇ!?
……今日は親父の退職祝いだけど。
別に僕が居なくても。後で何か贈っておけばいいし、姪っ子が居ればご機嫌なんだから。それより今日しか休みないし、デートらしい事もまだしてないから……ね?
彼女を説得するも――――
「駄目です。退職祝いの方が大事です」
彼女は首を振って譲らない。
あわよくば、あわよくば!
デートの流れに乗って、恋人らしさも進歩させたい!
ってゆう僕の下心も、簡単にはあきらめられない。
ここはもう少し粘って……
「近いしいつでも会いに行けるから、ね?」
「じゃあこの前、会いに行ったのは?」
「えーと……正月かな?」
「正月!?」
彼女の眉間にシワが入る。
え……怒った?
「いつでもなんて言ってぇ、ないがしろにしてたら、親なんてすぐ歳取っちゃうんですよ! 年に1回しか会わなかったら、死ぬまであと何回っ……はぁー」
呆れた風に彼女が大きなため息を吐く。
「り、凜ちゃん?」
「もぉ、馬鹿もんでしょうがっ……」
ビクッ!!
3Bの先生、かな?
そいで僕、怒られてるんだよね?
信じられない、と言わんばかりに、彼女は乱れた表情を両手で隠した。
こんな感情的にぶつかってくる彼女が初めてで……
何だろう、すごく胸がジリジリする。
「ほ、ほんとに僕んち行くの?」
「早く出発して下さい!
親孝行はできる時にしないと!」
「……はい」
すぐエンジンをかけて走り出した。
車で約1時間。
何回、深呼吸してただろう。何回、「大丈夫?」って聞いたかな。
その度に彼女は、考えを巡らせてる顔をして。
彼氏の実家訪問イベントを、前フリもなく僕がぶっ込んでしまったんだ。
彼女から聞いた大学の時に付き合ってた元カレとは、そこまで深く発展しなかったんだろう。
聞かなくても、初イベントを迎えようとする緊張感が伝わってくる。
実家の玄関の前に並んで立ったら、もうカチカチだ。
僕も同じか。
自分の彼女を家族に紹介するのは初めてだ。自分ち入るのに、こんなにドキドキするのも初めて。
「ただいま! お客さん連れて来たよ!」
家の中にむかって呼びかける。
「はーい!」
母さんが慌てて出てきて、面食らっている。
「僕の彼女……」
隣側を手のひらで示した。
彼女は深くお辞儀する。
「こんにちは。初めまして!」
引きつった顔で元気よく挨拶をした。
僕は彼女と母さんを交互に見て、反応を伺ってみたんだ。
「こんにちは……」
母さんは彼女をぽーっと見つめて言った。その直後!
僕をキッと睨みつけた。
だよね……そーなるよね……。
「ちょっとあんた!
彼女連れて来るなら前もって……」
「私が!」
「!?」
彼女が荒ぶる母さんを静止した。
「無理を言って連れてきてもらいました。
突然お邪魔してすみません。
ご挨拶だけしてすぐ帰りますので」
・☆・☆・!!?!!
びっくりした。
この子、ほんと……
痺れるくらい格好イイな。
僕が放り出そうとしたのに。
身勝手な考えも、薄情な行為も丸ごと、自分で被って自ら悪者になろうとするなんて……
緊張で小刻みに震えてたのに。
何でそんな捨て身で、守ってくれようとするの?
どうしたら、そんな事、簡単にできるようになるの?
「上がって、上がって。お父さん!
おとぉーさん!」
母さんは遠慮する彼女を引っ張りあげて、皆ゾロゾロと出てきた。
彼女が息つく暇もない感じになるのを、玄関に置いてけぼりにされながら見つめて……
「いい子みたいだね。
だいぶホレ込んでんじゃん」
「兄貴……わかる?」
「ぷっ、お前すぐ顔に出るから」
「なんかさぁ、
ダイヤ100個掘り当てた気分……」
「ははっ、早く上がれ!」
兄貴に促されて、僕も賑やかな声の中に混ざっていったんだ。
☆
朝、彼女を乗せた駐車場に戻ってきた。夕焼けと彼女の寝顔を横目に映しながら。
全部この子のおかげだよな……
あんな大笑いして酔い潰れる親父、初めて見たし。母さんと義姉さんも珍しくできあがってた。
相当気疲れさせたと思う。
ごめんね……それは全部僕のせいだ。
だから、ちゃんと、僕もしっかりしなきゃいけない。
彼女の手をそっと握りしめた。
初めてのキスは……手の甲に。
大切に、落とした。
「ん…………はっ! 寝てた?」
キョロキョロして顔をペタペタして……
愛おしい――――以外、なんにも生まれてこない。
言葉もなく、ただ優しく彼女の頭を撫でて。繰り返し繰り返しなだめた。
「今日はごめんね……」
「私の方が!
急に押しかけて、ごめんなさい」
「もう謝らないで。それでね、僕もこれから凜ちゃんち、挨拶に行きたいんだけど……」
「え!? 今から?」
「うん」
また困らせると思った。
けど、もし彼女のトリセツがあるとしたら、順序を間違えちゃいけない気がした。
この子を手に入れるには、誠意を見せなきゃいけない。
家族を大切にする彼女だからこそ、大事にしてる両親に認められなければ!
反省したんだ。
彼女のスマホから何回かお義母さんの悲鳴が聞こえたけど、許可をもらってくれた。
もうこの時間だとお父さんが晩酌してるから適当にあしらって、と彼女がアタマ痛そうに言う。
僕もテンパってるけど、ここは男を魅せるとき!
☆
目の前に、明ら様にムスッとしたお義父さんと、横でニコニコのお義母さん。
隣には仕事モード塩顔の凜ちゃんと、キョドる僕。
名刺交換は済ませたけど、複雑な空気が渦巻いてる。
僕も彼女の実家訪問は初めてだから。
ドクン ×100%……落ち着けっ。
「今日は凜さんと交際の許しを頂戴したく、ご挨拶に伺わせて頂きました」
はあぁぁぁぁっっ。
どうにか噛まずに言った。
でもお義父さんの表情は険しい。
「えー、凜はまだ入社したばかりで、もう交際を?」
「完全に尊敬してる先輩です。優しく指導して頂いてます」
え!?
凜ちゃん食い気味に即答。
「まぁ。それは有り難いわね。
こちらこそ娘を宜しくお願いします」
お義母さんがにっこりして見せる。
あぁ、母娘の間では何でもつーかーなんだな……
ぐぬぬ。
と言葉を飲み込む、お義父さん。
「凜さんがとても素敵な女性なので、居ても立ってもいられず。
手土産もなく突然お邪魔して、申し訳ありません」
「ご実家から桃を頂いて来ました。お父さんの大好きな桃ですね?」
凜ちゃん……
土俵入りかってくらいお義父さんに塩ふりまくね。
お義父さんに全然つけいる隙を与えない。
益々、口をすぼめるしかないお義父さんのフォローが追いつかないっ。
「……わかった」
お義父さんが渋々うなずいた。
え?
うまくいった?
「……交際は認める。佐藤くん、一緒に1杯どうかね?」
「もう、早く飲みたいだけでしょ!?」
痺れを切らしたように、彼女が指摘する。
「車です!
明日は仕事なのでこれでおしまい!
仕事の資料探すから、行こう」
「え? あ、ちょ……」
彼女が僕の腕を引っ張って、強引に連れ出した。お辞儀をして彼女に従う。
お義父さんがしゅーん、ってなってるけど放って置いていいの!?
「さぁ、お父さんには桃を切ってあげましょー」背後でお義母さんの声がして、見事な撤収ぶりをかます母娘の連携プレー。
僕が真野家の相関図を垣間見てるうちに、あっという間に彼女の部屋に押し込まれた。
「仕事の資料って?」
「嘘です。とりあえずここに座って。
疲れたでしょう?」
彼女は自分のベッドをサッとならして、僕を座らせた。
「酔うとウザくなるの、ごめんね」
彼女がお義父さんに手厳しいのは意外だったけど、格好悪い所を僕に見せたくないのかな?
それって、好きの裏返しってやつだよね。
そして僕は、大っぴらに……
恋人であることを異論なしで認めてって。
また彼女に守ってもらったな……。
今日はクリスマスみたいだな……
色んなプレゼントたくさん貰った気分。
凜ちゃんの熱くなる所も見れたし、怒った顔も……困った顔も……。
家族の大切さも実感できた。
心が満たんなんだ。
しかも、凜ちゃんの部屋まで入っちゃうなんて……
彼女の匂いが溢れてて、帰りたくなくなりそう。
とても落ち着いてなんていられないっ。
彼女を引き寄せて、ぎゅっと腰に抱きついた。
「ありがとう。ありがと……ありがとう」
「ふふっ、何回言うの?」
上から優しい声が降ってくる。
彼女のおなかに顔をうずめて、もっとぎゅっとした。
彼女の腕が僕の頭を包んでくる。
「次は、僕のアパートに招待してもいい?」
恥ずかしさと期待で、もっとぎゅうっと。
「はい」
「そのときはいっぱいハグするよ?」
「ふふっ」
「朝まで離さないよ?」
「……うん」
もっと、もっと、って。
彼女に近づくほどに愛おしくなる。
全てに――――惹かれてしまう。
そして、焦ってしまうんだ。
早く僕のものにしたいと……
彼女の全てが欲しい――――。
とどまることのない独占欲に、僕は溺れていた。
☆
ワインは2本用意した。
あと、彼女の好きなチョコレート。
部屋は念入りに3回掃除機かけたし。
シーツも交換済み。寝室の扉は……開けたままに。
残すはこの酒豪をどう攻略するか!?
ちょっと酔わせて姑息な手を……は通用しない。
僕が先に潰れないように、踏ん張らないと!
ソファで映画を見ながら飲むボトルは、もうすぐ1本空っぽになりそう。
2本目を持ってこようか?
彼女はまだまだ飲める、は、ず……?
「あれ? 凜ちゃん顔赤いよ……もしかして、よよよ、酔ってるの!?」
「あ……やっぱりこれ、酔ってます?」
自分の頬を触って首をかしげてる。
「自覚ないの!? ちょっ、グラス置いて」
彼女からグラスを受け取ってテーブルに置いた。
つい、物珍し気に彼女の顔を覗き込んだ。
頬もほんのりしてるし、耳も赤くなってる。
「大丈夫?」
「大丈夫と思いますけど……なんか、色々考えてたらふわふわしてきて……」
「色々?」
「彼氏の家にお泊りって初めてで緊張してたんです」
え? 元カレは……?
実家同士だったのでホテルしか……
あ、そうなんだ……。
佐藤さんの元カノはここにも?
そう、だね……。
「ふぅ。ですよねぇ……」
彼女が軽くため息を吐く。
あれ?
……僕、なんかマズった?
「初めて来たのに居心地良いって、気楽にお酒飲めるのも初めてで……」
ちょっ、そんなに初めて初めて、煽んないでっ。
落ち着け、おれ!
「でも私だけじゃなくて……元カノさんも?
同じだったかな、とか」
「凜ちゃ……」
「こうやってここで……なんかモヤモヤして、頭がゴチャゴチャに……わっ!?」
もう、ぎゅう~っだ。
抱きしめずにいられるかって!
こんなに可愛くて、僕の努力もなしに自ら酔っちゃうとか。
元カノに嫉妬しちゃうなんてっ!
「確かに元カノが……来たこともあった。
でも凜ちゃんは、特別なんだよっ。最初から誰とも同じじゃない。特別なんだ!
……好きだよ。大好き、なんだ……」
もっと、ぎゅう~。
伝われ!
君が一番だ、って――――。
僕の耳元に、温かな彼女の息がかかる。
「……私も。
最初からハグされるのが、好き……」
“ 好き ”
って彼女の声が全身を駆け巡って、僕の隅々までほぐしてく。
ゆっくり見つめ合って、たくさん視線を貰ったら……2回目のキスは、そっと。
彼女の唇に落とした。
お互いの “ 好き ” を確かめ合うように、何度も見つめ合ってはキスを繰り返す。
熱くて甘い吐息が重なり始めたら……
もっと。もっと。
彼女を求めたいことしかない!
「ベッド連れて行ってもい?」
「……ん 」
彼女は僕のキスを受けながら答えた。
いざ……
彼女の服の中の、温かくてしっとりした素肌に触れると……。
さっきまでがっついてたのが嘘みたいに、冷静になった。
彼女を作り出す全てを知りたい!
そおっと傷付けないように、極めて優しく……
手のひらで、頬で、唇で。
彼女のひとつひとつを、僕は図って――――頭の中に叩き込みたくなった。
サラサラの髪の、一本一本までもたどって。
体のなめらかな、柔らかい曲線も滑って。
足の爪までゆっくり……線を引くみたいに。
時折、微かな声に合わせて、彼女の肩が角度を狭めるも……夢中で。
ワインとチョコの、甘くて芳醇な香りの口づけで……。
彼女をほぐしては観測を続けた。
――――首から背中をスルスル降りて……2尺くらい。
放物線の丸みの輪郭もなぞって……
谷間を潜り抜けて……
足首からつま先の勾配が、触れるたびに、クネクネとうねる。
彼女の綺麗で緩やかに波打つラインを。
口溶けのよい、とろけるデザートみたいな感触も。
僕をおかしくさせる、甘い匂いも。
全部……彼女の全身を記憶した。
そんな風に抱きたいと思ったのは、初めてだった。
じっくり時間をかけて、彼女を知る度……
飢えてた自分が、100%満たされて。
大切に大切に ――― ひとつになれた時は……
もう、おれ、ふっ飛ぶかと思った。
あぁ……超幸せ。
愛し合った余韻のまま眠りについて……朝が来るとか。
寝る時も眠ってる時も目覚めた時も、腕の中に彼女がいる。
スベスベの肌に触れて、匂いごと吸い込んで、キスもできる。
最っっっ高に甘い!
「ふふっ。起きたの?」
優しい声まで聞ける~。
脳内までとろけそう。
くっつきた過ぎて、スリスリスリスリ。
「お髭がくすぐったいぃ」
と逃げようとする彼女を捕まえて離さない。
「お風呂ぉっ、お風呂は?」
「だめ~」
と手がいやらしくなった所で……
「一緒に入らないの?」
「んっ!!? ありなの?」
「あれ?
彼氏とお風呂ってデフォじゃないの?」
ふうん。
このご満悦の頂点で浴びるのが……まさかの粗塩とか。
この子は本当に、おれを翻弄する。
無意識で元カレに嫉妬させて。
……できれば彼女の初めても、僕が欲しかった。
僕しか知らないでいて欲しいって、どうにもならない事にまで嫉妬する。
よしっ!
今から全部僕が上書きして、彼女の初期設定を消してやろう!
お湯が沸いたところで……
「はっ! ……入浴剤はない、ですか?」
「ホテルじゃないんだから。
彼氏とほんとのお風呂、教えてあげる♪」
緊急アプデに戸惑う彼女を連れ込んだ。
時間制限なしの攻め方で……のぼせるくらい。
たっぷり、可愛がってあげたことは……言うまでもない。
今日は実家の集まりに行く予定だった。
でも運転しだしたら、急に彼女に会いたくなって。
慌ててたけど、可愛いワンピースで駆けて来た。はぁはぁ息切らしながら、すぐそこの花屋に連れて行って。って、たまんないよね~。
どこへ行こうかぁ。
にやにやスマホで検索してるうちに、彼女は早々と戻ってきた。
大きいバスケットいっぱいの花を抱えて!
「どうするの?」
「プレゼントです」
「誰に?」
「優一さんのお父さんです」
えぇ!?
……今日は親父の退職祝いだけど。
別に僕が居なくても。後で何か贈っておけばいいし、姪っ子が居ればご機嫌なんだから。それより今日しか休みないし、デートらしい事もまだしてないから……ね?
彼女を説得するも――――
「駄目です。退職祝いの方が大事です」
彼女は首を振って譲らない。
あわよくば、あわよくば!
デートの流れに乗って、恋人らしさも進歩させたい!
ってゆう僕の下心も、簡単にはあきらめられない。
ここはもう少し粘って……
「近いしいつでも会いに行けるから、ね?」
「じゃあこの前、会いに行ったのは?」
「えーと……正月かな?」
「正月!?」
彼女の眉間にシワが入る。
え……怒った?
「いつでもなんて言ってぇ、ないがしろにしてたら、親なんてすぐ歳取っちゃうんですよ! 年に1回しか会わなかったら、死ぬまであと何回っ……はぁー」
呆れた風に彼女が大きなため息を吐く。
「り、凜ちゃん?」
「もぉ、馬鹿もんでしょうがっ……」
ビクッ!!
3Bの先生、かな?
そいで僕、怒られてるんだよね?
信じられない、と言わんばかりに、彼女は乱れた表情を両手で隠した。
こんな感情的にぶつかってくる彼女が初めてで……
何だろう、すごく胸がジリジリする。
「ほ、ほんとに僕んち行くの?」
「早く出発して下さい!
親孝行はできる時にしないと!」
「……はい」
すぐエンジンをかけて走り出した。
車で約1時間。
何回、深呼吸してただろう。何回、「大丈夫?」って聞いたかな。
その度に彼女は、考えを巡らせてる顔をして。
彼氏の実家訪問イベントを、前フリもなく僕がぶっ込んでしまったんだ。
彼女から聞いた大学の時に付き合ってた元カレとは、そこまで深く発展しなかったんだろう。
聞かなくても、初イベントを迎えようとする緊張感が伝わってくる。
実家の玄関の前に並んで立ったら、もうカチカチだ。
僕も同じか。
自分の彼女を家族に紹介するのは初めてだ。自分ち入るのに、こんなにドキドキするのも初めて。
「ただいま! お客さん連れて来たよ!」
家の中にむかって呼びかける。
「はーい!」
母さんが慌てて出てきて、面食らっている。
「僕の彼女……」
隣側を手のひらで示した。
彼女は深くお辞儀する。
「こんにちは。初めまして!」
引きつった顔で元気よく挨拶をした。
僕は彼女と母さんを交互に見て、反応を伺ってみたんだ。
「こんにちは……」
母さんは彼女をぽーっと見つめて言った。その直後!
僕をキッと睨みつけた。
だよね……そーなるよね……。
「ちょっとあんた!
彼女連れて来るなら前もって……」
「私が!」
「!?」
彼女が荒ぶる母さんを静止した。
「無理を言って連れてきてもらいました。
突然お邪魔してすみません。
ご挨拶だけしてすぐ帰りますので」
・☆・☆・!!?!!
びっくりした。
この子、ほんと……
痺れるくらい格好イイな。
僕が放り出そうとしたのに。
身勝手な考えも、薄情な行為も丸ごと、自分で被って自ら悪者になろうとするなんて……
緊張で小刻みに震えてたのに。
何でそんな捨て身で、守ってくれようとするの?
どうしたら、そんな事、簡単にできるようになるの?
「上がって、上がって。お父さん!
おとぉーさん!」
母さんは遠慮する彼女を引っ張りあげて、皆ゾロゾロと出てきた。
彼女が息つく暇もない感じになるのを、玄関に置いてけぼりにされながら見つめて……
「いい子みたいだね。
だいぶホレ込んでんじゃん」
「兄貴……わかる?」
「ぷっ、お前すぐ顔に出るから」
「なんかさぁ、
ダイヤ100個掘り当てた気分……」
「ははっ、早く上がれ!」
兄貴に促されて、僕も賑やかな声の中に混ざっていったんだ。
☆
朝、彼女を乗せた駐車場に戻ってきた。夕焼けと彼女の寝顔を横目に映しながら。
全部この子のおかげだよな……
あんな大笑いして酔い潰れる親父、初めて見たし。母さんと義姉さんも珍しくできあがってた。
相当気疲れさせたと思う。
ごめんね……それは全部僕のせいだ。
だから、ちゃんと、僕もしっかりしなきゃいけない。
彼女の手をそっと握りしめた。
初めてのキスは……手の甲に。
大切に、落とした。
「ん…………はっ! 寝てた?」
キョロキョロして顔をペタペタして……
愛おしい――――以外、なんにも生まれてこない。
言葉もなく、ただ優しく彼女の頭を撫でて。繰り返し繰り返しなだめた。
「今日はごめんね……」
「私の方が!
急に押しかけて、ごめんなさい」
「もう謝らないで。それでね、僕もこれから凜ちゃんち、挨拶に行きたいんだけど……」
「え!? 今から?」
「うん」
また困らせると思った。
けど、もし彼女のトリセツがあるとしたら、順序を間違えちゃいけない気がした。
この子を手に入れるには、誠意を見せなきゃいけない。
家族を大切にする彼女だからこそ、大事にしてる両親に認められなければ!
反省したんだ。
彼女のスマホから何回かお義母さんの悲鳴が聞こえたけど、許可をもらってくれた。
もうこの時間だとお父さんが晩酌してるから適当にあしらって、と彼女がアタマ痛そうに言う。
僕もテンパってるけど、ここは男を魅せるとき!
☆
目の前に、明ら様にムスッとしたお義父さんと、横でニコニコのお義母さん。
隣には仕事モード塩顔の凜ちゃんと、キョドる僕。
名刺交換は済ませたけど、複雑な空気が渦巻いてる。
僕も彼女の実家訪問は初めてだから。
ドクン ×100%……落ち着けっ。
「今日は凜さんと交際の許しを頂戴したく、ご挨拶に伺わせて頂きました」
はあぁぁぁぁっっ。
どうにか噛まずに言った。
でもお義父さんの表情は険しい。
「えー、凜はまだ入社したばかりで、もう交際を?」
「完全に尊敬してる先輩です。優しく指導して頂いてます」
え!?
凜ちゃん食い気味に即答。
「まぁ。それは有り難いわね。
こちらこそ娘を宜しくお願いします」
お義母さんがにっこりして見せる。
あぁ、母娘の間では何でもつーかーなんだな……
ぐぬぬ。
と言葉を飲み込む、お義父さん。
「凜さんがとても素敵な女性なので、居ても立ってもいられず。
手土産もなく突然お邪魔して、申し訳ありません」
「ご実家から桃を頂いて来ました。お父さんの大好きな桃ですね?」
凜ちゃん……
土俵入りかってくらいお義父さんに塩ふりまくね。
お義父さんに全然つけいる隙を与えない。
益々、口をすぼめるしかないお義父さんのフォローが追いつかないっ。
「……わかった」
お義父さんが渋々うなずいた。
え?
うまくいった?
「……交際は認める。佐藤くん、一緒に1杯どうかね?」
「もう、早く飲みたいだけでしょ!?」
痺れを切らしたように、彼女が指摘する。
「車です!
明日は仕事なのでこれでおしまい!
仕事の資料探すから、行こう」
「え? あ、ちょ……」
彼女が僕の腕を引っ張って、強引に連れ出した。お辞儀をして彼女に従う。
お義父さんがしゅーん、ってなってるけど放って置いていいの!?
「さぁ、お父さんには桃を切ってあげましょー」背後でお義母さんの声がして、見事な撤収ぶりをかます母娘の連携プレー。
僕が真野家の相関図を垣間見てるうちに、あっという間に彼女の部屋に押し込まれた。
「仕事の資料って?」
「嘘です。とりあえずここに座って。
疲れたでしょう?」
彼女は自分のベッドをサッとならして、僕を座らせた。
「酔うとウザくなるの、ごめんね」
彼女がお義父さんに手厳しいのは意外だったけど、格好悪い所を僕に見せたくないのかな?
それって、好きの裏返しってやつだよね。
そして僕は、大っぴらに……
恋人であることを異論なしで認めてって。
また彼女に守ってもらったな……。
今日はクリスマスみたいだな……
色んなプレゼントたくさん貰った気分。
凜ちゃんの熱くなる所も見れたし、怒った顔も……困った顔も……。
家族の大切さも実感できた。
心が満たんなんだ。
しかも、凜ちゃんの部屋まで入っちゃうなんて……
彼女の匂いが溢れてて、帰りたくなくなりそう。
とても落ち着いてなんていられないっ。
彼女を引き寄せて、ぎゅっと腰に抱きついた。
「ありがとう。ありがと……ありがとう」
「ふふっ、何回言うの?」
上から優しい声が降ってくる。
彼女のおなかに顔をうずめて、もっとぎゅっとした。
彼女の腕が僕の頭を包んでくる。
「次は、僕のアパートに招待してもいい?」
恥ずかしさと期待で、もっとぎゅうっと。
「はい」
「そのときはいっぱいハグするよ?」
「ふふっ」
「朝まで離さないよ?」
「……うん」
もっと、もっと、って。
彼女に近づくほどに愛おしくなる。
全てに――――惹かれてしまう。
そして、焦ってしまうんだ。
早く僕のものにしたいと……
彼女の全てが欲しい――――。
とどまることのない独占欲に、僕は溺れていた。
☆
ワインは2本用意した。
あと、彼女の好きなチョコレート。
部屋は念入りに3回掃除機かけたし。
シーツも交換済み。寝室の扉は……開けたままに。
残すはこの酒豪をどう攻略するか!?
ちょっと酔わせて姑息な手を……は通用しない。
僕が先に潰れないように、踏ん張らないと!
ソファで映画を見ながら飲むボトルは、もうすぐ1本空っぽになりそう。
2本目を持ってこようか?
彼女はまだまだ飲める、は、ず……?
「あれ? 凜ちゃん顔赤いよ……もしかして、よよよ、酔ってるの!?」
「あ……やっぱりこれ、酔ってます?」
自分の頬を触って首をかしげてる。
「自覚ないの!? ちょっ、グラス置いて」
彼女からグラスを受け取ってテーブルに置いた。
つい、物珍し気に彼女の顔を覗き込んだ。
頬もほんのりしてるし、耳も赤くなってる。
「大丈夫?」
「大丈夫と思いますけど……なんか、色々考えてたらふわふわしてきて……」
「色々?」
「彼氏の家にお泊りって初めてで緊張してたんです」
え? 元カレは……?
実家同士だったのでホテルしか……
あ、そうなんだ……。
佐藤さんの元カノはここにも?
そう、だね……。
「ふぅ。ですよねぇ……」
彼女が軽くため息を吐く。
あれ?
……僕、なんかマズった?
「初めて来たのに居心地良いって、気楽にお酒飲めるのも初めてで……」
ちょっ、そんなに初めて初めて、煽んないでっ。
落ち着け、おれ!
「でも私だけじゃなくて……元カノさんも?
同じだったかな、とか」
「凜ちゃ……」
「こうやってここで……なんかモヤモヤして、頭がゴチャゴチャに……わっ!?」
もう、ぎゅう~っだ。
抱きしめずにいられるかって!
こんなに可愛くて、僕の努力もなしに自ら酔っちゃうとか。
元カノに嫉妬しちゃうなんてっ!
「確かに元カノが……来たこともあった。
でも凜ちゃんは、特別なんだよっ。最初から誰とも同じじゃない。特別なんだ!
……好きだよ。大好き、なんだ……」
もっと、ぎゅう~。
伝われ!
君が一番だ、って――――。
僕の耳元に、温かな彼女の息がかかる。
「……私も。
最初からハグされるのが、好き……」
“ 好き ”
って彼女の声が全身を駆け巡って、僕の隅々までほぐしてく。
ゆっくり見つめ合って、たくさん視線を貰ったら……2回目のキスは、そっと。
彼女の唇に落とした。
お互いの “ 好き ” を確かめ合うように、何度も見つめ合ってはキスを繰り返す。
熱くて甘い吐息が重なり始めたら……
もっと。もっと。
彼女を求めたいことしかない!
「ベッド連れて行ってもい?」
「……ん 」
彼女は僕のキスを受けながら答えた。
いざ……
彼女の服の中の、温かくてしっとりした素肌に触れると……。
さっきまでがっついてたのが嘘みたいに、冷静になった。
彼女を作り出す全てを知りたい!
そおっと傷付けないように、極めて優しく……
手のひらで、頬で、唇で。
彼女のひとつひとつを、僕は図って――――頭の中に叩き込みたくなった。
サラサラの髪の、一本一本までもたどって。
体のなめらかな、柔らかい曲線も滑って。
足の爪までゆっくり……線を引くみたいに。
時折、微かな声に合わせて、彼女の肩が角度を狭めるも……夢中で。
ワインとチョコの、甘くて芳醇な香りの口づけで……。
彼女をほぐしては観測を続けた。
――――首から背中をスルスル降りて……2尺くらい。
放物線の丸みの輪郭もなぞって……
谷間を潜り抜けて……
足首からつま先の勾配が、触れるたびに、クネクネとうねる。
彼女の綺麗で緩やかに波打つラインを。
口溶けのよい、とろけるデザートみたいな感触も。
僕をおかしくさせる、甘い匂いも。
全部……彼女の全身を記憶した。
そんな風に抱きたいと思ったのは、初めてだった。
じっくり時間をかけて、彼女を知る度……
飢えてた自分が、100%満たされて。
大切に大切に ――― ひとつになれた時は……
もう、おれ、ふっ飛ぶかと思った。
あぁ……超幸せ。
愛し合った余韻のまま眠りについて……朝が来るとか。
寝る時も眠ってる時も目覚めた時も、腕の中に彼女がいる。
スベスベの肌に触れて、匂いごと吸い込んで、キスもできる。
最っっっ高に甘い!
「ふふっ。起きたの?」
優しい声まで聞ける~。
脳内までとろけそう。
くっつきた過ぎて、スリスリスリスリ。
「お髭がくすぐったいぃ」
と逃げようとする彼女を捕まえて離さない。
「お風呂ぉっ、お風呂は?」
「だめ~」
と手がいやらしくなった所で……
「一緒に入らないの?」
「んっ!!? ありなの?」
「あれ?
彼氏とお風呂ってデフォじゃないの?」
ふうん。
このご満悦の頂点で浴びるのが……まさかの粗塩とか。
この子は本当に、おれを翻弄する。
無意識で元カレに嫉妬させて。
……できれば彼女の初めても、僕が欲しかった。
僕しか知らないでいて欲しいって、どうにもならない事にまで嫉妬する。
よしっ!
今から全部僕が上書きして、彼女の初期設定を消してやろう!
お湯が沸いたところで……
「はっ! ……入浴剤はない、ですか?」
「ホテルじゃないんだから。
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たっぷり、可愛がってあげたことは……言うまでもない。
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すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
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