夏雪の花に最後の恋をして。

美也

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3.悲しみは雪のように

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 微睡まどろんでいたうちに朝がとうに過ぎている、目覚めた時にそう頭が働いたけれど瞼を開けているのが難しい。窓のカーテンは陽の光を浴びて部屋の天井に薄明かりを通していた。

 ハル君のベッドの上で日曜日を迎える。昨夜はソファからベッドに移動してもう一度愛しあって……
 起き上がる気力もなくそのまま寝てしまったようだ。ほんのり肩にハル君の体温が伝わってきて、素肌の感触に二人して裸のまま眠りについたのだと、ここで力尽きるまで淫れた真夜中をぼんやり思い出した。

 気怠いこの体の重たさはたくさん愛された証拠なんだろう。モゾモゾと足を動かしてゆっくり起き上がろうとしてみたけれど……

「――――っ!?」

 何か出た、感覚に驚いて仰向けの状態から自分を動かせなかった。
 頭と爪先からその異変部までゾクゾクと寒気が肌を伝い、サーッと血の気が引いていく。一瞬のことだった。

 ドクドクドクドク。

 生理!?
 それと感覚は同じで。経血が流れ出ている、ズキズキとした痛みを伴って。
 しまった! 
 という罪悪感がすぐ私を支配する。下着も履いていない現状でベッドを血液で汚している様を、見えなくても容易に想像できた。しかも隣でハル君が寝ているのに、なんて軽率だったのだろうと後悔も押し寄せ一段と全身が冷えびえした。

 でも、まだ生理日まで3日もあるのに……

 いつもと違うズレは、私の中で異常を起こしていたサインだとすぐ思い知る。

「はっ――――」

 ドクドクとまた経血が漏れ出した。
 いきなり生理の始めからこんなに出血するなんておかしい。
 自分の異様さに気づいた途端、小さな震えが何処からともなく発生し、それは全身へ拡がっていった。

 どうしよう! 
 私、どうして・・・!?

「……雪ちゃん? んー、起きたの?」
「……ハ……ハッ……  」

 両脇をぎゅっと絞め腕を胸にくっつけて。ブルブルと凍えるような震えが止まらず、ハル君と呼ぶ声も出せない。酷く恐ろしい不安に縛られたかのように、ぼーっと天井を見上げるだけで私は身動きひとつ取れなかった。

 隣で目覚めたハル君が寝返りをうって、私に腕を伸ばし抱き締める。日曜日の朝はいつもおはようのキスから始まるのに。止まったままの私の異変を察知したのだろう。

「……雪ちゃん? っ!? どうしたの!?」

 肌身に掛かっていた布団を勢いよく剥がされ、ハル君が飛び起きた弾みでベッドが軋む。視線を移して見たハル君はまじまじと自分の手を見つめ大きく目を見開いていた。その青褪めた表情を作らせたのは、ハル君の手を真っ赤に染めた私の血液だ。

「……生理って、こんなに、え?」

 ハル君が怯えた目で私に視線をよこした。私は声を出せない変わりに首をできるだけ横に振る。

「きゅ、救急車! 呼ぶから! 待ってて!」

 ハル君は慌ててベッドから下り部屋を出て行った。自分の体なのにまるで借物みたいな離脱感に覆われている。恐怖と不安で心が張り裂けそうだった。


「……ハル……さ、寒ぃ……怖ぃょ」
「僕がついてるから! 雪ちゃん、しっかり! 手を繋いで、ほら……ここにいるから」

 ハル君が裸の私にシャツを着せてくれて、だらんとした体をまたベッドに横たわらせた。がっしりと手を握り、傍らで頭を撫でたり頬をさすったりして、私の側で救急車が到着するまでずっと励ましてくれた。

 ハル君が居てくれたから、朦朧とする意識の中でも安心感を纏っていられたけれど……
 現れた救急隊員が、それが普通だと一般常識では理解していたのに。

 いざ自分の体に触れるその人達が……
 男性、であることに鳥肌が立つような抵抗が生まれてしまった。

 恥ずかしい……
 あぁ、どうしよう……

 ハル君にしか見せたことないのに。そんな、諸に性器を他の人に見られるなんて。
 救急措置を受ける間、それを阻止することができないもどかしさと屈辱的な気持ちが私の中で渦巻いていた。

 それはハル君にも、同じ想いを……させているのかもしれなかった。
 そんな自分が、余計に、恥らしく感じた。

 泣きたい 、
 消えてしまいたい 、、、

 不意に闇が見え、心ごと引き込まれそうな恐れを、ぎゅっと目を閉じてこらえた。

 「生理中ですか?」首を横に振り「前?」次は縦に「普段経血量が多い?」との質問に続けて頷いた。
 「冬咲雪乃ふゆさきゆきのさん、女性、24歳。膣口より大量出血、血圧低下、出血性ショックの疑い。搬送受け入れ可能ですか?」救急車の中で私に声掛けする隊員とは別の声も聞こえた。

 自分の生理は重いほうだと自覚はあった。生理前から終わるまで鎮痛剤に頼り切りで、1回分の2倍量を服用するときもあった。貧血でふらつく時もしばしば。
 やはりそれが原因なのだろうか?
 昨日も昼間デートの後で不調になり薬を飲んだ。その後の性行為が影響してしまったということ?

 こんな事になるのならもっと早く……
 薄っすらと瞼を開き同乗しているハル君を見てみると、頭を抱えるようにして項垂れていた。
 彼に罪悪感を、与えてしまったのは紛れもなく私だ。その辛い姿を見ていられなくて強く瞼を閉じた。

 鬱々と苦悶に縛られながら、病院の診察台に運ばれた自身に安堵が訪れることもなく…
 開脚した状態でまた男性医師に局部を処置されるのは拷問のように感じた。膣内を触診され、経膣超音波の器具が挿入される。

 医療行為だとわかっていても、初めての経験で心理が荒立ち落ち着いてくれない!

 傷つき……けがれて……
 まるで無作為に犯されてしまったような錯覚を起こし、ハル君が脳裏にチラついて酷く胸が痛んだ。
 

「……子宮、筋腫?」

 処置が終わり意識がはっきりした私のところへ、男性医師が症状の説明をしに来てくれた。今回の出血と生理痛や貧血の原因は子宮筋腫だと言う。

「超音波で確認できたものだけでも大小合わせて10個あります」
「10個も!?」

 数の多さに驚いて診察ベッドで安静にしている全身がビクンと跳ねた。
 子宮の内膜下と筋層内に筋腫があり、ふつうは平らな子宮内を変形させて内膜の表面積を増やしているので、経血として剥がれ落ちる量も多くなる。だから大出血を起こしたそうだ。

「特に子宮口近くの粘膜下にある5ミリと8ミリの筋腫は早くとったほうがいいと思います」
「手術、ということですか?」

 顔を曇らせた私に、比較的短時間で負担の少ない手術だと医師は話す。内視鏡を子宮口から挿入して筋腫を切除する、開腹しないので傷も作らなくて済む。

 私を安心させようとしてくれた説明は、また憂鬱を生み心まで曇らせる。どうしてもあの開脚した状態の体位が……恥辱的で精神ダメージを免れないからだ。
 心に傷がつく 、、、

 ただ手術をしなければ再び大出血を起こす可能性があり、現状より悪化する確率が高い。これからの将来のことを考えたら…
 『結婚』のためにも、いま決断するしかないと思った。

「手術を、お願いします」

 私の返答に医師はこれからMRI検査を受けて筋腫の状態を確認し、後日術前検査、入院手術となる旨を伝えた。

 MRIの結果、私の筋腫は全て良性との判定で子宮鏡下手術が行えることとなった。但し筋腫核の疑いがある箇所も数個見つかり、今後大きくなるかもしれないそうだ。
 現段階では経過観察し低用量ピルで残留する筋腫の成長を抑える手段をとることに。

 救急搬送から無事全ての処置が終了し治療室からゆっくり歩いて出ると、ハル君が気づいて急いで駆け寄り私を抱きしめる。

「雪ちゃん! ……ほんと、本当に良かった」
「ハル君……ごめんね」

 ハル君の腕の中にまた戻れたことに安堵して、私の心の傷はじんわりと癒やされてゆく。つらいこともハル君が居てくれるから乗り越えられる、心の底から頼りにしてしまったけれど……

 ハル君の心も深く傷ついていたことを、私はもっと重んじるべきだった。


 毎週末のデートは病院通いになってしまい、予約に合わせてハル君が車で送迎をしてくれた。そうしてずっと私に付き添ってくれるからとても頼もしかった。外は夏真っ盛りで、私に負担がかからないように常に気遣ってくれている。
 術前検査も済んで手術の日程が決まると、私達は次は入院に向けて準備に取りかかった。

「ありがとう、ハル君。何から何まで」
「当然だよ、これくらい」

 私の家のテーブルで病院から渡された書類を広げ、ハル君が保証人欄にサインをした。

「ハル君のお盆休みも私の手術で潰れちゃうし……」
「そんなのなんてことないよ。雪ちゃんの体が良くなる方が大事なんだから」

 仕事を考慮して入院2泊3日を盆休にあてたので、これまでと同じように付添をすると言うハル君を、私が拘束してしまっているようで気がとがめた。

 本当なら秋田の実家に二人で行く予定だったけれど治療を優先すべきなのは明白で。入院するにしても家族に手助けを求めるのは難しかった。在宅介護が必要な祖父母を両親が看ているから、東京まで呼ぶのは躊躇われて、全部ハル君が担ってくれたのだ。

「手術の話をこれから両親に伝えるけど、ハル君のこと話しても……いいかな?」
「……ん、う、うん」

 歯切れ悪く私から目をらすように俯いた。筋を通して交際の挨拶を直接する予定が頓挫したので、体裁悪く思われないか案じているのだろうか。
 そうじゃなく……私が案じている心配事が原因ではないかと思った。

「ハル君、ちゃんと、眠れてる?」
「えっ? な、何で!?」

「私につき合わせてばかりで、無理させてるんじゃないかって」
「僕は平気だから、雪ちゃんは自分のこと一番に考えて。大事にしなきゃいけない時だし」

 ハル君は慌てたように何でもない振りをするけれど、その引き攣った笑顔に私は後悔の念を拭えなかった。
 あの日、私が汚してしまったベッドをハル君は新しくしたから大丈夫と言っていたけど……心地良く寝るなんてできるだろうか?
 ずっと疑問が残っている。

 あれからハル君の家にも行っていない。こうして私を病院から家に送り届け、用事が済むと毎回帰ってしまう。そして今日も。
 体を繋げていないこの間中、この先……心まで遠ざかってしまう気がしてならない。


 ひとりになった部屋で母に電話をかけ事情を説明すると、突然泣き出され私は困惑した。母も多発性子宮筋腫で、私を出産した時に子宮摘出をした事実を知る。いずれ話をするつもりが機会を逃したと、懺悔を繰り返されなだめるのに精一杯。

 私が心配させたくないと生理痛を誤魔化し、ハル君の存在も気恥ずかしくはぐらかしていた。遺伝や母のせいではなく、全ては私が原因なのだ。

 もっと早く、対処できていたはず……

 優しい彼氏に恵まれ、生理痛も和らぎ子宮も温存できる。話をするうちにこれらが未来の希望だと母も明るい声を取り戻した。
 そして私も、前向きな気持ちで――――手術に挑むことができたのだった。



 ハル君の手助けを借りて入院し手術を無事終える。術後の異常もなく予定通り3日目に退院を迎えた。

「じゃあ僕は先に荷物を車に置いてくるね」
「ありがとう」

 ハル君が持ち込んだ私物を運び出すとき、出入口で女性看護師と軽く挨拶を交わしていた。看護師さんはそのままにっこり清々すがすがしい顔で入って来ると私に称賛を伝える。

「優しい彼氏さんね」
「はい。とっても……」

 誇らしいことなのに、なぜか私は自信のない返事をしていた。
 入院中ずっと、ハル君は私に付き添ってくれて。だからこそ、ふとした仕草を見る度に私の心に影がさした。
 いつも穏やかだった顔はくすみがちで、目元には黒いクマを作り、時折虚ろな目をしていた。笑顔がぎこち無いときも……
 
 私の家に帰るこの車中も、二人だけの空間がギクシャクして感じるのは私だけだろうか?
 何気ない会話、どうやってしてたっけ……?
 以前なら無言で顔を合わせても、微笑んだり視線だけで気持ちを汲み取れたのに。
 いまは 、、、

 あの日からお互いを気遣いすぎて、変に勘繰ってばかりで言葉を簡単に出せない。
 窓の外を流れてゆく炎天下の景色ばかりを見て、目をくらませモヤついた気持ちを有耶無耶にした。

 自宅の前に到着すると、ハル君は私を先に降ろして近くのコインパーキングに停めてくると言った。部屋で待ってると答えた私に後部座席から私のバッグを取って膝に乗せる。
 私は降りる前にハル君に確認しておきたい事があった。

「……えっと、母がハル君に御礼をしたいって言っていて、どうしよう、か?」

 帰ったら母に退院の一報を入れる予定で、ハル君が戻ってくるのを待って電話をしたほうがいいかと思った。
 初めての会話になるからハル君の気持ちも確かめてと聞いてみたが、そんなに困らせる質問だったかなと焦るくらいに沈黙する。

 目を泳がせて唇を噛み締めて……
 我慢しているように見えたから、私が心配して覗き込むと、ハル君は痛々しい表情で抑えきれずに白状した。

「……ハル君?」
「……僕っ……雪ちゃんと、             
            っ結婚できない」

 ――――――――!?


 どれくらいか、息が止まって頭が真っ白になった。
 『結婚できない』その言葉が胸にずしりと重たい鈍痛を起こす。痛みで覚めた私はその真偽を問うためハル君を恐る恐る見た。

「っ――――――」

 同じように私を見る視線とぶつかったが、すぐハル君は顔をそむけ車のハンドルに向き直った。
 私、ハル君が見ていられないほど、酷い顔をしているのだろう。
 硬直して心理も働かないところ、項垂れたハル君が最もな理由を吐露した。

「……怖くて、もう、雪ちゃんを抱けない」
「っ!?」

 あの日、私の経血で手を汚し怯えた姿が脳裏に浮かぶ。私はそのあと救われたけれど、ハル君の感じた恐怖は消えていなかった。
 むしろ……追い込んでしまったのかもしれない。

「雪ちゃんの手術が終わって落ち着いたら……話し合おうと思ってたんだ」

 首が垂れ落ちそうなほどに喉を詰まらせ声を震わせる。ずっと感じていた違和感の原因を悟った。

 私は今日から新たな二人の始まりを……
 ハル君は今日で二人の関係に終わりを……

 私達の気持ちは――――――
 すれ違って、いたんだね……

 大事にしようとする特別感と腫れ物を扱うような余所余所しさが混沌としていた。無理をしながら私に寄り添ってくれていたんだ。眠れないくらい悩ませていたんだ。
 そうして…… 
 どんどんやつれて……

「……ごめん、ハル君ごめんね」
「どうして、雪ちゃんが謝るの? 僕が悪いんだ。僕が! 甲斐性なしだから!」

「ハ、ハル……」
「で、でも、僕達まだ20代半ばで、いくらでもやり直せると思うんだ! きっと別れても新しいパートナーが見つかって、普通に結婚して普通に子供だって……っ!」

 普通、って? 
 
 ・・・――――!?

 言葉のトゲが心にチクリと刺さった私の顔と、トゲを出し焦ったハル君の顔が、重々しい空間で向き合った。
 そうして見つけた涙をいっぱいに溜めたハル君の瞳に、私は打ちひしがれて瞬きさえできなかった。
 そんな悲しい顔、今まで見たことない……

 私からその顔を隠すように伸び切った横髪で遮りハンドルにもたれかかった。泣いているかもわからない横顔は口元しか見えないけれど、切なくつらいハル君の心情がそこからこぼれてくる。

「雪ちゃんは僕が守らなきゃって最初は頑張れてたのに。ベッドで眠れなくなって、悪夢を見て……現実か夢か、わかんない。もう、僕じゃ駄目なんだ。僕には無理なんだ!」
「っ!!」

 ハル君がバシッとハンドルを強く握り締めて、怒りや悔しさを放出している。そんな姿も初めて目にして、私の心は強烈に動揺した。
 感情の起伏が激しいその様を私は昔一度見たことがある――――――母と同じだ。

 介護を始めた頃に更年期と重なり鬱状態になっていた。涙脆く虚ろな目でよく自分を責めて……私の記憶している母とハル君が、悲しいくらいに重なった。
 ハル君を苦しめる原因が 、、、私。
 私のせいであることが 、、、悲しかった。

「……ごめん、……ごめん、僕がっ ごめん」
「っハル君! ハル君は悪くない!」

 頑なな手を緩めて肩を落とすと、謝罪の言葉を繰り返してハル君が、壊れかける。
 私は何としても止めたかった。ハル君の腕をぎゅっと掴んで言い聞かせる。

「ハル君は悪くない。私が自己管理を怠ったせいでハル君には何の責任もないの」
「…………雪ちゃん」

 腕に力を込めて言葉を送った私を、ハル君はくしゃくしゃの顔で見た。
 涙が伝うその愛しい顔に触れたい衝動をぐっと抑える。私はすぐにでもハル君をき放ってあげなければいけない。

「私も怖かった、自分の体が。ハル君が助けてくれたのよ? ハル君のおかげで、私、良くなったんだから。ありがとうって気持ちでいっぱいなの」

 そう、私だって自分に戸惑った。不安もたくさんある。この重荷をハル君が背負う必要なんてない。
 私は手術で切除できたけれど、ハル君の精神障害を失くすためには 、、、私が消えないと。

「ハル君の言う通り、私達まだ若いしたくさん出逢いもあると思う。……別れよう」
「くっ――――」

 私が決別を口にすると、ハル君は苦渋の表情で言葉を押し殺した。否定も肯定もできない、こうやって迷わせ私が苦しめていたんだ。

「今まで本当にありがとう……さよなら」

 愛しさと切なさが湧き上がり胸をいっぱいにする。笑えてはいなかった、かもしれない。最後に焼きつけたハル君の姿も笑顔ではなかった。
 でも、もう、終わった――――。

 車のドアを開け外に勢いよく出る。急いでドアを閉めて早く、早く離れようと振り返らずに。灼熱の陽射しからも逃げるようにしてアパートのエントランスドアの中へ駆け込んだ。

 蒸した外気で苦しいのか、胸が苦しいのか。息荒く階段を駆け足で上がり、手惑いつつ自宅の玄関ドアを開閉し身を隠した。けれど部屋に籠もった熱気で息ができそうにもなく、荷物を玄関にほうったまま窓を全開しに行く。

「はぁっ、はぁっ、はぁ……」

 よろよろとベッドに座り息をする。急に体を動かしすぎたからか、下腹部がチクチクとするような感じがして。それだけじゃなく……
 頭の中も胸の奥も全身が何処もかしこも、痛いとわめき出しそうなざわめきがした。

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