夏雪の花に最後の恋をして。

美也

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8.雪に捧ぐセレナーデ

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 『…………痛く、しないで』

 彼女は顔を両腕で隠して怯えるように言った。小さく震えて見えたのは間違いじゃなかったみたいだ。
 でもその言葉は俺に委ねているふうにも聞こえて。そうじゃない抱き方をされたいと……

 労りとゆうか慈しみとゆうか、彼女に対して色欲を超えた感情が無性にほとばしった。
 何か、彼女を苦しめた過去があったんだ。俺が、俺が全部消し去ってやりたい!

 そっと彼女の腕をとって、切ない視線を送ってくる顔を撫でたくさんのキスを。おでこに瞼に鼻に頬に、泣きそうな表情がほぐれるように。
 そして、赤ん坊でも抱くみたいに両腕で優しく包みこんだ。

「……怖い?」
「ううん……」

 彼女は首を振って微笑んだ。
 良かった……愛おしさがさらにこみ上げる。

「痛くしない、絶対。約束するから。我慢しないで何でも言って? 雪乃ゆきのさんのこと大事にしたいんだ……」

 本気の誠意を彼女に伝える。こんな告白初めてだ。
 ……当然、か。
 こんなに恋愛感情を持ち合わせた事が今の今までなかったんだから。

 じっと見つめ合って気持ちを通わせて、そのうち彼女に少女らしいおももちが見え隠れする。そして、少し恥じらいながら言ったんだ。

「ありがとう。……私、好き。夏樹なつきさんが好き、です」

 そんな可愛いこと言われたら……ほんとに狂っちゃうって。

 我慢しないで言って、と伝えたのは嫌な触り方だったりしたら遠慮しないで、って意味だったのに。俺が好き、とか。
 好きなの、我慢してたの?
 もう参っちゃうよ……

「うん、嬉しい凄く。僕も雪乃さんが好きで、おかしくなりそうなくらい好きすぎて……いっぱい気持ちよくしてあげたいんだ」
「えっ?」

「少しでも痛かったら言って? 絶対だよ」
「う、うん」

 彼女に念を押して可愛い返事を貰うと、誓い替わりにキスを唇に。そして……胸の谷間に、おへそに、キスひとつごとに真っ直ぐ下へ。

 俺の狙っている部分が流石にバレたみたいで、腰が浮いて足で抵抗されるところを押さえて太腿の間に潜りこんだ。

「あっ! まっ、そこはっ、ダメ――――あぁんっ!!」

 男心を貫くような喘ぎ声。起爆剤になっちゃって夢中で舌の深いところを押しつけた。口を閉じもしないで、舌先は膣を探るように……
 もう俺の唾液なのか彼女の体液なのか、わかんないほど舐め回して。

「やぁっ、んんっ――――」

 耳を擽る甘い声に、鼻に纏わりつく艶甘い香り。彼女の全てを俺は飲み込んでクラクラに泥酔してる。
 ほんとに頭おかしくなりそう――――


「はぁっ、はぁ。……指、入れるよ?」
「…………え? あっ、んっ!」

 彼女のナカに指を一本忍ばせて、浅い所をゆっくり弄るようにこする。ちゃんと濡れてるし、むしろ感度がいいんじゃないかと思う。
 ビクンッと体を震わせた位置にまとを合わせると、反対の親指をひと舐めして外側も優しく撫で回して……

「あぁっ、やっ、はぁんっ」
雪乃ゆきのさん……ここ、気持ちいい?」

「やぁ、ダメっ……おかしっ、からっ」
「……大丈夫、いっぱい感じて?」

 快感に悶えては、頑張って抵抗しようとするも破れてる。彼女の妖艶な姿を真下に映して、それを見てるだけで俺もイキそうになってた。
 同時に、もっと狂わせたい強欲が……しつこく彼女を攻めまくる。

「やっ、もうっ、あぁ――――――」
「!!」

 きゅうっと俺の指をうねり締めつけ麻痺させて――――――彼女が快感に達した。
 指、離さないって……とろりと熱く絡まれ。
 痺れた彼女の体は無抵抗のままベッドシーツに張りついていた。オーガズムに縛られ息を荒らげて、錯乱したかのように彼女の意識が彷徨っている。

 その官能を逃がし切れずもがく姿に、かつてない優越感で俺のそこらじゅうが満たされた。
 頭の中は軽くイッたみたいに恍惚こうこつしていて気持ちいい……

「雪乃さん……雪乃さん、息して?」
「はあっ、はぁ……んぅ?」

「ね、ほら、ゆっくり息をして?」
「はぁ、はぁ、ふっ……」

 まるでシーツの上で溺れているような彼女の頬をあやすように撫でて……そのとろけた顔が俺に向けられた瞬間――――――
 早く繋げたい願望だけが俺の体を支配する。

「もう雪乃さんのナカに入りたい……お願い」

 顔をすりすりと雪乃さんの頬にこすりつけ、ただそれを懇願していた。子供のおねだりみたいにキスをしながら。

「……ふ、ぅん――――」

 可愛い幼子のような声で許しをもらう。
 急げとベッドに脱いだ服から財布を取ってそそくさとゴムを装着させると、美白な足の間でまっかに咲く華に向けて押しつけた。

 ゴクッと喉が鳴る。
 ビクビクと波打つ俺を挿入すれば――――――狂おしいほどの刺激が走り抜けた。

「あぁっ!」
「くっ!!」

 キッツいし、狭いっ。
 かろうじて留めている理性が砕けそうに、れただけで悦び果てそうだ。ゆっくり傷つけないように、さっき覚えたスポットに当て撫でつける。

 擽る程度のはずなんだが……
 半分も挿れてないのに何でこんなにイイんだっ?

 少しの刺激で敏感に俺のが反応してしまう。彼女も同じなのか……絶え間なく可愛い声を響かせて、ナカで俺を絞るみたいにシメ上げるから――――――

「な、夏樹なつきっ、」
「っ!」

 不意打ちで名前を呼ばれたら、呆気なく絶頂が来てしまった。熱気が繋げた部分に集中して流れてく。
 気持ちいい、を超えてく性欲の爽快感に全身の力が抜ける。

 ずっとこのまま……なんて。
 恍惚状態で愛くるしい彼女の体にとことん酔い痴れていた。


 ――――まばゆいほどに透明できらきらと降りそそぐ朝光。視界の中心に映るのは、ベッドの上の美しい眠り姫。柔らかな春の外光が窓から射し、色白な肌を輝かしく照らすから、その綺麗な姿を俺はうっとりと眺めてた。

「……おはよう?」
「ん……? あ、おはよう///」

 寝起きのとろんとした目がすっごく可愛い。俺の存在に気づいた瞬間から照れるとか、もっといろんな反応を見たくなってしまう。

雪乃ゆきのさん、ごめんね? 俺、嘘ついちゃったみたい」
「えっ……な、何を?」

「朝まで一緒って無理。もうずっと雪乃さん離したくない」
「……もう。あんまり、そうゆうことぉ///」

 たぶん俺の顔がニヤついてたもんで、からかったと思われたのか、布団の中に隠れた彼女を追いかけて捕まえる。
 本当に離れたくなくて、彼女にしがみついてこの幸福感を確かめる。

「……痛かった?」
「……ううん」

「じゃあ、気持ちよかった?」
「…………(コクコク)///」

 あ、俺、ガチで幸せだった。
 恥ずかしそうに顔も隠したままだけど、丸まって俺の腕の中におさまった。私はあなたのもの、という仕草に感じて気狂いしそうに愛おしい。

 好きだよ。
 私も。

 夢のような恋人との朝が訪れて、まるでそれは新世界の始まりで。雪乃さんという特別な存在で巡る日々は毎日がきらめいていた。



 幸運なことに、アプロディタの夏向け商品の広告デザインも続けて受注し、公私ともに一緒に過ごせる時間を確保できた。
 今までの俺のスタイルはいとも簡単に崩壊し、雪乃さんを大事にすることで人生が順風満帆に回り始めたのを実感。

 俺達が恋人同士になった事は秘密にしていたが、仕事中も隙を見つけては雪乃さんにちょっかいを出して楽しんでいる。
 こっそり手を繋いでみたり、隠れてキスを交わしてみたり。

 ある日の終業後には恋人らしくデートをして、離れがたくホテルに誘うと雪乃さんは自宅に招いてくれた。お互いの最寄り駅が同じ東海道線上で、俺達はとても運が良いみたいだ。

 昔からのスタイルで彼女の部屋、ましてや自分んちにも恋人を迎えた事がなかったので、新鮮な体験でかなり浮ついている。単純な頭でわくわくしながら雪乃さんちにお邪魔した。

 雪乃さんの部屋は温かみがあって、初めてでも居心地よく落ち着く空間だ。思った通りの女子らしい装飾品とナチュラルカラーを好む部屋の色調。香りも浴室からベッドまで、癒やされる雪乃さんのにおいでいっぱい。

 順番でシャワーして就寝というところで、ベッドに座って心待ちにしていた俺に雪乃さんはおかしな事を言う。

夏樹なつきさん、ベッド使って。私は床に……」
「へ? ちょっ、なんで!?」

「ん? なんでって夏樹さん大きいから……」
「えっ? な、何が大きいの!?」

「背が大きいから私のベッドじゃ小さいと思うけど、一人なら眠れるかな?」
「あ~って、素なのそれぇ?」

 おもてなし精神の出しどころ間違えてる!
 俺達、恋人なのに!

 初めて体を繋げてから、の機会を心から望んでいた俺に対し、やっと巡ってきた瞬間に他人行儀な扱いを受け消沈する。

 俺が彼氏だってこと体に教えこまないといけないな。
 急にスイッチが入って、オス全開でとぼけた顔の雪乃さんを掴んで抱きしめた。


「ずっと離したくないって言ったでしょ?」
「う、うん。……あっ」

雪乃ゆきのさんのこといっぱい触りたいし、なんなら俺だけでいっぱいにしたいんだよ……」
「はぁっ……んんっ!」

 服に潜らせた手は素肌を滑り胸の膨らみを包むと、指先で小さな蕾を揺らして擽った。そうして零れた声を奪い取ってベッドに押し倒す。

「……チュッ、雪乃さん好きだよ。雪乃さんも俺に触って欲しい? 聞かせて?」
「…………はい。夏樹なつきさんの、全部、好き、」

 くっ、愛しすぎる彼女の素直という攻撃力!
 撃沈されそうになりながらも素早く腰から服を剥ぎ取って、床にあったクッションをお尻の下に敷いた。
 俺にされた格好が恥ずかしくて焦り出した雪乃さんに、無理強いをしてでも反撃開始する。

「もうめちゃくちゃに可愛がりたいから、俺の気が済むまで好きにさせて!」
「えっ? ……はあんっ、」

 白肌の太腿の間に顔をうずめて舌で攻撃を。一撃目の刺激で放出された喘ぎ声は両手で塞がれたようだ。遠慮なく俺も雪乃さんの全部を味わえる。

 一瞬も舌を離さず密着させたまま、甘いキャンディでも舐めてるみたいに。伸ばした両手は柔らかいマシュマロを揉みほぐすように。

 雪乃さんのくねる可愛いへその先に胸の谷間を映して、その奥に快感にえる顔を眺めれば、興奮して頭に血がのぼった。
 まだまだ、もっと、感じさせたい!
 そおっと指を熱い体の中に忍ばせると、感づいたのか自分で押さえていた手の間を抜けて、雪乃さんの可愛い声が飛び出す。

「やぁんっ――――」
「かわひぃ……」

 俺も思わず心の声が出ちゃって、敏感な所に反響して擽ったかったのか余計に雪乃さんはよがった。
 絶頂に導く場所を俺はもう知っているから。指をもう一本増やして交互にこすり、唇にできない変わりにディープなキスをそこにして可愛がると……

「ああっ――――!」

 大きく体を震え上がらせて雪乃さんがベッドに沈んでゆく。そのさには抗えないと全身を脱力させて。深く胸で息をして快感の世界を泳いでいる目で俺を見る。

 そんな官能に溺れる淫らな表情をするのだから、少しも俺に余裕を与えない。

 見せつけるようにして、トロみづいた指を舐めあげ濡れた口元を手の甲で拭った。
 そして支配欲を剥き出しにする。

「はぁっ、雪乃さんを気持ちよくするのは俺だけって……ちゃんと、覚えておいて?」

 俺のもの。
 従順な体に仕立てようとイキった俺を、いじらしい態度で骨抜きにしてくる……

「……私ばっかり、気持ちいいなんて、」
「っ!?」

 喘ぎこらえた涙を瞳に溜めて声まで震わせる。そんな健気な表情で見つめられたら敵わない。
 自分ファーストってあるのを知らないのか……
 遠慮がちに口元を隠した雪乃さんの手にキスをしてそっと抱きしめる。

「それでいいのに。雪乃さんはどうしたいの?」
「……一緒に、気持ちよくなれる?」

 だから、可愛いすぎかよっ……
 雪乃さんの素直さの破壊力ぱないっ!
 

「一緒に気持ちよくなりたいの?」
「……うん」

 できることなら叶えてあげたいけれど、痛がりだろうから激しくはできないし。イクのは快感ではあるけれど瞬間的だから、二人でタイミング合わせるって案外難しい、かも?
 もっと長く……気持ちよくて……幸せな感覚?

「あ! してみたいことがあるんだけど……」
「……?」

 雪乃さんがシャワー中にこっそり隠しておいたゴムを、もうずっと勃ちっぱなしの俺のにサッと装着して。それで布団を被るとベッドサイドにあったリモコンで灯りを消した。
 そして雪乃さんを後ろから抱きしめて挿入を試みる。

「まずは繋がりたいから痛かったら言ってね?」

 コクリと頷いて腕枕にした俺の手を雪乃さんが握りしめた。可愛い仕草に微笑みながら愛しさを抱えるように腹に力を入れる。

「あっ、んっ……」
「はぁ、雪乃さん、凄い濡れてる……もう少し入りそう」

「んんっ、夏っ樹っさん、」
「ふふっ可愛い……わかる? ほとんど入ったよ。雪乃さんのナカとけそう、凄く気持ちいい。……だから、このまま眠りたい」

「えっ? 繋がったまま寝るの!?」
「うん。ダメ? ……って、雪乃さん! そんなにシメたらイっちゃうよ!」

 モゾモゾと慌てたと思ったら黙りこくって。ジワジワとナカを絞ってくるものだから、危なく持っていかれるところだ。
 そしてさらに俺の耐久性を試してくる。

「……ずっと、朝まで? 繋がってたら? 夏樹さんの、その、形になって、戻らなくなっちゃう?」
「・・・んーっ! なんてことを……」

 思わず額を押さえて過激な発言を脳内で暴れさせないようにする。俺が爆発処理中にも雪乃さんは体をビクビクさせて焦っては、また俺のをシメ上げようと食らいついて。

「わっ、夏樹さん!? 急に大きくっ、あっ、はっ、」
「ちょっと! 待って! 俺達、一旦、落ち着こう!?」

 繋げた熱が籠もりすぎて今にも沸騰しそうだったので、包むようにして雪乃さんをじっと抱きしめた。
 「たぶん眠ったら抜けちゃうと思うよ?」と話すと、「そっか!」と納得して笑い合って。

 ――――――
 こんなふうにしたいって、初めてなんだ。
 私も、初めて。

 その言葉にお互い不思議と安心を覚えたようだった。


「この前はさ、凄く嬉しすぎて挿入したらすぐね……情けないことに。でもずっとこのまま、雪乃さんのナカにいたいなって思ったんだ」
「えっと、オーガズムの後でも?」

「うん。今まで気持ちいいって、興奮してスッキリすることだったんだけど……それだけじゃないって気づいたとゆうか。好きな人と長く繋がっていられたら幸せだなって」
「幸せな、気持ち?」

 雪乃さんと繋げたまま、ただそれだけ。
 愛しい後ろ身にぴったり寄り添って、会話を囁きあって。

 激しい交わりとは正反対に……やすらぎの中で少しの色めきに胸を弾ませて。
 幾つもの重なり合わせた所が心地よさを染み渡らせる。

「こうやって肌を合わせて体温を感じて。そのうちに二人とも同じ温度になるみたいにさ? 呼吸のリズムも整って合わさっていくんだ。繋げた体の奥からどんどんひとつになっていって……
 そんなふうに眠りにつけたら、気持ちよくて幸せだろうなぁと思った」
「……いいね。とても幸せな気持ちで一日が終わる」

 このままそうしてみようか?
 ――――うん。

 まるで産まれたての赤ん坊が初めて母親にあやしてもらうような……一番優しい声を聞いた気分になった。

「もういま俺、気持ちよくて凄い幸せなんだけど~」
「ふふっ、私も」

 ほかほかして、ふわふわして、本当に眠くなってきて。まだ雪乃さんにたくさん気持ちを伝えたかったのに。
 抱き枕に擦寄るみたいにくっついたら、ふと快感よりも心地いい世界が訪れる。

 『 好きだよ 』
 夢の中で寝言をつぶやくようにして。
 『 私も好き 』
 世界一幸せな時間へいざなわれた。

 雪乃さんと繋がる二人の世界は、生きた心地で満たされる楽園のようだった。
 すべてがキモチイイ――――――


 その特別な快感の世界へは雪乃さんのナカでしか入り込めない。他の誰かじゃ駄目なんだ。その感覚は俺にとって雪乃さんが特別な存在だと…
 俺がそうしたかったように、俺の体に教えこまれたみたいだった。

 雪乃さんなしではもう俺は生きていけない――――――



 そして、求めても求めても足りないほど、雪乃さんに交わって生きていたいと切望する。できることなら毎日でも……抱いていたい!

「――――チュッ、もっとキスしよう?」
「……はぁっ、じゃあ、胸は触らないで、」

「どうして? 可愛いことになってるのに……」
「それダメっ。深く、入っちゃうからぁ」

「ホント、いちいち可愛いよね。チュッ」
「やぁっ、もう、んんっ――――」

 今夜も雪乃さん家にお泊まり。就寝まで余裕がある時は正面で向き合って繋がりあう。ベッドに腰掛けた俺の上に雪乃さんを乗っけて、キスをしながら胸を愛撫して……

 執拗に小さな舌を追いかけて指で胸のトップをなぞり続けると、反応して潤いトロトロになった雪乃さんが沈んでくるように……

 そうして俺がだんだんと奥に入りこんで……深く繋がってゆく。

 たっぷり時間をかけて雪乃さんを堪能する興奮に陶酔した。射精しなくても気持ちよくて幸福感でいっぱいになる。
 そんなセックスがあることを知り、それを可能にする女がいることに驚き、その女も同じ官能を共有していることに、俺は逆上のぼせた。

「……好き。雪乃さん、大好き」
「はっ、夏樹さん……」

 雪乃さんだから、俺は満たされるんだ。
 白い肌を薄紅に火照らせ快感の波にさらわれないよう俺の首にしがみつく。雪乃さんも俺だから……満たされてくれてる?

「雪乃さんが気持ちいいと、俺も気持ちいいよ……」

 目の前を覆う柔い膨らみを口に含めば、甘い声に包まれながら二人の楽園へ、心ゆくまで感じあって。
 二人の気持ちと気持ちを結ぶような繋がり方で、俺達は恋人の絆を刻んでゆく。


 ――――幸せな時間を共に過ごし季節は本格的な夏を迎えようとしていた。


 初夏の発表会を終えるとアプロディタでの仕事も切りがつき、俺は新規のクライアント先へ出向く日々が続く。
 7月に入ったばかりの休日、東京方面から湘南へ。

「暑くない? 眩しくない? 大丈夫??」

 少し混雑した海沿いの国道をノロノロ走行。助手席で雪乃さんはクスクスと笑っている。
 綺麗な白い肌が日焼けしないか、10秒ごとに心配だ。それに狭い車内も。

 今日は初めて雪乃さんを愛車に乗せ、自分の家に招待するというデートプラン。
 お互い仕事ですれ違い、会うのも久しぶりだし……露骨に軽自動車に乗るのを嫌がる女もいたから。

 確かに都心じゃ浮く場所もあるけど、俺のお気に入りの車も家も、雪乃さんに受け入れてもらえるのか?
 そんな心配と緊張で、過保護なほど恋人の状態が気がかりな俺を本人は面白がっているみたいだ。

 車窓はキラキラ光る海面をゆっくり流してゆく。海水浴客が多いし陽射しが強いから海に近づくのはオフシーズンに。早朝か夕方に今度散策しようと話をして。
 賑やかそうな海辺の様子を雪乃さんは助手席から眺めていた。

 渋滞にかこつけて片手ハンドルで雪乃さんの手を握る。
 不安なのか、安心したいのか……
 心許なく運転席から見つめた俺の手に細い指を絡める。そして、ぎゅっと繋ぎ返して雪乃さんは朗らかに微笑んだ。

「手を繋いで海岸を歩いてるみたいね?」

 ……惚れ直すだろ、こんなの。

『 好き 』
 言葉にしてくれなくても、じゅうぶん伝わってきた。
 心底ほっとして。俺も好き!
 嬉しいのか泣きそうなのか、下手くそな笑顔で雪乃さんを愛しく見つめた。

 国道を脱して海とは反対側の道へ。自宅からは歩いて10分の会社前を通り、ちょうど海岸と駅の間にある自宅マンションに到着した。
 マンションの裏にある駐車場で車をおりると、雪乃さんがぱあっと笑顔になって声をあげた。

「あ、このお花!」

 マンションと駐車場の堺にあるフェンスの一面を覆っている緑の葉。細くて薄緑のツル先が葉の間から顔を出し花芽を穂状にたくさんつけている。ところどころ白い小さな花を咲かせていた。
 雪乃さんは近づいてニコニコと観察している。

「確か、花が咲き誇ると真っ白になるんだよ」
「ふふっ、すごい! 私達の花だわ!」

「……え?」
「夏雪の花!」

 夏雪?
 俺達の名前と同じ花なのか?


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