精悍な囚人騎士を護送したら溺愛されました

吉桜美貴

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本編

37. そんな旧態依然とした固定概念に

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「そんな旧態依然とした固定概念に縛られるのはまっぴらです。私がもし長男だったなら、義務を果たそうとしたでしょう。けど、私四女ですよ? 騎士になるほうがよっぽど家のためになります。しかも、その政略結婚のお相手が四十歳近くも年上なんですよ? 死んでも嫌です。なら、騎士として戦場で散ったほうがなんぼかましです」
 キャンディスが迷いなく断言し、アランは思わず遠い目をした。
 まぁ、わからんでもないか……
 アランも父親に反発して家を飛び出した身だから、人のことは言えない。
 俺も男に生まれたからよかったものの、もし女に生まれ、四十歳近くも年上の爺さんに操を捧げるとなると……嫌だろうしな。
 だが、現代社会とはそういうものだ。ある意味、残酷な話ではある。
「だから私、究極の二択だったんです。四十歳近く年上の爺さんに抱かれるか、あるいは騎士になって賊に犯されるかの。そこへ、あなたが現れたんです。私にとって、あなたが救世主なんです!」
 ガシッと手を握られ、アランは困惑するしかない。
「いや、しかし……。だからって、俺みたいな行きずりの囚人を相手にしなくても……」
 なぜ俺が彼女を制止しなきゃならないんだ。訳がわからん。
「私は自分自身で選びたいんです! 人生における、初めての相手を!」
 キャンディスが勇ましく拳を突き上げ、アランは気圧されてしまう。
「せめて若くて、格好よくて、私より背が高くて、できればガッチリ鍛えてる人がいいです! めっちゃ強いとか、頭がいいとか、尊敬できるポイントがあればなおよしです! それだけ揃えば、肩書き身分は問いません! 囚人だろうが、奴隷だろうが」
 とんでもない女だ、アランは愕然とする。急進的な異端思想というか、大胆不敵な性格というか。こんな女、生まれてこのかた見たことも聞いたこともない。俺はヤバイ女に関わってしまったのか……
「私、あなたがいいんです。たとえ身分が低くても。私、あなたのこと結構好きなんです」
 まっすぐに見つめられ、アランの鼓動は勢いよく跳ねる。
「あなたって顔も体つきも精悍だし、すごく強いところとか、意外と真面目なところとか、あと声も好きです。腕とかふくらはぎとか指とかのパーツも好き。それに、あなたにキスされて、嫌じゃなかったし……」
 モジモジしながら照れくさそうに告白するキャンディスを前に、アランの心拍数は急激に上がる。
「それに、私、あなたに触れられると、ものすごく気持ちよくて……。今まで感じたことのない快感っていうか、もう天国にいるみたいな気分になっちゃって……」
 な、なにを言い出すんだ? この女は……
 聞いているほうが恥ずかしくなる。明け透けというか、恥じらいはないのか? 恥じらいは。普通なら隠しておくべき性感や性欲を、ここまで素直に告白するとは……
 だが、妙に心を打たれた。愚かなまでの正直さに。ありのままでいる勇気に。
 一見下品な告白も、なぜかとても純粋に思え、まっすぐ心に響くのだ。
 こ、これは……。なにかの罠じゃないよな? いわゆる美人局つつもたせ的な……俺を油断させ、寝首を掻くとか、そういうんじゃないよな?
 己の心臓が乱れ打つ音を聞きながら、アランは必死に考える。
 いや、恐らく大丈夫だ。彼女は俺をただの囚人だと思っている。しかも、自分より身分が低いと信じているようだ。
 ……ん? 待てよ?
 ってことは、俺自身を好いてくれているのか?
 身分を度外視した、第一王子でもなんでもない、アランという一介の囚人を……? まさか……
 混乱する頭で必死に考えた。いや、そうだよな。そういうことになる。
 そんな奇跡があるのか……
 アランの心は歓喜に満ち溢れた。これまでの人生、一人もいなかったのだ。第一王子という肩書き抜きで、なにも持たないアラン個人を求めてくれる存在が……
 正直に告白すると、キャンディスを嫌いではない。むしろ好きだ。高圧的な上官のサイラスにもめげず、命令に一生懸命取り組む姿は健気だし、応援したくなる。頭の回転も速い。好奇心旺盛なのもいい。フェアな精神は、誰もが持てるものではない。モスグリーンの瞳は宝石みたいだし、くるくる変わる表情はチャーミングで、おさげ髪も鼻も唇もなにもかも可愛らしい。女性にしては背が高く、出るところは出て、スタイル抜群だ。好感を抱かない男はいないだろう。
 なにより、その優しい性格に惹かれてやまない。
 ややこしくなるから、なるべく感情に蓋をしてきたが、好きなタイプだ。むしろ、大好き。
 もちろんアランも旺盛な性欲を持て余す健康な男子だから、そういうこともしたい。否、したくない男などいない。
「好き」とストレートに告げられ、天にも昇る心地だった。
 同時に、「彼女に手を出してはならない」と理性が厳しく命じる。
 欲望と理性が身の内でせめぎ合っている間に、目の前のキャンディスはするすると服を脱ぎ、生まれたままの姿になった。
 アランの息がとまる。
 陶器のような素肌と、艶麗なボディラインが目に眩しい。
 ……待て。まずい。
 股間のものは痛いぐらい勃っている。
 キャンディスがこちらに手をつき、ずい、と近寄ってきた。
 あとずさりながらも、アランの視線は美しい裸体に釘付けだ。
 これ以上、拒否する理由は見つからない。
 ……が!
 本当にいいのか?
 よく考えろ。俺の今の身分と立場を。こんなことをしている場合じゃないだろう?
 ……いや、幸か不幸か時間はある。急いではいない。あと二日はここを動けないわけだし。時間を潰さなければ。
 だからって、彼女とこんなことをするわけには……
「傷の具合は大丈夫ですか?」
 心配そうに覗き込まれ、アランはほろっとほだされそうになる。
「だ、大丈夫……だが」
 無理しなければ君とそういうことはできる。
 って、なにを考えてるんだ? 俺は! 頭冷やせ!
 ためらうアランの背中を押したのは、キャンディスの祈るような哀願だった。
「アラン、お願い。続きを……。あの、できれば優しくしてください……」
 縋るように見つめられ、アランの理性は音を立てて崩壊する。
 アランは彼女を押し倒し、勢いのまま唇を貪った。
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