猫又と俺の願いを縫う不思議な工房

ありぽん

文字の大きさ
58 / 91

58話 共に守っていた大切な物と新しい仲間たち5

しおりを挟む
「少し前から、木々が伐採され始めてな。最初は少しだったのだが、後はもう止まらなかった」

「そうか。……人間がすまない」

『いや、これも時代の流れ、それに晴翔殿が謝ることではない』

 鴉天狗が住んでいた山は、ここからかなり離れた場所にあり、来るまでに1週間くらいかかったらしい。

 ただ、あやかしの移動だからな。どれだけのスピードで移動したのか、はっきり分からないから。もしかしたら俺がその山まで行ったら、もっと時間がかかる可能性がもある。

『開発か。この辺は少し山を削られたが、それ以降は何もないから、今のところは大丈夫だが。住めないほどやられては、そこに住んでいたあやかしも動物たちも、他の場所へ移動するしかないからな』

 話していたら、シロタマが俺たちの話しに入ってきた。

「なんだ? お説教はもう終わりか?」

『いや、俺のお説教は終わって、これからはカエンの説教だ。その後はネズじいさんの説教で。それからリンが、たぶん結城と白火が来たら、2人からも説教されると思うと言っていた。交代制を取り入れてみた』

 え? お説教の交代制? 初めて聞いたんだけど。そりゃあ、怒られることしたカオンたちがいけないけど。でも、そんなに長くお説教されて、カオンたち大丈夫なのか?

 少し心配になって、チラッとカエンたちの方を見る。すると、衝撃の瞬間を見てしまった。お説教を受けているカオンたちは、3列に並んでいたんだけど。
 先頭の子たちが後ろへ周り、2列めの子たちが先頭へ。そうして後ろに回った子たちは、かなり気を抜いてお説教を聞き始め、後ろ手でじゃんけんをし始める子たちまでいた。

 おいおい、ちゃんとお説教聞いてるのか? 大事なことなんだぞ? てかカエン気づいてないのか?
 
 なんて思いながら、今度はカエンたちお説教をしている方を見れば。こっちもこっちだった。カエンがお説教している後ろでネズじいちゃんが、昼寝用に持ってきていた、ネズじいちゃん専用枕を使い、ぐーぐー寝ていた。

『何だ、どうしたんだ?』

「いや、あのさ。あれってあの子たちはお説教されてて、カエンたちはお説教してるんだよな? どっちもその姿勢がさ」

『ん? ああ、毎回こんなもんだぞ。ずっと先頭に立って怒られたり、お説教されたりするのは嫌だと、先頭に立つのを交代するんだ。ネズじいさんは、自分のお説教時間まで、まだ時間があるからな。少し前から寝てる。これみいつも通りだ』

 何その全部交代制のお説教。しかもみんなそれで納得してるし。俺、あやかしのことを、かなり分かってきたつもりだったけど、まだまだ全然だったらしい。

『それで話しを戻すが、これはどうしたんだ?』

『おお! 聞いてくれ。これは私の仲間との、大切なぬいぐるみなのだ。私たちで作ったのだぞ!』

『仲間ということは、鴉天狗たちで作ったということか』

『ああ、その時にはまだ存命していた、いつも私たちに供物を持ってきてくれていた老婆に習い、皆で協力して作ったのだ』

「へぇ、凄いな。とても丁寧に作ってあるし、この辺の縫い方なんて、俺より上手なんじゃ? 今確認した感じ、確かに古いものだから修復は必要だけど。でも大掛かりな修復は必要ないから、5日もあれば修復できるよ。俺が修復して良いんだな」

『よろしく頼む!!』

「分かった」

『丁寧に作れば作るほど、長くその状態を保つことができるからと。時間をかけて作った、私たちの大切なぬいぐるみだ』

『そうか。それで、その仲間はどうした? その様子だと、皆、この山の引っ越してきたんだろう?』

『……いや、それがな。他にも一緒に引っ越してきたあやかしはいるが、私の仲間は1人もな』

『どういうことだ?』

 なぜ鴉天狗がこの山にやってきたのか。それは人間たちによる、山の開発と伐採が原因だった。

 最初は少し木々が伐採されただけだったらしい。だけどそのうち、その範囲はどんどん広がり、山には道が通り、今ではさらにその範囲が広がって、半分以上山は潰されてしまったと。

 そうなると、そこに住んでいた動物もあやかしたちも、山を離れるしかなく。慣れ親しんだ山を出て、他へ移って行った。

 鴉天狗は最後まで残り、すべての動物とあやかしが、無事に山を出られるまで確認してから、こっちへ移動してきたそうだ。

『長年あの場所を守ってきた者として、最後まで守ることができずに、皆には大変辛い思いをさせてしまった。だが、全員山から出たのは確認したし、私が連れ出した最後の者たちも、他の山の者たちに頼んできたから大丈夫だろう』

『そうか……。それでお前の仲間も違う森へ行ったか?』

『いや、私の仲間は少し前に、先に山を出て行ってしまったのだ。嫌気がさしてな。もともとあの山には、鴉天狗は私ひとりしか住んでいなかった。それが月日が流れるうちに、他の鴉天狗たちもやってくるようになり、そうして私たちは仲間になった。しかし……』

『……しかし?』

『なぜ、私がいたあの山に皆が来たと思う? もちろん、気が向いて来た者もいた。だが、ほとんどは今回のように、山を追われてやって来たのだ』

 土地の開発や、建材のための伐採など、人間はいろいろな理由で山を切り開き、木々を伐採していく。それは今やどこでも起きていて、鴉天狗の仲間たちは、何度もそうして山を追われてきたようだ。

 鴉天狗たちは、森で暮らす人々や動物、そしてあやかしを守ってくれる存在だ。だけど、山の開発から山を守ることだけは、どうしてもできなかった。そして……、みんなやめてしまったらしい。もう、守るのは終わりだと。

『皆、これ以上、山が壊されるのを見ていたくないと。そして、人間の晴翔がいる前で言うのもなんだが。今まで守ってきた人間たちが、自分たちの手で山を壊していく姿を見たくなかったし、もう、守る意味はないと。……見限ったのだ。だから私よりも先に、山を出て行ってしまった』

『……そしてお前は最後まで残ったか』

『最後まで皆を守りたかったのだ。それに、あの山には私の思い出がたくさんあったからな。……だが、仲間や他のあやかし、動物たちの言う通りだった。さっさと山を出ろ。もうこの場所には何も残らない。思い出も、大切な記憶も、いずれ消えてしまう、とな』

『……』

『本当に、皆の言う通りだったよ。今の私には、大切だったものはすべてなくなり、仲間もバラバラになって、ひとりになってしまった……。まぁ、それでだ! あやかしたちが、この森は良い場所だと、話を聞いていたらしくてな。最後に連れ出したあやかしと動物たちを、とりあえずここまで送り届けたのだ』

『……なるほど、そうか』

『さてと、私の話はこんなところだが。晴翔にぬいぐるみを修復してもらったら、その後どうするか決めなければな。どこか別の山に行って、仲間のように静かに暮らすか。それとも、他に何か考えるか。今まで皆で山を守ってきたから、今さら一人でどこかの山を守る、というのもどうにもな』

『ん? なんだ、そんなことか。というかな、さっきから話を聞いていて思ったんだが。お前は何もなくしていないし、これからのことも、ここでちゃっちゃっと決めれば良いんじゃないか?』

『……どういうことだ?』
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...