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しおりを挟む夕食の献立は昼とほぼ同じ。
町内会の集まりの時に貰った野菜で作るサラダが加わるくらい。
奏哉くんは嬉しそうな表情で、サラダに使う野菜を洗ったり盛り付けたり手伝ってくれた。
男の人が隣に並んで料理をするなんて初めての経験。
8歳も下の男の子相手なのに、なんだかドキドキしてしまう。
手伝ってくれたのでパパパッとちゃぶ台へ並んでいく料理の盛られたお皿たち。
野菜メインで毎日あまり変わらない献立。
でもなぜか、いつもよりも美味しそうに見える。
奏哉くんは正座で手を合わせ「いただきます」と言ってから食べ始めた。
会話に困りそうだったから、行儀が悪いかもしれないけどテレビをつけながらの食事。
テレビでは夕方のニュースが流れている。
三年くらい前に日本へ進出してきた通販会社の特集。
大手通信販売会社に勤めていたから、特集で話題のこの企業はもちろん知っている。
買い物をする時は私もここのサイトを利用しているし。
使いやすいのよね、他の会社の通販サイトに比べて。
正直なところ自分が勤めていた会社のよりも、格段にいい。
元は海外の企業だけど、日本でも利用者数を急激に増やし飛ぶ鳥を落とす勢いで。
この会社に売上、人気ともあっという間に抜かれた時は、お義母さんも統哉さんもかなり機嫌が悪かったのを憶えている。
ご飯を食べ終えると、ちょうどニュース番組も終わった。
ふと思い出して、奏哉くんに聞いてみる。
「そういえば、昼間貸した漫画読んだ? 少女漫画だから、男の子にはやっぱりつまらなかったかな?」
「もう男の子って年でもないですよ。俺だっていつまでも子どもじゃありません」
少し拗ねたような奏哉くんの声。
「……そっか、奏哉くんももう22歳だもんね。それなら尚更、少女漫画なんてつまんなかったよね、ごめん」
「いえ……漫画は面白かったです。義姉さんがああいうのを読んでいるのは意外でしたが」
意外……か。
確かに、30歳の大人が少女漫画なんて読んでいるのは少しイタイかもしれない。
「そうよね、私が恋愛もの読んでるなんて意外でしょう? 私は恋なんて教えてあげられないけど漫画読んでどうだった? 少しは恋が分かったかな?」
「恋が分かったかどうかは分かりませんが、告白シーンとか、読んでいてドキドキしました」
あら奏哉くん、耳が少し赤い?
照れてるのかな……可愛い。
昔からしっかりしている子だったから、こんな風に動揺しているような表情、初めて見た。
もう少しこの表情を見ていたい。
からかったりしたら、怒られちゃうかな。
「ねぇ奏哉くん、告白シーンふたりで再現してみようよ。何事も練習が大切だし」
「ぇ、義姉さんを相手に、ですか?」
「うん、奏哉くんが一番ドキドキした漫画の再現、してみよう」
どの本だろう、奏哉くんがドキドキした告白シーン。
あの作者さんは、男の子からの告白がお決まりのパターン。
高校の卒業式数日前、誰もいない教室での告白?
それとも駅で別れ際に、ヒロインを引きとめて告白する場面?
ぁ、花火を見上げながらのシーンもあったなぁ。
一度目は声が小さすぎて花火の音で聞こえず、勇気を出してもう一度大声で告白するの。
どの漫画でも、告白のあと両想いになってもファーストキスまでが長いのよね。
じれじれ甘々で、読んでいてキュンとしてしまう。
「……本当に、再現しますよ?」
「いいよ、お互い笑っちゃうかもしれないけどねー」
あれ……?
私の身体が、奏哉くんに体重をかけられてゆっくりとうしろへ倒れていく。
片手を畳につき私の身体を閉じ込めた奏哉くんに、もう一方の手で顎をクイッと固定された。
「……好きです、義姉さん。俺はずっとあなたの事が、好きでした」
壁ドンは漫画でよく見たけれど、いま私は床ドン顎クイされている状態。
こんな告白シーン、あったっけ??
頭に疑問符が浮かんでいると、奏哉くんの唇が私の口に触れた。
一拍遅れてキスされているのだと気付く。
――告白からキスまでこんなに早いの、あの作者さんの漫画で読んだこと無いよ??
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