世界終わりで、西向く士

白い黒猫

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世界の終わりに響くラジオ

終わった世界で

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 ゾンビの蔓延る世界において。一方的に流れる生存者へ向けた録音音声のラジオ放送。
 ほとんどの映画において、主人公たちはその放送を送っている人物への接触を試みるために行動する。
 その発信者が生きているのか死んでいるのかも分からない。救いを与えてくれる存在なのか分からないのに主人公達はゾンビが蔓延る世界なのに相手に会いに行く。
 俺だったらどうするのだろうか? そもそもゾンビに立ち向かう勇気もない。多分食料をできる限り溜め込んで安全な場所で身を潜めて生きることを選ぶだろう。今の俺みたいに。

 俺はアパートの四階から外界を眺める。空は忌々しい程晴れ渡り、雲ひとつない。外はまだ朝だというのに三十度を超えているようだ。
 家の前をこのクソ暑い中、虚ろな目をしたスーツ姿の人らしきモノが通り過ぎていく。
 塀の上から黒猫がそんな人たちを気怠げに見下ろしている。
 俺は見飽きてもう何の面白みもないそんな光景に大きく溜息をつく。
 一見普通で平和に見える外の世界。しかし世界はもうとうの昔に終わってしまった。そこにあるのは単なる文明社会の残像。

 俺は外界の風景をシャットアウトするように雨戸を下ろしカーテンを閉めた。
 エコなんて関係ないと言わんばかりに強めの冷房をかけ、長袖のトレーナーにフリースまで着込んでいる俺は、この世界において異質な存在でしかない。

 外に出る事を止めて、部屋に籠ってからもう数年。
 順風満帆とまではいかないけれど、それまで大きなトラブルも無く、俺は平凡だけど平和に生きてきた俺の人生。
 二流大学ではあるものの、そこで青春を謳歌して、少し苦労したもののまあまあ名の通った会社に就職出来た。
 社会人になって五年目を迎え、少し責任のある仕事を任せられ楽しくなってきていた所だった。

 それなのに何でこんな事になってしまったのだろう? そんな事を考える気持ちも尽き果てた。

 今の俺の最重要課題は、その日をいかにして退屈せずに潰すか? ということだけ。
 テレビはもう既に意味がない。テレビゲームは最初に始めたが早々に止めた。
 本を読むことも配信映画を観ることも、なんだか飽きてきた。
 そんな俺が次に目を付けたのは、ネットラジオだった。所謂芸能人とかの有名人がやっているようなものではなく一般人が制作している個人発信のウェブラジオ。
 それなりに楽しめる事と、漫画を読みながらでも聞けるという気安さはあった。
 俺にとって、もうこの世界に居ない人たちの声。それぞれが音という形で生きている証を示しているそのラジオは、怠惰な生活をするようになった俺にほんの少し刺激をくれた。
 スマホで適当なラジオ番組を流しながら、タブレットで漫画を読むのが最近の俺の一日の過ごし方。
 名も知らぬインディーズバンドの番組が終わったので、再び次に聞く番組を適当に選び流すことにした。
「111111世界の真ん中から」
 過去に一回だけ投稿された、そんなタイトルのその番組をなんとはなしに選ぶ。
 意識高い系の男が、これから自意識過剰な内容を発信する気満々で始めて、そのまま朽ち果ててしまった。
 そんな裏事情も楽しめそうに感じ。こんな数字をつけたのも、検索かけた時に上位に来る事を期待しての姑息な小技だろう。そういうイタそうな所も俺の好奇心をくすぐったから。
「今日二千十九年七月十一日。皆さんにとってはどんな日だろうか? 昨日の続きで来ただけのなんて事ない日の人が大半だろう。
 俺にとってはとてつもなく忌々しくも愛しいそんな特別な日。
 そんな俺の今日がどんな日だったのか語りたいと思う」
 穏やかな男の声がアプリから響く。
「俺のこの日の過ごし方は大きく分けて三パターンに別れている。
 一つは野良猫が縄張りチェックをするように愚鈍に過去の自分をなぞる一日。
 もう一つは代わり映えしない世界にうんざりして、あえて非日常感を狙う一日。
 もう一つは世界の秘密を探す旅に没頭する一日」
 番組タイトルからすると、世界の中心にいると自認している男のリア充自慢の内容かと思ったら、男が普通に淡々と日常を語っている日記のような内容だった。
 何故か俺はその番組はタブレットから手を離し真面目に聞いてしまった。
 単に一人の男が街を歩き電車に乗り喫茶店で珈琲を飲み、外で好きなお店のランチを食べて美術館に立ち寄り、お気に入りの店で晩御飯を食べたというだけの内容。
 何が気になり聞き入ってしまったのか分からない。しかし俺は何故かその番組をリピート再生をしてその日何度も繰り返し聞いてしまった。
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