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白い黒猫

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届かなかった想い

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 二つの会社と物流管理部を回って帰ってきたら、清酒さんはもう戻っていた。定時はとっくに超えていたので職場も人は余りおらず閑散としている。俺の姿を見つけ『ごくろうさま、今日は助かった』と労りの声をかけてきてくれた。むしろ清酒さんの方が色々大変だったと思うので『清酒さんこそお疲れさまでした』と俺は返す。

 席についた時に、隣の席の清酒さんが俺にスッと何か紙を差し出してきた。見ると俺の名刺で、煙草さんの鞄に入れておいた筈の俺のアドレス付きのやつだと気が付く。
「それ、控え室に落ちていたぞ」
 気付いてもらえるように、浅めに差しておいただけだった。逆に煙草さんから気付かれずに落ちてしまったのかもしれない。煙草さんが『何? こんなのいらない』と床に人の名刺を捨てるような人にも思えなかったからだ。軽くショックを受け、自分の名刺を呆然と見つめる俺に、清酒さんは大げさに溜息をつく。
「お前さ、何やっているんだ。そんな名刺会った女性に配りまくっているのか? 仕事中に」
 誰彼構わずそんな事をしている訳ではないから、俺は首を必死に横にふり否定する。
「あの馬鹿と同じような事するな。所構わず恋人漁りなんて恥ずかしいぞ!」
 そう怒られてしまい、何も言い返せなかった。男に媚びる事と人かチヤホヤされる事にしか興味のない新人と、同列に言われた事に深く傷付く。かといって、そういう意味で名刺を渡そうとした事は本当なので何も言い返せなかった。清酒さんは冷たい視線を俺に向けている。溜息をつきパソコン画面に視線を戻し仕事を再開させてもうコチラを見る事もなかった。
 俺は凹んだ気持ちのまま、PCを立ち上げて、黙って雑務を始めるしかない。気持ちがローになっている為に、思ったように作業が進まない。その事にますます落ちこみ溜息をついていると、後頭部を軽く叩かれる。
「今日は疲れただろ、そんな顔で仕事していても効率悪いだけだ。あまり遅くまでやるな。
 じゃ、俺は帰る」
 清酒さんは、手を挙げてそのまま部屋から出て行ってしまった。俺はそれを見送ってから溜息をつく。
「気にしなさんな、まだ四月病だから、彼」
 鬼熊さんが、そう俺を慰めてきた。優しいようでキツイ清酒さんとは反対。キツイようでこういった優しさをみせてくれるのがこの鬼熊さんである。彼女が言ったのは、清酒さんがかなり前から移動願いを出していながら一向にその願いが聞き入れられない状態の事。その事で実はかなり苛立っている事を指していた。
 とはいえ清酒さんは仕事を蔑ろにするわけでもない。ただ時々大きく溜息をつく事と部長にやたらと噛み付くようになってきているだけ。俺達に八つ当たりをするような事はしていない。鬼熊さんに言われなきゃ気が付かないレベルの違い。
 今回言ってきた事も、仕事に対しては真面目で完璧主義の清酒さんだからこそ。そういう俺の態度が許せなかったんだろう。
「そんなに節操なく行動している訳ではありませんよ。それにこの状況を少しくらい楽しい事しても良いと思いませんか?」
 俺のぼやきに、鬼熊さんは笑う。
「それに、そろそろ彼女が欲しいというのも悪い事ではないですよね。こんだけ忙しくて、何処で出会いを求めろと言うんですか」
 鬼熊さんは俺の顔を繁々と見入ってくる。
「アンタなら、ジャニ顔だしそんなに苦労はしないじゃないの?」
 その言葉に俺は溜息をつく。この顔が結構ネックなのだ。女の子って恰好良い男性は好きだけど、可愛い男性というのには性的な興味を覚えない。逆にそういう意味であまり警戒されずに女性に近づけるというのはある。だが、まず仲良くなりそこから男である事を相手に意識させていってからアプローチ。そういう一手余計な手順が必要になる。
「清酒さんみたいな感じだと女の子から寄ってくるかも知れません。でも、この顔は意外と女の子受け悪いんですよ。私よりまつげが長いなんて! それにつぶらすぎる瞳が気持ち悪いとかも言われるし」
 鬼熊さんは納得してないように首を傾げる。
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