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Special ② (聖奈さん♡)
CROSS OVER コンペ編② 未南&篠田SIDE
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…さて。今回の件をおさらいするとだな。
ひょんな事から俺達新人Irisコンビの未南&篠田チーム、Daisy所属の桃瀬&栗原チームに分かれて新しい拘束台の製作発表会をすることになった。それもただの発表会ではなく、ギャラリーに来てくれた人達にどちらの拘束台が欲しいと思ったか投票してもらう対決形式だ。制作期間は特に決められておらず、両チームが完成したら改めて開催される。
あれからすぐDaisyの上司にも知らされたらしいが、栗原さんが危惧していた組織間の対立については全く心配に及ばなかった。むしろ今Daisy内は別組織の合流やら吸収やらでギスギスしており、そんな中このレクリエーション的なものが入ったのは明るいニュースだったのだと。Daisyのお偉いさんも二つ返事で承諾してくれたらしく、桃瀬さんと栗原さんは逆に組織間の友好を深めたとして褒められたらしい。良かった良かった。
…と、ここまでが一連の流れである。
正式に決定されてからは、どこから流れたのか、瞬く間に俺達二人とDaisyが対決するという噂が組織内に広まっていった。
たくさんの人に声をかけられ、予想以上に事が大きくなってしまったことに若干ビビった俺と篠田くんは『あはは~応援してね~』という感じでやり過ごしていた。
…少し話題も俺達の気持ちも落ち着いてから、俺と篠田くんは廊下を歩きながら事件の発端になった日を思い返す。
「あの桃瀬って奴も色々思うとこがあったんだと思うのよ。俺は大人だからさー、あ”~?何煽ってきてんだこのクソガキンチョとかはもう全然思ってないワケよ」
「思ってたんですね。…あの、今回ちょっと僕に任せてもらえませんか?良いアイデアがあるので。出来上がったら教えます。そんなに日にちはかかりません」
おお、篠田くん。こんな急に決まったことなのに既に何かイメージがあるのか。会社にいる時も何度も驚かされたが彼の創造力は半端ない。
…まっ、けど流石にそんなすぐには何も出来ないだろ。せいぜい設計図位か?けど拘束台が出来上がったら絶対に俺を実験台にしてくるつもりだな~?!
今回こそは回避して逆に泣かせてやる!見てろよ!
ーーそう思った俺は甘かった。甘く見すぎていた。
彼の驚くべき才能を…。
◇ ◆
…それから何日かして、今居るのは機械製作などを行っているIrisの二人の作業場。
俺はソファーに腰掛け、篠田くんはいくつか書籍の置かれたデスクの椅子に座りながら何かの本を読んでいる。いつもからかってくる篠田くんは何故か今日は何も喋ってくれない。…それはそれで何か淋しい。…いつもは煩くて仕方ないのに。
あまりにも沈黙が気まずくなった俺は、とりあえず何か話題を振ることにした。
「なぁ、桃と栗が居るってことは絶対柿もいると思うんだよ。俺は柿さんも存在するに一票」
「そうですね」
……。
「今回のコンペ開催予算ってさあ、なんか最近悪い組織ぃ?を壊滅させてそいつらが溜め込んでた大金を国と折半したからいっぱい余るぐらい有るんだってさ。詳しくは知らねーけど本当にあるんだなーそんな悪い組織!」
「そうだったんですか」
……。
なあ、今日塩対応過ぎない?
今日は見せたい物があると篠田くんから呼ばれて作業場に来た。てっきり任せてくださいと言っていたコンペの図案やらを見せてくれるのだと思っていたが、そんな紙ひとつ置いていない。
…そこまではいいのだが、呼んだ張本人が俺が来てやったにも関わらず椅子で何かの本をずっと読んでいやがる。俺から喋りかけても上の空だ。いつも聞いてないのにそっちからマシンガントークかましてくるだろ!とモヤモヤしながら立ち上がると、急かすように部屋をうろちょろしてみた。
…すると黙っていた篠田くんがやっと口を開いてくれた。
「今回の新型拘束台製作のルールですが、殆ど自由といっていいです。仰向け、座り、立ち形状という縛りはなく特殊形状でも何でもOKらしいです。
何だったら『対象者の動きを制限できる』なら別にベルトや金具で拘束する必要性もない訳です。…いわゆるフリースタイルですね」
「何だよ新型拘束台コンペバトルフリースタイル部門って。パワーワード過ぎるだろ」
「そうですね」
「……」
自分からペラペラ喋っておいて俺の渾身のボケにも反応しないとは何事だ!俺がスベったみたいじゃないか!何かまともにツッコめよ!つーかさっきから何読んでんだよ!俺が本読んでたらいっつも邪魔するくせに!
…とイライラが最高潮に達した俺はついに痺れを切らして篠田から本を取り上げた。ん…『海洋生物図鑑』?
「フッ…俺のボケを無視して図鑑なんかを読み続けるとは流石だな…そんな暇あるならコンペの進捗の方はいかがでしょうかぁ篠田様?早く取りかからないとまずいんじゃないですかぁ篠田様?」
「もう、いきなり読んでた本を取るなんて失礼ですねー。暇じゃないですしちゃんと出来てますよ。ほらこれ」
ポンポンっと投げ渡されたのは、針金に厚く粘土を巻き付けたフランクフルトのような模型や、柔らかいシリコンで作ったヘビの頭のような謎の模型やら。…はァ?なんだこれ?
おいこれは何だと聞く前に、篠田くんは立ち上がって何も無い壁の一部を押した。
…すると、なんということでしょう。
秘密組織よろしく隠し扉が出てきたではありませんか!
…いやいやそんな隠し扉あるなんて知らねぇって!カラクリ屋敷かよ!そんでデカすぎんだろそっから出てきた謎の物体!
色々言いたいことはあるのだがとりあえず一番気になるのは、その扉の中に入っていたデカい壺。いや甕と言った方が合ってるか?
「み…見せたい物ってソレ?そのクソでかい壺みたいなやつ…?え、何か怖いんだけど。そもそも今初めて隠し扉なんてあったの知ったしいきなり情報量が多過ぎる」
「もー、折角色々説明してから見せようと思ったのに。未南さんはせっかちですねぇ。…でもそんなに待ちきれないなら実際に体験してもらうのが一番って事ですよね!はーい。ほら、出ておいで~」
篠田くんが何やらポケットから出したリモコンを操作すると、なんと壺の中からうねうねと動くぶっといミミズのような頭の無いヘビのようなぬるぬるとした物体が数本出てきた。それらは意志を持つようにバラバラに動き、篠田くんはそれに向かってよしよしと喋りかけている。えっと、これは…
…あ、これあれだ。あのー、いわゆる触手って言うやつだ。ちょっとアダルトなファンタジーでよく見るやつ。一部の人類の憧れ。
…ん?…あれ?これ今現実だよねファンタジーじゃないよね?どうなってんのいやいや何どういう仕組み?!
何やらとてつもなく嫌な予感がし、ハッとして逃げようとした時にはもう遅かった。
壺の中からにゅるにゅると伸びてきたソイツらは、あっという間に俺の手足やら胴体やらを絡め取り簡単に宙に浮かせた。
「な”っ…!!??」
あまりのショックと瞬時の出来事に反応できないまま宙にぶらんと浮いていると、複数のしょ、触手…?!達が俺の服を実に上手く脱がせてきた。
「わあああああ!離せ離せ離せ!っちょ止めろ脱がすなおい待て篠田これ何だ説明しろ!!!」
「はい。見ての通りこれは人工触手です。えーっと、簡単に説明すると壺自体がメインコンピューターになってます。そこからAIで自律して動く透明の伸びるアームがいっぱい生えています。いわゆる触手の骨部分ですね。で、その骨にぷよぷよの特殊シリコンカバーをつけて、いかにも本物っぽい触手に仕上げました!」
さっき投げてきた針金に粘土を巻き付けたフランクフルトみたいな模型はそれの仕組みだったのか…と気付いたが時既に遅し。これはもしかしてもしかしなくても凌辱されるパターンじゃないですかぁ…?
「ね、ねぇ篠田くん大体予想ついた。今からどうなるか十中八九予想ついたけど今俺で試さなくても良くない…?この凄い装置の説明だけ聞くからさぁ…?」
なるべくこれ以上篠田くんの加虐心を煽らないように精一杯優しい声で愛想笑いをかけたが、そんな俺のささやかな抵抗を全く気にすることなくいつもの調子でペラペラ話し始める。
「敵情視察で、桃瀬さんがIrisに残していったって拘束台を見て調べてきました。すっごかったですよ~。魅力的で強力な機能がこれでもかというぐらいに搭載されていて!えーっと確かマジックハンドに加え自動ローション投入機能でしょ、それにローションガーゼを自動でしてくれる機能まであって!でもいっちばん驚いたのは感度を数値化する機能!あれどうやったのかなぁ~、絶対知りたいなぁ!桃瀬さん教えてくれますかね?」
うん今そんな話よりも早く降ろして欲しい。既に全裸に剥かれちゃったんだけど。
俺を拘束しつつ周りでうごめく数本の触手を見ていたら、顔が青ざめてきた。
「あの桃瀬さんが作った超ハイテクな拘束台は、機能性でいうとこれ以上ない最高傑作だと思うんです。だってあれ以上追加する機能を僕でも思いつきませんから。…きっと相当努力して苦労して作り上げたと思います。それが凄く伝わってくる拘束台でした。だから僕達はそれをさらに超えるような拘束台を作らなきゃいけない訳です」
え、え、なんか色々大切なこと言ってる気がするけど今それどころじゃない。あっやめてやめてなんかシリコン製の触手から謎の液体染み出してきて更にぬるぬるし始めたんですけど。
「そこで僕はどうやったら勝てるか考えて考えて、この人工触手に辿り着きました。さっき読んでた海洋生物図鑑は実際の生き物の触手の動きを研究する為です」
そこまで言うと篠田くんは無情にも手元のリモコンを操作した。するとーー
「んぎゃあああああっ!!!」
周りでうねうねしていた太いぷよぷよの触手達が一斉に俺の身体に襲いかかってきた。ローションか何か染み出してるのか分からないが滑りが良く気持ち悪いことこの上ないヤツらは俺の胸やら太腿やら背中やらを無遠慮に撫で回してくる。その刺激が堪らなく擽ったい。
「ーーーーッ嫌あああああ”!!やめて動かないでえええええっ!!っひゃはははは擽ったいいいい!!
!」
「うっわあ、未南さん予想の百倍ぐらいえっちじゃないですかぁ。そんな反応見せられたら僕だってドキドキしちゃいますよぉ」
何がえっちだこのクソ馬鹿天才野郎!!お前は俺のこんな姿を見て何が楽しいんだ!!そっちが赤面してんじゃねぇよ俺の方が恥ずかしいだろ!!
…と思いっきり文句を言いたいが俺の口から出てくるのは悲鳴ばかりで。
「あああ!!んうっ…!ひゃあ…っやめてっ…お願いこれ恥ずかしいいやはははははそこ撫でないでぇぇぇ!!!」
「ほんっと可愛いですねー。今度は耳とお臍と足の裏も撫でてもらいましょうねぇ~」
リモコンを操作するとまた新たに壺から伸びてくる新しい触手。
「いやああああもう増やさないでええええ!!」
「はい、じゃあ今度は未南さんの可愛く主張してる胸も可愛がってあげますね。いっぱい触手くん達になでなでされて下さいね」
新しく増えた数本の触手は、俺の乳首を丸っこい先でクリクリと刺激し、時にはツンツンとつつく様な動きを見せた。臍も探るようにぬるぬると這っている。その動きにも喘ぎ声が止まらず、こんな異常な状況だからかやけに感度も高くなっている気がして、下も思いっきり反応している。
「んはぁっ…なっ…なんか熱い!っ…んん”…熱くなってきたんだけど…っ!」
「あ、そうそう僕この前組織の人に初めて本物の媚薬ってものを見せてもらって、今回は媚薬投入の仕組みを組み込むために桃瀬さん&栗原さんコンビと同じものを貰ってきました!向こうも使うつもりだから使って良いって言われまして!
その触手に空いている目に見えない無数の穴から染み出してるのは媚薬入りローションなんですよ!えへへ、記念すべき初媚薬使っちゃいましたぁ」
「んな危ないもんを一般人の俺に使うんじゃねええええはははははっ!!!」
俺は動かせる範囲でバタバタと手足を動かしながら必死に抵抗した。しかし痛みはないながらもぎゅっとしっかり拘束してくる柔らかな触手はとても振り払えそうにない。
脇はピンポイントで撫で回してくるし、脇腹はなぞってくるし、熱くなった局部はイかせてもらえないまま優しくされるし。
指ともマジックハンドとも異なる異様な感覚に早くも俺は半狂乱になりながら助けを求め続けた。
「い”やあああああ!ほ、ほんと無理っ降ろして篠田くんお願いだからああああ!!」
「まだ早いですよぉ未南さん。これからが楽しいのに」
篠田くんは満面の笑みで、対比したようにぐちゃぐちゃになった俺の顔を見ている。今俺の顔はどれだけ溶けてるんだ。
「うーん…じゃあ…。篠田くんもうやめてぇ~!ってかわいーくおねだりしてくれたら降ろしてあげます」
「ああ”あ”さっきからやめてやめてって言ってるだろおぉぉお!!!」
訳の分からんことを言い出だす鬼畜に、限界にも関わらず思わず反抗心が出た。
「じゃ擽り止めてあげませーん。ずっと弄くり回されといて下さーい」
コイツにそんなおねだりなんて早くも負けたみたいでしたくない!…しかしもはや恥ずかしさよりもとにかくこの擽ったさともどかしさから解放されたいという意識が強かった。
「しっ…しのだくんもうやめて下さいいいいいい!!!」
「ちょっと違うんですけど…」
むぅ、と可愛く頬を膨らませた篠田くんは、仕方ないですねとリモコンを操作し肌を撫で回していた触手を壺の中へ帰していく。手足に絡みついた触手がゆっくりと身体を支えながら降下すると、俺はぺとんと座り状態で床に降ろされた。
「…っ、はぁ…はぁ…ちょ、ほんと休憩させて。なんかぬるぬるでべとべとだしキモ過ぎる。流石の俺でもこんなんいきなり発表するとかマジで予想つかなさ過ぎるだろ…」
あまりの衝撃と疲労に、触手から一旦解放されるもべっとべとに謎の媚薬入り粘液で汚れた身体を拭くことも出来なくて、汚れるのも構わず床に倒れ込んだ。
「床で寝たら風邪引きますよぉ」
頭の上からかけてくる言葉に、お前のせいだろうが!と言いたいのだが怒鳴る体力も気力も吸い取られた気がする。
…確かに人工触手という発想は拘束”台”という固定観念から飛躍して凄い。凄すぎる。フリースタイルだからってアリかよこんなん。許可取ったか?
…だがここでひとつ、これ程凄すぎる物体を簡単にこんな短期間で作れるわけがないのでは?という疑問が芽生える。これコンペ決まってから考えて作り始めたんじゃあないよね。無理だよね。
直感的に何か隠してそうな気がして、俺は篠田くんに尋ねた。
「…いやもう凄ぇよコレ。でもこんなクソでかい壺の装置…一朝一夕で作れねぇだろ。…本当はいつから考えてた?そんでいつから隠してた?…すぐ何でも商品にするお前が何でずーっと今まで話を出さなかったんだ?」
半分カマをかけたのもあるが、一瞬彼はギクッとしたように見えた。図星か。…何なんだよ。何かあるだろ。
すると篠田くんは少し俯き加減に話し始める。
「…あー、これ実は…僕がいつか何かあって、会社をリストラされた時とかの為にずっと温めておいたアイデアなんです。どこか最先端技術を必要としてる会社とか未来の医療現場にこの人工触手AIのアイデアを発表して売り込めばどこか採用してくれるだろうって思って福祉用に設計していました。
このAIで動く人工触手の技術を使えば、手足が不自由な人でも今までのロボットアームや義手よりもスムーズにかつ自由に動かすことが出来ます。
今までは予算や時間がかかりすぎてテストモデルを陰で少しづつ作り上げてきただけだったんですけど、今回のコンペ予算があればついにプロトタイプ第一号が出来上がるかもしれないんです。
…僕はね、科学の力で作った人工触手が実現できるのは、そう遠い未来ではないと思っています。僕はその試金石になってみたい」
…そんなこと、考えてたのか…。
理由を語る篠田くんの目はいつもの営業トークの時とは違い、真っ直ぐで、どこまでも真剣な眼差しだった。…篠田くんの性格からして、そういう真面目な話は本当は隠しておきたかったのかもしれない。
「前に自動日焼け止めクリーム塗り機とか作ってたじゃないですか。あれとかもそのプログラムのテストの一環だったんですよ」
えマジで?!そんな善い事考えてたの?!
めっちゃふざけた発明だと思ってたけどなんかごめん。
「まぁ未南さんをいじめる為が9割でしたけど!」
「今ごめんって謝んなくて良かったわ」
真剣な顔をして真面目に語るのが自分に似合わないと思ったのだろうか、篠田くんは今までのヘラヘラした笑顔に戻って明るくおどけていた。
「お前がクビになるわけ無いだろ。あとお前ぐらいの技術力と情熱持ってりゃどこでも生きていける」
「クビじゃなくてリストラです」
…これから先何があるか分からない。確かにそういう事態に備えて俺も考えておいた方が良いのかもしれない。けどさ…お前がどっか遠くの会社に行くとかはあまり考えたくないんだ。…り…理由は分かんねーけど!
…けど、俺が彼の道を閉ざしたくはない。
床に突っ伏しながら篠田くんの話を聞いていた俺は、その話を暫く真剣に考えると、ゆっくりと座り直して真面目なトーンで伝えた。
「…なあ、でも…いいのか?
ここぞという時の為に大切に取っておいたアイデアなんだろ。…言い方悪いけどさ、俺等アダルトグッズ会社の社員が開発した拷問用の人工触手、なんて言ったら趣味の悪いゲテモノ扱いで終わるだろうけどさ。けどお前が会社を出て正式に福祉の分野で新型義手として発表すれば、国から表彰される程の偉人になれるかもしれないんだぞ」
これは茶化してんじゃない。本気でお前の将来を想って言っている。
「そうじゃなくても、俺達は今この組織専属として契約してっから、ここで発表すればもう二度と日の当たる表舞台には出せないかもしれない。これは物凄いアイデアと技術だと思う。…だから、なぁ、悪いことは言わねぇ。今回は…」
そこで篠田くんは俺の言葉を遮るように、ピシャリと言い放った。
「今が、ここぞという時なんです。僕にとってね。
それぐらいの覚悟じゃないと桃瀬さんと栗原さんコンビに勝てませんから。全力を尽くさないと失礼だと思ったんです。それに…」
…それに?
「…僕は教科書に載るような偉人になるよりも、未南さんの可愛い姿を見られる方が幸せですから」
嘘偽りなく俺を見て微笑むその顔に、
不覚にも…不覚にもグッと来てしまった。
「…本当にいいのか。欲無ぇなあ…せっかくスゲー有名人になれるチャンスをよ。俺なんかの可愛い姿見るためだけにナントカ栄誉賞取り損ねやがって…ははっ」
俺は俯きながら鼻の下を擦ると、気恥ずかしくて篠田くんから目を逸らした。何でお前はそういう事平気で言えるんだよ、と続けようとした途端。
「…俺”なんか”なんて言っちゃ駄目ですよ、未南さん。お仕置きです」
「ええっ?!」
瞬時に身体がまたフワリと浮いたと思った時には既に後ろから先程の触手達が俺に纏わりついて持ち上げられていた。
「っうわわわ何で何でなんで!!卑怯だろ今はぁぁぁ!!!」
ジタバタと抵抗するも虚しく俺の裸体にはまた何本もの触手が這いまわる。
「嫌っ、やだ、やだ篠田くんもうやめてあははははははっ!!!!」
「真剣にお喋り出来る位には回復出来ましたよね?そろそろ休憩終わりでーす。まだまだ続きやっちゃいますよ~」
俺今いい話ムード出してただろ!何ぶち壊してんだこの変人野郎がぁぁぁぁ!!!!とさっきまでの余韻が全て怒りに昇華されてしまい、感動するどころではなくなった。
「じゃあ次はとっておきの触手くんで~す」
まだ新しいヤツが出てくるのかよ!?とツッコむ前に、巨大壺からはもっと気持ち悪い触手が出てきた。先が割れて口が付いている触手…っていうか…言うなれば目と歯が無くて分厚い舌があるウナギのような形状をしている。え、これはもしや。
「ーーーっひッ!!!!」
舌の付いた触手はパックリ口を開けると、れろっと脇腹を舐めあげてきた。人のモノではない異形のぶ厚い舌が身体に這うと、ゾクッとした悪寒に襲われた。
「い”い”っ…気持ち悪いっ…」
さらに口の有るキモい触手は何本も出てきて、脇の下や脇腹、腹、太腿やその他敏感な箇所をペロペロと舐めてくる。下腹を舐めていた触手の舌がぐりっと臍に入ると、俺は甲高い悲鳴を上げてしまった。
「んいやあああああああ”あ”っっ!!!!」
「流石弱点なだけありますねー。凄い悲鳴」
また呑気にメモを取り始めた篠田くんは当然この増えた触手達を止めてくれるつもりはないらしい。その間もぬるりとした液体を纏った舌は、俺の耳の中や足の指の間といった端の端まで丁寧に舐め取ってくる。もう快楽と擽ったさが混ざり合って頭がうまく動かなくなってきた。
「ん”ぃぃいやあああ”だすけてぇぇぇぇっしのだくんっゃははははは!!!!」
先程までのTHE・触手といったぬるぬるとした丸い先で撫で回してくるだけの感覚よりもずっとこの口のある触手達は官能的で、見た目もどこか卑猥さのあるコイツらに俺が勝てる訳がない。
「もう無理っ”あははははっ!ひゃうっ…くっ…んあぁ…!!」
最初は驚きのあまり気持ち悪いという感覚しかなかったが、当然そんな所を余すことなく舐められていれば萎えかけていたのにも関わらずまた反応してくる俺の股間。すっかり溶け解され、今は確実に快楽が勝っている。
そしてトドメを刺すかの如く、両胸の横にいた舌は両乳首を、内腿をねっとりと舐めていた舌は俺自身へと舌を這わせた。
「~~~ッ!!そこやめっ…!無理ぃっ……!」
今までは何とかギリギリで耐えていた処に直接的な刺激を与えられたらもうどうなるか分かりきっている。俺は触手に囚えられたまま手足を硬直させ、仰け反ったまま悲鳴を上げた。気持ち良すぎてもう無理だ。
「っイく…!っあぁもう無理だからもうやだやめてもうゆるじでぇっ…!!」
襲い来る抑えきれない絶頂感に、涙を流しながら無駄だと分かっていても篠田くんに許しを乞う。
「はい。イっていいですよ可愛い未南さん。精液は口の部分から吸収されて壺の中のタンクに入って処理されるようになっていて、故障することは無いですから。なんならお漏らしまでしていただいても大丈夫な設計になっていて…おっと」
「っああ!あああ”ッ!!ーーー~~ッ!!!!」
俺はビクビクと一層大きく痙攣すると、先端を咥えた触手の口の中で果てた。こんな気持ち悪い触手にイかされるなんて、なんて惨めなんだ。
そう思う暇もなく群がる触手達は休むこと無く俺の弱点の全てを舐めあげて刺激してくる。もう何処が気持ちいいのか気持ち悪いのか分からなくなり全てを身に任せた。
「ーーん”ああっ!あ、もう、たすけ、」
「じゃあラストスパート最後までいっちゃいましょうねー。触手くん達よろしくね~」
はっきりと悪魔の声が聞こえたのはこれが最後だった。
俺はその後もずーっと失神寸前まで触手達にいたぶられ、もう手足もピリピリして動かなくなった頃に漸く床へ降ろされ解放された。もうどうすることも出来ず仰向けで床で伸びていると、篠田くんというド鬼畜がやってきて俺の顔を覗き込んだ。
「み~なみさん。凄く良かったでしょー?」
「…ばか、…よ、くない、い”ぃ…しんじゃう…ぬるぬるもうやだぁ…みたくないぃ…」
俺は息も絶え絶えで最後の力を振り絞って答えた。
カワイイオレのこんな可哀想な姿を見たらちょっとは身体の心配をしてくれるんじゃないかと思ったが、
「やったあ!初めての未南さんでの実験は大成功です!」
はい無理~~~~知ってた~~~~~
「さっき言いかけたんですけど、これ福祉用に設計してたのもあって結構うまく出来てるんです。未南さんには液体媚薬だけでしたけど、水とか流動食とかも直接口に流し込めるし、性欲処理も排泄処理もバッチリです。その点を結構流用出来ました。
拷問って何日も続けないといけない時もあるらしくて、これならわざわざご飯とかトイレとかでいちいち危険を冒して接触しに行かなくていいし、放置するだけでぜーんぶお世話してくれるんで凄く便利じゃないですか?!後は堕ちるのを待つだけ!結構こう見えて拘束台兼拷問器具として実用性も考えてるんですよぉ。そういう所をコンペ当日アピールしていこうと思うんですけどどうですか?!欲しくなりますよね?!投票したくなりますよね?!」
気が遠くなりそうな俺をよそにまた早口で営業トークモードになりつつある篠田くんを遠い目で見ながら、やっと少し喋れるようになってきた俺は何度もコクコクと頷いた。
「うん凄いすごい全部すごい。篠田くん天才。これほんと。本番も説明全部任せた。俺は挨拶だけして隣で見てるだけにする」
えーまたそのパターンですかぁと言われたが、俺もまた心の中でツッコミを入れながら横でずっと突っ立っているイメージしかない。今回の可哀想な青年枠には誰が選ばれるのだろうか…。
仰向けで天井を見ながらそんなことを考え、本当に楽しそうな篠田くんの方を向く。
「俺ずっと思ってたんだけどさぁ。キミってヒーローモノの悪の組織にいる発明家みたいだよね。すげー技術持ってんのに毎回主人公の邪魔する謎の発明ばっかして、懲りなくて、何でその才能を他に使わないんだっていう…」
「あはは、何ですかその例え!センスあり過ぎて笑っちゃいます。…ま、今居るのは正義の組織になっちゃいましたケド。僕は未南さんを可愛くいじめられるなら何だって良いです」
笑いながら向けられる笑顔は本当に可愛くて腹が立つ。
「はぁ~あ、毎回ちょっかいかけられる主人公の気持ちにもなってみろよ」
「いやむしろ未南さんの方が毎回やられる悪役っぽくないですか?」
何だとぉ!と起き上がってペシペシと篠田くんの頭を叩くと暫く二人で笑い合って、夜遅くまで一緒に片付けをした。
…ま、暫くコイツの実験台に付き合ってやってもいいかな。
◇ ◆
…と余裕があったのは最初だけ。
それからほぼ毎日、実験と称して篠田くんから地獄のような触手責めに遭わされ、ついには夢の中ですら触手に侵されるようになっていた。
今日もクタクタでいつの間にか床で倒れてしまい、寝落ちする直前にそっと篠田くんに膝枕をされた。これがまた悪夢を加速させる原因だと思うんだが…
…夢か現実か分からない曖昧なまどろみの中、俺は白い砂浜が輝くプライベートビーチに立っていた。後ろからはタコの大群を引き連れた篠田くんが嬉しそうにこっちへ走ってくる。だが上手く逃げられない。もがけばもがく程汗をかき、全然前へ進めない気がする…
「…だ、くん、…うみ、きたんだから…あそ…ぼよ、…ん、やめ、てぇ…それ、いやだ…ぁぁ……」
頭の中で、篠田くんが小さな声であやすように語りかけてくる。
「未南さん、夢の中で約束通り僕と海に行ってくれてるんですね…可愛い…。よしよし…」
「んぅ…タコ…やらぁ…!イカも…だめぇ…っ…し、のだくん…イソギンチャク…投げないでぇ…」
ダラダラと寝汗をかきリアルな悪夢にうなされている中、篠田くんがずっと優しく頭を撫でてくれている気がする。
「…未南さん、このコンペが終わったら…一緒にまた海…行きましょうね。今度は奮発して、未南さんの大好きなイソギンチャクがたくさんいる…サンゴ礁の綺麗な海に…」
「んん…しのだくん…っ…フラグ…立てないでぇ…」
俺は混濁する意識の中、コーラルブルーの海で巨大イソギンチャクに襲われる夢を朝まで見続けたのだった。
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ひょんな事から俺達新人Irisコンビの未南&篠田チーム、Daisy所属の桃瀬&栗原チームに分かれて新しい拘束台の製作発表会をすることになった。それもただの発表会ではなく、ギャラリーに来てくれた人達にどちらの拘束台が欲しいと思ったか投票してもらう対決形式だ。制作期間は特に決められておらず、両チームが完成したら改めて開催される。
あれからすぐDaisyの上司にも知らされたらしいが、栗原さんが危惧していた組織間の対立については全く心配に及ばなかった。むしろ今Daisy内は別組織の合流やら吸収やらでギスギスしており、そんな中このレクリエーション的なものが入ったのは明るいニュースだったのだと。Daisyのお偉いさんも二つ返事で承諾してくれたらしく、桃瀬さんと栗原さんは逆に組織間の友好を深めたとして褒められたらしい。良かった良かった。
…と、ここまでが一連の流れである。
正式に決定されてからは、どこから流れたのか、瞬く間に俺達二人とDaisyが対決するという噂が組織内に広まっていった。
たくさんの人に声をかけられ、予想以上に事が大きくなってしまったことに若干ビビった俺と篠田くんは『あはは~応援してね~』という感じでやり過ごしていた。
…少し話題も俺達の気持ちも落ち着いてから、俺と篠田くんは廊下を歩きながら事件の発端になった日を思い返す。
「あの桃瀬って奴も色々思うとこがあったんだと思うのよ。俺は大人だからさー、あ”~?何煽ってきてんだこのクソガキンチョとかはもう全然思ってないワケよ」
「思ってたんですね。…あの、今回ちょっと僕に任せてもらえませんか?良いアイデアがあるので。出来上がったら教えます。そんなに日にちはかかりません」
おお、篠田くん。こんな急に決まったことなのに既に何かイメージがあるのか。会社にいる時も何度も驚かされたが彼の創造力は半端ない。
…まっ、けど流石にそんなすぐには何も出来ないだろ。せいぜい設計図位か?けど拘束台が出来上がったら絶対に俺を実験台にしてくるつもりだな~?!
今回こそは回避して逆に泣かせてやる!見てろよ!
ーーそう思った俺は甘かった。甘く見すぎていた。
彼の驚くべき才能を…。
◇ ◆
…それから何日かして、今居るのは機械製作などを行っているIrisの二人の作業場。
俺はソファーに腰掛け、篠田くんはいくつか書籍の置かれたデスクの椅子に座りながら何かの本を読んでいる。いつもからかってくる篠田くんは何故か今日は何も喋ってくれない。…それはそれで何か淋しい。…いつもは煩くて仕方ないのに。
あまりにも沈黙が気まずくなった俺は、とりあえず何か話題を振ることにした。
「なぁ、桃と栗が居るってことは絶対柿もいると思うんだよ。俺は柿さんも存在するに一票」
「そうですね」
……。
「今回のコンペ開催予算ってさあ、なんか最近悪い組織ぃ?を壊滅させてそいつらが溜め込んでた大金を国と折半したからいっぱい余るぐらい有るんだってさ。詳しくは知らねーけど本当にあるんだなーそんな悪い組織!」
「そうだったんですか」
……。
なあ、今日塩対応過ぎない?
今日は見せたい物があると篠田くんから呼ばれて作業場に来た。てっきり任せてくださいと言っていたコンペの図案やらを見せてくれるのだと思っていたが、そんな紙ひとつ置いていない。
…そこまではいいのだが、呼んだ張本人が俺が来てやったにも関わらず椅子で何かの本をずっと読んでいやがる。俺から喋りかけても上の空だ。いつも聞いてないのにそっちからマシンガントークかましてくるだろ!とモヤモヤしながら立ち上がると、急かすように部屋をうろちょろしてみた。
…すると黙っていた篠田くんがやっと口を開いてくれた。
「今回の新型拘束台製作のルールですが、殆ど自由といっていいです。仰向け、座り、立ち形状という縛りはなく特殊形状でも何でもOKらしいです。
何だったら『対象者の動きを制限できる』なら別にベルトや金具で拘束する必要性もない訳です。…いわゆるフリースタイルですね」
「何だよ新型拘束台コンペバトルフリースタイル部門って。パワーワード過ぎるだろ」
「そうですね」
「……」
自分からペラペラ喋っておいて俺の渾身のボケにも反応しないとは何事だ!俺がスベったみたいじゃないか!何かまともにツッコめよ!つーかさっきから何読んでんだよ!俺が本読んでたらいっつも邪魔するくせに!
…とイライラが最高潮に達した俺はついに痺れを切らして篠田から本を取り上げた。ん…『海洋生物図鑑』?
「フッ…俺のボケを無視して図鑑なんかを読み続けるとは流石だな…そんな暇あるならコンペの進捗の方はいかがでしょうかぁ篠田様?早く取りかからないとまずいんじゃないですかぁ篠田様?」
「もう、いきなり読んでた本を取るなんて失礼ですねー。暇じゃないですしちゃんと出来てますよ。ほらこれ」
ポンポンっと投げ渡されたのは、針金に厚く粘土を巻き付けたフランクフルトのような模型や、柔らかいシリコンで作ったヘビの頭のような謎の模型やら。…はァ?なんだこれ?
おいこれは何だと聞く前に、篠田くんは立ち上がって何も無い壁の一部を押した。
…すると、なんということでしょう。
秘密組織よろしく隠し扉が出てきたではありませんか!
…いやいやそんな隠し扉あるなんて知らねぇって!カラクリ屋敷かよ!そんでデカすぎんだろそっから出てきた謎の物体!
色々言いたいことはあるのだがとりあえず一番気になるのは、その扉の中に入っていたデカい壺。いや甕と言った方が合ってるか?
「み…見せたい物ってソレ?そのクソでかい壺みたいなやつ…?え、何か怖いんだけど。そもそも今初めて隠し扉なんてあったの知ったしいきなり情報量が多過ぎる」
「もー、折角色々説明してから見せようと思ったのに。未南さんはせっかちですねぇ。…でもそんなに待ちきれないなら実際に体験してもらうのが一番って事ですよね!はーい。ほら、出ておいで~」
篠田くんが何やらポケットから出したリモコンを操作すると、なんと壺の中からうねうねと動くぶっといミミズのような頭の無いヘビのようなぬるぬるとした物体が数本出てきた。それらは意志を持つようにバラバラに動き、篠田くんはそれに向かってよしよしと喋りかけている。えっと、これは…
…あ、これあれだ。あのー、いわゆる触手って言うやつだ。ちょっとアダルトなファンタジーでよく見るやつ。一部の人類の憧れ。
…ん?…あれ?これ今現実だよねファンタジーじゃないよね?どうなってんのいやいや何どういう仕組み?!
何やらとてつもなく嫌な予感がし、ハッとして逃げようとした時にはもう遅かった。
壺の中からにゅるにゅると伸びてきたソイツらは、あっという間に俺の手足やら胴体やらを絡め取り簡単に宙に浮かせた。
「な”っ…!!??」
あまりのショックと瞬時の出来事に反応できないまま宙にぶらんと浮いていると、複数のしょ、触手…?!達が俺の服を実に上手く脱がせてきた。
「わあああああ!離せ離せ離せ!っちょ止めろ脱がすなおい待て篠田これ何だ説明しろ!!!」
「はい。見ての通りこれは人工触手です。えーっと、簡単に説明すると壺自体がメインコンピューターになってます。そこからAIで自律して動く透明の伸びるアームがいっぱい生えています。いわゆる触手の骨部分ですね。で、その骨にぷよぷよの特殊シリコンカバーをつけて、いかにも本物っぽい触手に仕上げました!」
さっき投げてきた針金に粘土を巻き付けたフランクフルトみたいな模型はそれの仕組みだったのか…と気付いたが時既に遅し。これはもしかしてもしかしなくても凌辱されるパターンじゃないですかぁ…?
「ね、ねぇ篠田くん大体予想ついた。今からどうなるか十中八九予想ついたけど今俺で試さなくても良くない…?この凄い装置の説明だけ聞くからさぁ…?」
なるべくこれ以上篠田くんの加虐心を煽らないように精一杯優しい声で愛想笑いをかけたが、そんな俺のささやかな抵抗を全く気にすることなくいつもの調子でペラペラ話し始める。
「敵情視察で、桃瀬さんがIrisに残していったって拘束台を見て調べてきました。すっごかったですよ~。魅力的で強力な機能がこれでもかというぐらいに搭載されていて!えーっと確かマジックハンドに加え自動ローション投入機能でしょ、それにローションガーゼを自動でしてくれる機能まであって!でもいっちばん驚いたのは感度を数値化する機能!あれどうやったのかなぁ~、絶対知りたいなぁ!桃瀬さん教えてくれますかね?」
うん今そんな話よりも早く降ろして欲しい。既に全裸に剥かれちゃったんだけど。
俺を拘束しつつ周りでうごめく数本の触手を見ていたら、顔が青ざめてきた。
「あの桃瀬さんが作った超ハイテクな拘束台は、機能性でいうとこれ以上ない最高傑作だと思うんです。だってあれ以上追加する機能を僕でも思いつきませんから。…きっと相当努力して苦労して作り上げたと思います。それが凄く伝わってくる拘束台でした。だから僕達はそれをさらに超えるような拘束台を作らなきゃいけない訳です」
え、え、なんか色々大切なこと言ってる気がするけど今それどころじゃない。あっやめてやめてなんかシリコン製の触手から謎の液体染み出してきて更にぬるぬるし始めたんですけど。
「そこで僕はどうやったら勝てるか考えて考えて、この人工触手に辿り着きました。さっき読んでた海洋生物図鑑は実際の生き物の触手の動きを研究する為です」
そこまで言うと篠田くんは無情にも手元のリモコンを操作した。するとーー
「んぎゃあああああっ!!!」
周りでうねうねしていた太いぷよぷよの触手達が一斉に俺の身体に襲いかかってきた。ローションか何か染み出してるのか分からないが滑りが良く気持ち悪いことこの上ないヤツらは俺の胸やら太腿やら背中やらを無遠慮に撫で回してくる。その刺激が堪らなく擽ったい。
「ーーーーッ嫌あああああ”!!やめて動かないでえええええっ!!っひゃはははは擽ったいいいい!!
!」
「うっわあ、未南さん予想の百倍ぐらいえっちじゃないですかぁ。そんな反応見せられたら僕だってドキドキしちゃいますよぉ」
何がえっちだこのクソ馬鹿天才野郎!!お前は俺のこんな姿を見て何が楽しいんだ!!そっちが赤面してんじゃねぇよ俺の方が恥ずかしいだろ!!
…と思いっきり文句を言いたいが俺の口から出てくるのは悲鳴ばかりで。
「あああ!!んうっ…!ひゃあ…っやめてっ…お願いこれ恥ずかしいいやはははははそこ撫でないでぇぇぇ!!!」
「ほんっと可愛いですねー。今度は耳とお臍と足の裏も撫でてもらいましょうねぇ~」
リモコンを操作するとまた新たに壺から伸びてくる新しい触手。
「いやああああもう増やさないでええええ!!」
「はい、じゃあ今度は未南さんの可愛く主張してる胸も可愛がってあげますね。いっぱい触手くん達になでなでされて下さいね」
新しく増えた数本の触手は、俺の乳首を丸っこい先でクリクリと刺激し、時にはツンツンとつつく様な動きを見せた。臍も探るようにぬるぬると這っている。その動きにも喘ぎ声が止まらず、こんな異常な状況だからかやけに感度も高くなっている気がして、下も思いっきり反応している。
「んはぁっ…なっ…なんか熱い!っ…んん”…熱くなってきたんだけど…っ!」
「あ、そうそう僕この前組織の人に初めて本物の媚薬ってものを見せてもらって、今回は媚薬投入の仕組みを組み込むために桃瀬さん&栗原さんコンビと同じものを貰ってきました!向こうも使うつもりだから使って良いって言われまして!
その触手に空いている目に見えない無数の穴から染み出してるのは媚薬入りローションなんですよ!えへへ、記念すべき初媚薬使っちゃいましたぁ」
「んな危ないもんを一般人の俺に使うんじゃねええええはははははっ!!!」
俺は動かせる範囲でバタバタと手足を動かしながら必死に抵抗した。しかし痛みはないながらもぎゅっとしっかり拘束してくる柔らかな触手はとても振り払えそうにない。
脇はピンポイントで撫で回してくるし、脇腹はなぞってくるし、熱くなった局部はイかせてもらえないまま優しくされるし。
指ともマジックハンドとも異なる異様な感覚に早くも俺は半狂乱になりながら助けを求め続けた。
「い”やあああああ!ほ、ほんと無理っ降ろして篠田くんお願いだからああああ!!」
「まだ早いですよぉ未南さん。これからが楽しいのに」
篠田くんは満面の笑みで、対比したようにぐちゃぐちゃになった俺の顔を見ている。今俺の顔はどれだけ溶けてるんだ。
「うーん…じゃあ…。篠田くんもうやめてぇ~!ってかわいーくおねだりしてくれたら降ろしてあげます」
「ああ”あ”さっきからやめてやめてって言ってるだろおぉぉお!!!」
訳の分からんことを言い出だす鬼畜に、限界にも関わらず思わず反抗心が出た。
「じゃ擽り止めてあげませーん。ずっと弄くり回されといて下さーい」
コイツにそんなおねだりなんて早くも負けたみたいでしたくない!…しかしもはや恥ずかしさよりもとにかくこの擽ったさともどかしさから解放されたいという意識が強かった。
「しっ…しのだくんもうやめて下さいいいいいい!!!」
「ちょっと違うんですけど…」
むぅ、と可愛く頬を膨らませた篠田くんは、仕方ないですねとリモコンを操作し肌を撫で回していた触手を壺の中へ帰していく。手足に絡みついた触手がゆっくりと身体を支えながら降下すると、俺はぺとんと座り状態で床に降ろされた。
「…っ、はぁ…はぁ…ちょ、ほんと休憩させて。なんかぬるぬるでべとべとだしキモ過ぎる。流石の俺でもこんなんいきなり発表するとかマジで予想つかなさ過ぎるだろ…」
あまりの衝撃と疲労に、触手から一旦解放されるもべっとべとに謎の媚薬入り粘液で汚れた身体を拭くことも出来なくて、汚れるのも構わず床に倒れ込んだ。
「床で寝たら風邪引きますよぉ」
頭の上からかけてくる言葉に、お前のせいだろうが!と言いたいのだが怒鳴る体力も気力も吸い取られた気がする。
…確かに人工触手という発想は拘束”台”という固定観念から飛躍して凄い。凄すぎる。フリースタイルだからってアリかよこんなん。許可取ったか?
…だがここでひとつ、これ程凄すぎる物体を簡単にこんな短期間で作れるわけがないのでは?という疑問が芽生える。これコンペ決まってから考えて作り始めたんじゃあないよね。無理だよね。
直感的に何か隠してそうな気がして、俺は篠田くんに尋ねた。
「…いやもう凄ぇよコレ。でもこんなクソでかい壺の装置…一朝一夕で作れねぇだろ。…本当はいつから考えてた?そんでいつから隠してた?…すぐ何でも商品にするお前が何でずーっと今まで話を出さなかったんだ?」
半分カマをかけたのもあるが、一瞬彼はギクッとしたように見えた。図星か。…何なんだよ。何かあるだろ。
すると篠田くんは少し俯き加減に話し始める。
「…あー、これ実は…僕がいつか何かあって、会社をリストラされた時とかの為にずっと温めておいたアイデアなんです。どこか最先端技術を必要としてる会社とか未来の医療現場にこの人工触手AIのアイデアを発表して売り込めばどこか採用してくれるだろうって思って福祉用に設計していました。
このAIで動く人工触手の技術を使えば、手足が不自由な人でも今までのロボットアームや義手よりもスムーズにかつ自由に動かすことが出来ます。
今までは予算や時間がかかりすぎてテストモデルを陰で少しづつ作り上げてきただけだったんですけど、今回のコンペ予算があればついにプロトタイプ第一号が出来上がるかもしれないんです。
…僕はね、科学の力で作った人工触手が実現できるのは、そう遠い未来ではないと思っています。僕はその試金石になってみたい」
…そんなこと、考えてたのか…。
理由を語る篠田くんの目はいつもの営業トークの時とは違い、真っ直ぐで、どこまでも真剣な眼差しだった。…篠田くんの性格からして、そういう真面目な話は本当は隠しておきたかったのかもしれない。
「前に自動日焼け止めクリーム塗り機とか作ってたじゃないですか。あれとかもそのプログラムのテストの一環だったんですよ」
えマジで?!そんな善い事考えてたの?!
めっちゃふざけた発明だと思ってたけどなんかごめん。
「まぁ未南さんをいじめる為が9割でしたけど!」
「今ごめんって謝んなくて良かったわ」
真剣な顔をして真面目に語るのが自分に似合わないと思ったのだろうか、篠田くんは今までのヘラヘラした笑顔に戻って明るくおどけていた。
「お前がクビになるわけ無いだろ。あとお前ぐらいの技術力と情熱持ってりゃどこでも生きていける」
「クビじゃなくてリストラです」
…これから先何があるか分からない。確かにそういう事態に備えて俺も考えておいた方が良いのかもしれない。けどさ…お前がどっか遠くの会社に行くとかはあまり考えたくないんだ。…り…理由は分かんねーけど!
…けど、俺が彼の道を閉ざしたくはない。
床に突っ伏しながら篠田くんの話を聞いていた俺は、その話を暫く真剣に考えると、ゆっくりと座り直して真面目なトーンで伝えた。
「…なあ、でも…いいのか?
ここぞという時の為に大切に取っておいたアイデアなんだろ。…言い方悪いけどさ、俺等アダルトグッズ会社の社員が開発した拷問用の人工触手、なんて言ったら趣味の悪いゲテモノ扱いで終わるだろうけどさ。けどお前が会社を出て正式に福祉の分野で新型義手として発表すれば、国から表彰される程の偉人になれるかもしれないんだぞ」
これは茶化してんじゃない。本気でお前の将来を想って言っている。
「そうじゃなくても、俺達は今この組織専属として契約してっから、ここで発表すればもう二度と日の当たる表舞台には出せないかもしれない。これは物凄いアイデアと技術だと思う。…だから、なぁ、悪いことは言わねぇ。今回は…」
そこで篠田くんは俺の言葉を遮るように、ピシャリと言い放った。
「今が、ここぞという時なんです。僕にとってね。
それぐらいの覚悟じゃないと桃瀬さんと栗原さんコンビに勝てませんから。全力を尽くさないと失礼だと思ったんです。それに…」
…それに?
「…僕は教科書に載るような偉人になるよりも、未南さんの可愛い姿を見られる方が幸せですから」
嘘偽りなく俺を見て微笑むその顔に、
不覚にも…不覚にもグッと来てしまった。
「…本当にいいのか。欲無ぇなあ…せっかくスゲー有名人になれるチャンスをよ。俺なんかの可愛い姿見るためだけにナントカ栄誉賞取り損ねやがって…ははっ」
俺は俯きながら鼻の下を擦ると、気恥ずかしくて篠田くんから目を逸らした。何でお前はそういう事平気で言えるんだよ、と続けようとした途端。
「…俺”なんか”なんて言っちゃ駄目ですよ、未南さん。お仕置きです」
「ええっ?!」
瞬時に身体がまたフワリと浮いたと思った時には既に後ろから先程の触手達が俺に纏わりついて持ち上げられていた。
「っうわわわ何で何でなんで!!卑怯だろ今はぁぁぁ!!!」
ジタバタと抵抗するも虚しく俺の裸体にはまた何本もの触手が這いまわる。
「嫌っ、やだ、やだ篠田くんもうやめてあははははははっ!!!!」
「真剣にお喋り出来る位には回復出来ましたよね?そろそろ休憩終わりでーす。まだまだ続きやっちゃいますよ~」
俺今いい話ムード出してただろ!何ぶち壊してんだこの変人野郎がぁぁぁぁ!!!!とさっきまでの余韻が全て怒りに昇華されてしまい、感動するどころではなくなった。
「じゃあ次はとっておきの触手くんで~す」
まだ新しいヤツが出てくるのかよ!?とツッコむ前に、巨大壺からはもっと気持ち悪い触手が出てきた。先が割れて口が付いている触手…っていうか…言うなれば目と歯が無くて分厚い舌があるウナギのような形状をしている。え、これはもしや。
「ーーーっひッ!!!!」
舌の付いた触手はパックリ口を開けると、れろっと脇腹を舐めあげてきた。人のモノではない異形のぶ厚い舌が身体に這うと、ゾクッとした悪寒に襲われた。
「い”い”っ…気持ち悪いっ…」
さらに口の有るキモい触手は何本も出てきて、脇の下や脇腹、腹、太腿やその他敏感な箇所をペロペロと舐めてくる。下腹を舐めていた触手の舌がぐりっと臍に入ると、俺は甲高い悲鳴を上げてしまった。
「んいやあああああああ”あ”っっ!!!!」
「流石弱点なだけありますねー。凄い悲鳴」
また呑気にメモを取り始めた篠田くんは当然この増えた触手達を止めてくれるつもりはないらしい。その間もぬるりとした液体を纏った舌は、俺の耳の中や足の指の間といった端の端まで丁寧に舐め取ってくる。もう快楽と擽ったさが混ざり合って頭がうまく動かなくなってきた。
「ん”ぃぃいやあああ”だすけてぇぇぇぇっしのだくんっゃははははは!!!!」
先程までのTHE・触手といったぬるぬるとした丸い先で撫で回してくるだけの感覚よりもずっとこの口のある触手達は官能的で、見た目もどこか卑猥さのあるコイツらに俺が勝てる訳がない。
「もう無理っ”あははははっ!ひゃうっ…くっ…んあぁ…!!」
最初は驚きのあまり気持ち悪いという感覚しかなかったが、当然そんな所を余すことなく舐められていれば萎えかけていたのにも関わらずまた反応してくる俺の股間。すっかり溶け解され、今は確実に快楽が勝っている。
そしてトドメを刺すかの如く、両胸の横にいた舌は両乳首を、内腿をねっとりと舐めていた舌は俺自身へと舌を這わせた。
「~~~ッ!!そこやめっ…!無理ぃっ……!」
今までは何とかギリギリで耐えていた処に直接的な刺激を与えられたらもうどうなるか分かりきっている。俺は触手に囚えられたまま手足を硬直させ、仰け反ったまま悲鳴を上げた。気持ち良すぎてもう無理だ。
「っイく…!っあぁもう無理だからもうやだやめてもうゆるじでぇっ…!!」
襲い来る抑えきれない絶頂感に、涙を流しながら無駄だと分かっていても篠田くんに許しを乞う。
「はい。イっていいですよ可愛い未南さん。精液は口の部分から吸収されて壺の中のタンクに入って処理されるようになっていて、故障することは無いですから。なんならお漏らしまでしていただいても大丈夫な設計になっていて…おっと」
「っああ!あああ”ッ!!ーーー~~ッ!!!!」
俺はビクビクと一層大きく痙攣すると、先端を咥えた触手の口の中で果てた。こんな気持ち悪い触手にイかされるなんて、なんて惨めなんだ。
そう思う暇もなく群がる触手達は休むこと無く俺の弱点の全てを舐めあげて刺激してくる。もう何処が気持ちいいのか気持ち悪いのか分からなくなり全てを身に任せた。
「ーーん”ああっ!あ、もう、たすけ、」
「じゃあラストスパート最後までいっちゃいましょうねー。触手くん達よろしくね~」
はっきりと悪魔の声が聞こえたのはこれが最後だった。
俺はその後もずーっと失神寸前まで触手達にいたぶられ、もう手足もピリピリして動かなくなった頃に漸く床へ降ろされ解放された。もうどうすることも出来ず仰向けで床で伸びていると、篠田くんというド鬼畜がやってきて俺の顔を覗き込んだ。
「み~なみさん。凄く良かったでしょー?」
「…ばか、…よ、くない、い”ぃ…しんじゃう…ぬるぬるもうやだぁ…みたくないぃ…」
俺は息も絶え絶えで最後の力を振り絞って答えた。
カワイイオレのこんな可哀想な姿を見たらちょっとは身体の心配をしてくれるんじゃないかと思ったが、
「やったあ!初めての未南さんでの実験は大成功です!」
はい無理~~~~知ってた~~~~~
「さっき言いかけたんですけど、これ福祉用に設計してたのもあって結構うまく出来てるんです。未南さんには液体媚薬だけでしたけど、水とか流動食とかも直接口に流し込めるし、性欲処理も排泄処理もバッチリです。その点を結構流用出来ました。
拷問って何日も続けないといけない時もあるらしくて、これならわざわざご飯とかトイレとかでいちいち危険を冒して接触しに行かなくていいし、放置するだけでぜーんぶお世話してくれるんで凄く便利じゃないですか?!後は堕ちるのを待つだけ!結構こう見えて拘束台兼拷問器具として実用性も考えてるんですよぉ。そういう所をコンペ当日アピールしていこうと思うんですけどどうですか?!欲しくなりますよね?!投票したくなりますよね?!」
気が遠くなりそうな俺をよそにまた早口で営業トークモードになりつつある篠田くんを遠い目で見ながら、やっと少し喋れるようになってきた俺は何度もコクコクと頷いた。
「うん凄いすごい全部すごい。篠田くん天才。これほんと。本番も説明全部任せた。俺は挨拶だけして隣で見てるだけにする」
えーまたそのパターンですかぁと言われたが、俺もまた心の中でツッコミを入れながら横でずっと突っ立っているイメージしかない。今回の可哀想な青年枠には誰が選ばれるのだろうか…。
仰向けで天井を見ながらそんなことを考え、本当に楽しそうな篠田くんの方を向く。
「俺ずっと思ってたんだけどさぁ。キミってヒーローモノの悪の組織にいる発明家みたいだよね。すげー技術持ってんのに毎回主人公の邪魔する謎の発明ばっかして、懲りなくて、何でその才能を他に使わないんだっていう…」
「あはは、何ですかその例え!センスあり過ぎて笑っちゃいます。…ま、今居るのは正義の組織になっちゃいましたケド。僕は未南さんを可愛くいじめられるなら何だって良いです」
笑いながら向けられる笑顔は本当に可愛くて腹が立つ。
「はぁ~あ、毎回ちょっかいかけられる主人公の気持ちにもなってみろよ」
「いやむしろ未南さんの方が毎回やられる悪役っぽくないですか?」
何だとぉ!と起き上がってペシペシと篠田くんの頭を叩くと暫く二人で笑い合って、夜遅くまで一緒に片付けをした。
…ま、暫くコイツの実験台に付き合ってやってもいいかな。
◇ ◆
…と余裕があったのは最初だけ。
それからほぼ毎日、実験と称して篠田くんから地獄のような触手責めに遭わされ、ついには夢の中ですら触手に侵されるようになっていた。
今日もクタクタでいつの間にか床で倒れてしまい、寝落ちする直前にそっと篠田くんに膝枕をされた。これがまた悪夢を加速させる原因だと思うんだが…
…夢か現実か分からない曖昧なまどろみの中、俺は白い砂浜が輝くプライベートビーチに立っていた。後ろからはタコの大群を引き連れた篠田くんが嬉しそうにこっちへ走ってくる。だが上手く逃げられない。もがけばもがく程汗をかき、全然前へ進めない気がする…
「…だ、くん、…うみ、きたんだから…あそ…ぼよ、…ん、やめ、てぇ…それ、いやだ…ぁぁ……」
頭の中で、篠田くんが小さな声であやすように語りかけてくる。
「未南さん、夢の中で約束通り僕と海に行ってくれてるんですね…可愛い…。よしよし…」
「んぅ…タコ…やらぁ…!イカも…だめぇ…っ…し、のだくん…イソギンチャク…投げないでぇ…」
ダラダラと寝汗をかきリアルな悪夢にうなされている中、篠田くんがずっと優しく頭を撫でてくれている気がする。
「…未南さん、このコンペが終わったら…一緒にまた海…行きましょうね。今度は奮発して、未南さんの大好きなイソギンチャクがたくさんいる…サンゴ礁の綺麗な海に…」
「んん…しのだくん…っ…フラグ…立てないでぇ…」
俺は混濁する意識の中、コーラルブルーの海で巨大イソギンチャクに襲われる夢を朝まで見続けたのだった。
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