13 / 65
9.気まずい
しおりを挟む
「一之瀬くん、お人形さんで遊ぼう」
「それよりもかけっこで勝負だ!」
俺はぼやけた空間で小学半ばの二人に同時に誘われた。一人は人形を持った女の子……みたいな男子。もう一人は勝ち気そうな男子。
「よし、三人で人形使ってかけっこでどうだ?」
俺はふざけてアホみたいな遊びを提案する。
「馬鹿か、混ぜんなよ」
「一之瀬くんの足と……の足を結んで……ちゃんとかけっこで勝負しよ」
『そんなの勝負になんねぇよ!』
おかしな勝負に俺と勝ち気な奴が二人同時に突っ込む。
「あははっ、ハモッたー。みんな仲良しだね」
女の子みたいな奴の笑顔に何かおかしくて三人で笑い合った。それはそれは暖かくてとても楽しい時間だった。
──……。
(夢か……。すげぇ懐かしいな……)
小学時代の懐かしい夢を見てしまった。春風が何でそんな事をしたのかとか来週はどういう顔して学校で会えばいいのかと休日ずっと悩んでたせいで現実逃避するために楽しかったあの時間を見せられたのかも知れない。
そういえば小学の時にやたらと突っかかってくる奴がいたなと思い出す。そいつにはかなり嫌われていてすれ違う度に睨まれたり、負けん気が強いのか飽きずに毎日勝負を挑まれたりした。勝負は一之瀬が全勝。人気がない学校裏で負けた悔しさからか本気で泣いていたのが印象的な奴だった。
印象的な奴はもう一人いた。そいつは可愛いらしい容姿のせいでいつも意地悪されて泣いていた。意地悪する奴を何となく成敗していたら、いつの間にかそいつに懐かれてしまった。腕を絡んできては心優しくて可愛いらしい上目遣いをされて色んな意味で勘違いしそうだった。しかし残念ながらそいつは男なのだ。
──あいつらは今も元気にやってっかな。
その二人の顔や名前ははっきりと覚えてはいない。小学時代は父親が転勤族で転校ばかりしていて当時のクラスメイトの奴らをほとんど覚えていなかった。一年以内での転校はざらにあっていちいち名前なんて覚えてられない。今でも癖なのかクラスメイトの名前を覚えるのが得意ではなかった。
過去の事を今考えてる場合ではなかった。現実を戻そう。あの金曜日の出来事で正直、この状況で学校なんて行きたくはない。だからといって落ち着くまで休むのもどうかと思うし、ただえさえ成績が思わしくないのに出席日数が足りなくなったら非常に不味い。
前日の夜も考え過ぎてあまり眠れずに寝不足のまま嫌々学校に重い足取りで向かう。
「おはよう、一之瀬」
「おう……おはよ」
教室に入って自分の席に向かうと、すでに春風が座っていていつも通りの柔らかい笑顔の春風に拍子抜けした。
呆然としてたら春風に頬へ急に手が伸ばされびくっとしたが、語られないように冷静を装う。
「薄らとクマが出来てるね。昨日は眠れなかったの?」
「……あ? ああ、寝ながらゲームしてたらそのまま床で寝ちまって。ぐっすり眠れなかったのかもな」
「ふふっ……相変わらず、だらしが無いな。体調が悪かったら、すぐに僕に言うんだよ」
そっと頭を撫でられた。変わらず優しい言葉に現実から逃げようとした自分に罪悪感を覚える。気を使わせないように本当はお前の事を考え過ぎて眠れなかったと本音は言えずに何とか誤魔化した。
春風が時計がある方を見て立ち上がって席を離れようとした。朝のホームルームまでにまだ十分ちょっとでまだ時間に余裕があった。朝はあまり席を外す事がない春風に不思議に思い腕を掴んでどこ行くんだと訊ねた。
「……トイレだよ」
「お……おう、わりぃ」
と手を離した。多分、本当はトイレではないと思う。一之瀬に心労をかけさせないように気を使い席を外してくれたかもわからない。
何かと気にかけている春風に少し心の奥が痛んだ。
「それよりもかけっこで勝負だ!」
俺はぼやけた空間で小学半ばの二人に同時に誘われた。一人は人形を持った女の子……みたいな男子。もう一人は勝ち気そうな男子。
「よし、三人で人形使ってかけっこでどうだ?」
俺はふざけてアホみたいな遊びを提案する。
「馬鹿か、混ぜんなよ」
「一之瀬くんの足と……の足を結んで……ちゃんとかけっこで勝負しよ」
『そんなの勝負になんねぇよ!』
おかしな勝負に俺と勝ち気な奴が二人同時に突っ込む。
「あははっ、ハモッたー。みんな仲良しだね」
女の子みたいな奴の笑顔に何かおかしくて三人で笑い合った。それはそれは暖かくてとても楽しい時間だった。
──……。
(夢か……。すげぇ懐かしいな……)
小学時代の懐かしい夢を見てしまった。春風が何でそんな事をしたのかとか来週はどういう顔して学校で会えばいいのかと休日ずっと悩んでたせいで現実逃避するために楽しかったあの時間を見せられたのかも知れない。
そういえば小学の時にやたらと突っかかってくる奴がいたなと思い出す。そいつにはかなり嫌われていてすれ違う度に睨まれたり、負けん気が強いのか飽きずに毎日勝負を挑まれたりした。勝負は一之瀬が全勝。人気がない学校裏で負けた悔しさからか本気で泣いていたのが印象的な奴だった。
印象的な奴はもう一人いた。そいつは可愛いらしい容姿のせいでいつも意地悪されて泣いていた。意地悪する奴を何となく成敗していたら、いつの間にかそいつに懐かれてしまった。腕を絡んできては心優しくて可愛いらしい上目遣いをされて色んな意味で勘違いしそうだった。しかし残念ながらそいつは男なのだ。
──あいつらは今も元気にやってっかな。
その二人の顔や名前ははっきりと覚えてはいない。小学時代は父親が転勤族で転校ばかりしていて当時のクラスメイトの奴らをほとんど覚えていなかった。一年以内での転校はざらにあっていちいち名前なんて覚えてられない。今でも癖なのかクラスメイトの名前を覚えるのが得意ではなかった。
過去の事を今考えてる場合ではなかった。現実を戻そう。あの金曜日の出来事で正直、この状況で学校なんて行きたくはない。だからといって落ち着くまで休むのもどうかと思うし、ただえさえ成績が思わしくないのに出席日数が足りなくなったら非常に不味い。
前日の夜も考え過ぎてあまり眠れずに寝不足のまま嫌々学校に重い足取りで向かう。
「おはよう、一之瀬」
「おう……おはよ」
教室に入って自分の席に向かうと、すでに春風が座っていていつも通りの柔らかい笑顔の春風に拍子抜けした。
呆然としてたら春風に頬へ急に手が伸ばされびくっとしたが、語られないように冷静を装う。
「薄らとクマが出来てるね。昨日は眠れなかったの?」
「……あ? ああ、寝ながらゲームしてたらそのまま床で寝ちまって。ぐっすり眠れなかったのかもな」
「ふふっ……相変わらず、だらしが無いな。体調が悪かったら、すぐに僕に言うんだよ」
そっと頭を撫でられた。変わらず優しい言葉に現実から逃げようとした自分に罪悪感を覚える。気を使わせないように本当はお前の事を考え過ぎて眠れなかったと本音は言えずに何とか誤魔化した。
春風が時計がある方を見て立ち上がって席を離れようとした。朝のホームルームまでにまだ十分ちょっとでまだ時間に余裕があった。朝はあまり席を外す事がない春風に不思議に思い腕を掴んでどこ行くんだと訊ねた。
「……トイレだよ」
「お……おう、わりぃ」
と手を離した。多分、本当はトイレではないと思う。一之瀬に心労をかけさせないように気を使い席を外してくれたかもわからない。
何かと気にかけている春風に少し心の奥が痛んだ。
0
あなたにおすすめの小説
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
【完結】勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話
バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん<山野 石郎>改め【イシ】
世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中……俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない<覗く>という能力だけ。
これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。
無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。
不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!
ヤリチン伯爵令息は年下わんこに囚われ首輪をつけられる
桃瀬さら
BL
「僕のモノになってください」
首輪を持った少年はレオンに首輪をつけた。
レオンは人に誇れるような人生を送ってはこなかった。だからといって、誰かに狙われるようないわれもない。
ストーカーに悩まされていたレある日、ローブを着た不審な人物に出会う。
逃げるローブの人物を追いかけていると、レオンは気絶させられ誘拐されてしまう。
マルセルと名乗った少年はレオンを閉じ込め、痛めつけるでもなくただ日々を過ごすだけ。
そんな毎日にいつしかレオンは安らぎを覚え、純粋なマルセルに毒されていく。
近づいては離れる猫のようなマルセル×囚われるレオン
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる