＃星色卒業式　〜きみは明日、あの星に行く〜

嶌田あき

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第２章

第６夜　未来天象儀（３）

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　学園祭の朝。冷たい空気が期待でワクワクしてるのを感じる。体育館の仮設プラネタリウムドーム前で、俺は最後の調整に集中してた。

「これで……うまくいくはずだ」

　ドームスクリーンの調整を終えて、ホッと息をついた。何日も徹夜して頑張ってきたけど、今日がついにその成果を見せる日だ。でも、胸の中の不安は消えない。

「おっはよー、蛍！」

　振り返ると、未来が両手を大きく振りながら走ってきた。その後ろには先輩と哲の姿も見えた。

「ああ、おはよう」
「準備、できた？」

　先輩が少し心配そうに聞いてきた。彼女の目が、いつもより鮮やかな青に輝いてるように見えた。

「まあ、なんとかなりましたね」

　そう答えたけど、俺の声は少し震えてた。
　未来が俺の顔を見て、にっこり笑った。

「大丈夫、絶対うまくいくよ！」

　その言葉で少し元気が出た。哲も眼鏡を直しながら、「来場者数の予測では、95％の確率で平均より多くの人が来るはずだ」って、独特な方法で励ましてくれた。
　学園祭の始まる時間が近づいてきた。ドキドキして、手のひらに汗がにじんでくる。先輩も不安そうに周りを見回してる。

「ちゃんと、人は来てくれるかな」

　そのとき、校内放送が流れ始めた。

「ただいまより、第45回星見ヶ浦高校学園祭を開催いたします！」

　歓声と一緒に、想像以上にたくさんの人が、いっせいに学校に入ってきた。

「うわ……」

　思わず声が出た。未来が両手を上げて喜んでる。

「すごい！　ねえ、見てよひかり先輩！」
「忙しくなりそうね」
「予想より20％も多い人が来てる。何か対策が必要かも」

　哲が眉をひそめながら言った。
　プラネタリウムの前にも、あっという間に長い列ができた。家族連れ、デートのカップル、写真を撮る学生たち。その様子を見て、不安と期待が大きくなる。

「よし、作戦会議！」

　未来が俺たちを円陣に集める。

「絶対に成功させるんだから。みんな、準備できてる？」

　4人で頷き合った。緊張とワクワクが混ざった気持ちで、ドームに最初のお客さんを案内した。
　ドームの中はすぐに期待に満ちたざわめきでいっぱいになった。ひかり先輩が、席が全部埋まったのを確認して入口のカーテンを閉めた。

「蛍くん、始めよう」

　先輩の声を聞いて、俺はすぐに未来に手で合図した。未来は大きく息を吸って、マイクを握った。

「お待たせしました。ただいまより『朝焼けプラネタリウム』を始めます」

　未来の声が響くと、ドームの中が急に静かになった。

「みなさんを遠い世界にお連れします。そこで見る朝焼けは、きっと忘れられない思い出になりますよ」
　そう言いながら、未来はちらっとこっちを見た。彼女の目に、楽しそうな声とは違う、深い不安が浮かんでるのが見えた。

「じゃあ、カウントダウンしますね。3、2、1……」

　そのとき、世界が真っ暗になった。

「え……」

　突然の暗闇に、頭の中が真っ白になった。ドームスクリーンに映るはずだった360度の朝焼け映像が、真っ暗闇に消えてしまった。

「きゃあっ！」
「何これ！」
「怖いよ、ママ！」

　観客席から悲鳴と怒鳴り声が飛び交った。パニックが起きそうな雰囲気が、空気を震わせる。
　俺はとっさに未来に声をかけようとしたけど、喉が渇いて声が出なかった。頭の中がぐるぐる回って、背中に冷や汗が流れた。

「蛍くん、落ち着いて」

　耳元で先輩の声がした。彼女の冷たい手が、震えてる俺の肩にそっと置かれた。

「くそっ……こんなはずじゃ……」

　俺のつぶやきに、哲が小さな声で答えた。

「主電源も予備電源も、両方止まってる。体育館の電気系統に問題があるかも。とにかく再起動が必要だ。直すのに時間がかかるかもしれない」

　哲の冷静な分析が、逆に俺をもっと焦らせた。額から汗が滝みたいに流れ落ちる。

「確認してくる」

　そう言って、哲はスマホのライトを使ってカーテンを開け、ドームの外に出ていった。

「どうしよう、どうしよう……」

　俺が頭を抱えてると、未来が近づいてきて俺の背中をポンと叩いた。

「落ち着いて。大丈夫だから」

　そのとき、笑顔で言う未来の背後で、お客さんたちの不満が爆発した。

「これ、イベントの一部？」
「詐欺じゃないの？」
「子供が怖がってるんだ、なんとかして！」

　怒鳴り声と泣き声が混ざって、ドームの中は大混乱になった。

「やばいな……先輩、どうすれば……」

　藁にもすがる思いで先輩に問う。けれど彼女は唇を噛みながら答えた。

「こんな緊急事態のためのマニュアルを作っておけばよかったね。私たち、今、経験したことのない状況に入っちゃってる……」

　その言葉で、俺の中の何かが折れそうになった。こんな形で、全部終わっちゃうのか。
　そんな俺たちをよそに、未来が一歩前に出た。

「みんな、落ち着いて！」

　未来の声が、暗闇を切り裂いた。その声には、いつもの明るさじゃなくて、はっきりとした強さがあった。

「未来……？」

　俺が驚いて声を上げると、未来は振り返って、暗闇でもはっきり見える笑顔を見せた。

「大丈夫、これはピンチじゃない。チャンスよ。みんなで新しいショーを作り上げよう」

　そのとき、未来の目に光るものが走った。彼女が何かを思いついたのが分かった。俺は息を止めて、未来の次の言葉を待った。真っ暗な中で、希望の光が見えそうな気がした。

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