43 / 50
第4章
第13夜 不安定恋核(1)
しおりを挟む
朝焼けの見える駅に立つと、冷たい空気が肌を刺す。寝台列車から降りた俺たちの目の前に、懐かしい風景が広がっていた。
「ここが……蛍くんの母校なんだね」
ひかり先輩の優しい声に、俺は無言でうなずいた。喉が詰まり、言葉が出ない。古びた校舎が朝もやの中にぼんやりと浮かぶ。何年ぶりだろう。あの日以来、一度も来ていなかった。
「未来ちゃんの母校でもあるんだよね」
哲が柔らかく言った。未来は黙ったまま、校舎を見上げている。複雑な表情だ。俺たちが近づくと、突然校舎の電気がついた。眩しい光が窓から漏れる。
「うわっ!」
哲が驚いた。
「ほらね。私が迷い込んだ遊園地と同じだよ」未来が得意げに言った。
「本当だ。ここは地球じゃない。地球の風景を再現してる。保管じゃなくて、再生ってことか……」
哲の興奮した声が静寂を破る。俺は呆然と立ち尽くす。懐かしさと共に、胸が痛む。
「蛍くん……大丈夫?」
ひかり先輩が心配そうに俺を見つめる。
「ああ……」
俺は言葉を絞り出す。
「ただ……色々思い出しちゃって」
頭の中で、あの日の記憶がよみがえる。小学4年生の俺。6年生の黒髪の少女。放課後の音楽室。ピアノの前に座る少女の後ろ姿。
そのとき、ひかり先輩が校舎の壁に触れた。
「懐かしい……」
声が震える。
「実は……私、4年前に地球のこの場所に来たことがあるの」
俺たちは驚いて先輩を見つめる。
「その時……蛍くんに会ったの」
「え……?」
俺が混乱すると、先輩は八重歯を見せて微笑んだ。
「ちょうど4年前、私は調査のために地球にいたの。そして……この小学校で1年を過ごした」
彼女の言葉に、俺たちは息を呑んだ。
「ある日、音楽室で一人でピアノを弾いていた男の子を見つけたの。その子は……蛍くんによく似てた」
俺の心臓が激しく鼓動を打ち始めた。4年前……俺は確かに放課後よくピアノを弾いていた。
「蛍くんのピアノに……心を奪われたの」
先輩の瞳が潤む。俺は言葉を失う。先輩が……俺を知ってた?
「でも……なんで言ってくれなかったんですか?」
震える声で尋ねると、先輩は俯く。
「怖かったの……蛍くんが私を覚えてなかったら。それに……蛍くんが好きになったのが、本当の私じゃなくて、今の姿だったらって」
俺は胸が締め付けられる。そして……勇気が湧く。今こそ、本当の気持ちを伝えるときだ。
「先輩」
俺は深呼吸をする。
「実は……俺も忘れられなかったんです」
先輩が驚いて顔を上げる。
「4年前、知らない女の子が音楽室に来たんです。学年が違って……。でも、その子が『素敵な音色ね』って言ってくれて」
俺は微笑む。
「その言葉が原動力になったんです。もっと上手くなりたい。もっと素敵な曲を作りたいって」
先輩の目に涙が浮かぶ。
「そして……」
俺は続ける。
「小学4年の時、6年生の先輩に『卒業式で、作った曲を弾くから聴いて』って約束したんです」
「ああ……」
先輩がため息をつく。
「あの約束……」
「でも」
俺は俯く。
「卒業式前夜、曲の仕上げに夢中で寝過ごして……約束を果たせなかった」
静寂が流れる。
「あの日から」
俺は続ける。
「眠るのが怖くなったんです。寝たら大切な機会を逃すかもって……」
「蛍くん……」
先輩が優しく呼ぶ。
「でも、先輩」
俺は顔を上げる。
「僕は……あの時の女の子への想いを胸に音楽を続けてきたんです。そして……気づいたんです。僕が好きになったのは、本当の先輩だって」
先輩の目から涙がこぼれる。
「蛍くん……私も」
先輩は震える声で言う。俺たちは見つめ合う。言葉はいらない。二人の気持ちが、まっすぐに通じ合っている。
「えーと」
哲が咳払いする。
「二人とも、素敵な告白だけど……私たちもいるんだけどね」
未来が小さく笑う。
「でも……素敵な話だったわね」
俺と先輩は顔を見合わせ、照れ笑いする。
「ねえ」
先輩が言う。
「あの約束……まだ果たせるんじゃない?」
俺は驚いて目を見開く。そうか……今なら。
「うん」
俺は決意を込めてうなずく。
「屋上に、出てみませんか?」
「いいね。小学校の頃は行ったことなかったな」
未来が静かに言う。
俺たちは校舎へ歩き出す。思い出と新たな約束を胸に、未来へ向かって一歩を踏み出す。
「ここが……蛍くんの母校なんだね」
ひかり先輩の優しい声に、俺は無言でうなずいた。喉が詰まり、言葉が出ない。古びた校舎が朝もやの中にぼんやりと浮かぶ。何年ぶりだろう。あの日以来、一度も来ていなかった。
「未来ちゃんの母校でもあるんだよね」
哲が柔らかく言った。未来は黙ったまま、校舎を見上げている。複雑な表情だ。俺たちが近づくと、突然校舎の電気がついた。眩しい光が窓から漏れる。
「うわっ!」
哲が驚いた。
「ほらね。私が迷い込んだ遊園地と同じだよ」未来が得意げに言った。
「本当だ。ここは地球じゃない。地球の風景を再現してる。保管じゃなくて、再生ってことか……」
哲の興奮した声が静寂を破る。俺は呆然と立ち尽くす。懐かしさと共に、胸が痛む。
「蛍くん……大丈夫?」
ひかり先輩が心配そうに俺を見つめる。
「ああ……」
俺は言葉を絞り出す。
「ただ……色々思い出しちゃって」
頭の中で、あの日の記憶がよみがえる。小学4年生の俺。6年生の黒髪の少女。放課後の音楽室。ピアノの前に座る少女の後ろ姿。
そのとき、ひかり先輩が校舎の壁に触れた。
「懐かしい……」
声が震える。
「実は……私、4年前に地球のこの場所に来たことがあるの」
俺たちは驚いて先輩を見つめる。
「その時……蛍くんに会ったの」
「え……?」
俺が混乱すると、先輩は八重歯を見せて微笑んだ。
「ちょうど4年前、私は調査のために地球にいたの。そして……この小学校で1年を過ごした」
彼女の言葉に、俺たちは息を呑んだ。
「ある日、音楽室で一人でピアノを弾いていた男の子を見つけたの。その子は……蛍くんによく似てた」
俺の心臓が激しく鼓動を打ち始めた。4年前……俺は確かに放課後よくピアノを弾いていた。
「蛍くんのピアノに……心を奪われたの」
先輩の瞳が潤む。俺は言葉を失う。先輩が……俺を知ってた?
「でも……なんで言ってくれなかったんですか?」
震える声で尋ねると、先輩は俯く。
「怖かったの……蛍くんが私を覚えてなかったら。それに……蛍くんが好きになったのが、本当の私じゃなくて、今の姿だったらって」
俺は胸が締め付けられる。そして……勇気が湧く。今こそ、本当の気持ちを伝えるときだ。
「先輩」
俺は深呼吸をする。
「実は……俺も忘れられなかったんです」
先輩が驚いて顔を上げる。
「4年前、知らない女の子が音楽室に来たんです。学年が違って……。でも、その子が『素敵な音色ね』って言ってくれて」
俺は微笑む。
「その言葉が原動力になったんです。もっと上手くなりたい。もっと素敵な曲を作りたいって」
先輩の目に涙が浮かぶ。
「そして……」
俺は続ける。
「小学4年の時、6年生の先輩に『卒業式で、作った曲を弾くから聴いて』って約束したんです」
「ああ……」
先輩がため息をつく。
「あの約束……」
「でも」
俺は俯く。
「卒業式前夜、曲の仕上げに夢中で寝過ごして……約束を果たせなかった」
静寂が流れる。
「あの日から」
俺は続ける。
「眠るのが怖くなったんです。寝たら大切な機会を逃すかもって……」
「蛍くん……」
先輩が優しく呼ぶ。
「でも、先輩」
俺は顔を上げる。
「僕は……あの時の女の子への想いを胸に音楽を続けてきたんです。そして……気づいたんです。僕が好きになったのは、本当の先輩だって」
先輩の目から涙がこぼれる。
「蛍くん……私も」
先輩は震える声で言う。俺たちは見つめ合う。言葉はいらない。二人の気持ちが、まっすぐに通じ合っている。
「えーと」
哲が咳払いする。
「二人とも、素敵な告白だけど……私たちもいるんだけどね」
未来が小さく笑う。
「でも……素敵な話だったわね」
俺と先輩は顔を見合わせ、照れ笑いする。
「ねえ」
先輩が言う。
「あの約束……まだ果たせるんじゃない?」
俺は驚いて目を見開く。そうか……今なら。
「うん」
俺は決意を込めてうなずく。
「屋上に、出てみませんか?」
「いいね。小学校の頃は行ったことなかったな」
未来が静かに言う。
俺たちは校舎へ歩き出す。思い出と新たな約束を胸に、未来へ向かって一歩を踏み出す。
14
あなたにおすすめの小説
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる