3 / 20
3
しおりを挟む
彼女は目を白黒させ暫し固まった後のち、立ち上がり部屋の電気をつけた。
明るい光の元で見るその姿は、暗がりで見るほど恐ろしくは感じない。むしろ獲物の心の声を読み間違えた上に倒れるなど、間抜けにも程がある。
黒髪だと思っていた髪の毛は濃い紫色で、季節は秋にも関わらず上半身は裸、下半身には黒い布を一枚巻いているだけだ。布から伸びる長い脚は髪と同じく紫の体毛で覆われている。黒光りする足の爪は鋭く尖っているが、手の爪は人間と同じ形をしていた。
直に見た事で確信を深めた。これはコスプレなどでは断じて無い。角も爪も体毛も、作り物にしては生々し過ぎるのだ。
ソレはよく見ると額には薄く汗をかき、恐ろしく整った美しい顔は苦しげに歪み、浅い呼吸を繰り返している。血色の悪い真っ白な肌色は元々では無く、体調の悪さ故なのだろうか。
「こんなとこで死なれちゃ困るんだけど……」
人で無い者の死体の始末はどうすれば良いのかと真剣に悩んでいると、グルルルルゥ……と猛獣の唸り声のような音が聞こえて来た。
その音は人ならざるものの腹から発せられたようだ。つまり腹の虫である。飢えて行き倒れてしまったのだろう。悪魔か妖怪か分からないが、何とも間抜けな人外だ。だが、まさか魂を食べさせてやる訳には行かない。
彼女は倒れた人外の頬をペシペシ叩きながら呼び掛ける。
「もしもし~? 悪魔さーん、起きてくださーい。貴方が食べて栄養になる物は何ですかー?」
「………………」
返事は無い。それどころか、ぴくりとも動かない。呼吸はしているのだから、生きているは間違い無いのだが。
「……おいコラー、起きろー! 答えんかーい! お前さんは何を食べるんじゃー!!」
反応を示さないソレが面倒臭く、彼女は頬を叩く力と語気を強めた。
「……う、うぅ……たま、しぃ……と、せい……き…………」
苦しげに唸りながら、か細く掠れた声で答えが返って来る。先程頭の中に響いた恐ろし気な声とは大違いだ。
薄っすらと開いた瞼の隙間に琥珀の瞳が見えた気がしたが、直ぐに閉じられる。またゆっくりと意識が沈んで行く男に、彼女は腹を括った。
「魂は無理。せいき……精気か……しょうが無い、これも人助けだ。人じゃ無さそうだけど……」
ごくりと喉を鳴らし、どこか自分に言い聞かせるように呟いた彼女は、意を決したように白いパーカーのチャックを一息に下ろす。その下の色気の欠片もない鼠色のブラトップも、躊躇なく脱ぎ捨てた。
スウェット素材のハーフパンツを脱ぐのには戸惑いが強かったのか、手を掛けてから脱ぐまでに時間がかかった。
最後の砦のショーツだけは穿いたまま、彼女は意識の無い人外生物に跨がる。そして、そのまま暫し固まった。
明るい光の元で見るその姿は、暗がりで見るほど恐ろしくは感じない。むしろ獲物の心の声を読み間違えた上に倒れるなど、間抜けにも程がある。
黒髪だと思っていた髪の毛は濃い紫色で、季節は秋にも関わらず上半身は裸、下半身には黒い布を一枚巻いているだけだ。布から伸びる長い脚は髪と同じく紫の体毛で覆われている。黒光りする足の爪は鋭く尖っているが、手の爪は人間と同じ形をしていた。
直に見た事で確信を深めた。これはコスプレなどでは断じて無い。角も爪も体毛も、作り物にしては生々し過ぎるのだ。
ソレはよく見ると額には薄く汗をかき、恐ろしく整った美しい顔は苦しげに歪み、浅い呼吸を繰り返している。血色の悪い真っ白な肌色は元々では無く、体調の悪さ故なのだろうか。
「こんなとこで死なれちゃ困るんだけど……」
人で無い者の死体の始末はどうすれば良いのかと真剣に悩んでいると、グルルルルゥ……と猛獣の唸り声のような音が聞こえて来た。
その音は人ならざるものの腹から発せられたようだ。つまり腹の虫である。飢えて行き倒れてしまったのだろう。悪魔か妖怪か分からないが、何とも間抜けな人外だ。だが、まさか魂を食べさせてやる訳には行かない。
彼女は倒れた人外の頬をペシペシ叩きながら呼び掛ける。
「もしもし~? 悪魔さーん、起きてくださーい。貴方が食べて栄養になる物は何ですかー?」
「………………」
返事は無い。それどころか、ぴくりとも動かない。呼吸はしているのだから、生きているは間違い無いのだが。
「……おいコラー、起きろー! 答えんかーい! お前さんは何を食べるんじゃー!!」
反応を示さないソレが面倒臭く、彼女は頬を叩く力と語気を強めた。
「……う、うぅ……たま、しぃ……と、せい……き…………」
苦しげに唸りながら、か細く掠れた声で答えが返って来る。先程頭の中に響いた恐ろし気な声とは大違いだ。
薄っすらと開いた瞼の隙間に琥珀の瞳が見えた気がしたが、直ぐに閉じられる。またゆっくりと意識が沈んで行く男に、彼女は腹を括った。
「魂は無理。せいき……精気か……しょうが無い、これも人助けだ。人じゃ無さそうだけど……」
ごくりと喉を鳴らし、どこか自分に言い聞かせるように呟いた彼女は、意を決したように白いパーカーのチャックを一息に下ろす。その下の色気の欠片もない鼠色のブラトップも、躊躇なく脱ぎ捨てた。
スウェット素材のハーフパンツを脱ぐのには戸惑いが強かったのか、手を掛けてから脱ぐまでに時間がかかった。
最後の砦のショーツだけは穿いたまま、彼女は意識の無い人外生物に跨がる。そして、そのまま暫し固まった。
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる