ぼんやり令息はひねくれ王子の溺愛に気づかない

まんまる

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王子の決意~sideライアス~

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お茶会は今回で最後だったと聞かされた時、俺は膝から崩れ落ちた。

「ライアス⋯早く立ちなさい」
「父上⋯、俺はどうしようもない馬鹿です」
「ふぅ、お前は王族として、もう少し感情を抑える努力が必要だ。来年から学園に入るが、大勢の者がお前に擦り寄って来るだろう。きちんと利となる者と、害となる者を見極めなさい」
「俺にできるでしょうか⋯」
「ライアス、王族なんてものは、いつ足元をすくわれるか分からん。自分がきちんと立っていなければ、一緒にいる者も倒れてしまうぞ。大切な者を守る為にも、味方を増やしておきなさい」
「大切な人⋯」

シェラ、愛しい俺の天使。
シェラはずっと俺が守る。

「父上、俺、王族として胸を張れるようになったら、大切な人を迎えに行っていいですか?」
「当たり前だ」
「ありがとうございます!」
「ただし、無理強いは駄目だ」
「ぐっ」



それから俺は、いつの日か絶対シェラを迎えに行くと心に誓い、勉強や剣術はもちろん、市井しせいにこっそり出掛けては、民の暮らしを視察して回り、不便な事があれば父上に直接陳情して改善策を話し合った。



そして俺は、王族として恥じないよう、更に勉学に励む決意をして、学園に入学した。

俺の学園生活は、父上が毎年お茶会を開いてくれたお陰で、側近候補の友人もできて、とても充実したものだった。

そのまま順調に終わると思っていた学園生活だったが、最終学年もいよいよ残り半年と言う時、俺は面倒な事に巻き込まれてしまう。


「ライアス、学園生活はどうだ?」
「ええ、問題なく過ごしていますが⋯、父上、突然どうしたんですか?」
「ライアス⋯、お前に頼みがある」

珍しく、父上が言い淀んだ。

「父上、何かありましたか?」
「あ、ああ⋯、実はな、来月隣国の第3王女がこちらに留学してくる」
「第3王女って、アリス王女ですか?」
「そうだ」
「留学などと⋯、ていのいい厄介払いじゃないですか。自分達の手に負えないからと言って、こちらに押し付けられても困ります」
「ライアス、相手はあれでも隣国の王族だ。言葉には気をつけなさい」
「しかし!」
「ライアス、もう決まった事だ。お前には、王女がこちらにいる間、世話役をしてもらう」
「はあっ!?どうして俺が!王女の世話なら、高位貴族の令嬢が適任ではないですか!」
「そ、それは分かっている。だが、王女たっての頼みだそうだ」
「そんな!父上は、俺の貞操がどうなって構わないと言うんですか?!」
「ご、ごほん、さすがに王子には手を出さないだろう」

隣国のアリス王女と言えば、身分問わず、自国の見目のいい男子を食い散らかしていると言う噂がある、とんでもない王女だ。
真偽は分からないが、そんなのと一緒にいたら、シェラに要らぬ心配を掛けさせるかもしれない。

「父上、お断りします」
「ならぬ」
「⋯何故ですか?」
「⋯⋯られた」
「はっ?」
「断られた⋯。王である私の直接の頼みを、どの家も断ってきた。おそらく、隣国からライアスの名が上がっているのを知っておったのだろう。ライアス、お前がやるしかないのだ」
「⋯⋯」

絶対やりたくなかったが、父上にやるしかないと言われたら、俺は黙って従うしかなかった。

「分かりました。ただし、俺の身に危険が生じた時は、王女をすぐに自国に帰すのが条件です」
「ああ、分かった」


それからひと月して、アリス王女は予定通り、俺が通う学園に留学してきた。

「ライアス様ぁ、よろしくお願いしまぁす」

王女はきつい香りを全身から撒き散らしながら、俺の腕にしがみついて、胸をグイグイ押し付けてきた。
俺がやんわり王女を引きがすと、今度は思い切り抱きつかれた。

「きゃっ、ごめんなさいっ、ライアス様ぁ。小石につまずいてしまいましたわぁ」

ここは校舎の中だが、どこに小石があったんだ?

俺は王女の肩を掴み、べりっと思い切り引き剥がした。

「ライアス様は、力お強いのですね。うふっ」

王女はそう言いながら、俺の股間を覗き込む勢いで見てきた。



ぞっ

「アリス王女、一通り学園の中を説明させていただきましたが、もう、寮に戻られるでしょう?私はこれで失礼します」
「ライアス様っ、私の事はアリスって呼んでくださいっ!それに、私がこちらにいる間、王城にお部屋を用意してもらうように頼みましたのに、私、歓迎されていないのですね。くすん」
「はい」
「はあっ!?」
「ああ、いいえ、アリス、学園の敷地内にある寮の方が、よっぽど安全ですよ。学園は護衛が入れない分、警護がしっかりしていますから」
「そ、それなら、せめて寮まで送ってくださらないかしら」
「はぁ⋯、仕方ない」
「なっ!?」

俺は腕にまとわりつこうとする王女をかわしながら、校舎と目と鼻の先にある女子寮まで送っていった。

「それでは、また明日」
「あっ、いたっ、いたたたたた!」
「⋯王女、どうされました?」
「ああっ、急にお腹がっ!ああん、痛いぃ。ライアス様ぁ、お部屋まで抱っこしてくださらない?あん、早くぅ」
「部屋に行っても、私ではお役に立てないでしょう。そもそも女子寮は男子禁制です。医務室から先生を呼んで来ます」
「せ、先生を呼ぶ程ではなくてよ」
「そうですか、では失礼します」

こんな攻防を毎日繰り返し、俺は日に日に疲弊していった。

そんな時俺は、シェラの天使のような笑顔(直接見た事はないが)を思い浮かべて疲れを癒していた。


シェラ、会いたい。


王女の世話をするようになって、ひと月が経った頃、放課後いつものように寮まで送ろうとしたら、王女から止められた。

「アリス王女、寮まで送ります」
「ライアス様、ちょっと医務室に寄ってもよろしいかしら?」
「ええ、いいですよ。どうかされましたか?」

王女はもじもじして、頬を赤らた。

「あの⋯、生理痛がひどくて、お薬をいただきたいんです」
「⋯言いづらい事を言わせてしまって、申し訳ありません」
「ライアス様、気になさらないで、ふふっ」

医務室に着いて中を覗いてみたが、先生の姿が見当たらなかった。

「困ったわ」
「ああっと、痛み止めでしたら、確かここに⋯」

俺は保管庫の扉を開けて茶色の小瓶を取り出し、中から薬を1粒摘んで、王女に手渡した。

「王女、学園の置き薬は効果がそれ程強くないので、痛みが続くようでしたら、王家の医師に用意させます」
「まあ、それはありがたいわっ!あっ!」

コロコロコロ

「ごめんなさい!手が滑ってしまって」

王女の手から薬が滑り落ち、カーテンの向こうのベッドの下に転がっていってしまった。

「私が拾ってきます。王女は瓶から新しい薬を出して飲んでください」
「お手を煩わせてしまって、ごめんなさいね」

俺はやれやれと思いながら、カーテンを開けて、ベッドの下を覗き込もうとした。

ドンっ

背中に何か当たったと思った瞬間、俺の視界はベッドの下ではなく、医務室の天井に変わっていて、ベッドに横たわる俺の腹の上には、にやりと笑みを浮かべるアリス王女が、大股を開いてまたがっていた。

「ああん、ライアス様の体、なんてたくましいのぉ。ライアス様が、どのように女人を攻められるのか、アリス楽しみですわぁ」

俺は驚きのあまり、声も出せずに目を見開いて王女を見ていた。

王女が俺を見下ろしながら、ぺろりと舌なめずりをすると、半開きの王女の口のから、たらりとよだれが垂れた。

「うっ⋯、おええぇぇっ」

「はああっっ!?何ですの!!」

俺はあまりの気持ち悪さに、危うく胃の中の物を思い切り王女にぶちまけるところだった。

退け!」

もうこの女に気を遣う必要はないと思い、俺は怒気を含めて王女に言い放った。

「わ、私にそんな態度をとっていいと思ってるの!お父様に言いつけるわよ!」

「聞こえないのか?」

「ひいっ!」

俺は、怯えながらベッドから降りる王女に一瞥いちべつもくれずに医務室を出た。


翌日、王女の姿は学園から消えていた。

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