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馬をしばらく駆けさせていると、伝令係が俺をちらりと見た。
そろそろか⋯。
「中隊長!見えて来ました!」
「あれか⋯。分かった、先に行く!」
「はいっ!」
俺は馬の腹を蹴って、更に速度を上げた。
現場に近付くと、犯人と思しき興奮した男が、若い女性の首筋に刃物を当てて、何やら叫んでいるのが目に飛び込んできた。
遠巻きではあるが、かなりの人数の人だかりができていて、若い団員達が懸命に遠ざけようとしている。
収拾がつかなくなっているな⋯。
俺は興奮する馬を落ち着かせながら、団員達の前に出た。
「「「中隊長!!」」」
「誰一人近付かせるな!!しっかり抑えろ!!」
「「「はいっ!!」」」
俺が発破をかけると、団員達の士気が一気に上がるのが分かった。
俺は一旦離れた所で馬を降りて、男の後ろから近付いて確保する事にした。
俺が男の後ろに回り込んでいるのに気付いた団員達は、一瞬で俺の作戦を把握してくれた。
男の注意が前に向くように、一人の団員が男の正面に出て、説得をしてくれるようだ。
説得役はオーギュか。頼むぞ。
「刃物を捨てて、女性を離すんだ!」
「うるせえ!誰でもいいから、貴族を連れて来い!そしたらこの女を解放してやる!」
「貴族を連れてきて、何をする気だ?!」
「貴族はな、何の苦労もせずに、毎日贅沢に暮らしてやがるんだ!だから、そんなゴミは殺してやるんだよ!」
「何を言ってる!そんな事をしたら、お前も極刑は免れないぞ!」
「ああ、構わねえさ!どうせ牢屋行きだあ!」
貴族か⋯、俺も貴族だが、貴族が全員贅沢しているかと言われたら、そんな事はない。
領地から上がってくる税金を国に納めて、そこから出る利益で貴族は暮らしているんだ。
そうそう贅沢なんてできない。
だが平民から見たら、貴族は頻繁に夜会や舞踏会を開いて、遊んでいるように見えてるんだろう。
俺も貴族だと名乗り出てもいいが、この騎士団の格好では、益々男を激昂させるだけだろう。
いや、今はそんな事を考えている場合ではない。
人質になっている女性の様子が⋯、まずい、気を失いかけている。
もう、悠長に考えているは時間はない。
飛び出した瞬間に右腕で男の首を絞め落とし、同時に左手で女性からナイフを遠ざけなければならない。
俺が男の背中にじりじりと近付いた時、オーギュの気配が変わった。
今だ!
「僕、貴族ですっ!!」
俺が飛び出した瞬間、聞き覚えのある、いや、その声は、俺の胸に甘く締め付けるような痛みをくれる、愛しくてたまらない人の声だった。
あんなに騒然としていた現場が水を打ったように静かになった。
ティム!何故こんな所にいるんだ!
駄目だ!来るな!
「僕、貴族です!だから、その女性を離してください!」
「へえ、お貴族様か。いいぜ、こっちに来い」
男が不気味な声色でティムを呼んだ。
くそっ、男が女性を解放しない限り、迂闊に手を出せない!
ティム、頼む!俺に気付いてくれ!
ティムが一歩ずつ男に近付いてくる。
来るなああぁぁ!!
目の前の出来事が、まるでスローモーションのように見えた。
突然、男は人質の女性を突き飛ばし、刃物を腹の前で握り締めて、ティムに向かって走り出した。
ティムは、目を見開いたまま固まっている。
「ティムーっ!!!」
くそっ!間に合ってくれええぇぇ!!
「ティムっ!!」
俺が男の前に出て、ティムを抱き締めた瞬間、脇腹に鋭い痛みが走った。
グサっ!!
「ぐうっ⋯うぅぅぅ」
「ブラント様っ!?ブラント様ああぁぁ!!」
「ブラント!!大丈夫か!!??」
「「「きゃああぁぁーーーー!!!」」」
ティムの俺の名前を呼ぶ、悲痛な声が聞こえる。
オーギュの俺の脇腹に刺さるナイフと傷の具合を探る手が、震えているのが分かる。
野次馬の叫び声と共に、男になだれ込む騎士団員達の足音が聞こえた。
そろそろか⋯。
「中隊長!見えて来ました!」
「あれか⋯。分かった、先に行く!」
「はいっ!」
俺は馬の腹を蹴って、更に速度を上げた。
現場に近付くと、犯人と思しき興奮した男が、若い女性の首筋に刃物を当てて、何やら叫んでいるのが目に飛び込んできた。
遠巻きではあるが、かなりの人数の人だかりができていて、若い団員達が懸命に遠ざけようとしている。
収拾がつかなくなっているな⋯。
俺は興奮する馬を落ち着かせながら、団員達の前に出た。
「「「中隊長!!」」」
「誰一人近付かせるな!!しっかり抑えろ!!」
「「「はいっ!!」」」
俺が発破をかけると、団員達の士気が一気に上がるのが分かった。
俺は一旦離れた所で馬を降りて、男の後ろから近付いて確保する事にした。
俺が男の後ろに回り込んでいるのに気付いた団員達は、一瞬で俺の作戦を把握してくれた。
男の注意が前に向くように、一人の団員が男の正面に出て、説得をしてくれるようだ。
説得役はオーギュか。頼むぞ。
「刃物を捨てて、女性を離すんだ!」
「うるせえ!誰でもいいから、貴族を連れて来い!そしたらこの女を解放してやる!」
「貴族を連れてきて、何をする気だ?!」
「貴族はな、何の苦労もせずに、毎日贅沢に暮らしてやがるんだ!だから、そんなゴミは殺してやるんだよ!」
「何を言ってる!そんな事をしたら、お前も極刑は免れないぞ!」
「ああ、構わねえさ!どうせ牢屋行きだあ!」
貴族か⋯、俺も貴族だが、貴族が全員贅沢しているかと言われたら、そんな事はない。
領地から上がってくる税金を国に納めて、そこから出る利益で貴族は暮らしているんだ。
そうそう贅沢なんてできない。
だが平民から見たら、貴族は頻繁に夜会や舞踏会を開いて、遊んでいるように見えてるんだろう。
俺も貴族だと名乗り出てもいいが、この騎士団の格好では、益々男を激昂させるだけだろう。
いや、今はそんな事を考えている場合ではない。
人質になっている女性の様子が⋯、まずい、気を失いかけている。
もう、悠長に考えているは時間はない。
飛び出した瞬間に右腕で男の首を絞め落とし、同時に左手で女性からナイフを遠ざけなければならない。
俺が男の背中にじりじりと近付いた時、オーギュの気配が変わった。
今だ!
「僕、貴族ですっ!!」
俺が飛び出した瞬間、聞き覚えのある、いや、その声は、俺の胸に甘く締め付けるような痛みをくれる、愛しくてたまらない人の声だった。
あんなに騒然としていた現場が水を打ったように静かになった。
ティム!何故こんな所にいるんだ!
駄目だ!来るな!
「僕、貴族です!だから、その女性を離してください!」
「へえ、お貴族様か。いいぜ、こっちに来い」
男が不気味な声色でティムを呼んだ。
くそっ、男が女性を解放しない限り、迂闊に手を出せない!
ティム、頼む!俺に気付いてくれ!
ティムが一歩ずつ男に近付いてくる。
来るなああぁぁ!!
目の前の出来事が、まるでスローモーションのように見えた。
突然、男は人質の女性を突き飛ばし、刃物を腹の前で握り締めて、ティムに向かって走り出した。
ティムは、目を見開いたまま固まっている。
「ティムーっ!!!」
くそっ!間に合ってくれええぇぇ!!
「ティムっ!!」
俺が男の前に出て、ティムを抱き締めた瞬間、脇腹に鋭い痛みが走った。
グサっ!!
「ぐうっ⋯うぅぅぅ」
「ブラント様っ!?ブラント様ああぁぁ!!」
「ブラント!!大丈夫か!!??」
「「「きゃああぁぁーーーー!!!」」」
ティムの俺の名前を呼ぶ、悲痛な声が聞こえる。
オーギュの俺の脇腹に刺さるナイフと傷の具合を探る手が、震えているのが分かる。
野次馬の叫び声と共に、男になだれ込む騎士団員達の足音が聞こえた。
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