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第4章 女装潜入警官、再び

32: 快楽の蓮華座、苦痛の蓮華座 (1)

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「トバシの件どうします?」
「奴はこれ以上、潜らせたくないな、、」
「でも、トバシはいう事をきかんでしょう、今はトバシを止める方が大変だ。それに、奴の身体は奴のものですからね。」
「喉黒、、君は子どもがいるか?」
「申し訳ありません、いてもいなくても、答えは同じです、おわかりの筈でしょう?でもこれだけは言えます。皆、貴方について行きますよ。」

「そうか、、、。君の方はどうだ?」
「蓮華座が、手強いですね。」
「依存性のないスーパー麻薬か、、依存性がない事が最高の依存を産むんだがな。雲上人の皆さんには、それが判らないと見える。」
「暴力と蓮華座を使っての覇権。右手にコーラン、左手に剣ですな。いや、あれは勝手に欧米人が付けたイメージとも言われれるそうですが、今の美馬の勢いを現すにはピッタリだ。」
「今思えば、最初に戸橋が潜入した頃の美馬に対する私の読み違えが悔やまれるよ。奴は、反社会的勢力のサラブレッドみたいな人物だと思っていた。大きくはなるだろうが、やることはスマートでクール、故に血を見るとことが少ない、頭脳戦が主。奴と渡り合うことになっても、そんな感じになるだろうとね。」
「確かに美馬の経歴を見ると、そんな感じですね。私の調べによると、奴が自分の下の名前を改名した辺りで、奴に何か決定的な変化があったようです。」
「たしか神覇だったな、、、普通の感覚で付けられる名じゃないな。しかし美馬は、蓮華座をどうやって手に入れたんだろうな?」

「現在の調査では、美馬は門戸照人という人間に繋がっていて、その伝手を辿って東南アジアに渡り、独自に蓮華座を入手する事に成功したのではないかと推測されます。詳しくは御白羅巡査部長が警部に報告を上げると思います。」
「そっちは、御白羅がやっているのか、だとすると相当、危険なんだな。」
「ええ、美馬は例の殺し屋ビジネス以外は、我々を挑発するかのように、奴が関わっている全ての灰色ビジネスを、おおっぴらに展開し始めていますからね。その様子は、まるで既存の全ての事柄に反逆を挑んでいるような感じさえします。」

「国家権力相手に、喧嘩をしかけるか、、」
 私は自分の過去を思い出し、微かな胸の痛みを覚えた。
 いや勘違いするな、悪党はどこまで行っても悪党に過ぎない。
 それも私は過去に学んだ筈だ。
「、、その国家権力の幾つかを、奴は蓮華座を使いながら、うまく取り込んでいます。」
「早く6係の昇格を急がないとな。他の部署が美馬を意識し出す頃には、もう手遅れかもしれん。放っておくと、この前やっと潰した広域暴力団以上の存在になるかも知れん。この国の組織は、一旦、欲得に食い込まれると、自浄が効かんからな。増員だけは、目処が付きそうだが、、。」



 その日、戸橋は丑虎巡査部長と組んで仕事をしていた。
 本来なら仕事を整理して美馬の元に潜る準備を全力でしなければならない時期だったが、どうしても「引き継ぎ」をしておかなければならない事案もあるのだ。
 例えば、張り込みで相手の面を割る仕事において、出回っている情報と本人とは違う場合など、色々なケースがある。
 これは写真では出来ない。
 張り込みを続ける車の中で、戸橋はある事を思いついた。
 それはこの機会に、丑虎巡査部長が指尻ゑ梨花女史に抱いている信仰心のようなものを打ち砕いておく事だった。
 二人のプロファイリング能力は、戸橋知る限りでは警察内の最高レベルであり双璧をなすと思えるのだが、一方が一方の能力を崇拝しているようでは、その力が止揚される事はない。
 二人とも6係にとっては大切な戦力だったから、そんな情況を放置しておくことは出来ないと思ったのだ。
 戸橋の考える6係は、全てにおいて「最強」である事が理想だった。

 それに戸橋は丑虎巡査部長と一緒にいると、何故か無性にこの先輩をからかいたくなるのだ。
 それは上司を馬鹿にしてというものではなく、少し間の抜けた愛すべき性格の兄に、利発な弟が絡んでいくというスタイルの有り様だった。
 任務上の事であれば全てをオープンにする6係内のルールに従って、丑虎巡査部長は戸橋が再び女装潜入を始める事は知っていたし、その為に指尻ゑ梨花女史が協力している事も知っていた。
 ただその具体的な状況までは知らない。
 戸橋は、それを利用するつもりでいた。
 戸橋は6係のネゴシエイターとも呼ばれている喉黒警部補から、「お前は交渉人の方が向いている。潜入は止めて、そっちに舵を切れ」と常々言われている程だから、自分の口が立つのは理解していた。
 その口で、気の良いこの兄貴を、「一皮剥いてやろう」と考えていたのだ。
 今日の残務整理など一瞬で終わる。むしろ今後の6係の事を考えると、そちらの方が重要だと。

「今、ゑ梨花さんと一緒に色々なトレーニングをしてるんですよね。そうそう、この前、ゑ梨花さんが淫語で男を責めまくる痴女をやるのを見せてもらったんだけど、ものすごく似合ってたなぁ。まあ、これは俺の趣味ってか、趣向なんだけど、男にしろ女にしろ『責め』は、責める側が『めんどくさそうに』とか『だるそうに』責め続けるほうがグッと来ますよね。責めるほうがやる気まんまんだと、なんかリアルさを感じないんだよね。責められる側の性癖に応えて、こっちが付き合ってやっているというスタンスのほうが、相手との関係性に、はっきり優劣がついているように見える。そう思いません?」
「、、判らんな。」
 丑虎巡査部長は、むっつりと不機嫌そうに答える。
 内容が指尻ゑ梨花女史の話題でなければ、そんな事に興味はないと、はねつける所だが、そうはいかないようだ。

「で、何が合ってるなぁって思う根拠なのかと言うと、ゑ梨花さんの長身ぶりと低音ボイスなんすよね。ゑ梨花さんは男としちゃ、そんなに背は高くないけど、女性だとかなり高身長ですよね。長身はそれだけで、相手を『見下す』という関係を映えさせるし、ゑ梨花さんが演技してる時の低音ボイスって、とにかくけだるいから、『だるそうに相手を責める』というのにもってこいなわけですよ。淫語で男を責めるテクニックって、言葉を発するのがメインだから、余計にけだるさ全開、低音ボイスが映えるんだよね。絶対的に君臨する美しい『上位の女』が、発するものすごくけだるい下品な命令・・・このギャップに酔いしれたいって思う男が結構いるんですよ。俺、今まで、お嬢ちゃんばっかだったから、勉強になってるんだ。」
 丑虎巡査部長の沈黙が続く。

「思い出しますよ。街で釣り上げて、ホテルの椅子に固定されたM男の前に現れた、白いパンツスーツに身を包んだ凛々しいゑ梨花さん。先輩に見せたかったすよ。ゑ梨花さん、開口一番、『ねえ、汁溜めてきたの?臭いわよ?』ですよ。けだるい調子で、最初から強烈な言葉で先制攻撃して、それからゆったりと相手をいたぶるわけですよ。」
 丑虎巡査部長の瞼の端がピクピクと痙攣する。
 6係の刑事達は、全員ハードスケジュールで疲れ切っているが、丑虎巡査部長の痙攣はそのせいではないだろう。

「男の体を優しくまさぐったかと思いきや、いきなり長い爪を立てて男の体を引っ掻き回したんだ。『触ってほしいんでしょ。どこを?』って責め立てながら、男がおずおずと『・・・チンチンを』と言ったら、ゑ梨花さんが『違う、くっさいチンポでしょ』って、訂正を求めるんだよな。これ普通の女性がやったら、ぶっ飛ばさますよね。」
 戸橋巡査が少し乾いた笑いを短く入れた。

「ゑ梨花さんが『こんなフニャフニャなチンポ触れないわ、自分で触りなさい』って、男に自分で無理やりチンチンを触らせるんだけど、その男、横で見てても動きが、とろいんすよ。で、あまりにも動きが鈍いM男に業をにやして、ゑ梨花さん、足で股間を蹴りつけるんだ。それも半分、本気ですよ。どこであんなスィッチはいるんだろうなー?ああ、あん時のゑ梨花さん、ホント、女王様っぽかったなあ。ここでゑ梨花さん、タバコを取り出してさ、プカーっって吸いながら『早くそれ大きくしないと、帰るわよ』って相手に冷ややかに言うんだ。自分で釣り上げておいてさ。無茶苦茶だよなー。男がせんずりでチンチンを大きくすると、それに唾を乱暴に吐きかけて、ゆったりとしごきはじめるんだ。」
 戸橋巡査は、目が泳ぎ始めている丑虎巡査部長の表情を見ながら先を続けた。

「だんだん強いシゴキに変わっていって、男が声を漏らし始めると『ガマンしなさい』って、またシゴキの手を緩めるわけ。緩やかに、けだるくチンチンをしごきながら、ゑ梨花さんは女装した俺を、こんな風に呼びつけるんですよ。『これ、私のペットの女装子。私が見ててあげるから、この子に気持ちよくしてもらいなさいよ』ってね。俺が奴のチンチンをしごき始めると、それをせせら笑いながら、『結局、男の手でも気持ちいいんでしょ。ほんとヘンタイね』ってタバコを悠然とくわえながら、男のチンチンが大きくなる様を冷ややかに見守ってるんすよ。」
「お、お前、そんな事までやってるのか?」
「何、今更の事言ってるんです、先輩。先輩、俺の今までの潜入捜査のこと知ってるんでしょ?」
「・・あ、ああ。」
 もちろん、丑虎巡査部長は、その事を充分承知していた。
 ただしそれはあくまでも知識の話だ。
 今は、それが自分の信奉する指尻ゑ梨花女史の息づかいの中で、現実味を帯び始めている。

「タバコを投げ捨てて、これがまた、女ボス感たっぷりでカッコいい仕草なんだよなー。俺の手を退けると、気まぐれに唾を吐いて又、ゑ梨花さんは、男のチンチンをしごき倒すんだ。チンチンを大きくした後に、又、俺ににしごかせて、M男に『男の手で感じちゃって、ごめんなさいって言いなさい』って強要するんすよ。見事に謝らせますよ。ホント、体に爪を立てながら、けだるく見つめて、俺の手で十分大きくなったところで交代して、猛烈シゴキ。凄いよなー。乳首や陰毛を引っ張りながら『ほら、いけ。出したいんでしょ』というんだけど、俺も負けてられないから、割り込んで激しい手コキ攻撃するんすよ。で男がイキそうになったところでゑ梨花さんが俺に完全交代して、俺の手コキでM男が射精。」
 又、戸橋巡査がその場面を思い出したのか、短く笑う。
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