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第6章 第6特殊犯捜査・第6係の本気

54: ビザランティスの世界 (3)

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 アントワネットは、犬の交尾スタイルで背後から貫かれていた。 
 真紅のランジェリーの短い裾はまくり上げられ、両方の肩紐は抜かれてしまい、赤い薄布が腹部にまとわりついているだけのあられもない格好になってしまっている。 
 大勢の観客が見つめている前で、肛門性交を強いられる屈辱は想像していたよりも激烈だった。
 自分がホモセクシュアルならまだしも救いはある。
 だが、アントワネットは、男どうしの性交が好きなのではない。
 あまりにもおぞましくてアブノーマルだから、その道に足を踏み入れてしまっただけのことだ。
 男色淫行の女役をさせられると、こんな生き恥を晒して……と強迫観念のように苛まれるのだ。
 そして、苛まれていることが、火花を散らすような昂奮を沸き立たせる……。 
 
 ゑ梨花が思うに、肛門性交はその糜爛した辱めを受容しなければならない心理的側面を考慮しなければ、肛門拡張訓練によって、容易いとはいわないまでも、それほど難事ではない。
 実際、若い男の子や女の子の中には、これをいともたやすく実行する子達もいる。
 肛門環管のキャパを大きくして勃起したペニスを受け入れられるようにしてやればいいだけのことなのだ。 
 そしてもう数え切れないぐらいの回数のアナルセックスをこなしてきたアントワネットさんにとっては、硬い肉棒で肛壁襞膜を擦り上げられるのが、直接的な快感につながるのではない、のは自明の理だ。 
 アントワネットさんの場合は、その肉と肉との接触摩擦は副次的な刺激であって、愛情も何もない他人の男に尻穴を掘られて、自分の体が単に変態的な性欲処理のために使われていると思うと、暗い色彩に彩られた快感にのたうちまわってしまうのだ。 

 衆人環視の中でアナル性交を強いられる被虐恍惚の上に、新たな要因が加味されているのを、アントワネットさんは発見していた。 
 それは、今回が、年下の男との初めての性行為だという事に繋がっている。 
 今までは、皆、アントワネットさんよりはるかに年上のエロおやじが相手だったのだ。 
 自分の排泄器に生刺しされているペニスからは、若い牡の逞しさがひしひしと触感できる。 
 全身の汗腺から粘つく汗が噴き出してくる……。 
 自分よりもひとまわりも年下の男に犯されて弄ばれる屈辱は、こんなにもショッキングだったとは……。  
 苦悶と喜悦……というより、屈辱から湧き出す苦悶ゆえの喜悦と言えばいいのか……。 
 アントワネットさんは、烈しい尻穴嬲犯に悶え啼いていた。 


 アントワネットが、濃いメイク顔を歪めている表情は栗色にヘアダイした長い髪に被われてしまっている。
 舞台はゆっくりと回転し、女装中年男が弄犯される奇矯な見世物はあらゆる角度から観客たちの目に晒されている。
 幸いにも醜悪に歪んだ顔面は見られないですむ、とアントワネットは思った。 
 そんな中、アントワネットの肛門性器を抉り抜くような猛烈なピストン強犯が、不意に中断したかと思うと、若い男はアントワネットの背中に覆いかぶさってきた。
 背中に若い筋肉質の胸板が密着する。 
 そして、両側から男の手が伸びてきて、整形巨乳を、ぎゅっ、と握り絞られる。

 ああんうっ! 
 アントワネットは思わずのけぞって切ない喘ぎを発してしまった。 
 ……そうなのだ、自分は単なる女装オカマではないのだ。
 豊満な乳房まで造って偽女になり、男に凌辱される我が身の堕ちぶりを実感する瞬間だ。  
 アントワネットは決して小柄ではないが、背後から串刺しにされて、乳房を乱暴に揉みしだかれていると、自分がひどく矮小になってしまったような気分になる。 
 ……これが女装娼婦として男に屈服することなのだ、そう思えば思うほど、狂おしい快感が満身を駆けめぐり、アントワネットは肥満気味の白い体を波打たせて身悶えてしまうのだった。 

 「今からチンチンを抜くからな、素早く体の向きを変えてオレのチンチンを舐めるんだぞ」 と、男が耳元で囁いた。 
 高圧的な命令口調だ。 
 「わかったな?」 と念を押されると同時に、ぎゅっ、と乳房を揉み捻られて、アントワネットは歯を喰いしばって何度も頷いた。 
 
 命令は命令だ。 
 男の身体が離れ、肛穴を貫いていたペニス棒が抜去されると、すぐさま、アントワネットは身をひるがえして男の前に膝をついた。
 男の責め具はそそり立ち、亀頭はぬらぬらと光って湯気をたてているように見える。
 肛門性愛に必需の潤滑ローションで濡れているのだが、まるで自分の体が分泌した淫蜜に濡れそぼって輝いているような錯覚にとらわれる。
 言われたとおりに、アントワネットは再び、男の勃立ペニスを口淫しはじめた。 
 つい今まで、自分の排泄孔に嵌入されていた肉棒だ。
 汚穢感が脳裡をかすめる……。 
 惨めさがつのる……。 
 嬲られ虐げられて、アントワネットはますます惨めになり、その降落に反比例して得体の知れない昂揚感が湧いてくるのだ。

「よし、次はパイズリしてみろや」 
 頭の上のほうから声がして、アントワネットがちらりと見上げると、そこに蔑んだ眼差しが投げかけられた。 
 こんな若造に安淫売扱いされている……。 
 わずかに残っているプライドが粉々に砕かれてしまう、そして、まさに、それがアントワネットの望んでいたことなのだ。 

 アントワネットは膝立ちになって、豊胸手術でふくらませたふたつの乳房の谷間に男の陽根を挟みこみ、両側から手の平で押さえつけて摺り上げて摩擦しはじめた。  
 内部にはシリコンだかのパックの詰め物をしているので、大きさは立派だが女の乳房のようなナチュラルな柔らかさはない。
 しかし、豊乳でペニス棒を包み込む愛撫行為が可能な身体を有しているところが、アントワネットの歪んだ快楽をさらに煽り立てるのだ。 
 アントワネットがちらりと見上げると、侮蔑しきった男の目が向けられていた。 
 ……もっと私をバカにしてちょうだい、いい年をして整形乳房まで造ってしまった哀れな中年オカマなんだから……、とアントワネットは自虐に酔い、あごをひいて乳肉の谷間から突き出ている亀頭に舌を這わせはじめた。 
 
 次に求められた体位は、さらにアントワネットを恥じ入らせた。 
 仰向けに寝た男の上から、アントワネットが騎乗するのだ。
 受け身の性交ではなくて積極的に男根を求めなければならない。
 天を向いて雄太にそそり立つ陽根の上からアントワネットはしゃがみこむ。
 男に背を向けた背面騎乗の姿勢だ。
 アントワネットは上体を屈み込め、相手のペニスの幹胴を軽く握って角度を調整する。
 膝を曲げてゆっくりと腰を落として、亀頭が肛門性器にほどよく侵入できるように体勢をととのえる。
 熱く膨らんだ肉棒の先端が肛口に触れると、アントワネットは思わず、ひっ!と悲鳴を発してしまいそうになる。

 菊孔口で肉棍をとらえてしまえば、あとは腰を沈めるだけだ。
 体重を乗せかけて、ずぶぶぶ……、と受貫してゆくのは性的快感のようでもあるし、もっとちがう暗黒の愉楽に見舞われているようでもある。
  アントワネットはたまらずに、んああぁ……、と低く押し殺した喘ぎを洩らせてしまった。 

「……実に気持ち悪い……しかしながら尻穴セックスはヤク中から抜け出せないように、このおっさんを狂わせてしまったのであります……」 
 声だけの司会者の嘲弄の口上が、断片的にアントワネットの耳に入ってくる。 
 ……いい年をしたおっさん……というフレーズが聞こえたとき、アントワネットは嵐のようなエクスタシーに襲われ、あやうく射精しそうになった。
 とっさにペニスを擦り上げる手を止めたのだが、ザーメンがトロッ、とわずかに漏れ出てしまった。
 が、ペニスの勃立はおさまる気配もなく、アントワネットは男の極太の淫棒の被挿入感を存分に味わいながら腰を上下に激しく動かせるのだった。 


 時間が永遠に続くかのように思えた。 
 アントワネットは、こんな惨めで辛いセックスショーの舞台からはやく逃げ出したいと願う気持ちと、こんな晒しものの淫楽地獄がもっと長く続いて欲しいという望みが交錯して困惑を極めていた。 
 背面騎乗の痴態に悶え狂ったアントワネットは、息も絶え絶え状態で布団の上に仰向けに寝かされ、若い男は容赦なく襲いかかってきた。 
 膝裏に逞しい腕を差し入れられて両脚を破廉恥なまでに大きくM字に開かされ、露呈されてしまったアナルにずぶりと嵌め入れられて、アントワネットはのけぞって、ルージュを引いた唇から悲鳴を迸らせた。 
 アントワネット自身のペニスも反り返って、亀頭が腹肉を圧迫している。 

 男はアントワネットを見下していた。 
 まさに上のほうから見下していたのだ。
 うっすらと嗤いを浮かべ、串刺しにした中年オカマを眺め下ろしている。 
 アントワネットは彼と目が合ってしまうと、つけまつげの目をしばたいた。
 どんな表情で対応していいのかわからない。 
 こんな若い男に組み敷かれてしまっている……。 
 こんな若い男の慰みものになって屈服させられてしまっている……。 
 アントワネットの裡に確固として存在していたものが溶融してゆく……。 
 男であることのアイデンティティ、ひとりの人間としての尊厳……。 
 性玩具に堕ちたおっさんオカマ……。 

 身体が発熱したように火照り、脳芯が苛烈にスパークする。 
 アントワネットさんの視界がとらえた男の躰は若さと逞しさに充ち溢れていた。 
 首が太くて肩幅が広くて肩から腕には逞しい筋肉がついていて胸板が厚い。
 自分のぶよぶよの脂肪体と比べて、まさに男の身体だ。 
 彼もまた玉の汗を噴き出していて、胸筋が汗膜で光っている。 
 彼の顎から汗がひとしずく、ふたしずくと滴ってアントワネットの乳房に落ちてくる。
 それも体液の交流であり、アントワネットはぞくり、と快感を覚えてしまうのだった。 

 嘲笑を含んだ顔で、大勢の観客たちが見守る中、男はアントワネットの膝裏をかかえて激烈で容赦のないピストン抜き刺しを加えはじめた。
 アントワネットの肛門輪管は硬肉淫棒の痛撃に襲われ続ける。 
 男は汗みずくになって腰を使い、アントワネットもまた、ぬめりつくような汗が体表に噴出していた。
 男の苛酷な往復摩擦を浴びてアントワネットの人工乳房がゆさゆさと揺れる。
 舞台のために入念に塗り込めた脂粉が溶け出してきている。 

 腰のあたりはジーンと痺れたようになってしまっているが、肛門直腸管は奇妙なまでに敏感になっていた。
 男の灼熱した肉棒に深奥まで貫かれると、ズン、ズン、と体幹を揺るがせて脳髄にまで響いてくる。
 肛門壁の内粘膜を硬立肉棒で擂り上げられるのは辱められる快感なのただ、とアントワネットは今までになく身に沁みて実感してしまう。 
 太ったカエルがひっくり返されたように生白い腹を見せ、鼠蹊部が引き攣るほど両脚を大きく開かされて、若い男の嬲犯を受けながらの事だ。 

 アントワネットは、ある種の恍惚の万華鏡の中を彷徨っていた。
 性行為そのものが快楽なのではない。 
 淫乱の奈落に堕ちてしまった中年オカマ、数年前なら想像を超えていた出来事が、今、我が身に起こっているのだ。 
 アントワネットは、自分の肉体を責め苛む男にキスしてもらいたい、と願った。 
 アントワネットは男が好きなホモではないので、男どうしで接吻するなんて反吐が出そうだ、と思っていた。
 まして、今までは自分よりも年上の男ばかりで入れ歯の口臭や黄色いヤニ汚れの歯に悪寒すら覚えたものだ。 
 だが、今は、こんな若い男にキスしてもらいたい、若いエネルギーが羨ましい、口唇を合わせるだけでなく、ねっとりと舌をからみ合わせて、彼の唾液を啜ってあげる……こうやって組み敷かれて屈従させられてしまっているのだ。 
 そして、ショーは中出し種付けのクライマックスに向かって驀進していった。 

 それは正にビザランティスの世界だった。


 

 
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