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第7章 生者と死者を巡る受難と解放の物語

63: 本当の男の裏の顔  (1)

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「ねえ、蘭府警部補ってどんな人なの?」
「へぇー、ゑ梨花さんでも野次馬ぽい所があるんだ。それとも、蘭府さんってゑ梨花さんの好みのタイプなんですか?」
 珍しく香山微笑花巡査が電話の向こうから絡んできた。
 確かに、仕事もプライベートも他人の余計な事には首を突っ込まないのが、ゑ梨花の身上だった。
 しかしゑ梨花は、蘭府警部補が戸橋の状態を「檻」に例えた事に妙な気がかりを覚えていたのだ。
 「檻」という言葉は、蘭府警部補自身にとっても潜入捜査上の一つの重要な思考パターンの現れの様な気がしたからだ。
 「だから、何んだ?」と問われれば、答えようもなく、それはゑ梨花の精神科医としての純粋な興味だったかも知れない。

 そしてゑ梨花は、蘭府警部補に対して形にならない不安も感じていた。
 それは、いつかこの人物が自分や6係に脅威を感じさせる存在になるのではないかという、おおよそ精神科医らしくない妄想であり、ゑ梨花はその思いを断ち切る為にも、自分の中にある蘭府警部補への拘りを解明しておく必要があった。
 例えば、蘭府警部補が戸橋巡査の潜入に関して、例えで持ち出した「鍵」の話だ。
 「檻」は、心理的な状況と現実の具体的な状況の二つを表すが、「鍵」は心の状態しか表していない。
 そして自分が自分用に作った「鍵」は、常に変化する。
 それは潜入捜査のプロである蘭府警部補にとっても同じ事が言えるだろう。

 『戸橋は自分が鍵を持っていることを忘れて、』と蘭府警部補は表現したが、言い換えれば、それは『鍵が消えてなくなって』とも言える。
 不思議な事ではない。
 なぜなら鍵は実体を持たず、自分が自分の都合の為に勝手に作り上げたイメージなのだから。
 自分が変われば、「鍵」の有様も又、変わってしまうのだ。
 だから指尻ゑ梨花は、戸橋の知らぬ所で彼に「先行潜在暗示」という、指尻製の強力な「鍵」を与えておいてのだが、、。

「いいから、焦らさないで教えて、お願い。」
「蘭府さんって、真澄警部が今回の為に、わざわざ大阪府警に応援を頼んだ人なんですって。潜入捜査のプロ中のプロだそうです。大阪府警の方は、困難な事件専門の応援隊である中央のお偉い特殊事件捜査係様の頭を下げさせたと大喜びで送りだしたそうですよ。」
 微笑花も、蘭府警部補が潜入中にどんな捜査を展開するのか、具体的には知らないようだった。
 まあ、それが「潜入する」という事なのだから、警察内部といえど周囲がそれを知らなくて当然かと、ゑ梨花は思い直した。
「6係が助っ人の要請かぁ、、。真澄警部も随分、我慢したんでしょうね。」
「プライドの問題?それはないと思います。真澄警部は事件を解決する為だったら、仲間を売る事以外なんでもする人ですから。むしろ、それで凹んでいるのは、私達の方です。ゑ梨花さんの代役なら私がやると言ったんですよ。でも、門戸は女装した男が好きだから、お前じゃダメだって言われました。」
「、、やっぱり微笑花、私の代役をかってでたのね。」

 ゑ梨花は、戸橋が門戸への潜入捜査の際、『やれるんなら香山でも自分と同じことをする筈だ』と言っていたのを思い出した。
「だったら、私、偽のおちんちん付けてでもやります、って言ったんだけど。でも結局、それで他から代わりにやって来たのは、普通の男の人でしょう?私なんだか、気分悪くて。」
 ゑ梨花は、微笑花だったら本当に、偽のぺニスを接着剤で股間につけて、自分の代わりをやりかねないとは思った。
 だが、事の成り行きで本番になってしまったら、催眠術を使った意識操作も出来ない彼女では、自分の正体を誤魔化しようがないのだ。
 真澄警部の判断は当然だと思った。
「可愛いこと言うのね、微笑花は。そのオチンチン付けた姿を、今度、私に見せて頂戴。」
 電話の向こうで、微笑花が真っ赤になっているのが判った。



 蘭府は時々、本当の自分が何処にいるのか、判らなくなる事があった。
 蘭府が潜入するために誰かに成りすます時は、その人間の中に部屋を作り、そこに自分が入る。
 そして他から侵入されないように「鍵」をかける。
 そうやって、本当の自分を守るのだ。
 それに失敗した覚えはない。
 自分は上手くやれていると思う。
 ただ、成りすます他人を多く作りすぎた。
 あるいは、彼らの存在をリアルに作りすぎた。
 だから混乱するのだ。
 時々は、作った奴らが一人歩きする時もある。
 記憶が散乱して、どの記憶が誰の記憶だったか判らなくなる事もある。

 39歳、この年になるともう自分を完全に捨てられる。
 男達に性処理として使われることを繰り返される内に、俺は自分から中出しを相手に望むようになっていた。
 自分が何者なのか?もはや自分が人間であるのかさえも分からなくなる程、大勢に掘られ、中出しをされた。
 飲精すれば褒められ、精液を体内に貰える喜びを不特定多数のゲイの種馬達に仕込まれ、そういった喜びを、この19年間脳みそに擦り込まれ続けて来た。
 つまり本当の「男の裏の顔」を知ってしまったのだ。
 そんな男に、一体、人間の何が残るというのだろうか。

 セックスフレンド、多数。
 彼らに俺の身体で勃起してもらえるのが、この世で一番の喜びだ。
 ほんとだよ、バカにされながらしゃぶって、バカにされながら中出しされる、こんな素晴らしい世界はない。
 そしてその世界は、発展場という千幾らの端金で手に入れられるのだ。
 ケツ掘りブランコでは、彼らに好きにさせてやる。
 「どこに出してもいいよ」と言ってやる。
 人気の射精場所は、やはりケツマンコだ。
 発展場は天国だ。
 彼氏がいるってやつも来るし、ケツなら誰でも掘るってプロも来る。

 ただ病気が怖いっていうやつは来ない。
 スポーツメンズで「お前、なんでもいいんだろ?俺のポジ種でどうにかなれよ」って耳打ちを何度もされる。
 ポジ仲間に噂はまわり、俺がポジ種OKだっていうのはもう周知の事実だ。
 スポーツ部屋で俺はこう言われる。
「濃いの溜まってんぜ。お前はイイって、あいつも言ってたし、種付け大好きなんだろ?」
 俺は、こう答える。
「常連兄貴に掘られるんなら、ポジ種OKっす。」
「それに俺なら病気OK、内緒だよ。両親より大事な兄貴のポジ種つけてよ。」

 白バンドの足首が宙に激しく揺れたかと思うと、種をドクドク貰って、「お前、ノリいいな、好きだぜ。」と言って兄貴は、はめながら恍惚の表情を見せる。
 こっちももう、何も考えられない。
 興奮剤も一発入れてきまってるし、こちらからの要求は、ただ「種ください」だ。
 俺は種馬の要求なら、なんでも聞く。
『この人間すら捨てた俺の肉厚のケツは、大人気です、マジです。俺を見て、欲情してください。俺のことは、見下してください。掘りながらギャラリーの汚い親父らに、こいつ誰専なんで、ケツにザーメンやったってくれませんかって、勝手にそこいらの剥げ親父、引っ張りこんでください。お願いします。』
 、、、ケツから聞こえるよ。
 俺だけに聞こえる、ドビュードビューって音が。

「夕方ケツできねえ?発展場いくのもなんだし、お前ん家で、ケツワレ待機できねえ?できたら連れも誘っとくし」
 俺は答えた。
「じゃあ、それまでに○○館でもいって、ケツ晒してこようかな?兄貴と知り合った○○館。ケツ晒した俺のケツマンに生でどぴゅーどぴゅーって中出ししてくれたこと、俺、生涯わすれてませんし。夕方、洗って部屋で待ってます。」
「ほー、助かるわ、便所野郎め!お前なんか、俺のザーメン便器一生やってろ!19時にいく、待ってろ。」
 あと数時間後、俺は中出しされる。
 その兄貴、58歳。
 もう口に何発も貰ってる。
 お連れさんも50代。

「初めまして、俺にザーメンください。いつも公園で精子飲んでます。男子便所で兄貴のチンポ世話させてもらってます。奴隷なんです。ケツマンコにはもう15発中出しされちゃった。ごみと呼んでください、何でもします。」
 ジーッとチャックが開き、待望のチンポが現れると「これです!これなんですよー。昨日、俺、28歳の仮性チンポ臭ったけど、男子トイレで気持ちよくさせました。そうなです。俺、なんでも出来ます。」そう言った。
「俺に、気を使ってるんですか?どうですか?俺の事、気に入ってくださいよ。ザーメンに病気入っていても、かまいませんから。」
 その目の前の50代のちんぽをしゃぶった。
 短髪髭で、もて筋の便器になる。
 他に50代がもう一人、俺の部屋にいる、ザーメンを出すために。

「へへへ、今月は、もっと中出し人数増えるそ。デブもくる。」
 そう思いながら、しゃぶっていると口の中のチンポが膨らむ。
 どびゅーどびゅーと、口内発射を受けた。
 真っ白い白濁液。
「お兄さん、これ、ザーメン。」
 そういって、男に口内を見せてやった。
「うわ~すっげ、やっべぇなあ」
「へへへ、飲んでいいっすか?」と俺は言って、それをゴクンと飲み干した。
 ケツマンの錠も、もう解されている。
 ぬるっとチンポが入ってきて、中でズルズル動き回る。
 この新規の50代を煽ってリピーターにしたい俺。

「生でやってしまってます。生です。ほら生が気持ちいい。しゃぶらせて!」
 いったばかりのチンポをレロレロしゃぶりながら、メールを打ち、今来たメールを見た。
 そこには「ザーメンつけてえ、時間あるか?」「初めまして、太っているけどいいかな?」などなど。
 その返信には、「俺がしゃぶります。責任もって飲みます。ごっくんします。不特定多数受ける奴は、引きますか?」と入れる。
 「お前、さすが便所やな。俺の処理せえや。」の返事。

 スポーツメンズの4Fで兄貴に掘られてる時、壁に押し付けられ背後位からズバンズバンやられていた。
「もういきそうだぜ。お前、あんま見かけないな。俺の濃い種つけていいか?」
「未検査ですか?」
 兄貴は、こういった。
「はあ?完全にポジってるに決まってるやろ。新しい世界みしたるからな!」
 ドクンドクン。
 終わったあと捨てられる前に、「兄貴の性処理します。メアドくれればザーメンもらいます。俺、ケツマンに・・・中出しされまくってるから安心して、へへへ。」と言う。

 いつの間にか側にいた中年が、そんな俺らの一部始終を見ていた。
 なので、すぐさまその中年に、「俺のケツで良ければ入れていいっすよ。今年、中出し200発いきそうねんで。発展場くるたび、5人5発中出しとか。」とモーションをかける。
 で、しゃがんで、うつろに興奮剤で決まった顔で、中年のチンポをじゅぼーじゅぼーっとしゃぶった。
 程なく中年が、被さってくる。
 中年が俺のケツを犯す音が聞こえた。
 俺は生チンポが与えられさえすれば、病気も恐れないし、その姿を友達に見られても怖くない。
 家族よりも大事な、不特定達とする生便所交尾。

「メアド教えたら、ザーメンくれる?」
 掘られながら中年にいう。
 中年男は射精のとき「おおうおおう」といい、俺も「あああったけ~ザーメンあったけえ~3発目あったけ~」と返した。
 結局、中年男はメアドを聞いてきて、その中年とは長く続く事になった。
 まあ俺の情報屋、件、彼氏だ。
 直接、任務とは関係がなくても、こういった人脈や、積み重ねは潜入に絶対必要なのだ。



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