篠辺のお狐様

梁瀬

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式神 1 知識

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 師走の半ばのなると、人の心も気忙しくなり隙も出来て、人ならざる者達の往来が増える。境内は狐と狼の目が届くので、心配は要らないが、この時期は用心に越した事はない。
 だからと言って、神主や巫女が見回りする時間などない。そんな時は式神達の出番じゃ。
今でこそ数人の式神達を使えるようになったが、最初は一人の式神ですら持て余しておった。

 左京の式神は二人おる。左京の使いは皆、獣の名を持っておる。
以前にも名だけは言ったと思うが、最初は猿豆さるまめ、次が鴉山椒からすさんしょうで、獣の名から想像出来る、特性や性格を持っておる。

 夕霧の式神も二人じゃ。夕霧の使いは皆、果実の名を持っておる。
これまた以前に名だけ言ったが、最初は柚子ゆず、次はあんずじゃ。こちらは見て納得というような分かりの良いものではないが、やはり果実の様や味から想像できる、特性や性格を持っておる。

 十五歳で篠辺に来て、実践的に多くの事を見聞きし、学び、身につけてきたが、その頃は狐から見ても、気で持っているとしか思えんかった。半年は仕事と生きる為に必要な最低限度の事以外出来ず、全く余裕がなかったが、そろそろ一年になろうという頃になって、日常の七から八割をこなし、少しは余裕が出来たように見えた故、二年目からは式神を使わせてみる事にしたんじゃ。
 正直、こんなに早くから使えるものではない事は、狐が一番分かっておる。じゃが、使いこなすまでに時間が掛かるじゃろうと思うておったし、少しでも使えれば、食事の仕度を任せたり、怪異に携わる時も手助けになると思うて、身近において早く意思の疎通が量れればと考えたんじゃ。
 あやつらを見てきて、勘の良さと呑み込みの早さは驚きに値する。故に、初めてとはいえ、半年で式神を八割使えれば上出来じゃと読んでおった。

 桜も終わり、木々の緑も濃くなる頃、あやつらに式神を持ってみぬかと問うてみた。
じゃが、好奇心の塊のような二人が、珍しく黙っておって、その姿が気味悪くて、狐は思わず、
【弱気よのぉ。此処に来てから日も浅い故、早過ぎるとは思うておったが、やはり無理じゃったかのぉ…。】
 そう言って、あやつらの負けず嫌いの性分をくすぐってみたが、手応えがない。
さすがに、過度の期待じゃったかと思うた頃、左京が
「式神は知識でしかなくて、見た事も、どのようなものかも分からず、正直、想像も出来ないんです。式神についてと、式神の使い方というか、使う側の知識や心得を教えて頂けませんか?」
「私も左京さんと一緒で知識のみで戸惑いがあります。」
 
 こやつらの一年が、これ程までに成長させたかと驚きと共に、狐は嬉しくもあった。
以前なら好奇心で飛びついてみたり、負けず嫌いな性分故、けしかければ容易くのってきたが、経験と落ち着き、冷静さと知識を持ち合わせておらぬ者は痛い目を見る事を知り、この狐に教えを乞う思慮深さまで身に付けおった。

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