篠辺のお狐様

梁瀬

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 篠辺神社と東雲神社の神主と巫女を探す日は、境内に無数の老若男女が集う。
何と言うか、雑然とした雰囲気じゃ。
 その中に資質の備わった者がいるかを探すのは、容易な事じゃ。
大半は備わっておらんからのぉ。

 神主と巫女希望の者共に、それぞれの神社の鳥居から境内へと歩かせる。
その際、双方から数人で歩かせ、私語は厳禁とする。
 門には狐か犬が鎮座しておる故、門が見えれば狐か犬も見える。
驚き歩みを止めるもの。凝視するもの。慌てて目をそらすもの。
 その様子に何かあるのかと、目を凝らす者。いぶかしがる者。
見慣れている者は体が触れぬように避けて通る。
 場合によっては、見たものを恐れて引き返す者もおる。
残念じゃが、多くの者が視線も合わず、狐が鎮座しておる所を、気にも留めずにズカズカと通り抜ける。

 狐か犬を見る事が出来た様子の者には、〝松の木の側で待て〟と伝える。
境内に上がった所で、松の木の側に居った者のみ、引き続き残し、他の者は、その場で帰らせる。
 見えたとしても、誰も居らぬ事も多いがのぉ。
ただ歩かされただけで、既に資質を見抜かれておるとは思わず、困惑したり、抗議する者もおる。
 その際、巫女達が〝主祭神を踏みつけて来た事にお気付きですか?〟と問うと、大抵は黙って帰る。
 
 その後は、拝殿を背に横へ並ばせ、声には出さずに名乗らせる。
狐と犬の両方に聞こえたならば、〝名を呼ばれた者は、その場で一歩下がり座れ。〟
 その場にて名を呼ばれなかった者は、下がり座った者を振り返り、見下ろしながら立ち去る事になる。
 座った者は、一応、狐と犬との日常会話には困らんじゃろう。

 これを何度やっても独りも残らない時は、この神社も仕舞いかと見切りを付け、断念しそうになるものじゃ。

 最近では、資格を持たぬ者、年齢に満たない者、いわゆる異国の血が入っておる者など、様々な者が集まるようになった。
 門戸を開いたと言えば聞こえは良いが、枠を取り払わなければならなかったというのが、実情じゃ。
 狐にしても、犬にしても、資格も、年齢も、血筋も、正直どうでも良い事じゃ。
先ずは、資質がなければ話にならん。
 後は、やってみて続けられそうか否かは、更にその先の話しじゃ。

 神主も巫女も、思っていたより地味で、雑用が多く、此処は休みも少ない。
仕事に馴染めなかったのか、仕事の相方に馴染めなかったのか、主祭神と反りが合わなかったのかは知らんが、こっそりと出て行く者も多い。
 此処で仕事をした事があれば分かりそうなものじゃが、誰にも気付かれず、こっそりとは出て行けぬ。
 どちらかの神社は開いておるし、狐も犬も睡眠など無縁じゃ。
更に、神社の敷地内なら大抵の事は見ずとも分かる。気の毒故、気付かぬ振りはしてやるが、こっそりは難しかろう。

 思い詰めておれば、狐にも犬にも、心の声を隠そうとしても漏れ聞こえてくる。
その場合の多くは、引き止めたりはせぬ。
 資質を備えたものを探す方が、時間が掛かり大変故、その準備に取り掛かる事の方が肝要じゃ。

 この二つの神社の存続は、神主と巫女の人材確保が出来なくなれば仕舞いじゃ。

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