篠辺のお狐様

梁瀬

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猿豆の独り言

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 篠辺で行われている通常の実戦練習は、東雲が開門している昼間に、裏山で行なわ
れる事が多い。式神達の練習と周囲の警戒も兼ねている。
 今までは、1対1から4対1の対戦形式で、それぞれの得意技や新たに習得した技
の精度を上げる事を目的とし、基本的にオレが指導している。
その間に何かあってはならないので、篠辺庵周辺の警護は、柚子独りで熟している。
 
 今回のような両神社の式神が揃っての、合同練習を行うのも初めての事だが、実戦
練習に柚子が参加し、さらに指導する事も今までになかった事だ。
 少し前までは東雲に式神は居なかったし、いくら篠辺の式神達の技術向上を目的と
していても、主たちを守る為なのに、そこをないがしろにしては本末転倒だ。
 外の巡回警備、境内の巡回警備、技術向上の指導も含め、柚子と交替でする事も
出来たが、オレが引き受ける事にした。
 
 実戦練習の前に、銀木犀と木通に話した過去の失敗は、オレと柚子の中では今でも
大きなトラウマになっている。
 あの時、全身打撲し痣だらけになった左京さんは、何とか日常生活が出来るという
だけで、決して体に負担がない状態ではなかった。だが、神主の替りが居るわけでは
ないし、仕事を休む訳にもいかない。

 オレが左京さんの式神になる時、サポートと尻拭いをして貰う事になると言われ、
同時に〝仲間や家族になって欲しい〟と願われた。
 オレには、その時どういうものか分からなかったが、なりたいと思った。
オレが初めて〝夢〟を抱いた瞬間でもあった。
 それから言葉や意思疎通が出来るようになるまで、本当にずっと一緒に過した。
その時間を過ごしたからこそ、仲間や家族という意味や、心の繋がり、信頼関係、
絆という見えないものを、実感させて貰った。
 それなのにオレは、大切で大事な家族を…危険にさらした。
命に関わる事にならなかったのが救いだったが、オレ達にやり直しも次もない。

 そういう中で、左京さんの仕事量を少しでも減らせるように、オレが今出来る事は
教えて貰って全てやった。
 例えば…庵で行なっている日常の掃除や洗濯、食事の仕度、仕事でカバー出来る事
も含め、今まで左京さんが抱えていた仕事を、オレに分担して貰った。

 正直、上手く出来ない事も多かった。仕事の分担は問題なかったが、日常の細々こまごま
した事が難しかった。特に料理は、教えられたレシピ通りに調味料を入れるので、
味には問題ないが、見た目が同じようにはいかなかった。
 篠辺庵の日常生活は、主の部屋と洗濯以外は、夕霧さんと共通の仕事だった為、
オレが上手く出来なくても、柚子が無難にこなしてくれた為、任せる事にした。

 その代わり、オレは巡回や警護といった仕事を、一手に任せて貰った。
決して柚子が、その手の仕事が苦手だったとか、そういう事ではない。
 ただ、夕霧さんの腕が日に日に悪化していった事で、出来るだけ側に居たいという
柚子の気持ちが痛いほど伝わって来た。

 夕霧さんのケガは、傷口の消毒と手当ては出来たが、普通の傷ではなかった為、
大神様に診て頂いたところ、加療かりょうが必要という事だった。
 完治するまで、ゆっくりと時間を掛けて、何回も処置を行っていかなければ、患部
から硬化して、いずれ動かす事が出来なくなるかも知れない…というものだった。

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