《完結済》優しい悪魔の作り方 R18

吉瀬

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《R-18》29 夫婦喧嘩《R-18》

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 にこにことプテラ一座を見送るリードさんに、エウディさんは「残念だったわね」と声をかけた。

「何がですか?」
「ナンパ失敗したじゃない」
「ナンパじゃないんですってば」
「じゃあ、何よ?」
「んー、なんか分かんないけど言いたくなったって感じです」

 それから、彼は私に向かって「サヤの友達いいね」と言った。確かに私も同じ様に思う。
 フィフィさんは友達を作るのは難しいかもしれないけど、組織のボスとしては魅力的だと思った。知名度が高いのはその構成メンバーの質と数が良いからだし。

「ところでサヤ、何か不思議なものでも見えましたか?」
「え、あ、そうだ!見えました!」

 言われて、リードさんのナンパのインパクトで霞んでいた先程の映像を報告した。

「それにしてもどうして分かったんですか?」
「サヤの様子を見て、ですね。それと、準神族で千里眼を持つ女性が現れると聞いたことがあったので」
「千里眼って、アルバートさんみたい」
「いや、アルの力は優れた情報収集力と洞察力、それと推理力でなされているものですが、あなたのは違います。実際に見えているんですよ」
「まさか……」
「ですから、理解できない出来事も見る事ができます。ただ、あまりに突飛だとよく分からず記憶もできないかもしれませんが」

 なんだか、凄い能力、かも。

「今後は上手く使えるように訓練しながら、そうですね、他の能力を探ったり、護身のための訓練もしていかなくては……、もちろん、そのためには体調を整えるのが先決ですね」

 体調は多分もう大丈夫だと思ったけど、やはりクロノさんからはオッケーは出なかった。

 夜になるとやはりクロノさんの幻影が私の元に現れた。薬は一週間は連用し、その後は二日おきを数日、体調を見ながらその後頻度を減らして、最後は月一で耐性を保っていく。ただし、アルバートさんが戻られると恐らく代謝酵素は誘導され続けるため、月一もいらなくなるかもしれないとの事。
 回数を重ねる毎に段々とあれやこれやされる事に慣れていくし、むしろ心地よさを感じる様になってきた。緊張感さえ無くなれば、自己肯定感アップマッサージである。愛している、も、可愛い、も自分が創り出した幻聴である恥ずかしささえ無くなればある意味無敵ワードだ。
 それに、薬の辛さも薄れて来ていて、確実に自分に耐性が付いている実感があった。

 そのくらいの時間が経ったのに、アルバートさんはまだ帰ってこなかった。クロノさんの幻に抱かれながら、アルバートさんの事を思い、それでも幻影がアルバートさんに変わる事は無かった。私にとってアルバートさんは何だろう。クロノさんは何だろう。エウディさんは?リードさんは?みんなの事は好きだと思う。なのにその好き全部は違う。でも、それぞれの感情に相応しい名前を付けられなかった。

 船での仕事は軽いディモルの捕縛程度に限定し、賭博場にはクロノさんとリードさんの二人で出稼ぎ、私とエウディさんは留守番という毎日だった。

 そんな生活が続いたある日の夜、気がつくと誰も周りに居なかった。何となく不穏に感じて、大部屋やシャワー室、操舵室にキッチン、倉庫も見たけれどやはり誰もいない。

「あれ?みんな、どこ?」
「ここ、ここ!」

 先日ようやくおしゃべり禁止シールを外してもらえたリードさんが、クロノさんの部屋の前で小さい声で呼んでいる。

「何をなされてるのですか?」
「クロノさんとねぇさんが喧嘩してるんだ。でも声はほとんど聞こえなくてさ。でも、凄く険悪なかんじで入って行った」

 心細そうにしているリードさんに詳しく聞くと、エウディさんが滞在する様になってから時、々私の知らない所で喧嘩はよくしていたらしい。そして、今日はいつになく激しく、そのまま部屋に二人で篭った様だ。

 二人は夫婦だけど、少し特殊。利害関係と言っていたから少しの行き違いで別れたりは無いけれど、逆に利害関係が破綻してしまうと別れてしまうかもしれない。やはり心配だな、と思ってクロノさんの部屋を見ると視界がひらけた。

 こんな事はいけない、とは分かっている。でも知りたい感情の方が強いと消せないらしい。音は聞こえず、光景は鮮明だ。クロノさんの部屋にクロノさんがいる。その向かい、多分ベッドにエウディさんは腰掛けていると思われるけど、不思議な事に彼の顔は見えない。音声もやはり拾えなかった。
 クロノさんは……感情を露わにしてエウディさんと言い争っている?とても傷ついていて、苦しそうで、そして怒りが溢れていた。
 その顔が、もっと辛そうになって、側にエウディさんが……やはり顔は見えないけど、近づいていく。エウディさんは女性に変身している様でシルエットは随分華奢になった。彼女は、目を逸らそうとしているクロノさんの顔に触れて優しく目線を合わせている。
 仲直り、できるかな?そう思った瞬間、クロノさんの表情が大きく変化した。

 愛しい。そして、切なくて、辛い。

 愛を渇望したそんな表情が見て取れて、アルバートさんが言っていたのは本当だと分かった。そのまま二人がベッドに倒れこむ様になったので、慌てて目を瞑ると視界は閉じた。良かった……。

「サヤ、見えた?」
「あ、うん、多分、大丈夫、だよ」

 流石に詳細は話せないし、多少のショックもあって私はそのまま部屋に戻った。
 エウディさんは利害関係って言ってたけど、全然そんなこと無い。クロノさんは……エウディさんの事が好き、なんだ。彼を思って私もなんだか切なくなった。

 今日も香水を飲む日だ。水に溶いて私は飲み干した。

――――――――――――――――――――――――――

「サヤ?」

 気がつくと部屋の中にクロノさんが居た。薬を飲んだのに、いつもの幻覚が来る前に寝てしまっていた。一度寝ても律儀に幻覚はやって来るらしい。

 どくっと辛さの波が来るのが分かったので、いつも通りクロノさんに両手を差し出す。

「ぎゅって、して?」

 クロノさんの表情がさっき見たあの切なげな表情になった。

「サヤ、私は……」

 クロノさんの幻覚もアップデートされてるらしい。いつもと違う反応を気にせずにキスをすると、温かな手に包まれながら深く口づけを返された。

 何か、いつもと違う?

 彼の表情は緊張が潜んでいて、なんだか余裕がなさそうな、それでいて泣きそうになりながら私はを求めていた。

 流れはいつもと変わらないのに、まるでさっきの続きを体感してるよう……、もしかして、私の見たいという欲求が続きを感じさせてる?

「ク、クロノさん?」
「クロノ、と」
「クロノ?」

 彼はいつもと違った。いつもなら、私を抱きしめるようにして、ベッドで甘やかせてくれるが、今日は私をベッドに残したままでベッドには上がらない。そして、彼は離れた。

「どこへ……?」

 幻に問うのは意味がない。けど、幻になぜか見えない。上半身を起こすと、彼は私の目を見たまま切なそうにかしずいた。

「ここにおります。お側に」

 デジャヴ?何か、似た光景を私は知っている?

「っ!」

 血がたぎる発作が来た。苦しみに襲われて、彼に抱いてもらえるようお願いしようとした。でも、その前に足からのゾクゾク感が発作を駆逐し、甘い重だるさに変わった。

 ぺちゃ

 彼は傅いたままわたしの足を舐めている……?

「え?そこはちょっと、汚いです!」
「お慰め致します。発作は止まりましたか?」
「それはっ、そう、だけど」

 足の指、指と指の間、それに、爪。丁寧に丁寧に、丸で大切な宝物を清めるように舐め取られて、私の下腹部はきゅんと震えた。
 甘い重だるさは溜まっていって、早く下に触れてもらいたい。一度でもイケば睡魔が来て、それでお終いになるはずだ。

「クロノさん……、そろそろっ」
「クロノ、とお呼びください」
「クロノ!はやく!」
「御意に」

 ホッとしたが、彼はベッドには、やはり上がらない。
 彼は私の股をゆっくりと開いて、その間に顔を、沈めた。

「っ!」

 手で静止するよりも早く、私は堪らなくなった。

 じゅじゅっ。
「んああっ!」

 柔らかな舌に突かれて、仰け反った後の蜜を彼は吸っている。

「だめ、です!やだ、きたな、い!んあっ!」

 私の静止への答えのように、私の中から舌が蜜をかき出した。ビクンビクンと震える中に合わせて、舌の先が出入りする。

 時間をかけて優しく何度かイカされて、私はようやくいつもの睡魔に襲われた。

――――――――――――――――――――――――――

 クロノは手早く片付けを済ませた。エウディに持たせられたサヤの寝間着も着替えさせ、全ては元どおり。

 外でエウディが待っているかと危惧したが、そんな事もなく部屋に戻った。

 見られている可能性は、ある。けれど。

 すでに捨てたつもりの雄の性が収まらない。欲しくて、堪らない。回収した寝間着に顔を埋めながら、彼の雄を自らしごく。先程、契約通りサヤに姿を変えたエウディに対して出したばかりだったというのに、己の本能は正直で射精感は止まらない。

「くっ」

 手近にあったタオルだけでは受け止めきれず、とくとくと出る自身を誘惑に負けて、寝間着に擦り付けた。途端に又硬くなる。

 背徳感は誘惑に負け、クロノは寝間着を使ってまた熱を放った。


――――――――――――――――――――――――――

 昨日の幻覚はなんか変だった。そして気が重い。
 早朝、ぼーっと甲板で海を眺める。次、クロノさんの幻影が来るのは、なんだか切なくて辛い。

「おはよん。あら?なんだかお顔がお不細工よ?」
「おはようございます。今日はお早いですね……」

 まだ朝食の準備もしていないこの時間帯にエウディさんが起きているのは本当に珍しかった。家事を私ができるようになってからは、私の治療と仕事の手伝いをお願いしていた。

「……昨日の夢、なんかおかしかったの?」
「おかしかった……訳ではないです」

 おかしくは無い。むしろ、昨日のアレは本物のクロノさんの本当に愛した相手への反応に違いない。

「じゃあ、何?……もしかして、昨日覗いてて変なもの見ちゃった?」
「あ」

 そうでした。出歯亀やりました。

「すみません。覗いてしまって。喧嘩したって聞いて、つい……」
「あら、いいのよ。勉強よ。実際最後までって見た始めてでしょ」
「いえ、そこは見てません」
「そうなの?見てれば良かったのに」

 キョトンと返されて、こちらが困ってしまう。

「いえ、そこは遠慮します」
「まぁ、番になったらやる訳だから、今知らなくてもいいか」
「私とクロノさんは番にはならないと思う。それに、もうクロノさんの幻影に来て欲しくない。辛いから」

 やはり、クロノさんの幻影が来ないようにエウディさんに相談する事にした。
 
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