《完結済》優しい悪魔の作り方 R18

吉瀬

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SS クロノとサヤと出会い(クロノ視点)

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私の名前は希望という意味だった。母親が私達の希望ね、と頭を撫でてくれていたのはそんなに昔では無いのに、私はもう母の顔すら覚えていない……。

「あれは?」
「食人の血が……」
「ああ、例の」

 小さな檻に囲われて、私は誰と会話する事もなくここにいた。本当はこんな檻を壊す事は簡単だけど、無理をするとお腹が空いてしまう。出された食事では満足できなくて、食べたいものを食べようとするときっと私は処分されてしまう。

 希望よと歌った人くらいしか私を見ていなかったのだから、希望が潰えてしまうのだけは辞めた方がいいと思った。自分の意義はその程度。いつか、それすら忘れたら、楽にはなれるのだろうか。

「出て」

 檻の前で花飾りをつけた人が扉を開けた。

「?」
「言葉は理解できますか?」

 ずっと話さずにいたから喉が張り付いていて、声がでない。私は頷いた。

「あなたなら、彼の方を癒せるかもしれない」

 花飾りの人はハチロノと名乗った。生まれた時は違う名前だったけれど、唯一の神の稚児としてハチロノという名をもらったそうだ。彼女は言う。

「主人様はご自身の稚児相手すら遠慮なさる。沢山の愛情を受け帰るところのある者が間違っても自分側に来てしまわないようにと壁をお作りなる。永遠の少年でらっしゃる彼の人は子供であった事も大人であった事も無く、それらをご存じない。あの方を助けてあげて欲しい」

 勝手な、と思った。閉じ込めたり誰かを世話させたり、何故わたしが言う事を聞くと思っているのか。神なんかいるもんか。いたら、何故私を生み出させた。

 有無も言わさず連れてこられた神殿の、待合にいた子供達は皆立派な衣装を着ていた。だいたい背の高さが違っていて、自分はその衣装の波に埋もれると外から見えなくなる。

 長く長く待たされて、ようやく彼の人が現れると知らせがきた時には、長らく走りもしなかった体は冷えて痛みすら感じていた。

 早く早く早く終わって欲しい。どうせ私が選ばれる事など無い。

 けれど、主人様はわたしを見つけて、私を、稚児に選んでくださった。

「あなたは今日からクロノです。よろしくね」
「あ……」

 始めて対面した時、自分のエネルギーが震えるのが分かった。この人だと分かった。自分の魂がいつかきっと繋がる相手だと、自分の中に眠るグールの血が教えた。

 と、同時にとても美しい物だと感じた。これは、この人だけは守らなくてはいけない。この人をこの人だけを守るために、自分は全てを失わなくてはいけなかったと理解した。神々しさにおもわずひれ伏す。

「稚児はね、少し作法が違うんだよ。多分、何も教わって無いよね?」

 私は何も知らない。それで、良かった。

「はい」

 久しぶりの声が出た。
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