59 / 59
SS クロノとサヤと出会い(クロノ視点)
しおりを挟む
私の名前は希望という意味だった。母親が私達の希望ね、と頭を撫でてくれていたのはそんなに昔では無いのに、私はもう母の顔すら覚えていない……。
「あれは?」
「食人の血が……」
「ああ、例の」
小さな檻に囲われて、私は誰と会話する事もなくここにいた。本当はこんな檻を壊す事は簡単だけど、無理をするとお腹が空いてしまう。出された食事では満足できなくて、食べたいものを食べようとするときっと私は処分されてしまう。
希望よと歌った人くらいしか私を見ていなかったのだから、希望が潰えてしまうのだけは辞めた方がいいと思った。自分の意義はその程度。いつか、それすら忘れたら、楽にはなれるのだろうか。
「出て」
檻の前で花飾りをつけた人が扉を開けた。
「?」
「言葉は理解できますか?」
ずっと話さずにいたから喉が張り付いていて、声がでない。私は頷いた。
「あなたなら、彼の方を癒せるかもしれない」
花飾りの人はハチロノと名乗った。生まれた時は違う名前だったけれど、唯一の神の稚児としてハチロノという名をもらったそうだ。彼女は言う。
「主人様はご自身の稚児相手すら遠慮なさる。沢山の愛情を受け帰るところのある者が間違っても自分側に来てしまわないようにと壁をお作りなる。永遠の少年でらっしゃる彼の人は子供であった事も大人であった事も無く、それらをご存じない。あの方を助けてあげて欲しい」
勝手な、と思った。閉じ込めたり誰かを世話させたり、何故わたしが言う事を聞くと思っているのか。神なんかいるもんか。いたら、何故私を生み出させた。
有無も言わさず連れてこられた神殿の、待合にいた子供達は皆立派な衣装を着ていた。だいたい背の高さが違っていて、自分はその衣装の波に埋もれると外から見えなくなる。
長く長く待たされて、ようやく彼の人が現れると知らせがきた時には、長らく走りもしなかった体は冷えて痛みすら感じていた。
早く早く早く終わって欲しい。どうせ私が選ばれる事など無い。
けれど、主人様はわたしを見つけて、私を、稚児に選んでくださった。
「あなたは今日からクロノです。よろしくね」
「あ……」
始めて対面した時、自分のエネルギーが震えるのが分かった。この人だと分かった。自分の魂がいつかきっと繋がる相手だと、自分の中に眠るグールの血が教えた。
と、同時にとても美しい物だと感じた。これは、この人だけは守らなくてはいけない。この人をこの人だけを守るために、自分は全てを失わなくてはいけなかったと理解した。神々しさにおもわずひれ伏す。
「稚児はね、少し作法が違うんだよ。多分、何も教わって無いよね?」
私は何も知らない。それで、良かった。
「はい」
久しぶりの声が出た。
「あれは?」
「食人の血が……」
「ああ、例の」
小さな檻に囲われて、私は誰と会話する事もなくここにいた。本当はこんな檻を壊す事は簡単だけど、無理をするとお腹が空いてしまう。出された食事では満足できなくて、食べたいものを食べようとするときっと私は処分されてしまう。
希望よと歌った人くらいしか私を見ていなかったのだから、希望が潰えてしまうのだけは辞めた方がいいと思った。自分の意義はその程度。いつか、それすら忘れたら、楽にはなれるのだろうか。
「出て」
檻の前で花飾りをつけた人が扉を開けた。
「?」
「言葉は理解できますか?」
ずっと話さずにいたから喉が張り付いていて、声がでない。私は頷いた。
「あなたなら、彼の方を癒せるかもしれない」
花飾りの人はハチロノと名乗った。生まれた時は違う名前だったけれど、唯一の神の稚児としてハチロノという名をもらったそうだ。彼女は言う。
「主人様はご自身の稚児相手すら遠慮なさる。沢山の愛情を受け帰るところのある者が間違っても自分側に来てしまわないようにと壁をお作りなる。永遠の少年でらっしゃる彼の人は子供であった事も大人であった事も無く、それらをご存じない。あの方を助けてあげて欲しい」
勝手な、と思った。閉じ込めたり誰かを世話させたり、何故わたしが言う事を聞くと思っているのか。神なんかいるもんか。いたら、何故私を生み出させた。
有無も言わさず連れてこられた神殿の、待合にいた子供達は皆立派な衣装を着ていた。だいたい背の高さが違っていて、自分はその衣装の波に埋もれると外から見えなくなる。
長く長く待たされて、ようやく彼の人が現れると知らせがきた時には、長らく走りもしなかった体は冷えて痛みすら感じていた。
早く早く早く終わって欲しい。どうせ私が選ばれる事など無い。
けれど、主人様はわたしを見つけて、私を、稚児に選んでくださった。
「あなたは今日からクロノです。よろしくね」
「あ……」
始めて対面した時、自分のエネルギーが震えるのが分かった。この人だと分かった。自分の魂がいつかきっと繋がる相手だと、自分の中に眠るグールの血が教えた。
と、同時にとても美しい物だと感じた。これは、この人だけは守らなくてはいけない。この人をこの人だけを守るために、自分は全てを失わなくてはいけなかったと理解した。神々しさにおもわずひれ伏す。
「稚児はね、少し作法が違うんだよ。多分、何も教わって無いよね?」
私は何も知らない。それで、良かった。
「はい」
久しぶりの声が出た。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
メイウッド家の双子の姉妹
柴咲もも
恋愛
シャノンは双子の姉ヴァイオレットと共にこの春社交界にデビューした。美しい姉と違って地味で目立たないシャノンは結婚するつもりなどなかった。それなのに、ある夜、訪れた夜会で見知らぬ男にキスされてしまって…?
※19世紀英国風の世界が舞台のヒストリカル風ロマンス小説(のつもり)です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる