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第02話 冤罪
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捕縛をされたファティーナは貴族であるにも関わらず冷たい地下牢に押し込まれ、連日厳しい取り調べを受ける事となった。
否認をし続け間もなく1か月。
粗末な食事を持って来た牢番がついでのように「婚約は無事に破棄されたそうだ」と聞かされた。
「嘘よ!アロンツォが同意するはずがないわ」
牢番に反論をしたものの何日経っても冷たい地下牢に面会に来てくれる者はいなかった。明日は来てくれる、明日こそは。そう思うファティーナの心は日を追うごとに疲弊していく。
追い打ちをかけるように取り調べは連日行われ、粗末な食事でも1日に1度ありつければ良い方。取調官は交代をしながら短い日で16時間、長い日では20時間を超える尋問をされる。
眠気からウトウトとしてしまえば「頷き」とされてしまうのでファティーナは眠る事も出来なかった。
それでも心の支えになっていたのはアロンツォは自分を捨てたりしない。その思いだけだった。
物心ついた時にはもうアロンツォと一緒に居た。
兄ではなく夫となる人だと理解したのはまだ愛も恋も知らない年齢だったが、8歳も年上のアロンツォはいつもファティーナの側に居て、ファティーナに優しく接してくれた。
『何時だって僕はティナの味方だよ。だって僕たちは神様の前で永遠の愛を誓いあう仲だからね』
『私もずっと、ずっとアーロンの味方よ。世界中の人がアーロンを批難しても私だけは違うわ』
それは雛鳥が親鳥に対して抱く感情に似ているものかも知れない。
しかし、それでもファティーナはアロンツォに全幅の信頼を寄せていて、まかり間違っても婚約破棄などするはずがない。そう信じていた。
驕っていたつもりはないが、ファティーナの持つ力もネブルグ公爵家には必要なもので、ネブルグ公爵家も自分を見限るはずがないと考えていた。
両親の記憶はなく、母親は自分を生んだ時、父親と兄は1歳になる前に天に召された。ファティーナにとっての家族はネブルグ公爵家の人間たちだったのである。
頬杖をつき、ペンの尻を机にトントンと音をさせて苛立つ取調官は何度目かになる質問をした。
「まァだ認めませんか?証拠は揃い過ぎるほど揃っているんですけどねぇ」
「私は何もしていません。私はアロンツォに頼まれて――」
バンッ!!取調官がテーブルを叩いて大きな音をさせた。
「素直に認めれば我々もこんな無駄な時間を過ごす必要が無いんですがね?」
「認めるも何も!していない事をしたとは言えません!」
「意地を張るのもいい加減にした方が良い。アンタの振る舞いで辛うじて名前のあったシード家は廃家が決まったんだ。アンタが!!大事な大事な家名を汚したんだよ。そこンところ判ってんのかね?」
「家名が?!どうして!」
「未成年のアンタに代わって叔父上がちゃーんと仕事をしてくれているよ。これ以上家名を汚すわけにはいかないとさ。事業も止まると大変だからな。早々に引継ぎがされているよ。何にも困る事なんかねぇんだ。認めな?」
「そんな…」
ファティーナの家であるシード伯爵家はファティーナが最後であり唯一の継承者。
アロンツォと結婚した後、伯爵家は休眠の届けを出し、事業はそのままネブルグ公爵家で行なうつもりだった。
取調官が言うようにファティーナはまだ15歳。婚姻は出来るが家督を継ぐ最低年齢の18歳に足りていないためマリアの父であり、ファティーナの父の義妹の夫、ケネル子爵が当主代行となっていた。
「ケネル子爵もこんな事になるならアンタを閉じ込めておけば良かったと言ってるよ」
「閉じ込める?どういう意味です?」
「ネブルグ公爵に言われてたそうじゃないか。結婚すると言っても侯爵家の事業をそのまま持ってくれば手が足りなくなる。せめて第1王子関連の事業だけは手放すなりで軽くしろと。ただ第1王子は事業は引き続いてやって欲しいと言われ、板挟みになっちまったんだろ?殿下が倒れれば事業は一時中断。手放したくないが一時の時間を稼ぎたかったんだろう?」
「違います!そんな大それたことしません!」
しかし、ここでもファティーナの計画を聞いて、止めようにもどうしてよいか判らなかったと言い出した使用人も出てきてしまった。
認めないのはファティーナのみ。
自白が無いだけで証言と証拠は必要以上に揃い過ぎていた。
否認をし続け間もなく1か月。
粗末な食事を持って来た牢番がついでのように「婚約は無事に破棄されたそうだ」と聞かされた。
「嘘よ!アロンツォが同意するはずがないわ」
牢番に反論をしたものの何日経っても冷たい地下牢に面会に来てくれる者はいなかった。明日は来てくれる、明日こそは。そう思うファティーナの心は日を追うごとに疲弊していく。
追い打ちをかけるように取り調べは連日行われ、粗末な食事でも1日に1度ありつければ良い方。取調官は交代をしながら短い日で16時間、長い日では20時間を超える尋問をされる。
眠気からウトウトとしてしまえば「頷き」とされてしまうのでファティーナは眠る事も出来なかった。
それでも心の支えになっていたのはアロンツォは自分を捨てたりしない。その思いだけだった。
物心ついた時にはもうアロンツォと一緒に居た。
兄ではなく夫となる人だと理解したのはまだ愛も恋も知らない年齢だったが、8歳も年上のアロンツォはいつもファティーナの側に居て、ファティーナに優しく接してくれた。
『何時だって僕はティナの味方だよ。だって僕たちは神様の前で永遠の愛を誓いあう仲だからね』
『私もずっと、ずっとアーロンの味方よ。世界中の人がアーロンを批難しても私だけは違うわ』
それは雛鳥が親鳥に対して抱く感情に似ているものかも知れない。
しかし、それでもファティーナはアロンツォに全幅の信頼を寄せていて、まかり間違っても婚約破棄などするはずがない。そう信じていた。
驕っていたつもりはないが、ファティーナの持つ力もネブルグ公爵家には必要なもので、ネブルグ公爵家も自分を見限るはずがないと考えていた。
両親の記憶はなく、母親は自分を生んだ時、父親と兄は1歳になる前に天に召された。ファティーナにとっての家族はネブルグ公爵家の人間たちだったのである。
頬杖をつき、ペンの尻を机にトントンと音をさせて苛立つ取調官は何度目かになる質問をした。
「まァだ認めませんか?証拠は揃い過ぎるほど揃っているんですけどねぇ」
「私は何もしていません。私はアロンツォに頼まれて――」
バンッ!!取調官がテーブルを叩いて大きな音をさせた。
「素直に認めれば我々もこんな無駄な時間を過ごす必要が無いんですがね?」
「認めるも何も!していない事をしたとは言えません!」
「意地を張るのもいい加減にした方が良い。アンタの振る舞いで辛うじて名前のあったシード家は廃家が決まったんだ。アンタが!!大事な大事な家名を汚したんだよ。そこンところ判ってんのかね?」
「家名が?!どうして!」
「未成年のアンタに代わって叔父上がちゃーんと仕事をしてくれているよ。これ以上家名を汚すわけにはいかないとさ。事業も止まると大変だからな。早々に引継ぎがされているよ。何にも困る事なんかねぇんだ。認めな?」
「そんな…」
ファティーナの家であるシード伯爵家はファティーナが最後であり唯一の継承者。
アロンツォと結婚した後、伯爵家は休眠の届けを出し、事業はそのままネブルグ公爵家で行なうつもりだった。
取調官が言うようにファティーナはまだ15歳。婚姻は出来るが家督を継ぐ最低年齢の18歳に足りていないためマリアの父であり、ファティーナの父の義妹の夫、ケネル子爵が当主代行となっていた。
「ケネル子爵もこんな事になるならアンタを閉じ込めておけば良かったと言ってるよ」
「閉じ込める?どういう意味です?」
「ネブルグ公爵に言われてたそうじゃないか。結婚すると言っても侯爵家の事業をそのまま持ってくれば手が足りなくなる。せめて第1王子関連の事業だけは手放すなりで軽くしろと。ただ第1王子は事業は引き続いてやって欲しいと言われ、板挟みになっちまったんだろ?殿下が倒れれば事業は一時中断。手放したくないが一時の時間を稼ぎたかったんだろう?」
「違います!そんな大それたことしません!」
しかし、ここでもファティーナの計画を聞いて、止めようにもどうしてよいか判らなかったと言い出した使用人も出てきてしまった。
認めないのはファティーナのみ。
自白が無いだけで証言と証拠は必要以上に揃い過ぎていた。
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