あなたは愛さなくていい

cyaru

文字の大きさ
7 / 39

第07-1話  国外追放

しおりを挟む
ファティーナは否定をしたままだったが、捕縛され1か月後、臨時に招集された議員の前で有罪ありきの裁判が開かれた。

議場に連行される際、ファティーナは久しぶりに陽の光と風を感じた。

シンと静まり返る貴族院の議事場に議長の言葉が響く。
異を唱える者は1人もおらず、ファティーナはゆっくりと瞼を閉じると短く息を吐き出した。


「ファティーナ・シード。貴族籍の剝奪及び国外追放を命じる」


罪状の認否など一切ない。作り上げられた罪状が読み上げられ、そのまま判決。
しかし、ファティーナは死罪を覚悟したのに身分の剥奪と国外追放となった事に疑問を抱き唯一牢に面会に来た第1王子の姿を探した。

チラリと視線をやれば壇上の1席に腰掛ける第1王子と目が合う。
第1王子は小さく頷いた気がした。

――殿下はこれが冤罪と言ったけど認めろということ?――

だとしても、何故それならば審議差し止めなどの措置を取ってくれないのだろう。

考えたが1人で答えの出る話ではないし、時間は長くは取れない。思いつくのは第1王子はこの事件について調査はしているのだろうが、情報を集め、突き詰め、全てをつまびらかにするには圧倒的に時間が足らない。

今、第1王子の采配で出来ることは死罪を回避する事だけだろう。

――信じるしかないってことよね――

思い返せば罪状は官吏により読み上げられたが、判決を言い渡す際に議長は「何の罪で」とは言及しなかった。通常なら「この罪に対しこの罪状」とするのに議長も第1王子と同じで含みを持たせたのだ。

この場で濡れ衣を着るのは屈辱だが、現時点で出来る最善でもある。

ならば…。ファティーナは覚悟を決めた。

「温情ある判決に感謝いたします」

ファティーナの言葉も議事場の隅に届いたのか、数人の貴族が視線を移した。

視線の先には特別席として設けられた区画に陣取るファティーナの元婚約者アロンツォ、そしてファティーナの従妹マリアがいる。

アロンツォは予定されていた判決に理解をしてもファティーナがすんなり認めた事に言葉を失い、マリアは眉を顰めた。ずっと否認をしていたのだからここでも抗うと思ったのだろう。

官吏に両脇を付き添われてファティーナが議事場を出ていく時、アロンツォは席を立ち何かを言いかけたがファティーナはアロンツォには視線を向けずその前を無言で通り過ぎた。


★~★
この回、短いので同時刻に第08話も公開になっています(*^-^*)
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【完結】ある公爵の後悔

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
王女に嵌められて冤罪をかけられた婚約者に会うため、公爵令息のチェーザレは北の修道院に向かう。 そこで知った真実とは・・・ 主人公はクズです。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

処理中です...