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第16話 真実を知りたい
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シルヴェリオは父親に詰め寄った。
「離縁と言ってるけど、じゃぁマリアさんの実家から借りた金はどうするんだ?返済を求められても僕の退職金じゃ到底足らないだろう!」
「払おうとすれば足らないだろうな」
「それって…払わないって言うのか?詐欺じゃないか!」
「融資はしてくれと頼んだが返済するとは約束していないし、この結婚でケネル子爵家も旨い汁を吸ったんだ。相殺で問題ない」
融資は借金の事。そんな事は騎士団に入団したての新人でも知っている。
踏み倒すでもなく父親は「返済するとは言ってない」と有耶無耶にするつもりでいることにシルヴェリオは驚愕した。同時にまさか同じような手口でシード家も騙したのではないかと考えた。
「もしかしてシード家もそうやって領地をだまし取ったのか!」
「だまし取るなんて父親に向かってなんて事を言うんだ。あれは正当な慰謝料だ。ファティーナは第1王子暗殺未遂という大罪を犯したんだ。今となっては前々日に婚約破棄をしていて正解だった。先見の明があったんだ」
――前々日?そんなうまい話が転がっている筈がない――
「じゃぁその婚約破棄の…理由はなんなんだよ。事件が起こって破棄するならまだ判るけど事件の前なんだろう?破棄されるほどの…兄上の不貞以上の理由ってなんだよ!」
「ネブルグ公爵家には不要な人間だった。それだけだ」
「だから!何に於いて不要だと言うんだよ!」
「全てだ。それ以外に理由が必要か?」
アロンツォを見ても顔を逸らし、まともな答えは返ってきそうにない。
父親の言葉の中で本当のことは第1王子の暗殺未遂事件があった事と、婚約破棄が成立している事くらい。
ハッキリと理由を言わず父親が「全てだ」と有耶無耶にする時はアロンツォも知らない何かがある時だ。
――これ以上聞いても埒がかない。誤魔化されるだけだ――
シルヴェリオの心の中は父親、そしてアロンツォに対し猜疑心でいっぱいだった。
「母上は知ってるんですか…」
知らないと言ってくれ。シルヴェリオはそう願いつつ問うた。
「知っている。マリアも不貞の関係だった事は知らないとは言わないだろう。まぁ、不貞で結ばれるような間柄なんだ。その程度の女だという事だ」
「なら兄上だってそうだろう!」
「男と女は違う。一緒にするな」
「なんだよ、その屁理屈…僕は今ほど父上を軽蔑した事はないよ」
何もかも。口にする言葉だけでなく目に見えるもの全てが嘘なんじゃないか。いや、今のこの現状が嘘であってほしい、夢であってほしい。心から願うが紛れもない現実。
もう父親の話は聞きたくない。声だけでなく姿も目に映したくなくてシルヴェリオは立ち上がり「団に戻る」と告げて入り口に歩き始めた。
そんなシルヴェリオに父親が声を掛けた。
「またな」ではなく、「気をつけてな」でもない。
「金は置いて行け」だった。
腰につけたままの巾着袋をその場で投げつけてやろうかと思ったがやめた。
シルヴェリオは気が付けば廊下を全力で走り、背中に父親の「待て!戻れ」の声を聞いていた。
★~★
騎士団で班長は下から数えて2つ目。
班長になったシルヴェリオには馬が無い。
通常貴族の子息であれば7歳になった時に自分の馬を与えられる。親に牧場や繁殖厩舎に連れて行ってもらい生まれたばかりの仔馬を買うのだ。
そして12歳になった時には鷹若しくは剣を買う。大半は鷹の飼育が難しいので剣を買う。
しかしシルヴェリオはどちらも買ってもらえなかった。何故ならネブルグ公爵家には金が無かった。アロンツォの結婚式がピークでその後は右肩下がりならまだしも収益は真下に落ちた。
7歳の時にはネブルグ公爵家が代々受け継いできた領地は全て抵当を打って金を借りていた。馬を買うような余裕はなかったのである。
12歳の時には騎士団に入団をしていて、「やっと自分の剣が持てる」と期待をしたが買っては貰えなかった。今と同じく給料を兄のアロンツォに渡していたので、小遣いもなく剣を買う金どころか小腹が空いた時のパン1個買う金もなかった。
今でも班長をしているのに馬も剣も騎士団が所有しているものを借りているのはシルヴェリオだけ。
こんな恥ずかしい思いをしているのはファティーナが元凶だと教えられていた。
公爵家だから我慢もせねばならない、辛いのは今だけだと自分に言い聞かせてきた。
シルヴェリオだって人間。同期が「自分の剣だ!」と見せてくれるのは素直に羨ましかった。馬だって欲しかった。
――もう何を信じていいのか判らない――
息が切れてもシルヴェリオは走った。屋敷の外に出ると門道も走り抜け門番のいない正門を抜け通りに出た。
騎士団に帰らねば寝る場所もない。もう屋敷には戻りたくもなかった。
腰にぶら下げた巾着袋に入った純金貨で馬も剣も買ってやろうかと思ったがやめた。
信じられないと思いながらも、心の中ではまだ父親を、家族を信じたい気持ちもあった。
何処に行けば事実を知る事が出来るのか。
判らないままシルヴェリオは走り続け、もう走れないと足を止め顔をあげると騎士団長の家の前。
「団長なら知ってる事があるかな」
第1王子暗殺未遂事件は実際にあった事。騎士団長なら全てでなくても概要くらいは知っているかも知れないとシルヴェリオは騎士団長に問うてみようと思い、門番に声を掛けた。
「離縁と言ってるけど、じゃぁマリアさんの実家から借りた金はどうするんだ?返済を求められても僕の退職金じゃ到底足らないだろう!」
「払おうとすれば足らないだろうな」
「それって…払わないって言うのか?詐欺じゃないか!」
「融資はしてくれと頼んだが返済するとは約束していないし、この結婚でケネル子爵家も旨い汁を吸ったんだ。相殺で問題ない」
融資は借金の事。そんな事は騎士団に入団したての新人でも知っている。
踏み倒すでもなく父親は「返済するとは言ってない」と有耶無耶にするつもりでいることにシルヴェリオは驚愕した。同時にまさか同じような手口でシード家も騙したのではないかと考えた。
「もしかしてシード家もそうやって領地をだまし取ったのか!」
「だまし取るなんて父親に向かってなんて事を言うんだ。あれは正当な慰謝料だ。ファティーナは第1王子暗殺未遂という大罪を犯したんだ。今となっては前々日に婚約破棄をしていて正解だった。先見の明があったんだ」
――前々日?そんなうまい話が転がっている筈がない――
「じゃぁその婚約破棄の…理由はなんなんだよ。事件が起こって破棄するならまだ判るけど事件の前なんだろう?破棄されるほどの…兄上の不貞以上の理由ってなんだよ!」
「ネブルグ公爵家には不要な人間だった。それだけだ」
「だから!何に於いて不要だと言うんだよ!」
「全てだ。それ以外に理由が必要か?」
アロンツォを見ても顔を逸らし、まともな答えは返ってきそうにない。
父親の言葉の中で本当のことは第1王子の暗殺未遂事件があった事と、婚約破棄が成立している事くらい。
ハッキリと理由を言わず父親が「全てだ」と有耶無耶にする時はアロンツォも知らない何かがある時だ。
――これ以上聞いても埒がかない。誤魔化されるだけだ――
シルヴェリオの心の中は父親、そしてアロンツォに対し猜疑心でいっぱいだった。
「母上は知ってるんですか…」
知らないと言ってくれ。シルヴェリオはそう願いつつ問うた。
「知っている。マリアも不貞の関係だった事は知らないとは言わないだろう。まぁ、不貞で結ばれるような間柄なんだ。その程度の女だという事だ」
「なら兄上だってそうだろう!」
「男と女は違う。一緒にするな」
「なんだよ、その屁理屈…僕は今ほど父上を軽蔑した事はないよ」
何もかも。口にする言葉だけでなく目に見えるもの全てが嘘なんじゃないか。いや、今のこの現状が嘘であってほしい、夢であってほしい。心から願うが紛れもない現実。
もう父親の話は聞きたくない。声だけでなく姿も目に映したくなくてシルヴェリオは立ち上がり「団に戻る」と告げて入り口に歩き始めた。
そんなシルヴェリオに父親が声を掛けた。
「またな」ではなく、「気をつけてな」でもない。
「金は置いて行け」だった。
腰につけたままの巾着袋をその場で投げつけてやろうかと思ったがやめた。
シルヴェリオは気が付けば廊下を全力で走り、背中に父親の「待て!戻れ」の声を聞いていた。
★~★
騎士団で班長は下から数えて2つ目。
班長になったシルヴェリオには馬が無い。
通常貴族の子息であれば7歳になった時に自分の馬を与えられる。親に牧場や繁殖厩舎に連れて行ってもらい生まれたばかりの仔馬を買うのだ。
そして12歳になった時には鷹若しくは剣を買う。大半は鷹の飼育が難しいので剣を買う。
しかしシルヴェリオはどちらも買ってもらえなかった。何故ならネブルグ公爵家には金が無かった。アロンツォの結婚式がピークでその後は右肩下がりならまだしも収益は真下に落ちた。
7歳の時にはネブルグ公爵家が代々受け継いできた領地は全て抵当を打って金を借りていた。馬を買うような余裕はなかったのである。
12歳の時には騎士団に入団をしていて、「やっと自分の剣が持てる」と期待をしたが買っては貰えなかった。今と同じく給料を兄のアロンツォに渡していたので、小遣いもなく剣を買う金どころか小腹が空いた時のパン1個買う金もなかった。
今でも班長をしているのに馬も剣も騎士団が所有しているものを借りているのはシルヴェリオだけ。
こんな恥ずかしい思いをしているのはファティーナが元凶だと教えられていた。
公爵家だから我慢もせねばならない、辛いのは今だけだと自分に言い聞かせてきた。
シルヴェリオだって人間。同期が「自分の剣だ!」と見せてくれるのは素直に羨ましかった。馬だって欲しかった。
――もう何を信じていいのか判らない――
息が切れてもシルヴェリオは走った。屋敷の外に出ると門道も走り抜け門番のいない正門を抜け通りに出た。
騎士団に帰らねば寝る場所もない。もう屋敷には戻りたくもなかった。
腰にぶら下げた巾着袋に入った純金貨で馬も剣も買ってやろうかと思ったがやめた。
信じられないと思いながらも、心の中ではまだ父親を、家族を信じたい気持ちもあった。
何処に行けば事実を知る事が出来るのか。
判らないままシルヴェリオは走り続け、もう走れないと足を止め顔をあげると騎士団長の家の前。
「団長なら知ってる事があるかな」
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