あなたは愛さなくていい

cyaru

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第17話  1つの結論

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門番が屋敷の主である騎士団長に面会者と会うかを問い合わせた結果、騎士団長は休日にも関わらず会ってくれることになった。

先触れもなく突然の申し出を引き受けてくれた事をシルヴェリオが詫びると騎士団長はなんとも言えない不思議な表情をした。

その表情が何の意味を示しているのかシルヴェリオは判らなかったが、判らない事は時間のある時に、いや時間が無くても作って聞く。騎士団の教えでもありこの5年間で身に染みているシルヴェリオは問うてみた。

「顔?あぁ…私用じゃなかったのかと思ってな」
「公用ではありません。私用です。何かあるのですか?」
「気を悪くしないでくれよ?」

騎士団長はシルヴェリオを気遣う言葉をかけたが、不思議な表情の訳を話した。

「君の父上も兄上も金を借りに来る時はそれはもう平身低頭でこの世の終わりみたいな物言いをしたり、兎に角情に訴えてくるんだが、金を借りた後は…何というか…天下を取ったような言動をすると多方面から聞くからな。おまけに踏み倒す。貸してくれとは言ったが返すとは言ってないと言い出すし。他人の家族の事は悪く言いたくはないが世間の評価や評判も気にした方が良い」

デジャヴを感じる言葉。本人の口からも聞いたが第三者から同じ事を言われると、それが父親の本性なのだとより強く感じる。

騎士団長はシルヴェリオが何か頼み事があって来たのだろうなと思った。追い返そうかと思ったが騎士団では真面目に任務に打ち込んでいるのに2年前だったか。突然16歳になり満5年を迎えたら退団すると言い出したので、考えを改めて退団の意思を取り消すのかもと話だけは聞いてみることにしたのだった。


「で?どうしたんだ。退団の考えを変えたか?」
「その件ではないんです。もしかすると団長がご存じな事があるかも知れないと思いまして」
「私が知っている事?なんだ?規約に接する事は話せないぞ」
「構わない範囲でいいんです。13年前に――」
「待て。その先は言うな」

思案顔になった騎士団長は何を何処まで言えばいいのか。そしてシルヴェリオが何処まで知っていて何を知りたいのかを考えた。

「聞きたい事は王族に関する事か?」
「関係はするんですけど、少し違うと言いますか。団長はファティーナ・シードという女性をご存じでしょうか。もしその女性についてご存じの事があれば教えて頂きたいと思いまして」


騎士団長は13年前はまだ副団長にもなっていなかったし、王都の周辺警護をする第4騎士団でいた時に第1王子暗殺未遂事件が起きた。直接関わってはいないが「一人の少女を何故誰も庇わないのだろう」と思った事をシルヴェリオに伝えた。

同時にファティーナの金でネブルグ公爵家が遊んで暮らせる状態だったのは公然の秘密。そのファティーナをネブルグ公爵家が一切救済しない事に「どうなんだ?」と不快感を示す者も多かった。

ただ他家の事であり、事件の内容が内容なのでファティーナを庇うような事を口にして、火の粉が飛ぶのを誰もが嫌がり、「ここだけの話」となっていた。


「すまないな。当時は周辺地域に住まいもあったし人伝手で聞いた話は信用していないんだ。だが議場へ判決は聞きに行ったよ。君の兄上が婚約者が断罪されるというのに他の女性を連れて傍聴していた事に違和感は感じたけれど、それ以上にずっと否認を続けていたと聞いていたのにシード伯爵令嬢が貴族籍の剥奪と国外追放をすんなり受け入れた事の方が衝撃だったな。相手は王族。暗殺が未遂だろうが死罪が常なのに国外追放になったのは国王陛下が関係しているだろうとも思ったが」

「国王陛下が?!」

「知らなかったのか?まぁお前は当時2歳、いや3歳だったか。覚えていないだろうがシード伯爵令嬢は国王陛下に師事した魔導士だ。実力は適性もあるが分野別で考えれば薬草や自然界にある物質から薬を精製する能力については第一人者と言っていいだろう。変異術で化けた陛下と周辺地域にも薬草の採取に来ていたよ。小さい子を連れている事もあったからおそらくそれがお前だったのかもな。化けてても陛下だからおいそれと声はかけられなかったけどな」

変異術を使っている時は国王だと判る者はまずいないが、万が一を考えて「それらしい人物が来る」事は周知されていて警備を強化したんだと騎士団長は笑った。

シルヴェリオは胸が嫌な拍動を打ち始めた。

――まさか森で助けてくれた女性が本人だったのか?――

恋人が妊娠したと言った兄、父親の言葉、騎士団長の見解を聞いてシルヴェリオはネブルグ公爵家がファティーナを嵌めて領地など財産を奪い取ったとしか思えなかった。

王子の暗殺未遂に両親が絡んでいるかは判らないが、事件を利用したのは間違いない。
事件の起こる前に婚約は破棄となったと言っていたが、兄のアロンツォが不貞の結果マリアと結婚をしたは事実で言破棄される前に破棄した、いや破棄した事にしようと何か企んだのではないかと思った。

しかし、父親の告白はあるものの推測の域は出ない。
詳細を語らず「全てだ」と逃げたのは詮索をされると困る、つまり…。

その先は考えてはいけないと思いながら1つの結論がシルヴェリオの中に生まれた。

【暗殺未遂事件を企てた本当の首謀者は父親ではないか?】

そうなれば当然病床の母親も関係してくる。母親もアロンツォとマリアの関係は知っていたのだからファティーナとの婚約破棄に至る要因を知らなかったとは考えにくい。

――だとしたら、僕はなんて事を彼女に頼んでしまったんだろう――

貴族である事を無くし、追放される要因を作った相手を救ってくれと言われた時のファティーナの気持ちを思うと居た堪れない。

目を閉じて不意に聞こえる声を心の中から探す。
しかし探している最中はなかなか見つからない失せ物と同じでこんな時に限って優しい声は聞こえない。

父親は言った。アロンツォとファティーナの婚約は28年前だと。
シルヴェリオもマリアも生まれる前の婚約。

優しい声はシルヴェリオの思い違いでもなく、母親でもマリアでもなく。
ファティーナだったのだろうと思うと目から涙が溢れ、止まらなくなった。

――僕には何が出来る?――

何も出来ないだろうが先ず謝ろう。

「すみません。団長。休暇の延長をお願いします」
「それはいいが…どうするんだ?」
「行かなきゃいけない所があります。もし2カ月経っても戻らない時は騎士団から籍を抹消してください」


シルヴェリオは袖で涙を拭うと騎士団長の家を後にして先ずは目印となる二股になった大きない欅の木を目指して出立した。
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