18 / 39
第17話 1つの結論
しおりを挟む
門番が屋敷の主である騎士団長に面会者と会うかを問い合わせた結果、騎士団長は休日にも関わらず会ってくれることになった。
先触れもなく突然の申し出を引き受けてくれた事をシルヴェリオが詫びると騎士団長はなんとも言えない不思議な表情をした。
その表情が何の意味を示しているのかシルヴェリオは判らなかったが、判らない事は時間のある時に、いや時間が無くても作って聞く。騎士団の教えでもありこの5年間で身に染みているシルヴェリオは問うてみた。
「顔?あぁ…私用じゃなかったのかと思ってな」
「公用ではありません。私用です。何かあるのですか?」
「気を悪くしないでくれよ?」
騎士団長はシルヴェリオを気遣う言葉をかけたが、不思議な表情の訳を話した。
「君の父上も兄上も金を借りに来る時はそれはもう平身低頭でこの世の終わりみたいな物言いをしたり、兎に角情に訴えてくるんだが、金を借りた後は…何というか…天下を取ったような言動をすると多方面から聞くからな。おまけに踏み倒す。貸してくれとは言ったが返すとは言ってないと言い出すし。他人の家族の事は悪く言いたくはないが世間の評価や評判も気にした方が良い」
デジャヴを感じる言葉。本人の口からも聞いたが第三者から同じ事を言われると、それが父親の本性なのだとより強く感じる。
騎士団長はシルヴェリオが何か頼み事があって来たのだろうなと思った。追い返そうかと思ったが騎士団では真面目に任務に打ち込んでいるのに2年前だったか。突然16歳になり満5年を迎えたら退団すると言い出したので、考えを改めて退団の意思を取り消すのかもと話だけは聞いてみることにしたのだった。
「で?どうしたんだ。退団の考えを変えたか?」
「その件ではないんです。もしかすると団長がご存じな事があるかも知れないと思いまして」
「私が知っている事?なんだ?規約に接する事は話せないぞ」
「構わない範囲でいいんです。13年前に――」
「待て。その先は言うな」
思案顔になった騎士団長は何を何処まで言えばいいのか。そしてシルヴェリオが何処まで知っていて何を知りたいのかを考えた。
「聞きたい事は王族に関する事か?」
「関係はするんですけど、少し違うと言いますか。団長はファティーナ・シードという女性をご存じでしょうか。もしその女性についてご存じの事があれば教えて頂きたいと思いまして」
騎士団長は13年前はまだ副団長にもなっていなかったし、王都の周辺警護をする第4騎士団で揉まれていた時に第1王子暗殺未遂事件が起きた。直接関わってはいないが「一人の少女を何故誰も庇わないのだろう」と思った事をシルヴェリオに伝えた。
同時にファティーナの金でネブルグ公爵家が遊んで暮らせる状態だったのは公然の秘密。そのファティーナをネブルグ公爵家が一切救済しない事に「どうなんだ?」と不快感を示す者も多かった。
ただ他家の事であり、事件の内容が内容なのでファティーナを庇うような事を口にして、火の粉が飛ぶのを誰もが嫌がり、「ここだけの話」となっていた。
「すまないな。当時は周辺地域に住まいもあったし人伝手で聞いた話は信用していないんだ。だが議場へ判決は聞きに行ったよ。君の兄上が婚約者が断罪されるというのに他の女性を連れて傍聴していた事に違和感は感じたけれど、それ以上にずっと否認を続けていたと聞いていたのにシード伯爵令嬢が貴族籍の剥奪と国外追放をすんなり受け入れた事の方が衝撃だったな。相手は王族。暗殺が未遂だろうが死罪が常なのに国外追放になったのは国王陛下が関係しているだろうとも思ったが」
「国王陛下が?!」
「知らなかったのか?まぁお前は当時2歳、いや3歳だったか。覚えていないだろうがシード伯爵令嬢は国王陛下に師事した魔導士だ。実力は適性もあるが分野別で考えれば薬草や自然界にある物質から薬を精製する能力については第一人者と言っていいだろう。変異術で化けた陛下と周辺地域にも薬草の採取に来ていたよ。小さい子を連れている事もあったからおそらくそれがお前だったのかもな。化けてても陛下だからおいそれと声はかけられなかったけどな」
変異術を使っている時は国王だと判る者はまずいないが、万が一を考えて「それらしい人物が来る」事は周知されていて警備を強化したんだと騎士団長は笑った。
シルヴェリオは胸が嫌な拍動を打ち始めた。
――まさか森で助けてくれた女性が本人だったのか?――
恋人が妊娠したと言った兄、父親の言葉、騎士団長の見解を聞いてシルヴェリオはネブルグ公爵家がファティーナを嵌めて領地など財産を奪い取ったとしか思えなかった。
王子の暗殺未遂に両親が絡んでいるかは判らないが、事件を利用したのは間違いない。
事件の起こる前に婚約は破棄となったと言っていたが、兄のアロンツォが不貞の結果マリアと結婚をしたは事実で言破棄される前に破棄した、いや破棄した事にしようと何か企んだのではないかと思った。
しかし、父親の告白はあるものの推測の域は出ない。
詳細を語らず「全てだ」と逃げたのは詮索をされると困る、つまり…。
その先は考えてはいけないと思いながら1つの結論がシルヴェリオの中に生まれた。
【暗殺未遂事件を企てた本当の首謀者は父親ではないか?】
そうなれば当然病床の母親も関係してくる。母親もアロンツォとマリアの関係は知っていたのだからファティーナとの婚約破棄に至る要因を知らなかったとは考えにくい。
――だとしたら、僕はなんて事を彼女に頼んでしまったんだろう――
貴族である事を無くし、追放される要因を作った相手を救ってくれと言われた時のファティーナの気持ちを思うと居た堪れない。
目を閉じて不意に聞こえる声を心の中から探す。
しかし探している最中はなかなか見つからない失せ物と同じでこんな時に限って優しい声は聞こえない。
父親は言った。アロンツォとファティーナの婚約は28年前だと。
シルヴェリオもマリアも生まれる前の婚約。
優しい声はシルヴェリオの思い違いでもなく、母親でもマリアでもなく。
ファティーナだったのだろうと思うと目から涙が溢れ、止まらなくなった。
――僕には何が出来る?――
何も出来ないだろうが先ず謝ろう。
「すみません。団長。休暇の延長をお願いします」
「それはいいが…どうするんだ?」
「行かなきゃいけない所があります。もし2カ月経っても戻らない時は騎士団から籍を抹消してください」
シルヴェリオは袖で涙を拭うと騎士団長の家を後にして先ずは目印となる二股になった大きない欅の木を目指して出立した。
先触れもなく突然の申し出を引き受けてくれた事をシルヴェリオが詫びると騎士団長はなんとも言えない不思議な表情をした。
その表情が何の意味を示しているのかシルヴェリオは判らなかったが、判らない事は時間のある時に、いや時間が無くても作って聞く。騎士団の教えでもありこの5年間で身に染みているシルヴェリオは問うてみた。
「顔?あぁ…私用じゃなかったのかと思ってな」
「公用ではありません。私用です。何かあるのですか?」
「気を悪くしないでくれよ?」
騎士団長はシルヴェリオを気遣う言葉をかけたが、不思議な表情の訳を話した。
「君の父上も兄上も金を借りに来る時はそれはもう平身低頭でこの世の終わりみたいな物言いをしたり、兎に角情に訴えてくるんだが、金を借りた後は…何というか…天下を取ったような言動をすると多方面から聞くからな。おまけに踏み倒す。貸してくれとは言ったが返すとは言ってないと言い出すし。他人の家族の事は悪く言いたくはないが世間の評価や評判も気にした方が良い」
デジャヴを感じる言葉。本人の口からも聞いたが第三者から同じ事を言われると、それが父親の本性なのだとより強く感じる。
騎士団長はシルヴェリオが何か頼み事があって来たのだろうなと思った。追い返そうかと思ったが騎士団では真面目に任務に打ち込んでいるのに2年前だったか。突然16歳になり満5年を迎えたら退団すると言い出したので、考えを改めて退団の意思を取り消すのかもと話だけは聞いてみることにしたのだった。
「で?どうしたんだ。退団の考えを変えたか?」
「その件ではないんです。もしかすると団長がご存じな事があるかも知れないと思いまして」
「私が知っている事?なんだ?規約に接する事は話せないぞ」
「構わない範囲でいいんです。13年前に――」
「待て。その先は言うな」
思案顔になった騎士団長は何を何処まで言えばいいのか。そしてシルヴェリオが何処まで知っていて何を知りたいのかを考えた。
「聞きたい事は王族に関する事か?」
「関係はするんですけど、少し違うと言いますか。団長はファティーナ・シードという女性をご存じでしょうか。もしその女性についてご存じの事があれば教えて頂きたいと思いまして」
騎士団長は13年前はまだ副団長にもなっていなかったし、王都の周辺警護をする第4騎士団で揉まれていた時に第1王子暗殺未遂事件が起きた。直接関わってはいないが「一人の少女を何故誰も庇わないのだろう」と思った事をシルヴェリオに伝えた。
同時にファティーナの金でネブルグ公爵家が遊んで暮らせる状態だったのは公然の秘密。そのファティーナをネブルグ公爵家が一切救済しない事に「どうなんだ?」と不快感を示す者も多かった。
ただ他家の事であり、事件の内容が内容なのでファティーナを庇うような事を口にして、火の粉が飛ぶのを誰もが嫌がり、「ここだけの話」となっていた。
「すまないな。当時は周辺地域に住まいもあったし人伝手で聞いた話は信用していないんだ。だが議場へ判決は聞きに行ったよ。君の兄上が婚約者が断罪されるというのに他の女性を連れて傍聴していた事に違和感は感じたけれど、それ以上にずっと否認を続けていたと聞いていたのにシード伯爵令嬢が貴族籍の剥奪と国外追放をすんなり受け入れた事の方が衝撃だったな。相手は王族。暗殺が未遂だろうが死罪が常なのに国外追放になったのは国王陛下が関係しているだろうとも思ったが」
「国王陛下が?!」
「知らなかったのか?まぁお前は当時2歳、いや3歳だったか。覚えていないだろうがシード伯爵令嬢は国王陛下に師事した魔導士だ。実力は適性もあるが分野別で考えれば薬草や自然界にある物質から薬を精製する能力については第一人者と言っていいだろう。変異術で化けた陛下と周辺地域にも薬草の採取に来ていたよ。小さい子を連れている事もあったからおそらくそれがお前だったのかもな。化けてても陛下だからおいそれと声はかけられなかったけどな」
変異術を使っている時は国王だと判る者はまずいないが、万が一を考えて「それらしい人物が来る」事は周知されていて警備を強化したんだと騎士団長は笑った。
シルヴェリオは胸が嫌な拍動を打ち始めた。
――まさか森で助けてくれた女性が本人だったのか?――
恋人が妊娠したと言った兄、父親の言葉、騎士団長の見解を聞いてシルヴェリオはネブルグ公爵家がファティーナを嵌めて領地など財産を奪い取ったとしか思えなかった。
王子の暗殺未遂に両親が絡んでいるかは判らないが、事件を利用したのは間違いない。
事件の起こる前に婚約は破棄となったと言っていたが、兄のアロンツォが不貞の結果マリアと結婚をしたは事実で言破棄される前に破棄した、いや破棄した事にしようと何か企んだのではないかと思った。
しかし、父親の告白はあるものの推測の域は出ない。
詳細を語らず「全てだ」と逃げたのは詮索をされると困る、つまり…。
その先は考えてはいけないと思いながら1つの結論がシルヴェリオの中に生まれた。
【暗殺未遂事件を企てた本当の首謀者は父親ではないか?】
そうなれば当然病床の母親も関係してくる。母親もアロンツォとマリアの関係は知っていたのだからファティーナとの婚約破棄に至る要因を知らなかったとは考えにくい。
――だとしたら、僕はなんて事を彼女に頼んでしまったんだろう――
貴族である事を無くし、追放される要因を作った相手を救ってくれと言われた時のファティーナの気持ちを思うと居た堪れない。
目を閉じて不意に聞こえる声を心の中から探す。
しかし探している最中はなかなか見つからない失せ物と同じでこんな時に限って優しい声は聞こえない。
父親は言った。アロンツォとファティーナの婚約は28年前だと。
シルヴェリオもマリアも生まれる前の婚約。
優しい声はシルヴェリオの思い違いでもなく、母親でもマリアでもなく。
ファティーナだったのだろうと思うと目から涙が溢れ、止まらなくなった。
――僕には何が出来る?――
何も出来ないだろうが先ず謝ろう。
「すみません。団長。休暇の延長をお願いします」
「それはいいが…どうするんだ?」
「行かなきゃいけない所があります。もし2カ月経っても戻らない時は騎士団から籍を抹消してください」
シルヴェリオは袖で涙を拭うと騎士団長の家を後にして先ずは目印となる二股になった大きない欅の木を目指して出立した。
1,266
あなたにおすすめの小説
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる