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第21-1話 蘇る記憶①
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手にしていたスプーンを置き、窓から玄関の方向を覗いてみるが人の姿は見えない。
「今日は薬を取りに来る日じゃないし…こんな時間に来た事はないのに」
そう思いながら扉を開けたファティーナは扉に付けてもらった覗き穴から玄関扉を挟んだ向こう側を覗いてみたが何もない。
こんな時間にやって来るとすれば「お客様」である。
強い思いを持って、その思いが途切れることもなく、心が折れる事もなく辿り着いた者。
だとすれば無碍にあしらうことは出来ない。
例えそれが破落戸であろうと戒律を犯した聖職者であってもここに来る事が出来たならファティーナの力を貸す。それがファティーナが決めたルールだった。
決めたことも守れないのなら「彼ら」と同じ。
ファティーナは自分勝手だが全てを奪い、追放となる原因を作った者達とは違う。そうやって線引きをして自分の心を守って来た。
邪な気持ちを持つ者はこの森に足を踏み入れることは出来ないし、小さな家を見つけることも出来ないので盗賊などの心配がないのはファティーナにも有難い。
ガチャリ。
扉を開けてファティーナは「あれ?」キョロキョロ周囲を見回した。
目の前には見慣れた風景が闇の中に見えるだけで人間はいなかった。
「おかしいわね」
「おかしくないです!」
声が聞こえてきたのは足元。
扉が外開きだったら、ぶつかってしまい開かなかっただろうが生憎の内開き。
まさか玄関を開けたその先で両膝をついて額も床に擦りつける体勢で人間がいるとは思いもしないファティーナは盛大に叫び声をあげ驚いてドアノブに手を掛けたまま腰を抜かした。
「ンニャーッ!!」
「だ、大丈夫ですか?!」
顔をあげて、腰を抜かしへたり込んだファティーナに手を差し出してきたのはシルヴェリオだった。
心臓がバクバクと嫌な拍動をし始める。
しかし、目の前に現れたのなら自分の決めたルールは守らねばならない。
前回は倒れていたのをファティーナが見つけたので運び込んだだけ。
もしもそれがシルヴェリオでなければ治療を引き受けたかも知れない。
訪れた訳ではないので断る選択肢もあったが、今回は違う。
シルヴェリオは強い意志を持って、気持ちが折れることなく小さな家までやって来た。
頼まれればシルヴェリオの母親も治療せねばならない。
――もうルールなんて捨てちゃえ――
ファティーナの心が訴えかけるが、ファティーナはシルヴェリオに声を掛けた。
「何か…御用ですか」
ファティーナの心の中では「夫人の治療なんてしたくない」そんな気持ちでいっぱいだったがシルヴェリオの言葉は全く違ったものだった。
★~★
この回短いので同時刻に第21-2話が公開になってます(*^-^*)
「今日は薬を取りに来る日じゃないし…こんな時間に来た事はないのに」
そう思いながら扉を開けたファティーナは扉に付けてもらった覗き穴から玄関扉を挟んだ向こう側を覗いてみたが何もない。
こんな時間にやって来るとすれば「お客様」である。
強い思いを持って、その思いが途切れることもなく、心が折れる事もなく辿り着いた者。
だとすれば無碍にあしらうことは出来ない。
例えそれが破落戸であろうと戒律を犯した聖職者であってもここに来る事が出来たならファティーナの力を貸す。それがファティーナが決めたルールだった。
決めたことも守れないのなら「彼ら」と同じ。
ファティーナは自分勝手だが全てを奪い、追放となる原因を作った者達とは違う。そうやって線引きをして自分の心を守って来た。
邪な気持ちを持つ者はこの森に足を踏み入れることは出来ないし、小さな家を見つけることも出来ないので盗賊などの心配がないのはファティーナにも有難い。
ガチャリ。
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「おかしいわね」
「おかしくないです!」
声が聞こえてきたのは足元。
扉が外開きだったら、ぶつかってしまい開かなかっただろうが生憎の内開き。
まさか玄関を開けたその先で両膝をついて額も床に擦りつける体勢で人間がいるとは思いもしないファティーナは盛大に叫び声をあげ驚いてドアノブに手を掛けたまま腰を抜かした。
「ンニャーッ!!」
「だ、大丈夫ですか?!」
顔をあげて、腰を抜かしへたり込んだファティーナに手を差し出してきたのはシルヴェリオだった。
心臓がバクバクと嫌な拍動をし始める。
しかし、目の前に現れたのなら自分の決めたルールは守らねばならない。
前回は倒れていたのをファティーナが見つけたので運び込んだだけ。
もしもそれがシルヴェリオでなければ治療を引き受けたかも知れない。
訪れた訳ではないので断る選択肢もあったが、今回は違う。
シルヴェリオは強い意志を持って、気持ちが折れることなく小さな家までやって来た。
頼まれればシルヴェリオの母親も治療せねばならない。
――もうルールなんて捨てちゃえ――
ファティーナの心が訴えかけるが、ファティーナはシルヴェリオに声を掛けた。
「何か…御用ですか」
ファティーナの心の中では「夫人の治療なんてしたくない」そんな気持ちでいっぱいだったがシルヴェリオの言葉は全く違ったものだった。
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