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第24話 焦げで魚釣り
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「ファァァー♡こんなところにぃ~」
この森にある小さな家で住み始めて13年。
ファティーナも稀にお目にかかる野草が目の前にあった。
「ヘゼルの陛下が欲しがってたのよね。これでまた安心ね」
そぉ~っと根っこも傷つけないように採取したのは「ウッ草」という野草。葉っぱは乾燥させて粉末にして服用。根っこは細かく刻んで捨てる小麦粉などと練って薄毛に悩む箇所に20分ほどパック状にすれば鬱蒼とした毛むくじゃらになれる。
但し、脱毛クリームなどと同じで効果は1、2週間。何故か頭皮に使用する男性が多い。ウィッグと違うのは自分の毛なので疑われる心配がないが継続的に服用とパックが必要なのがネック。
そしてさらにガサガサと草を掻き分けて進んでいくと本日のお目当ての1つ「サッ草」があった。乾燥させてお茶として飲むのだが、とても爽やかな気分になる。名前の由来は「颯爽」から来ている。
もう1つのお目当ては葦である。
水辺に群生して生えているのだが、根も、茎も葉っぱも全て薬になる。
ファティーナの仕事は葦を使って薬を作ることの他に、今年の群生具合を調べて報告する事も加わっている。
葦は水質改善をしてくれる植物。むやみやたらに採取してしまうのは良くないので、量を管理する必要がある。
放置してしまうと冬に枯れてしまうため雪解け水と共に流れて川幅などが狭い場所を堰き止めてしまったりするので群生状況を報告して必要以上の部分を刈り取って貰うのである。
刈り取った葦は太陽光の有害物質を遮蔽してくれるのでヘゼル王国で日焼けを気にする女性には人気がある。スダーレと呼ばれる製品になる。1シーズン終えたスダーレは回収されてバシバシ潰されて繊維状にした後、葦紙という紙になる。
水の中に根っこもあるのに防水性能もあるので雨の日はミノムシのようになってしまうが葦で作った雨合羽を着る。こちらもお役御免になれば葦紙になる。
ヘゼル王国は水の国とも呼ばれていて葦の群生している水辺は各地にある。
なので、無駄にならないよう官公庁で使用する紙は全てが葦紙。
「うわぁ。今年はかなり刈り取ってもらわなきゃ。薬にする分と残すのは…これくらいでいいかな」
ファティーナは籠の中から葦紙で作った手帳を取り出し、簡単な地図を描くと薬用、残す区域に斜線を入れて伐採してもらう部分を書き記した。
薬にする葦も適量を鉈で刈り取ると、紐で結ぶ。
「さて、晩御飯の調達でもしようかな」
来る途中で拾った枝に籠の中から釣り糸もどきを取り出して枝に括りつけ、餌となる焦げを以前に美味しく頂いた鳥の骨を削って作った釣り針に引っかける。
ぽちゃんと水の中に釣り糸を垂れ「撒き餌じゃー!撒き餌じゃー!」っと周囲に大盤振る舞いで焦げを投げ込む。
5分‥‥10分‥‥15分。
「おかしいわね。波紋1つ起こらないわ」
引き上げてみると焦げはしっかり釣り針についたまま。
「投げ込む位置が悪いんだわ。そう!釣りはポイントが大事よ」
流れのある場所、淀んだ場所、岩がゴロゴロある場所。いろいろとポイントも変えてみたり、焦げを入れ替えて試したのだが、5時間頑張って釣果はゼロ。
「魚は焦げを食べないんだわ。そうだと思ったけど」
食いつきが良いのはハムだったり、筋肉だったりするので「焦げはだめだろうなー」とはファティーナも思ったのだ。思ったけど「案外イケるかも?」と薄い期待をした結果、やはり薄い結果になった。
「魚って肉食系なのよね~。ヘルシーなのに肉食ってどうよ??」
しかし、釣れるつもりで来たので魚が連れなければ今夜の夕食はナンのみになる。スープは急いで作ればなんとかなるだろうが、焼き魚とナンだけなら後片付けに食器がないので楽だろうな~っと思ったのだ。
「世の中、上手くいかないものね。ナンで我慢しようっと」
しかし今日は予定になかった「ウッ草」が手に入った事にファティーナは念のため、周囲を見て誰もいない事を確かめ、スキップをしながら小さな家に戻った。
「あれ?なんで煙が??まさか火事?!」
しかし火事にしてみては煙の上がり方が焚火っぽい気がする。
「あ、シルヴェリオがまだいるのかも知れないわ」
本当に帰るのを1カ月後にするつもりなのだろうかと思いながら進んでいくと立ち上っている煙は庭でシルヴェリオがやはり焚火をしているからだと判明した。
「あ!!姉様!来て!丁度焼き上がったんだ!」
――焼き上がった?焼きナスでもしたのかしら――
近寄ってみるとシルヴェリオが人間の体にはもう尾骨は不要なはずなのにキツネのモフモフ尻尾がブンブン揺れているかのように「姉様!おかえり♡」とじゃれついてくる。
そんなシルヴェリオの手には‥‥。
「く、串肉?!」
「大当たり!姉様、さっすがぁ!」
――見りゃ判るわよ――
「待って、肉なんかなかったはずよ?」
「それがあるんだな~。美味しいよ?お腹減ってるよね。鉄串がなかったから枝に刺したんだけどいい具合に焼き上がってるんだ。味付けは庭にクシャ実があったから石で潰して粗挽き風だよっ。食べて。食べて」
確かにファティーナの住む家の庭にはスパイスの胡椒によく似た味のクシャ実という実がなる木がある。シルヴェリオがクシャ実を知っているとは思わなかった。
「あ、騎士団でね2年目までは野営訓練するんだよ。味付けも全部現地調達だから覚えたんだ」
「はい!」と差し出してくる串肉。
粗挽き状態になったクシャ実が適度に焚火の火で炙られ弾けて食欲をそそる良い香りがする。
――ほ、絆されたわけじゃないからね??――
自分に言い聞かせ、既に暴走し周囲に爆音を撒き散らす腹の虫の歌声を抑えようとファティーナは差し出された串肉を受け取るとワイルドにがぶりと齧りついた。
「美味しい…でもこの大きさは野鳥じゃないわよね?」
家ではニワトリも飼っていないし、野生化したニワトリもこの周囲にはいない。
しかしこの大きさは野鳥なら10羽、20羽の量ではない。
「姉様、美味しい?まだあるよ」
言われるがまま、差し出されるままにファティーナが3本。シルヴェリオが5本の串肉を平らげた。
「ご馳走様。だけど鳥ササミなんてあったかしら」
「鳥じゃないよ。カラスヘビだよ。家の裏にいたから捕まえたんだ」
「え・・・・・」
「全部現地調達だから覚えたって言ったろ?」
――確かに――
ファティーナは焦げも食べる雑食だったが蛇は人生初だった。
魚はヘルシーだが肉食なんて揶揄うんじゃなかった。
――私が一番肉食じゃないのよ!!――
蛇を美味しいと思ってしまうなんて。ファティーナは軽く凹んだ。
この森にある小さな家で住み始めて13年。
ファティーナも稀にお目にかかる野草が目の前にあった。
「ヘゼルの陛下が欲しがってたのよね。これでまた安心ね」
そぉ~っと根っこも傷つけないように採取したのは「ウッ草」という野草。葉っぱは乾燥させて粉末にして服用。根っこは細かく刻んで捨てる小麦粉などと練って薄毛に悩む箇所に20分ほどパック状にすれば鬱蒼とした毛むくじゃらになれる。
但し、脱毛クリームなどと同じで効果は1、2週間。何故か頭皮に使用する男性が多い。ウィッグと違うのは自分の毛なので疑われる心配がないが継続的に服用とパックが必要なのがネック。
そしてさらにガサガサと草を掻き分けて進んでいくと本日のお目当ての1つ「サッ草」があった。乾燥させてお茶として飲むのだが、とても爽やかな気分になる。名前の由来は「颯爽」から来ている。
もう1つのお目当ては葦である。
水辺に群生して生えているのだが、根も、茎も葉っぱも全て薬になる。
ファティーナの仕事は葦を使って薬を作ることの他に、今年の群生具合を調べて報告する事も加わっている。
葦は水質改善をしてくれる植物。むやみやたらに採取してしまうのは良くないので、量を管理する必要がある。
放置してしまうと冬に枯れてしまうため雪解け水と共に流れて川幅などが狭い場所を堰き止めてしまったりするので群生状況を報告して必要以上の部分を刈り取って貰うのである。
刈り取った葦は太陽光の有害物質を遮蔽してくれるのでヘゼル王国で日焼けを気にする女性には人気がある。スダーレと呼ばれる製品になる。1シーズン終えたスダーレは回収されてバシバシ潰されて繊維状にした後、葦紙という紙になる。
水の中に根っこもあるのに防水性能もあるので雨の日はミノムシのようになってしまうが葦で作った雨合羽を着る。こちらもお役御免になれば葦紙になる。
ヘゼル王国は水の国とも呼ばれていて葦の群生している水辺は各地にある。
なので、無駄にならないよう官公庁で使用する紙は全てが葦紙。
「うわぁ。今年はかなり刈り取ってもらわなきゃ。薬にする分と残すのは…これくらいでいいかな」
ファティーナは籠の中から葦紙で作った手帳を取り出し、簡単な地図を描くと薬用、残す区域に斜線を入れて伐採してもらう部分を書き記した。
薬にする葦も適量を鉈で刈り取ると、紐で結ぶ。
「さて、晩御飯の調達でもしようかな」
来る途中で拾った枝に籠の中から釣り糸もどきを取り出して枝に括りつけ、餌となる焦げを以前に美味しく頂いた鳥の骨を削って作った釣り針に引っかける。
ぽちゃんと水の中に釣り糸を垂れ「撒き餌じゃー!撒き餌じゃー!」っと周囲に大盤振る舞いで焦げを投げ込む。
5分‥‥10分‥‥15分。
「おかしいわね。波紋1つ起こらないわ」
引き上げてみると焦げはしっかり釣り針についたまま。
「投げ込む位置が悪いんだわ。そう!釣りはポイントが大事よ」
流れのある場所、淀んだ場所、岩がゴロゴロある場所。いろいろとポイントも変えてみたり、焦げを入れ替えて試したのだが、5時間頑張って釣果はゼロ。
「魚は焦げを食べないんだわ。そうだと思ったけど」
食いつきが良いのはハムだったり、筋肉だったりするので「焦げはだめだろうなー」とはファティーナも思ったのだ。思ったけど「案外イケるかも?」と薄い期待をした結果、やはり薄い結果になった。
「魚って肉食系なのよね~。ヘルシーなのに肉食ってどうよ??」
しかし、釣れるつもりで来たので魚が連れなければ今夜の夕食はナンのみになる。スープは急いで作ればなんとかなるだろうが、焼き魚とナンだけなら後片付けに食器がないので楽だろうな~っと思ったのだ。
「世の中、上手くいかないものね。ナンで我慢しようっと」
しかし今日は予定になかった「ウッ草」が手に入った事にファティーナは念のため、周囲を見て誰もいない事を確かめ、スキップをしながら小さな家に戻った。
「あれ?なんで煙が??まさか火事?!」
しかし火事にしてみては煙の上がり方が焚火っぽい気がする。
「あ、シルヴェリオがまだいるのかも知れないわ」
本当に帰るのを1カ月後にするつもりなのだろうかと思いながら進んでいくと立ち上っている煙は庭でシルヴェリオがやはり焚火をしているからだと判明した。
「あ!!姉様!来て!丁度焼き上がったんだ!」
――焼き上がった?焼きナスでもしたのかしら――
近寄ってみるとシルヴェリオが人間の体にはもう尾骨は不要なはずなのにキツネのモフモフ尻尾がブンブン揺れているかのように「姉様!おかえり♡」とじゃれついてくる。
そんなシルヴェリオの手には‥‥。
「く、串肉?!」
「大当たり!姉様、さっすがぁ!」
――見りゃ判るわよ――
「待って、肉なんかなかったはずよ?」
「それがあるんだな~。美味しいよ?お腹減ってるよね。鉄串がなかったから枝に刺したんだけどいい具合に焼き上がってるんだ。味付けは庭にクシャ実があったから石で潰して粗挽き風だよっ。食べて。食べて」
確かにファティーナの住む家の庭にはスパイスの胡椒によく似た味のクシャ実という実がなる木がある。シルヴェリオがクシャ実を知っているとは思わなかった。
「あ、騎士団でね2年目までは野営訓練するんだよ。味付けも全部現地調達だから覚えたんだ」
「はい!」と差し出してくる串肉。
粗挽き状態になったクシャ実が適度に焚火の火で炙られ弾けて食欲をそそる良い香りがする。
――ほ、絆されたわけじゃないからね??――
自分に言い聞かせ、既に暴走し周囲に爆音を撒き散らす腹の虫の歌声を抑えようとファティーナは差し出された串肉を受け取るとワイルドにがぶりと齧りついた。
「美味しい…でもこの大きさは野鳥じゃないわよね?」
家ではニワトリも飼っていないし、野生化したニワトリもこの周囲にはいない。
しかしこの大きさは野鳥なら10羽、20羽の量ではない。
「姉様、美味しい?まだあるよ」
言われるがまま、差し出されるままにファティーナが3本。シルヴェリオが5本の串肉を平らげた。
「ご馳走様。だけど鳥ササミなんてあったかしら」
「鳥じゃないよ。カラスヘビだよ。家の裏にいたから捕まえたんだ」
「え・・・・・」
「全部現地調達だから覚えたって言ったろ?」
――確かに――
ファティーナは焦げも食べる雑食だったが蛇は人生初だった。
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