旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru

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カリナという女性

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それは1年半ほど前から始まった。

いつもと変わらない朝。

早番だというシリウスを起こし、一緒に朝食を取る。
お揃いのマグカップでコーヒーを飲んだ後、
キスをしてシリウスを見送った。

洗い物を済ませると、掃除と洗濯、家の掃除をする。
夕食の為の水を水瓶に入れるのと、湯あみ用の水を樽に入れるため
井戸との間を何往復もする。

市場の仕事はセリなどが終わった後の伝票整理なので
毎日昼の1時に市場に行く。
それまでに買い物も済ませておく。それがシャロンの日課。

最初の頃は井戸からの水を運ぶのに何度もこぼしてしまったが
最近では2個一緒に運べるほどにまで筋力もついた。

休みの日はシリウスも手伝ってはくれるが、
毎日休みではないので筋肉がつくのも必然と言える。

早番の前の日は大抵休みなのだが、シリウスは

「ちょっと重要な任務を任されているんだ」
「もうすぐ遠征があるから準備があるんだ」

といって、休日出勤する事が増えた。
給料は毎月定額を貰っているので、疑う事もしなかった。
いつものように掃除をして、1時の出勤に間に合うように
12時少し前に昼食を取っていると玄関の呼び鈴が鳴る。

「はい。どちらさまでしょう?」

玄関を開けると、幼い乳飲み子を抱いた派手目の女性が立っていた。
初めて見る女性に少し戸惑うシャロンだったが

「ワーグナー班長の家で間違いないわよね?」

女性はシャロンを頭から足先まで目線で値踏みをするように見てそう言った。

「は、はい・・ワーグナーですが・・どちら様でしょう?」
「あのさぁ、今月はまだもらってないんだけど?」

主語も何もなく突然女性が言い始める。
シャロンは何の事だか全くわからない。

「今月はまだ・・と言いますとお家賃でしょうか?」

貧乏で共働きではあるけれど、家賃を滞納した事はない。
今月分は既に払っているし、来月分も来週の給料で払う予定である。
井戸などを共同利用するための会費も年払いで会長に払ってある。

「っていうかさ、アンタ誰?いるんでしょ?出てきなさいよ!」

女性は乳飲み子を抱えたまま、大声で家の中に向かって叫ぶ。
隣は既に仕事に出ているので聞かれることはないか
気分の良いものではない。

「わたくし、ワーグナーの妻ですがどちら様でしょうか?」

プッと女性は吹き出すと笑いだしてしまった。

「アッハッハ・・へぇ。。あんたがねぇ・・
冴えない女。ってか女房いたんだ。プっ・・ウケるんですけど?
まぁいいわ。帰ったら伝えておいて今月分がまだだってカリナが来たって♡」

そういうとカリナと名乗る女性は乳飲み子を抱えて帰った。
扉を閉めると、言いようのない震えがシャロンの全身を襲う。

「ま、まさか・・浮気?」

へたり込むと立ち上がれなくなる。
立ち上がろうとすると膝がバカになった様にグラグラしてしまう。
這うようにして居間に戻ったシャロンはなんとか椅子に座る。
食べかけの昼食もそのままに考える。

ーーあの乳飲み子は・・まさか・・子供なの?ーー

子供の大きさから言うと、職場に時折連れて来ている同僚の子供とくらべて
少し小さい気がしたが、おおよそで5、6か月と言ったところか。

ーー結婚してすぐ・・ううん、同棲してた頃からなの?ーー

妊娠の期間と子供の大きさからすると少なくとも関係があったのは
たとえ1回だとしても結婚してすぐだと思われた。

ーー今月分って・・家には定額だけど残りから渡してた・・
  だから休日出勤が増えたという事なのーー

悪い方に考え出すと止まらない思考。
ズブズブと沼に嵌っていくような錯覚をする。

ジリリリリ♪

ハッと出勤時刻の為にセットした魔道具から音が鳴ると
現実に引き戻されるシャロン。

「仕事には行かなきゃ・・」

まだふらつきと震えの残る体に鞭を打つように椅子から立ち
市場へ仕事に出たのでした。
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