旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru

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父の名前

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蟠る気持ちを押し殺してシャロンはいつもの毎日を過ごす。

カリナがやってきてそろそろ1年が過ぎようとしていた。
あれきりやって来ることのないカリナだったが
シリウスの勤務は以前と変わらない。

ただ、シャロンは同僚の勧めもあって
貧しい子に読み書きを教える神殿のボランティアを始めていた。
動機は簡単である。

ーーシリウスとの時間を出来るだけ共有したくないーー

ボランティアを始めるにあたってシリウスには相談はした。
あまり快く思っていないようで渋っている感じはあったが
どうしてもとあまり我儘を言わないシャロンの意見を
シリウスは尊重してくれた。

「今日は隣町に行ってみましょう」

神殿の女官長の言葉に隣町まで出向いた時、
シャロンは一番会いたくない女性と遭遇してしまった。

あの時と同じ、派手目のドレスに身を包み
ボランティアが読み書きを教えている場には似つかわしくない程の
装飾品で飾り立てているカリナである。

もうすぐ2歳だと言う男の子を会場に連れてきたのである。
カリナの装いは周りの大人たちの反応も芳しくなかった。

「何よ。貧乏人の僻みじゃない!」

何かを言われたようで、1人の女性の頬を打ちカリナが叫ぶ。

「無料奉仕の場に連れてくるより、その宝飾品の1つでも
売り払ったら家庭教師が雇えるんじゃないの!」

頬を打たれた女性も負けてはいない。
そのうち泣き出す子も出始めてしまい、男性のボランティアが
カリナと男児を会場から退場させてしまった。

シャロンにカリナと面識がある事を知らないボランティア仲間が
そっと耳打ちをする。

「あの阿婆擦れ、いつもあぁなのよ。腹が立つわ」
「えっ?いつもなのですか?」
「そうよ。多分3、4か月はここの会場には来ないけど
別の会場に現れるわよ。いつもなのよ。出禁食らったら他に行くの」
「出入り禁止・・ですか」
「そうそう。息子にね、読み書き教えようってのは良いんだけど
何処の会場に行っても他のお母さん方とトラブルを起こすのよ」

聞けば、カリナは元々はどこかの男爵令嬢だったようで
借金で没落しそうな時に高齢の裕福な子爵に嫁いだが
数年で子爵が亡くなり、莫大な財産を巡って子爵の子供と対立。
それでも平民が一生かかっても稼げないほどの財産を相続したが
3年ほどで使い切ってしまい、そこからは娼婦のような事をしているらしい。

身につけている宝飾品や派手なドレスは数人のパトロンからの
贈り物だが、自分の金を使う事を良しとせず
一人息子に家庭教師をつけるよりも無料の会場で学ばせると
こうやってやって来る。

静かにしていれば良いのだが、場違いな装いを窘められると
あぁやって暴力沙汰にしてしまうのだそうだ。

「あの息子も可哀想なもんよ」
「どうして?母親と一緒に居るのに?」
「母親は本物だけどね・・父親はどこの誰だか判らないそうよ」
「そうなの・・」
「阿婆擦れが言うには、どっかの騎士らしいけどね。
それも本当なんだかどうか、話半分でもお釣りがくるわ」

ーーどこかの騎士??ーー

仲間の言葉にシャロンの胸が早鐘を打ち始める。

「なんでも、父親の名前を付けたそうよ。息子に。あり得ないわ」

この国では、親と同じ名前は片方の生命を吸い取るという意味で
敬遠されているのだ。
それでも敢えて名前を付けたカリナという女。

「あの子の名前ね、ソティス っていうのよ」

ーーソティス?!ーー

その名前を聞いて、シャロンはその場に倒れてしまった。

ソティスはシリウスの別名であったのだ。
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