旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru

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シリウスの手紙②

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ドレーユ侯爵の馬車が伯爵家に到着する。

家令や使用人がドレーユ侯爵を出迎える。
その先には伯爵夫妻とシャロンが立っていた。

「ようこそ、何もおもてなしできませんがどうぞ」

伯爵はドレーユ侯爵をサロンに案内するが、
ドレーユ侯爵は、シャロンに微笑む。

「サロンに行く前に、伯爵家ご自慢のツツジの街道を
シャロン嬢に案内して頂きたいのですが、よろしいでしょうか」

「おっ、おぉぉ、それは是非。先日から見ごろを迎えておりますよ。
シャロン、侯爵様をご案内してくれ」

「はい、お父様。では、侯爵様こちらへ」

シャロンはドレーユ侯爵を案内してツツジが咲き誇る庭を案内する。
小道の両脇に白やピンク、まだらになったツツジが満開の中
休憩できるスペースはまだ先だと言うに、ドレーユ侯爵は足を止める。

「どうなさいました?」

不思議そうにシャロンが問いかけるが、ドレーユ侯爵は
胸のポケットから手紙と懐中時計を取り出す。
見覚えのある懐中時計を見たシャロンは両手で口元を覆う。

「マニラさんという女性から今朝、預かりました」

震える手で手紙と懐中時計を受け取るシャロン。
シャロンの手に渡ると、ドレーユ侯爵はシャロンの背に手を回し
休憩できるテーブルまで一緒に歩きながら…

「なんでも急ぎの用が出来たから預かったそうですよ」
「そ、そうですか…」

テーブルのあるスペースに来るとドレーユ侯爵は
シャロンを椅子に座らせる。
侍女に、お茶を頼み、運ばれてきたお茶の香りを楽しむ。

「私は今、この紅茶の香りにセイロンを思い浮かべているのです。
どうか、この空想する時間を楽しませてはくれませんか」

ドレーユ侯爵は暗に、手紙を今、読みなさいとシャロンに伝える。
シャロンは懐中時計をテーブルに置き、簡単に封がされただけの
封印を指で解く。

☆~☆~☆

シャロン

君がこの手紙を読んでいる頃、
君のいる世界に僕はもういないかも知れない。

君が神殿に離縁の届けをし、調停の場がある通達は受け取った。
君の意思に添いたいと思っている。

あの日、初めて強い我儘を僕に言ってくれたのに
僕は先送りをしてしまった。申し訳ない。

言い訳になると思うが読んで欲しい。

カリナの事では大きな迷惑と負担を君に強いた事を詫びたい。
本当に申し訳なく思っている。
彼女の事は命令に従っていただけだ。

休日も仕事、早番も遅番も関係なく仕事で
君との時間が少なくなっていた事も申し訳なく思う。
班長になって少しした頃、2年後将校への昇格の内示があった。
役職に見合うように仕事をした結果、
君には辛くて寂しい思いをさせてしまった。

ただ、内示はもうないと思う。

君に伝えたい事は沢山あって書ききれないのだが
僕は決して君以外を愛した事はない。

カリナもそうだし、何よりソティスは僕の子供ではない。
ソティスは王太子殿下か第二王子殿下の子供だ。
書いておいて!と思うだろうが、他言をしないで欲しい。
おそらく闇に葬られる事だからだ。

君に出会えたことが、僕の人生の意味だった。
愛している。愛されて嬉しかった。

僕の手は汚れてしまう。
そんな手で君を抱きしめることは許されない。

僕の我儘で君をずっと縛り付けていた。
もう自由に生きていって欲しい。

シャロン。ありがとう。

シリウス・ワーグナー

☆~☆~☆

「本当に…ズルい人…」

シャロンは手紙を読み終わると、冷めた紅茶を一口飲む。
目を閉じていたドレーユ侯爵は手紙を封筒に入れる音で目を開ける。

「心地よく空想ができました。ありがとう」

「いえ、こちらこそありがとうございます」

「シャロンさん、決して無理をしなくてもいいのですよ」

「いいえ。侯爵様からのお話は父も母も大変喜んでおりますし
侯爵様さえ良ければ、進めて頂けるとありがたく思っております」

「フフフ…これはなかなかに困りましたね」

「えっ?お困りなのですか?」

「いえいえ。こちらの話です。まだ空想の世界の妖精が話しかけるので」

「妖精…ですか」

「えぇ。私の妖精たちはとてもお喋りなのです。今夜は騒がしくなりそうです」

まだ午前中だというのに、今夜の話をするドレーユ侯爵。
シャロンの胸の中がざわついた。
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