39 / 56
動き出す断罪劇③-②
しおりを挟む
騎士に逃げられたと知ると、王弟は1人の男を思い出す。
学園でも異質な存在だとされていた従兄弟のドレーユ侯爵である。
王弟は兄である国王と継承を争っていた。
だが、その頃、西の国境付近で希少な資源である石炭が発見された。
王弟は王座と石炭を天秤にかけて悩んだ。
そこに当時兄の側近でもあり宰相補佐(現在の宰相)が
王弟に欲望の種を植えた。
【今は辺境の地の石炭を選び、時が来るまで資産を貯め込み
玉座を頂けばよいのでは?
ずっと健康で過ごした王などいないのですから】
同時に2つは手に入れられない。
王弟はその案に乗った。人生を賭けたとも言って良いだろう。
即座父である王に願い出る
【辺境の地を頂けるのであれば、生涯に渡り兄を支えましょう】
だが武術の心得が足らないと感じた父は息子に懸念を抱き
腕の確かな辺境伯を置き、当時第一騎士団で頭角を現していた
エイト騎士(現在のエイト司令)を配置したのは王弟の誤算だったが
採っても採っても尽きることなく掘れる石炭は
王弟が不正をせずとも、一生使っても使い切れない私財を生み出した。
辺境の地を任されるというのは、何があっても死守すると同義である。
王弟に子が生まれると世継ぎ問題が勃発してしまう。
何より王弟は男色家であったため、形ばかりの妻を
落ちぶれていた公爵家から娶った。
有り余る私財があるため、妻は実家の公爵家の立て直しと
将来を考え、自ら子を産めぬよう薬を飲んだ。
結婚後3年で妻を離宮に住まわせ、
妻は今に至るまでお気に入りの騎士を侍らせていた。
40歳を超えると、次第に王座に対しての欲望が薄れた。
そんな時である。宰相がカリナの妊娠を王弟に告げた。
薄まっていた王座への欲望がまたジワリと湧き出す。
王太子(第一王子)も第二王子もカリナと関係を持っている。
それをネタとして、カリナを始末してやったという恩を売る。
上手くいけば、どちらが王になったとしても
妻の実家に頭が上がらない甥たちである。傀儡にするに容易い。
幸いにも末端の騎士が、金に目が眩み引き入れやすかった。
ーーこいつに始末させようーー
カリナの処分を騎士にやらせれば、痴情の縺れで肩が付く。
どちらの王子にでも恩だけが売れる。
特に第一王子は王太子となり、その妻である王太子妃は妊娠中である。
カリナを処分したとあれば、公に出来ない事情で
王太子が即位しても実権は握れるはず。ほくそ笑んだ。
しかし、騎士がカリナを始末しない。
どうやら宰相が処分を渋っていると判明した。
宰相の言い分は、私生児とはいえ、外に子を作ったという事実で
王子を操ってみてはどうかという物だった。
そうこうしているうちに、第二王子妃の懐妊も発表になる。
宰相の言うようにしても良いが、妃から生まれる子が
男児であれば、その時点で継承権が発生する。
私生児などもみ消されてしまう可能性が高い。
王弟は王太子妃の出産の報を聞いて小躍りした。
ーー生まれたのは女児ーー
そうだ。男児か女児かの確率は五分なのだと考えた。
そして、カリナは男児を産んだ。
これには王弟は身震いをした。
上手くいけば、この子(ソティス)の後見人となり
この子(ソティス)を王座に据えて実権を握れるではないか!
王弟は笑いが止まらなかった。
第二王子妃が男児を出産したとの一報には落胆したが、
出産に立ち会った女中の話によると、
濃すぎる血が災いして、生後間もなく天に召されたという事だ。
生きた日数は改ざんされたが、王弟はまだ自分にツキがあると確信した。
だが…思わぬ伏兵が潜んでいた。
第三王子である。第三王子は早々に継承権を放棄し
領地に引きこもったため、存在を失念していた。大きな誤算である。
しかも生まれたのは男児で、すくすく成長しているという。
王弟に残された手段はソティスを処分し、
王太子をそのネタで揺することしかなかった。
カリナを処分と決めた時、振り出しに戻ってしまった。
時間がかかったがやるしかないと、駒である騎士に影をつける。
騎士がカリナとソティスを処分した後、
騎士を影に処分させる。簡単だった。そのはずだった。
しかし、3人は消えたままである。遺体がないのだ。
生きているとしても、一向に現れない。手詰まりだった。
そんな状態で公にすれば王座を目論んだクーデターだと
処分されてしまうのはこちらだと思うと首筋が寒くなる。
そして‥‥今である。
攻めてきた西国はドレーユ侯爵の姉が嫁ぎ皇后となっている。
そして都合よく使い捨てにしたシリウスはシャロンの夫である。
そのシャロンの姉はドレーユ侯爵の元婚約者であり、
シリウスとの離縁を神殿に申し出ると同時にドレーユ侯爵は
伯爵家と懇意にしている。
下流域にそのうち流れ着くだろうとあしらったが
シリウスの遺体はまだ見つかっていない。
同時にソティスの遺体も見つかっていないのだ。
ーー時間がない、どうすればいいーー
王弟はハァハァと口元から涎を垂れ流しながら息をする。
西国が砦を落とした。
おそらくドレーユ侯爵絡みは間違いないだろう。
だが、どうやってドレーユ侯爵を叩く??
もしかすると、シリウスはシャロン宛に何か自分との繋がりを示唆する
物を渡しているのかも知れない。
ドレーユ侯爵はシャロンが出戻った時から伯爵家と懇意にしている。
情報があったとすれば、流れてないと考える方が不自然である。
ーードレーユ侯爵はソティスを利用して
王座を狙った事を知っているーーー
ドレーユ侯爵がいる限り、ソティスの件は絶対に口外できない。
だが、砦が落とされたという責任は逃れられない。
早馬の騎士を拘束できていれば、宰相と付き合いがある東の国に
私財を持って亡命する事はできた。
だが、騎士を逃してしまった。騎士は兄である国王の元に向かっている。
今更逃げた所で、国境付近の関所で捕縛されるだろう。
ーー完全に詰んだーー
王弟は、その場で失禁し、座り込んだ。
学園でも異質な存在だとされていた従兄弟のドレーユ侯爵である。
王弟は兄である国王と継承を争っていた。
だが、その頃、西の国境付近で希少な資源である石炭が発見された。
王弟は王座と石炭を天秤にかけて悩んだ。
そこに当時兄の側近でもあり宰相補佐(現在の宰相)が
王弟に欲望の種を植えた。
【今は辺境の地の石炭を選び、時が来るまで資産を貯め込み
玉座を頂けばよいのでは?
ずっと健康で過ごした王などいないのですから】
同時に2つは手に入れられない。
王弟はその案に乗った。人生を賭けたとも言って良いだろう。
即座父である王に願い出る
【辺境の地を頂けるのであれば、生涯に渡り兄を支えましょう】
だが武術の心得が足らないと感じた父は息子に懸念を抱き
腕の確かな辺境伯を置き、当時第一騎士団で頭角を現していた
エイト騎士(現在のエイト司令)を配置したのは王弟の誤算だったが
採っても採っても尽きることなく掘れる石炭は
王弟が不正をせずとも、一生使っても使い切れない私財を生み出した。
辺境の地を任されるというのは、何があっても死守すると同義である。
王弟に子が生まれると世継ぎ問題が勃発してしまう。
何より王弟は男色家であったため、形ばかりの妻を
落ちぶれていた公爵家から娶った。
有り余る私財があるため、妻は実家の公爵家の立て直しと
将来を考え、自ら子を産めぬよう薬を飲んだ。
結婚後3年で妻を離宮に住まわせ、
妻は今に至るまでお気に入りの騎士を侍らせていた。
40歳を超えると、次第に王座に対しての欲望が薄れた。
そんな時である。宰相がカリナの妊娠を王弟に告げた。
薄まっていた王座への欲望がまたジワリと湧き出す。
王太子(第一王子)も第二王子もカリナと関係を持っている。
それをネタとして、カリナを始末してやったという恩を売る。
上手くいけば、どちらが王になったとしても
妻の実家に頭が上がらない甥たちである。傀儡にするに容易い。
幸いにも末端の騎士が、金に目が眩み引き入れやすかった。
ーーこいつに始末させようーー
カリナの処分を騎士にやらせれば、痴情の縺れで肩が付く。
どちらの王子にでも恩だけが売れる。
特に第一王子は王太子となり、その妻である王太子妃は妊娠中である。
カリナを処分したとあれば、公に出来ない事情で
王太子が即位しても実権は握れるはず。ほくそ笑んだ。
しかし、騎士がカリナを始末しない。
どうやら宰相が処分を渋っていると判明した。
宰相の言い分は、私生児とはいえ、外に子を作ったという事実で
王子を操ってみてはどうかという物だった。
そうこうしているうちに、第二王子妃の懐妊も発表になる。
宰相の言うようにしても良いが、妃から生まれる子が
男児であれば、その時点で継承権が発生する。
私生児などもみ消されてしまう可能性が高い。
王弟は王太子妃の出産の報を聞いて小躍りした。
ーー生まれたのは女児ーー
そうだ。男児か女児かの確率は五分なのだと考えた。
そして、カリナは男児を産んだ。
これには王弟は身震いをした。
上手くいけば、この子(ソティス)の後見人となり
この子(ソティス)を王座に据えて実権を握れるではないか!
王弟は笑いが止まらなかった。
第二王子妃が男児を出産したとの一報には落胆したが、
出産に立ち会った女中の話によると、
濃すぎる血が災いして、生後間もなく天に召されたという事だ。
生きた日数は改ざんされたが、王弟はまだ自分にツキがあると確信した。
だが…思わぬ伏兵が潜んでいた。
第三王子である。第三王子は早々に継承権を放棄し
領地に引きこもったため、存在を失念していた。大きな誤算である。
しかも生まれたのは男児で、すくすく成長しているという。
王弟に残された手段はソティスを処分し、
王太子をそのネタで揺することしかなかった。
カリナを処分と決めた時、振り出しに戻ってしまった。
時間がかかったがやるしかないと、駒である騎士に影をつける。
騎士がカリナとソティスを処分した後、
騎士を影に処分させる。簡単だった。そのはずだった。
しかし、3人は消えたままである。遺体がないのだ。
生きているとしても、一向に現れない。手詰まりだった。
そんな状態で公にすれば王座を目論んだクーデターだと
処分されてしまうのはこちらだと思うと首筋が寒くなる。
そして‥‥今である。
攻めてきた西国はドレーユ侯爵の姉が嫁ぎ皇后となっている。
そして都合よく使い捨てにしたシリウスはシャロンの夫である。
そのシャロンの姉はドレーユ侯爵の元婚約者であり、
シリウスとの離縁を神殿に申し出ると同時にドレーユ侯爵は
伯爵家と懇意にしている。
下流域にそのうち流れ着くだろうとあしらったが
シリウスの遺体はまだ見つかっていない。
同時にソティスの遺体も見つかっていないのだ。
ーー時間がない、どうすればいいーー
王弟はハァハァと口元から涎を垂れ流しながら息をする。
西国が砦を落とした。
おそらくドレーユ侯爵絡みは間違いないだろう。
だが、どうやってドレーユ侯爵を叩く??
もしかすると、シリウスはシャロン宛に何か自分との繋がりを示唆する
物を渡しているのかも知れない。
ドレーユ侯爵はシャロンが出戻った時から伯爵家と懇意にしている。
情報があったとすれば、流れてないと考える方が不自然である。
ーードレーユ侯爵はソティスを利用して
王座を狙った事を知っているーーー
ドレーユ侯爵がいる限り、ソティスの件は絶対に口外できない。
だが、砦が落とされたという責任は逃れられない。
早馬の騎士を拘束できていれば、宰相と付き合いがある東の国に
私財を持って亡命する事はできた。
だが、騎士を逃してしまった。騎士は兄である国王の元に向かっている。
今更逃げた所で、国境付近の関所で捕縛されるだろう。
ーー完全に詰んだーー
王弟は、その場で失禁し、座り込んだ。
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。
【完結】旦那に愛人がいると知ってから
よどら文鳥
恋愛
私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。
だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。
それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。
だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。
「……あの女、誰……!?」
この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。
だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。
※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。
あなたの愛が正しいわ
来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~
夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。
一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。
「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる