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第02話 婚約破棄?本当に?
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2人の婚約はカスパルの家であるハーベ伯爵家に金を貸した事が発端となった婚約。
カスパルの長兄が結婚した時の事だ。
当初は金を借りる必要もなかったのだが、結婚式を2カ月後に控えたある日、激しい大雨が領地に数日降り続き、洪水の被害はなかったものの領地へ向かう道で何カ所も崩落が起きた。
1カ所を整備しても追いつかない。全部で16カ所も崩落をしていて国からの支援金では資金が足りずコルネリアの家であるジェッタ伯爵家に融資を申し込んできた。
差し出す担保もないハーベ伯爵は、ジェッタ伯爵家には子供がコルネリアしかいなかった事からいずれは婿養子を探さねばと考えていたジェッタ伯爵に「カスパルはどうだろう?」と提案したことで婚約と相成った。
当時5歳。この頃には当たり前だが今のような女にだらしない男になるとは誰も思わなかった。
但し通常の婚約と違い、お年頃になるまでには借金も完済しているであろうことから「虫除け」の意味合いが強く、両家とも婚姻をする事になるのなら、その時は当人の意思を尊重しようという事になった。
夜会から今日も1人で帰宅をしたコルネリアは毎度の事になるが父親にカスパルの言葉を伝えた。
「お父様、アレが ”最愛の女性と出会ってしまった” と申しておりました」
「アレ」とはカスパルの事。もう名前を呼ぶ事すらウンザリしていた。
「またか…。そうだなぁ。もういいだろう。リアはアレには思いも無いんだろう?」
「ありませんね。むしろ婚約者と言う事で恥ずかしい思いをしますので、もう少し節度のある行動をしてほしいとは思います」
「なら、婚約はもう解消、いや、リアと言う婚約者がいながら最愛がいるんだから破棄でいいか」
「おや?」父親の言葉にコルネリアも驚いた。
今までは「そうか。アレにも困ったものだ」と流されるだけだったのに今回に限って婚約解消ではなく破棄をすると言い出したのだから驚かずにはいられない。
「破棄はまことですの?!」
満面の笑みになって、父に前のめりになるのは許して欲しい。
正直なところ、年齢も19歳になった。周囲の友人は15歳を超えた頃から結婚をしていく。この国で20歳を越して未婚の貴族令嬢は低位貴族にはいるが伯爵家以上となれば数えるほどしかいない。
みんな家の為に嫁いだり、婿を迎えている。
カスパルと結婚するくらいなら売れ残りと言われた方がずっといい。なんなら神様は年齢など気にしないだろうし修道女になったっていいくらいだ。
――最後のチャンス?!本当に破棄してくれるの?――
グイグイと父親に顔を近づけ、念押しをしてみれば、先月やっとハーベ伯爵家に貸していた金が元金、利息とも支払いを終えたのだと言う。
つまりはもうカスパルに担保になって貰う必要が無くなった。
「あら?ですが完済は来年の睦の月では御座いませんでしたか?」
睦の月は今月も含めてまだ15カ月も先。
金の貸借が始まった頃から言えばもう14年という年月が経っていて、街道も崩落開所はちゃんと開通しているしハーベ伯爵家の経営も安定をしている。
それでも1年以上前倒しで完済となれば無理をしたのではないかとも思える。
「長兄に爵位を譲るのに額も小さくなったから清算をしているそうだ」
「あら、そうなの。じゃぁハーベ伯爵様も同意をくださっているの?」
「同意も何も。ハーベ伯から言って来た。今まで散々に迷惑をかけた、リアにも謝罪をしたいと言ってたよ」
「そうなんだ…私は婚約が無くなるなら別に謝って貰わなくていいわ。おじ様にもおば様にも毎回のように謝って貰っていたし」
カスパルは惚れやすい。本ッ当~に惚れやすい。
だから熱い夜を過ごし、共に朝を迎えた令嬢に毎度のように求婚をしていたのだが、令嬢も馬鹿ではない。
遊ぶには顔も良いし、口も上手い。隣に居れば見栄えもするので引っ張りだこのカスパルだが、遊んでくれる令嬢は貴族令嬢でも三女や四女なので少しでも待遇のよさそうな嫁ぎ先を探している者ばかり。
彼女たちにとってカスパルは暇つぶしや、ちょっとした口直しのような存在である。
カスパルは継ぐ家もないし、家を出るにしても持たせてもらう金も僅か。
家督は長兄が継ぐし長兄が当主となった後は唯一の領地の統治には次兄が向かう。カスパルは何処かに引き取ってもらわないと行き場がない。彼女らに婿養子などお呼びではないのだ。
なので、カスパルが求婚をすると「ごめんなさい」と断られるから、フラれたカスパルはジェッタ伯爵家に花束を抱えて謝罪にやって来る。取り敢えずは自分に居場所がなくなる事は自覚しているのだろう。
「お兄様が家督を継ぐとなるとアレは出て行かなきゃいけないのね」
「それも踏まえての最愛なんだろう。急いで見つけたんじゃないか」
「そうね。アレだって星空が屋根!なんて困るでしょうし。切羽詰まれば何でもできるのね」
度重なる不貞行為。手を繋いだ、腰に手を回していたなんてものじゃない。未遂でもなく既遂で謝れば許してくれると思っていたのか。それとも自分が担保なのでジェッタ伯爵家に切れるわけがないとタカを括っていたか。
どちらにしてももう縁が切れるとなればせいせいする。
コルネリアは「ありがとう!お父様!」父親に抱き着いて喜んだ。
カスパルの長兄が結婚した時の事だ。
当初は金を借りる必要もなかったのだが、結婚式を2カ月後に控えたある日、激しい大雨が領地に数日降り続き、洪水の被害はなかったものの領地へ向かう道で何カ所も崩落が起きた。
1カ所を整備しても追いつかない。全部で16カ所も崩落をしていて国からの支援金では資金が足りずコルネリアの家であるジェッタ伯爵家に融資を申し込んできた。
差し出す担保もないハーベ伯爵は、ジェッタ伯爵家には子供がコルネリアしかいなかった事からいずれは婿養子を探さねばと考えていたジェッタ伯爵に「カスパルはどうだろう?」と提案したことで婚約と相成った。
当時5歳。この頃には当たり前だが今のような女にだらしない男になるとは誰も思わなかった。
但し通常の婚約と違い、お年頃になるまでには借金も完済しているであろうことから「虫除け」の意味合いが強く、両家とも婚姻をする事になるのなら、その時は当人の意思を尊重しようという事になった。
夜会から今日も1人で帰宅をしたコルネリアは毎度の事になるが父親にカスパルの言葉を伝えた。
「お父様、アレが ”最愛の女性と出会ってしまった” と申しておりました」
「アレ」とはカスパルの事。もう名前を呼ぶ事すらウンザリしていた。
「またか…。そうだなぁ。もういいだろう。リアはアレには思いも無いんだろう?」
「ありませんね。むしろ婚約者と言う事で恥ずかしい思いをしますので、もう少し節度のある行動をしてほしいとは思います」
「なら、婚約はもう解消、いや、リアと言う婚約者がいながら最愛がいるんだから破棄でいいか」
「おや?」父親の言葉にコルネリアも驚いた。
今までは「そうか。アレにも困ったものだ」と流されるだけだったのに今回に限って婚約解消ではなく破棄をすると言い出したのだから驚かずにはいられない。
「破棄はまことですの?!」
満面の笑みになって、父に前のめりになるのは許して欲しい。
正直なところ、年齢も19歳になった。周囲の友人は15歳を超えた頃から結婚をしていく。この国で20歳を越して未婚の貴族令嬢は低位貴族にはいるが伯爵家以上となれば数えるほどしかいない。
みんな家の為に嫁いだり、婿を迎えている。
カスパルと結婚するくらいなら売れ残りと言われた方がずっといい。なんなら神様は年齢など気にしないだろうし修道女になったっていいくらいだ。
――最後のチャンス?!本当に破棄してくれるの?――
グイグイと父親に顔を近づけ、念押しをしてみれば、先月やっとハーベ伯爵家に貸していた金が元金、利息とも支払いを終えたのだと言う。
つまりはもうカスパルに担保になって貰う必要が無くなった。
「あら?ですが完済は来年の睦の月では御座いませんでしたか?」
睦の月は今月も含めてまだ15カ月も先。
金の貸借が始まった頃から言えばもう14年という年月が経っていて、街道も崩落開所はちゃんと開通しているしハーベ伯爵家の経営も安定をしている。
それでも1年以上前倒しで完済となれば無理をしたのではないかとも思える。
「長兄に爵位を譲るのに額も小さくなったから清算をしているそうだ」
「あら、そうなの。じゃぁハーベ伯爵様も同意をくださっているの?」
「同意も何も。ハーベ伯から言って来た。今まで散々に迷惑をかけた、リアにも謝罪をしたいと言ってたよ」
「そうなんだ…私は婚約が無くなるなら別に謝って貰わなくていいわ。おじ様にもおば様にも毎回のように謝って貰っていたし」
カスパルは惚れやすい。本ッ当~に惚れやすい。
だから熱い夜を過ごし、共に朝を迎えた令嬢に毎度のように求婚をしていたのだが、令嬢も馬鹿ではない。
遊ぶには顔も良いし、口も上手い。隣に居れば見栄えもするので引っ張りだこのカスパルだが、遊んでくれる令嬢は貴族令嬢でも三女や四女なので少しでも待遇のよさそうな嫁ぎ先を探している者ばかり。
彼女たちにとってカスパルは暇つぶしや、ちょっとした口直しのような存在である。
カスパルは継ぐ家もないし、家を出るにしても持たせてもらう金も僅か。
家督は長兄が継ぐし長兄が当主となった後は唯一の領地の統治には次兄が向かう。カスパルは何処かに引き取ってもらわないと行き場がない。彼女らに婿養子などお呼びではないのだ。
なので、カスパルが求婚をすると「ごめんなさい」と断られるから、フラれたカスパルはジェッタ伯爵家に花束を抱えて謝罪にやって来る。取り敢えずは自分に居場所がなくなる事は自覚しているのだろう。
「お兄様が家督を継ぐとなるとアレは出て行かなきゃいけないのね」
「それも踏まえての最愛なんだろう。急いで見つけたんじゃないか」
「そうね。アレだって星空が屋根!なんて困るでしょうし。切羽詰まれば何でもできるのね」
度重なる不貞行為。手を繋いだ、腰に手を回していたなんてものじゃない。未遂でもなく既遂で謝れば許してくれると思っていたのか。それとも自分が担保なのでジェッタ伯爵家に切れるわけがないとタカを括っていたか。
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