婚約も二度目なら

cyaru

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第04話  絶対に逃がさない

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「結婚してくれないか」
「いいわよ?でも苦労するのは嫌よ?」
「苦労なんかさせないさ」

情事が終わった後のピロートークを信じる方がどうかしているとエリーゼは思うが、カスパルは今まで付き合ってきた男の中で別格だった。

「結婚」という言葉を引き出せただけでも上等。
嬉しくなって4回戦が終わったばかりなのにまたカスパルの胸に「オネダリ」の指を這わせた。


★~★

過去には男爵家や子爵家の次期当主となる嫡男と付き合った事もあるが、「結婚しようと思っている」と親に紹介してくれるというから言ってみれば暮らしぶりは平民と大差ない。

使用人はおらず家族経営でちょっと大きめの災害に見舞われれば吹けば飛ぶような経営状況。不況の波も真っ先に食らうのに国からの支援などは貴族の中でも一番最後。

公爵家や侯爵家なくして事業は成り立っておらず、たまに高位貴族のパーティーに連れて行ってもらえたと思ったら、ヘコヘコと頭を下げてご機嫌伺いの挨拶回り。

「こんなの望んでない!」

エリーゼが望んでいるのは、優雅に、そして何不自由のない生活。
朝起きれば今日は観劇に行こうか、ショッピングに行こうかと悩み、店に入れば店員が笑顔の揉み手で対応。来店して追い出される事なんて無縁。誰もが傅く生活を送りたかった。

賃金がよくて簡単な仕事で食いつないでいるものの生活は安定しないので早いところ楽をさせてくれる男を見つけて落ち着きたいのだが現実は甘くない。

「王族や高位貴族は無理よね」

平民のエリーゼからすれば自分がどんなに可愛くても、「平民」と言うだけで相手にしてもらえない。

夫人じゃなくてもいい。なんなら愛人だっていいのだ。いや、むしろ愛人の方が面倒な事はしなくて贅沢だけさせてもらえるのだからいいんじゃないかとすら思ってしまう。

が、愛人も王族や高位貴族だと無理。彼らは愛人を囲うがそのクラスの愛人となると教養が必要になる。


試しに囲われている女性の元で給仕係や清掃係の仕事をした事があるが、観劇に絵画に詩集。そんな物を見て「良かったわ」「素晴らしいわ」なんていう感想では不合格。

例え向かいに座るパトロンと意見の相違があっても自分はこう感じたのだと鑑賞したものの裏側を熱く語らねばならない。それには幅広い知識も必要で「嫌いだから」「苦手だから」と言い訳は通用しない。

清掃係として働いていた時に「子供の落書き?」と思うようなポストカードサイズの絵を独自の宗教観や、何処の国かの亡びた王朝の陰謀説などを交えて延々と3時間語り倒したあるじに、うんうんと頷くパトロンを見た時は「この2人、頭大丈夫?」とエリーゼが心配した。


――あいつらは住む世界が違うわ――


何人かの男と付き合い、別れを繰り返して来て偶然カスパルと出会った。
恋人の所に遊びに行こうと夜会を抜け出してきたが、けんもほろろに追い返されて酒場でカスパルはクダを巻いていた。

その日のうちに関係を持ったが、カスパルが貴族だという事はエリーゼにも判る。しかも伯爵家だと言うのだから逃がすわけにはいかない。

『エリーくらい物分かりがよくて可愛くて…も抜群な女の子なんて初めてだ』
『そんなこと言って。どうせアタシを捨てる癖に』
『捨てる?何を言ってるんだ。ずっと一緒に居たいよ』
『無理よ。だってあなたはアタシよりずっといいところの貴族でしょう。将来も安泰。アタシとは住む世界が違うのよ』
『そんな事はない。たかが伯爵家だ』
『伯爵家?!そ…そう…』

――伯爵家デスッテ?大物じゃない!やった!アタシ、ツイてるッ!――

聞けばカスパルには婚約者がいる。実家も婚約者の家も伯爵家で【当主なんて面倒なだけ】と次期当主である事も匂わせるのでエリーゼの心拍数は上がるばかり。

公爵家、侯爵家は射程距離外だっが、伯爵家はギリギリ射程圏内。
千載一遇のチャンスにエリーゼは自身を「男爵家の養女」だと偽った。

国内でも一番数が多い男爵家は肩書があるだけで実態は平民。調べられるような数ではないので騙るにはもってこいだった。

次男、三男など嫡男以外なら平民と結婚する事で貴族籍を失うけれど当主は別格。
家を盛り立てる、子孫繁栄の概念から伴侶に身分の制限を設けていない。

つまり平民であっても伯爵夫人になれるという事だ。
公爵家や侯爵家ほど面倒もなく、中間に位置する伯爵家となればそこそこに金もある。

――遊び放題だわ!!絶対に逃がさないわよ――

婚約者はまだ「夫人」ではないのだからその立場に自分がなればいいだけ。
幸いにカスパルは足繁くエリーゼのもとに通って来るし、「婚約者とアタシ。どっちが好き?」と聞けば「好きなんてもんじゃない。愛してるのはエリーだけだ」と抱きしめてくれる。


★~★

不満なのはまだ立場が入れ替わっていないので夜会などに煌びやかなドレスを着てエスコートをしてもらえないだけ。

――でも、いいわ。今日もこうやって来てくれたし――

筆頭公爵家の夜会なので欠席は出来ないと言ったカスパルは夜会の開始時間と思われる時間から2時間もしないうちにエリーゼのもとに来て愛を囁き、顔を見るなり抱きしめ、服を剥がして精を注いでくれる。

明日になれば小旅行で1週間程郊外の観光地に出掛ける。
筆頭公爵家の夜会であってもこうやってエリーゼを優先してくれるカスパルにエリーゼは見たこともないカスパルの婚約者を思い浮かべ、心の中では高笑い。

――勝ったわ。アタシの勝ち――

ギシギシとカスパルの動きに合わせて軋む寝台の上でエリーゼはカスパルの腰に足を絡めた。
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