婚約も二度目なら

cyaru

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第05話  人生イージーモード

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カスパル・ハーベは人生を謳歌していた。

物心ついた時から婚約者がいて、人生が決められてしまっていると反抗した事もあったがよくよく考えてみると「勝ち組」である事に気が付いた。

三男である事から友人の子息も次男、三男、時に5男、6男の場合もある。
共通しているのは15歳前後からは親元を離れて自活の道を探すしかないという事だった。

伯爵家でも大事にされるのは嫡男と、嫡男のスペアである次男まで。
友人達と少し違っていたのは、継ぐ家もないのにカスパルは両親からとても愛されていたことだった。

金が無いと言えば「お兄様には内緒よ」と父親の小遣い以上の金を母親はくれるし、騎士になるわけでもないのに格好いいからと父に剣を強請れば買って貰える。

2人の兄様に次々にやって来る講師と勉強をしなくても叱られる事もない。

そして長兄は家を継ぐので子爵家から対して可愛くもない令嬢が嫁ぐ事が決まった。カスパルは兄嫁となる令嬢の事を「算術ババア」と呼んでいた。

次兄は長兄が後を継げば領地に行く。カスパルは心の中で次兄に「ざまぁ」とせせら笑った。
次兄はカスパルには兎に角「勉強しろ」「周囲をちゃんと見ろ」と口五月蠅い。

領地は田舎で楽しみと言えば年に数回興行でやって来る移動舞台と、王都の感覚ではショボさしか感じない収穫祭のカーニバルが2日あるだけ。

次兄は男爵家の令嬢と婚約をしていて、その婚約者と領地に向かう。
何もない田舎住まいとなる事で、王都に残るカスパルに意地悪ををしているのだと思ったのである。


長兄も後を継ぐとは言えハーベ伯爵家は裕福な方ではない。
しかし、ジェッタ伯爵家は違った。

ハーベ伯爵家には広い領地が1つしかない。面積は足せば同じくらいになるけれどジェッタ伯爵家はこじんまりとした領地を5つ持っていて、収穫期が1回しかないハーベ伯爵家と違い、ジェッタ伯爵家の収益は時差で領地が齎してくれる。

そのどれもが国内シェアで5~7位でトップ3ではないものの収益を齎してくれる。
真冬であっても農作物が収穫できる農地を持つ貴族は少ない。

貧乏伯爵家当主に成る長兄、領地で代官となる次兄と比べるとカスパルはコルネリアと結婚するだけで左団扇の生活が待っている。

長兄よりも収支が上で同じ伯爵家の中でも格上になるのだから「勝ち組」である事に間違いない。


問題はコルネリアだった。

女当主になるからか頭はそれなりに良いのだが、見た目がカスパルの好みではなかった。

地味でともすれば「どんな顔だった?」と特徴もなく、華やかでもない。
化粧をすれば「無理してんなぁ」と思う残念度合。

カスパルは自身の容姿は高く評価していたので、「隣がコレ?」と思うと高揚した気持ちも下降線。

他に綺麗な子、可愛い子は沢山いるのにどうして寄りにも寄ってコルネリアなのかと神を恨んだが、ある日開きなおった。

そう「天は二物を与えない」のでコルネリアの容姿をどうこう言っても仕方がないとカスパルなりの悟りを開き、気持ちも開き直ったのだ。

年頃になる頃には借金が完済する。その時にカスパルとコルネリアがどう判断するかは任されていて、結婚はしなくてもいいという選択ができる。

子供でも出来れば絶対に揺らがない不動の立場になる。閨など欲求を貯めに貯めて目を閉じ、他の令嬢を思い浮かべて吐き出せばものの数分。

豪遊するための苦行は3分未満なんだから我慢すればいいだけ。
なら答えは自ずと出る。

――結婚するに決まってんじゃん――

その年齢になり婚約を解消すれば、カスパルには何人かの令嬢は選ぶ余地もあるだろうがコルネリアにはほぼない。女性には出産可能年齢があり、カスパル的に言えば消費期限がある。賞味期限はもっと短い。

――どうやってもコルネリアには俺を選ぶしかないのさ――

タカを括って遊び回れば、ジェッタ伯爵家から抗議文が来ても婚約が無くなる事はない。


何か物事が起きた時に「金を諦めればいいだけ」なんていう貴族もいるが現実はそうじゃ無い。

金を借りた貴族はきっちりと支払いをする。別件で相殺しましょうと提案をされても「それはそれ、これはこれ」と線引きをせねば他家の貴族から支払い能力が無いとみられてしまうので意地でも払うのだ。

金を貸した方も然り。何か相殺できるような事柄を突きつければ返済しなくていいと足元を見られるのであっという間に他家が群がり食い尽くされてしまう。

カスパルとしては完済が遅ければ遅いほど都合がいい。



金の貸借のある婚約はカスパルにとってはコルネリアの見た目以外は全てメリットだった。

貴族の令嬢達は一定の年齢になれば落ち着いて遊ばなくなってくるけれど、エリーゼのような平民の女は自分の事を貴族と偽って股を開いて楽しませてくれる。

平民は貴族にすれば小遣い程度の金でも半月ほどの給料に匹敵する額なので安く遊べる利点があったし、捨てても後腐れない上に、代わりは腐るほどいる。

――そろそろ、こいつも用済みだな――

結婚と言う夢を見るのは勝手だが、コルネリアとの婚約を無くす、つまり輝かしい未来を捨てる気はカスパルには全く無い。

まして本人は気付かれていないと思っているが貴族だと騙るような女は地雷予備軍。
エリーゼに腰を打ち付けながらもカスパルは小旅行から帰ればエリーゼを捨てようと考えていた。

――人生なんて楽勝だな――

もう何度目かになり、飛び出すよりも滴る程度になった欲を吐き出したカスパルはエリーゼと体を分離させると小旅行に備えて眠りに落ちたのだった。

その頃、実家では何が起こっていたかも考えることもなく。
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