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第06話 神頼み、願いは届かず?
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カスパルとの婚約が無くなったコルネリアは教会に足繁く通い「今度は良縁に恵まれますよう」と祈りを捧げる。
教会から帰宅したコルネリアの元には幾つかの釣書が送られてきていた。
早速開いてみると…。
「えぇーっ?62歳?!ないわー」
年齢差もさることながら、コルネリアでも知っている。若い頃の放蕩が原因で現在寝たきりな男性だ。しかも結婚をしたら放蕩している時に作った借金や、これまでにかかった介護費用も「立て替えているので」と、もれなくついてくる特典付き。
夫婦となってある程度の年月が経った頃に寝たきりになるのなら面倒も見るが、最初からとなるとそれはもう結婚とは言えない。
ジェッタ伯爵家に押し付ければ諸々の費用も要らなくなるのでこれ幸いと押し付けるようなものだ。
年齢が近しいものでも40代後半。結婚の目的が融資目的だったり「子供を作る時だけ呼んでくれれば」と最初から別居、但し生活費の面倒は見てくれと何のための結婚か判らなくなりそうなものばかり。
「くぅっ!まだ19歳なのに世間ではこんな扱いだなんて!!」
数件の釣書を重ねてググイ!っと母親に「断ってください」と差し戻す。
「修道院でもいいんだけどなぁ」
「何を言ってるの。修道院に行けばこの家はどうなるの」
「養子を貰うとか?」
「実子の娘がいるのになんで娘を修道院に入れて他人を養子にしなきゃいけないのよ」
「そりゃ…あんな不良債権を婚約者にしたからじゃない?」
「婚約した頃にはそんな片鱗はなかったもの」
「5歳から女好きなんてよっぽどだしね~。見抜けなくても仕方ないかぁ」
「こんな事なら年齢差はあるけど次兄にしとけばよかったわ」
――やめてよ。結局ハーベ伯爵家じゃない。介護から逃げられないわ――
辛い介護だったが良い事もあった。先代のハーベ伯爵夫人は顔も広く刺繍が得意だったので高位貴族の令嬢にも刺繍を教えていた事もあって、呆ける具合がまだ低度だった時には高位貴族とも話をする機会も出来て、人生で使う事はないだろうが諸外国の王族への挨拶の仕方なども教えてもらった事もある。
――宝の持ち腐れだけどね~――
使う事は無くても、知っておけば万が一!と言う時には失礼にならない対応も出来る。
何より高位貴族と繋がれたことでジェッタ伯爵家の特産の1つである塩湖で採れる塩も王都で流通するようになった。それまで運んでくる途中で木箱から零れてしまって街道に白く線を引き、半分も王都に持って来る事が出来ず民衆に流通する量には足らなかったのだ。
コルネリアの、いやジェッタ伯爵家に婿養子に来てくれる子息探しで父が留守の間は母親と執務をする。そこそこに儲けているからと言って生活するために使用人を雇うと不景気になった時に継続雇用も難しい。
雇うのは事業関連の従業員だけなので経理も家事も家族で行なう。
カリカリとペンを走らせていると、上機嫌の父親が帰宅した。
「リア!喜べ。やっと婿養子に来てもいいという子息がいたぞ」
「えぇーっ…要らないのに」
「何を言ってるんだ。リアの次の代がいないじゃないか」
「そんなのお爺様とお婆様のいとこのいとことか探せばいるでしょうに」
「そこまで来ると他人だろうが」
「婿だって他人よ」
「そ、それはそうだけど…」
ジェッタ伯爵は頬を紅潮させて語った。
聞けば、婿探しに奔走している途中で財布を落としてしまった。その財布を拾ってくれたと言うのだが「それだけで?」とコルネリアは思ってしまう。
「そうじゃない。その財布には郊外にも足を伸ばそうと思ってそれなりの金が入ってたんだが、一切手をつけずに、わざわざ!わざわざだぞ?私を探して届けてくれたんだ」
ジェッタ伯爵は小さめの墓穴を掘った事に気が付いていない。
見る間にコルネリアの母親であり、我が妻の顔が険しくなっていく。
「どう言う事ですの?それなりの金?相談は受けていませんが」
「い、いや事後報告になるけど…ほら!急いで探さな…イト…」
「(バンッ!)約束よね。小遣い以上の額を持つ時は相談するとッ!!」
「は、はぃ…そうなんだけど急いでたってイウカ…」
さっきまでの勢いはどこへ。すっかり小さく体を縮めたジェッタ伯爵だったが、コルネリアは夫婦喧嘩を見届けるよりも相手が誰なのかが気になった。
父が声を掛けているので一度は合わねばならないだろうが、知っている限りでカスパルようなクズならお断りをしようと思ったのである。
「どなたですの?」
「リア♡気になるだろ?うんうん。相手はね、これがなかなかの美丈夫でな!」
「お父様の主観はいいです。お名前を教えてくださいませ」
「うんうん!釣書が後日届くと思うがシャウテン子爵家のヴェッセル君と言ってな。年齢は23歳!うーん!若いってイイネッ!その上次男だ!これはもう天の思し召し‥‥だろ?え?リアどうしてそんな細い目で父さんを見るんだ?!」
コルネリアは蜘蛛の巣を張る蜘蛛の糸よりも細い目になった。
疎いコルネリアでも知っている。
シャウテン子爵家は奇跡の一家と言われている。
例えるならハダカデバネズミに似た父親と、テングザルにそっくりな母親を持つのに長兄もヴェッセルも突然変異と言われる超絶美丈夫。ついでに頭も良いらしい。
しかし問題は眉目秀麗な事ではない。
ヴェッセルはカスパル以上の女たらしとも言われていて嘘か本当か「娼館の帝王」とも「神を凌ぐ絶倫」とも呼ばれる男だったからである。
――私、男運が本当にないんだわ――
コルネリアは暫く教会に礼拝するのは止めようと思った。
教会から帰宅したコルネリアの元には幾つかの釣書が送られてきていた。
早速開いてみると…。
「えぇーっ?62歳?!ないわー」
年齢差もさることながら、コルネリアでも知っている。若い頃の放蕩が原因で現在寝たきりな男性だ。しかも結婚をしたら放蕩している時に作った借金や、これまでにかかった介護費用も「立て替えているので」と、もれなくついてくる特典付き。
夫婦となってある程度の年月が経った頃に寝たきりになるのなら面倒も見るが、最初からとなるとそれはもう結婚とは言えない。
ジェッタ伯爵家に押し付ければ諸々の費用も要らなくなるのでこれ幸いと押し付けるようなものだ。
年齢が近しいものでも40代後半。結婚の目的が融資目的だったり「子供を作る時だけ呼んでくれれば」と最初から別居、但し生活費の面倒は見てくれと何のための結婚か判らなくなりそうなものばかり。
「くぅっ!まだ19歳なのに世間ではこんな扱いだなんて!!」
数件の釣書を重ねてググイ!っと母親に「断ってください」と差し戻す。
「修道院でもいいんだけどなぁ」
「何を言ってるの。修道院に行けばこの家はどうなるの」
「養子を貰うとか?」
「実子の娘がいるのになんで娘を修道院に入れて他人を養子にしなきゃいけないのよ」
「そりゃ…あんな不良債権を婚約者にしたからじゃない?」
「婚約した頃にはそんな片鱗はなかったもの」
「5歳から女好きなんてよっぽどだしね~。見抜けなくても仕方ないかぁ」
「こんな事なら年齢差はあるけど次兄にしとけばよかったわ」
――やめてよ。結局ハーベ伯爵家じゃない。介護から逃げられないわ――
辛い介護だったが良い事もあった。先代のハーベ伯爵夫人は顔も広く刺繍が得意だったので高位貴族の令嬢にも刺繍を教えていた事もあって、呆ける具合がまだ低度だった時には高位貴族とも話をする機会も出来て、人生で使う事はないだろうが諸外国の王族への挨拶の仕方なども教えてもらった事もある。
――宝の持ち腐れだけどね~――
使う事は無くても、知っておけば万が一!と言う時には失礼にならない対応も出来る。
何より高位貴族と繋がれたことでジェッタ伯爵家の特産の1つである塩湖で採れる塩も王都で流通するようになった。それまで運んでくる途中で木箱から零れてしまって街道に白く線を引き、半分も王都に持って来る事が出来ず民衆に流通する量には足らなかったのだ。
コルネリアの、いやジェッタ伯爵家に婿養子に来てくれる子息探しで父が留守の間は母親と執務をする。そこそこに儲けているからと言って生活するために使用人を雇うと不景気になった時に継続雇用も難しい。
雇うのは事業関連の従業員だけなので経理も家事も家族で行なう。
カリカリとペンを走らせていると、上機嫌の父親が帰宅した。
「リア!喜べ。やっと婿養子に来てもいいという子息がいたぞ」
「えぇーっ…要らないのに」
「何を言ってるんだ。リアの次の代がいないじゃないか」
「そんなのお爺様とお婆様のいとこのいとことか探せばいるでしょうに」
「そこまで来ると他人だろうが」
「婿だって他人よ」
「そ、それはそうだけど…」
ジェッタ伯爵は頬を紅潮させて語った。
聞けば、婿探しに奔走している途中で財布を落としてしまった。その財布を拾ってくれたと言うのだが「それだけで?」とコルネリアは思ってしまう。
「そうじゃない。その財布には郊外にも足を伸ばそうと思ってそれなりの金が入ってたんだが、一切手をつけずに、わざわざ!わざわざだぞ?私を探して届けてくれたんだ」
ジェッタ伯爵は小さめの墓穴を掘った事に気が付いていない。
見る間にコルネリアの母親であり、我が妻の顔が険しくなっていく。
「どう言う事ですの?それなりの金?相談は受けていませんが」
「い、いや事後報告になるけど…ほら!急いで探さな…イト…」
「(バンッ!)約束よね。小遣い以上の額を持つ時は相談するとッ!!」
「は、はぃ…そうなんだけど急いでたってイウカ…」
さっきまでの勢いはどこへ。すっかり小さく体を縮めたジェッタ伯爵だったが、コルネリアは夫婦喧嘩を見届けるよりも相手が誰なのかが気になった。
父が声を掛けているので一度は合わねばならないだろうが、知っている限りでカスパルようなクズならお断りをしようと思ったのである。
「どなたですの?」
「リア♡気になるだろ?うんうん。相手はね、これがなかなかの美丈夫でな!」
「お父様の主観はいいです。お名前を教えてくださいませ」
「うんうん!釣書が後日届くと思うがシャウテン子爵家のヴェッセル君と言ってな。年齢は23歳!うーん!若いってイイネッ!その上次男だ!これはもう天の思し召し‥‥だろ?え?リアどうしてそんな細い目で父さんを見るんだ?!」
コルネリアは蜘蛛の巣を張る蜘蛛の糸よりも細い目になった。
疎いコルネリアでも知っている。
シャウテン子爵家は奇跡の一家と言われている。
例えるならハダカデバネズミに似た父親と、テングザルにそっくりな母親を持つのに長兄もヴェッセルも突然変異と言われる超絶美丈夫。ついでに頭も良いらしい。
しかし問題は眉目秀麗な事ではない。
ヴェッセルはカスパル以上の女たらしとも言われていて嘘か本当か「娼館の帝王」とも「神を凌ぐ絶倫」とも呼ばれる男だったからである。
――私、男運が本当にないんだわ――
コルネリアは暫く教会に礼拝するのは止めようと思った。
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