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第17話 何かがおかしい
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カスパルがエリーゼの家に転がり込んで1か月になろうとしていた。
毎日エリーゼと共に寝台で目が覚めるが、カスパルは何もしようとしない。エリーゼが日雇いのバイトに出掛けて戻ってくるとカスパルはまだ寝ていた。
――伯爵様になるから特に仕事はないってことかな――
元々カスパルは実家であるハーベ伯爵家を継ぐわけでもなく、婿入り先だったジェッタ伯爵家でも実際の当主はコルネリアなので、仕事と言ってもたまにコルネリアを手伝う程度で良いだろうと勉学も真面目には取り組んでいない。
その時間は友人やかつての恋人と遊び回っていたので、エリーゼと付き合い始めた頃も「この人、何時仕事してるんだろう」とエリーゼが思うくらいに遊んでいた。
だから家でゴロゴロしているのは構わないのだが、エリーゼが楽しみのために酒場の給仕をして客が飲み残したワインの残りを持って帰ってくるのだが、勝手に飲むのは止めて欲しかった。
――でもそれを言っちゃって別れるとか言われても困るのよね――
ワインを勝手に飲まれるのは必要経費と割り切っているのだが、それまで何処かに泊まる時はエリーゼの部屋ではなく宿屋だったりしたので、カスパルの事は「意外に綺麗好き」と思っていた。
清潔なシーツじゃないと嫌だとか、宿屋も部屋に小さくてもいいから湯を浴びる専用の部屋がある部屋を選んだりしていて、コトが終わった後、寝入ってしまうが起きれば湯を浴びていたのだ。
なのに転がり込んできてからは一度も湯を浴びていないし、服も着てきた服しかない。
――なんだかお金持ってる感じが無いんだけど――
時折、「支払いはハーベ伯爵家に」と後払いで済ませるレストランに連れて行ってくれたのに転がり込んできてからは一度もお出掛けをしてくれない。
――この靴…なんなの?めっちゃ臭いんだけど――
寝台の脇に脱いだままの鞣し皮の靴は汚れも酷くて靴の中は人間の垢がこびりついて触るのも躊躇ってしまう。余りにも臭いのでカスパルの足が匂うのかと思えば、靴を履いていたので臭わなくもないが香りは薄い。靴そのものが臭いので外に出して欲しいくらい。
今までにこんな靴を履いてたかな?と考えるが着ている服は何度も値踏みをしたけれど正直靴までは見ていなかった。
「ねぇ。久しぶりに外食しようよぉ」
「は?なんで?」
「だってさぁ。今日疲れちゃったのぉ。ピーク時終わっても客が途切れないんだもん。なぁんにもしたくなぁい」
「じゃ、寝ればいいだろ」
――そうじゃなくって!!――
今までならエリーゼが日雇いで仕事がある時は働いていた事も知っているので「疲れた」と言えば足の指の間まで舐めるようにして愛撫をしてくれたのにすっかりご無沙汰。
甘い言葉だって全然かけてもくれなくなった。
夜に誘ってみても「疲れている」と言って相手にしてくれない。素っ裸になって誘ってみれば「1人でやってろ」と放置されてしまう。
――なんか変よね。何かあったのかしら――
★~★
エリーゼの小さな疑問はその数日後、噂話を聞いた事で疑惑になった。
話の途中からだったので全ては聞けていないが男達の話にエリーゼは聞き耳を立てた。
「でもよ~ハーベ家の三男坊。ありゃとんだ馬鹿だよな」
「おぉ知ってる、知ってる。婚約破棄だってな」
「羽振りよく遊んでたのに最近見ないのはお父ちゃまに叱られるの~ってやつか?」
「違う。違う。噂じゃ追い出されたらしいぜ」
「馬鹿だよなぁ。ジェッタ家の娘の機嫌さえ取っておけば悠々自適な暮らしが出来たのにな」
平民のエリーゼには貴族の詳しい事は判らない。
ただ、婚約破棄と言うのは解る。その言葉を聞いた時は「いよいよ運が向いて来た!」と小躍りした。しかし直ぐに「追い出された」と聞いて激しい親子喧嘩でもしたのかなと思い直した。
そして「「悠々自適な生活」を送る術をその会話から見出した。
――この際、仕方ないわ。ジェッタ家の娘の機嫌を取るのが必要なのね――
エリーゼなりの解釈で、ジェッタ家の娘が機嫌を直せば楽な生活が出来る。きっとジェッタ家絡みの事業を失敗して父親に叱られ、自分の元に転がり込んできて不貞腐れているのだろう。
それにしても娘が機嫌を悪くした事に事業を絡めてくるなんて公私混同もいいところだ。
何よりの朗報はカスパルは婚約破棄をしてフリー!!まさに天啓だ。
――って事は先ずジェッタ家の娘の機嫌を直さなきゃいけないってだわ――
こうしてはいられない。
エリーゼは折角つかみ取った日雇いの仕事を午前中でバックれると急いで家に戻った。
「カスパルっ!!行くわよ!!」
「なんだよ。寝てるのに」
「寝てる場合じゃないわ。幸せな未来のために今、動かなきゃダメよ」
「はぁ?なにそれ」
「いいの、いいの。私に任せて。こう見えて仲違いの仲裁って得意なの」
エリーゼに急き立てられてカスパルは訳も判らず寝台から引き剥がされた。
「何処に行くってんだよッ!」
「何処って…ジェッタ家よ。他に何処かあるって言うの」
「お前…余計な事すんな!!」
「きゃぁ!」
カスパルはエリーゼを突き飛ばし、再度寝台に潜り込んだ。
潜り込んですっかり忘れていた可能性を見出した。
――そうか。リアに謝ってリアから親父に廃籍を撤回しろと言って貰えばいいんだ――
同じくエリーゼもシーツに包まり、頑として行こうとしないカスパルを見て考えていた。
――仕方ないわね。私が動くしかないかぁ。未来の伯爵夫人のためよ!――
思惑の違う2人だが、目的とするのはコルネリアで一致をしていたのだった。
毎日エリーゼと共に寝台で目が覚めるが、カスパルは何もしようとしない。エリーゼが日雇いのバイトに出掛けて戻ってくるとカスパルはまだ寝ていた。
――伯爵様になるから特に仕事はないってことかな――
元々カスパルは実家であるハーベ伯爵家を継ぐわけでもなく、婿入り先だったジェッタ伯爵家でも実際の当主はコルネリアなので、仕事と言ってもたまにコルネリアを手伝う程度で良いだろうと勉学も真面目には取り組んでいない。
その時間は友人やかつての恋人と遊び回っていたので、エリーゼと付き合い始めた頃も「この人、何時仕事してるんだろう」とエリーゼが思うくらいに遊んでいた。
だから家でゴロゴロしているのは構わないのだが、エリーゼが楽しみのために酒場の給仕をして客が飲み残したワインの残りを持って帰ってくるのだが、勝手に飲むのは止めて欲しかった。
――でもそれを言っちゃって別れるとか言われても困るのよね――
ワインを勝手に飲まれるのは必要経費と割り切っているのだが、それまで何処かに泊まる時はエリーゼの部屋ではなく宿屋だったりしたので、カスパルの事は「意外に綺麗好き」と思っていた。
清潔なシーツじゃないと嫌だとか、宿屋も部屋に小さくてもいいから湯を浴びる専用の部屋がある部屋を選んだりしていて、コトが終わった後、寝入ってしまうが起きれば湯を浴びていたのだ。
なのに転がり込んできてからは一度も湯を浴びていないし、服も着てきた服しかない。
――なんだかお金持ってる感じが無いんだけど――
時折、「支払いはハーベ伯爵家に」と後払いで済ませるレストランに連れて行ってくれたのに転がり込んできてからは一度もお出掛けをしてくれない。
――この靴…なんなの?めっちゃ臭いんだけど――
寝台の脇に脱いだままの鞣し皮の靴は汚れも酷くて靴の中は人間の垢がこびりついて触るのも躊躇ってしまう。余りにも臭いのでカスパルの足が匂うのかと思えば、靴を履いていたので臭わなくもないが香りは薄い。靴そのものが臭いので外に出して欲しいくらい。
今までにこんな靴を履いてたかな?と考えるが着ている服は何度も値踏みをしたけれど正直靴までは見ていなかった。
「ねぇ。久しぶりに外食しようよぉ」
「は?なんで?」
「だってさぁ。今日疲れちゃったのぉ。ピーク時終わっても客が途切れないんだもん。なぁんにもしたくなぁい」
「じゃ、寝ればいいだろ」
――そうじゃなくって!!――
今までならエリーゼが日雇いで仕事がある時は働いていた事も知っているので「疲れた」と言えば足の指の間まで舐めるようにして愛撫をしてくれたのにすっかりご無沙汰。
甘い言葉だって全然かけてもくれなくなった。
夜に誘ってみても「疲れている」と言って相手にしてくれない。素っ裸になって誘ってみれば「1人でやってろ」と放置されてしまう。
――なんか変よね。何かあったのかしら――
★~★
エリーゼの小さな疑問はその数日後、噂話を聞いた事で疑惑になった。
話の途中からだったので全ては聞けていないが男達の話にエリーゼは聞き耳を立てた。
「でもよ~ハーベ家の三男坊。ありゃとんだ馬鹿だよな」
「おぉ知ってる、知ってる。婚約破棄だってな」
「羽振りよく遊んでたのに最近見ないのはお父ちゃまに叱られるの~ってやつか?」
「違う。違う。噂じゃ追い出されたらしいぜ」
「馬鹿だよなぁ。ジェッタ家の娘の機嫌さえ取っておけば悠々自適な暮らしが出来たのにな」
平民のエリーゼには貴族の詳しい事は判らない。
ただ、婚約破棄と言うのは解る。その言葉を聞いた時は「いよいよ運が向いて来た!」と小躍りした。しかし直ぐに「追い出された」と聞いて激しい親子喧嘩でもしたのかなと思い直した。
そして「「悠々自適な生活」を送る術をその会話から見出した。
――この際、仕方ないわ。ジェッタ家の娘の機嫌を取るのが必要なのね――
エリーゼなりの解釈で、ジェッタ家の娘が機嫌を直せば楽な生活が出来る。きっとジェッタ家絡みの事業を失敗して父親に叱られ、自分の元に転がり込んできて不貞腐れているのだろう。
それにしても娘が機嫌を悪くした事に事業を絡めてくるなんて公私混同もいいところだ。
何よりの朗報はカスパルは婚約破棄をしてフリー!!まさに天啓だ。
――って事は先ずジェッタ家の娘の機嫌を直さなきゃいけないってだわ――
こうしてはいられない。
エリーゼは折角つかみ取った日雇いの仕事を午前中でバックれると急いで家に戻った。
「カスパルっ!!行くわよ!!」
「なんだよ。寝てるのに」
「寝てる場合じゃないわ。幸せな未来のために今、動かなきゃダメよ」
「はぁ?なにそれ」
「いいの、いいの。私に任せて。こう見えて仲違いの仲裁って得意なの」
エリーゼに急き立てられてカスパルは訳も判らず寝台から引き剥がされた。
「何処に行くってんだよッ!」
「何処って…ジェッタ家よ。他に何処かあるって言うの」
「お前…余計な事すんな!!」
「きゃぁ!」
カスパルはエリーゼを突き飛ばし、再度寝台に潜り込んだ。
潜り込んですっかり忘れていた可能性を見出した。
――そうか。リアに謝ってリアから親父に廃籍を撤回しろと言って貰えばいいんだ――
同じくエリーゼもシーツに包まり、頑として行こうとしないカスパルを見て考えていた。
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思惑の違う2人だが、目的とするのはコルネリアで一致をしていたのだった。
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