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第19話 その遺産、ちょっと待った!
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ジェッタ家に先触れと思わしきものが届いた。
しかし、届いた書面を見てジェッタ伯爵夫妻とコルネリアは首を傾げた。
「これって先触れになるの?」とコルネリア。
「凄く広い意味ではなるんじゃない?」と夫人。
「しかし誰を指すんだ?」と伯爵。
短い文で「明後日の昼頃に行きます」とだけあり、「明後日」が何時を示すのか判らない。
配送を依頼した日なのか、届いた日なのかで日がズレるのだ。
そもそも先触れであれば「誰が誰に」と「どんな用件で」「〇月〇日〇時」と指定してくる。指定された時間が明確なので予定が入っていれば断れるし、予定が無ければ会う返事を出す。
しかし届いたものは誰が誰に充てたのかも判らない。せめて用件でも書いてくれていれば検討をつけるがそれも出来ない。何より昼頃という昼食の時間に被せてくるなど失礼極まりない。
困った事に明日も明後日も家族全員が既に予定が入っているので差出人に会うことは出来ない。使用人でもいれば言伝を頼むのだがジェッタ伯爵家に使用人はいないのだ。
「明日の夕方なら戻れると思うんだけど」と夫人。
「明後日の18時以降なら家にいるんだが」と伯爵。
コルネリアはヴェッセルと共に副王都の貧民窟に今日の夕方から2週間の予定で視察に向かうのである。
「いいんじゃない?悪戯でしょ」
「わざわざ国営配送で書留速達なのに?」
「料金の問題じゃないんでしょ。嫌がらせが好きな人はこんな事も平気でするわよ」
届いた封書には代筆した者がいるとしても、記載はない。
わざわざ代筆士に頼みましたなど、まるで文字が掛けませんと告白する貴族はいないからである。
ジェッタ伯爵家では「質の悪い悪戯」だとして無視する事にして、今後も続く可能性も考えて届いた封筒と書面は保管だけする事にしたのだった。
「もしかしてハーベ家かしらね」
「まさか。ハーベ家は配送料金も払えないだろう」
「それもそうね」
ジェッタ伯爵家ではもうこの先触れモドキを何だろうと考えるのをやめた。
★~★
ジェッタ伯爵の言葉通り現在ハーベ家はかなりの困窮を極めている。
既に家督は長兄が継いでいる。ハーベ伯爵は夫人と共に隠居を決め込むつもりだったがそうもいかなくなった。
※※代替わりをしていますが、以下先代夫人はコルネリアが介護をしていたカスパルの祖母の事です※※
先代夫人が先日亡くなった。世話も適当になり褥瘡が死期を早めたと思われた。
先代夫人の遺産はあった。
ただし宝飾品などの動産はなく先代夫人が夫の死後に相続した土地と随分前、結婚をして直ぐに亡くなった両親から受け継いだ土地が遺産だった。
遺書もあり、開封をするとそこにはコルネリアの名前は一切なかった。ハーベ伯爵は取り分が減らずに済むと飛び上がって喜んだ。
問題はそこからだったのだ。
相続を指定されていたのは息子であるハーベ伯爵、そしてその息子たちとあった。
廃籍されているので息子たちの中にカスパルは入らない。相続人は3人だったのだが、先代夫人が介護が必要になったのは13年ほど前。コルネリアが介護を手伝い始めたのが10年前、9歳の頃だ。
その頃から相続した土地の資産税をずっと先代夫人は滞納していたのである。
隣国なら時効措置といって過去5年までは遡って税金を徴収されるが、この国にはそんなものはなかった。
先代伯爵から相続した土地の滞納額は年々利息が元金に組み込まれるので15年間で4億ほど。両親から受け継いだ土地はなんと30年以上滞納をしていたのでほぼ年数分の30億。それに罰金として追徴課税があった。
ハーベ伯爵は相続人が自分たちだけだと知って意気揚々。
早々に3人は相続放棄をしないという手続きをした。
その結果、領地の売り額より税額が多くなってしまったのに相続となったのである。
評価額ならもう少しあったが、評価額に対しての融資を受けると2割減る。2割減った額は買い手が出せると言った額と同じだったので売ったのだ。
相続税は納付期日もあり、領地は買い叩かれて更に手にする額が減った。仕方なく次兄が既に代官をしていたがその領地も売って、王都にある屋敷を担保に金を借りてなんとか滞納した税と免除額を上回った分の相続税を支払った。
つまり…何も残らなかったばかりか、相続したばかりに全てを失ったのだった。
辛うじて王都の屋敷は担保に入っているだけなので金を返せば取り戻せるし、住むことは出来る。ただし返済を滞納しなければの話だ。
稼ぐための領地は売ってしまったので稼ぐ術がない。
ハーベ家は夫人も兄嫁も次兄の嫁も全員が何処かに働きに出て返済の金を工面する羽目になっていた。
その日食べるのがやっとで先触れモドキを発送する費用があるならパンを買っただろう。
なんせ6人が懸命に働いた総額と毎月の返済額がほぼ同じなので着るもの、食べる物まで金が回らない。
兄嫁と次兄嫁の実家から僅かばかりの食料が届けられるのが唯一の救いだった。
★~★
コルネリアは困窮してるだろうなくらいは人伝に聞いたが自分には関係ない事なので詳細まで知ろうとは思わなかった。
過酷な困窮生活の内容を知った時のハーベ家は主力の長兄と次兄が商会倒産で失職。物乞い伯爵と呼ばれるまでに落ちぶれ、爵位を返上するかしないかまで追いつめられている頃だった。
痛し痒しだっただろう。爵位があるので何とか夫人の3人が仕事を貰えていたのだ。爵位を返上すれば路上に点在するゴミ箱のゴミ回収をするカスパルの父、ハーベ伯爵のみが給金を得るだけになる。
コルネリアは思った。
誰か身内の1人でも先代夫人の面倒を看ていれば税金を滞納している事を先代夫人は打ち明けたはず。遺産を相続する事に「待った」を伝える事をしたと思うのだ。
婚約がどうなるか判らないコルネリアは世話をしてくれているだけの他人。他人だから滞納と言う家の恥を先代夫人は打ち明けることが出来なかったのだろうと。
――何もかも他人に丸投げしてイイトコ取りしようとするからドツボに嵌るのよ――
冷たいと思われるかも知れないがコルネリアは兄嫁と次兄の嫁は「気の毒」とは思ったが一行に同情する気にはなれなかった。
★~★
次は21時台は無くて22時22分。そして明日に続く~です(*^-^*)
しかし、届いた書面を見てジェッタ伯爵夫妻とコルネリアは首を傾げた。
「これって先触れになるの?」とコルネリア。
「凄く広い意味ではなるんじゃない?」と夫人。
「しかし誰を指すんだ?」と伯爵。
短い文で「明後日の昼頃に行きます」とだけあり、「明後日」が何時を示すのか判らない。
配送を依頼した日なのか、届いた日なのかで日がズレるのだ。
そもそも先触れであれば「誰が誰に」と「どんな用件で」「〇月〇日〇時」と指定してくる。指定された時間が明確なので予定が入っていれば断れるし、予定が無ければ会う返事を出す。
しかし届いたものは誰が誰に充てたのかも判らない。せめて用件でも書いてくれていれば検討をつけるがそれも出来ない。何より昼頃という昼食の時間に被せてくるなど失礼極まりない。
困った事に明日も明後日も家族全員が既に予定が入っているので差出人に会うことは出来ない。使用人でもいれば言伝を頼むのだがジェッタ伯爵家に使用人はいないのだ。
「明日の夕方なら戻れると思うんだけど」と夫人。
「明後日の18時以降なら家にいるんだが」と伯爵。
コルネリアはヴェッセルと共に副王都の貧民窟に今日の夕方から2週間の予定で視察に向かうのである。
「いいんじゃない?悪戯でしょ」
「わざわざ国営配送で書留速達なのに?」
「料金の問題じゃないんでしょ。嫌がらせが好きな人はこんな事も平気でするわよ」
届いた封書には代筆した者がいるとしても、記載はない。
わざわざ代筆士に頼みましたなど、まるで文字が掛けませんと告白する貴族はいないからである。
ジェッタ伯爵家では「質の悪い悪戯」だとして無視する事にして、今後も続く可能性も考えて届いた封筒と書面は保管だけする事にしたのだった。
「もしかしてハーベ家かしらね」
「まさか。ハーベ家は配送料金も払えないだろう」
「それもそうね」
ジェッタ伯爵家ではもうこの先触れモドキを何だろうと考えるのをやめた。
★~★
ジェッタ伯爵の言葉通り現在ハーベ家はかなりの困窮を極めている。
既に家督は長兄が継いでいる。ハーベ伯爵は夫人と共に隠居を決め込むつもりだったがそうもいかなくなった。
※※代替わりをしていますが、以下先代夫人はコルネリアが介護をしていたカスパルの祖母の事です※※
先代夫人が先日亡くなった。世話も適当になり褥瘡が死期を早めたと思われた。
先代夫人の遺産はあった。
ただし宝飾品などの動産はなく先代夫人が夫の死後に相続した土地と随分前、結婚をして直ぐに亡くなった両親から受け継いだ土地が遺産だった。
遺書もあり、開封をするとそこにはコルネリアの名前は一切なかった。ハーベ伯爵は取り分が減らずに済むと飛び上がって喜んだ。
問題はそこからだったのだ。
相続を指定されていたのは息子であるハーベ伯爵、そしてその息子たちとあった。
廃籍されているので息子たちの中にカスパルは入らない。相続人は3人だったのだが、先代夫人が介護が必要になったのは13年ほど前。コルネリアが介護を手伝い始めたのが10年前、9歳の頃だ。
その頃から相続した土地の資産税をずっと先代夫人は滞納していたのである。
隣国なら時効措置といって過去5年までは遡って税金を徴収されるが、この国にはそんなものはなかった。
先代伯爵から相続した土地の滞納額は年々利息が元金に組み込まれるので15年間で4億ほど。両親から受け継いだ土地はなんと30年以上滞納をしていたのでほぼ年数分の30億。それに罰金として追徴課税があった。
ハーベ伯爵は相続人が自分たちだけだと知って意気揚々。
早々に3人は相続放棄をしないという手続きをした。
その結果、領地の売り額より税額が多くなってしまったのに相続となったのである。
評価額ならもう少しあったが、評価額に対しての融資を受けると2割減る。2割減った額は買い手が出せると言った額と同じだったので売ったのだ。
相続税は納付期日もあり、領地は買い叩かれて更に手にする額が減った。仕方なく次兄が既に代官をしていたがその領地も売って、王都にある屋敷を担保に金を借りてなんとか滞納した税と免除額を上回った分の相続税を支払った。
つまり…何も残らなかったばかりか、相続したばかりに全てを失ったのだった。
辛うじて王都の屋敷は担保に入っているだけなので金を返せば取り戻せるし、住むことは出来る。ただし返済を滞納しなければの話だ。
稼ぐための領地は売ってしまったので稼ぐ術がない。
ハーベ家は夫人も兄嫁も次兄の嫁も全員が何処かに働きに出て返済の金を工面する羽目になっていた。
その日食べるのがやっとで先触れモドキを発送する費用があるならパンを買っただろう。
なんせ6人が懸命に働いた総額と毎月の返済額がほぼ同じなので着るもの、食べる物まで金が回らない。
兄嫁と次兄嫁の実家から僅かばかりの食料が届けられるのが唯一の救いだった。
★~★
コルネリアは困窮してるだろうなくらいは人伝に聞いたが自分には関係ない事なので詳細まで知ろうとは思わなかった。
過酷な困窮生活の内容を知った時のハーベ家は主力の長兄と次兄が商会倒産で失職。物乞い伯爵と呼ばれるまでに落ちぶれ、爵位を返上するかしないかまで追いつめられている頃だった。
痛し痒しだっただろう。爵位があるので何とか夫人の3人が仕事を貰えていたのだ。爵位を返上すれば路上に点在するゴミ箱のゴミ回収をするカスパルの父、ハーベ伯爵のみが給金を得るだけになる。
コルネリアは思った。
誰か身内の1人でも先代夫人の面倒を看ていれば税金を滞納している事を先代夫人は打ち明けたはず。遺産を相続する事に「待った」を伝える事をしたと思うのだ。
婚約がどうなるか判らないコルネリアは世話をしてくれているだけの他人。他人だから滞納と言う家の恥を先代夫人は打ち明けることが出来なかったのだろうと。
――何もかも他人に丸投げしてイイトコ取りしようとするからドツボに嵌るのよ――
冷たいと思われるかも知れないがコルネリアは兄嫁と次兄の嫁は「気の毒」とは思ったが一行に同情する気にはなれなかった。
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次は21時台は無くて22時22分。そして明日に続く~です(*^-^*)
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