21 / 36
第21話 再構築した副王都
しおりを挟む
副王都に到着をした2人が先ず向かったのは第2王子が運営をしている保護院だった。
到着をした日はもう時間も遅かったので夕食を役職たちと一緒に取るだけとなったが翌朝から早速案内役と一緒に視察に回ることになった。
その案内役を待っていると「おはようございまーす」と誰も彼もが声を掛けてくる。王都では絶対にあり得ない光景だった。知り合いがいれば挨拶はするが知らない者に声を掛けることなど先ずない。
待っている間に年齢も様々な男女が職場にだろうか。挨拶をしながら足早に歩いていく。その光景も王都では考えられなかった。
何がと言えば、着ている服、つまり身なりで身分が全く判らない。王都なら貴族はTHE貴族!といういで立ちだし、雇われの平民はそれと解る恰好をしている。
何より驚くのは馬車が1台も走っていない事に気が付くと馬車を2人は探した。
「どういうことかしら」
「職場が近いと言う事かな。若しくは馬車そのものが無い」
「まさか!どうやって荷を運ぶの?」
2人が想像を語り合っていると案内役が2人に向かって走ってくる。
「お待たせしましたー!!遅くなってすみませーん」
案内役はジョニスという40代の男性。副王都の役所で環境課の副課長をしているというが身分は平民。
「ごめんなさい!本当に平民?」
「えぇ。幼い頃は平民の中でも底辺暮らし。所謂貧民窟の出です。今はかつて住んでたところはもうないんですけどね」
這いあがる事など出来ないと思っていたヴェッセルは目を丸くして驚いた。
さらにジョニスは続ける。
「先代シャウテン子爵殿はお元気ですか?」
「祖父を知っているのですか?」
「知っているも何も。副王都の再建計画を立てたのは先代シャウテン子爵殿ですよ。当時は功績を称えて銅像を!って話もあったんですけども先代シャウテン子爵殿が固辞されて」
案内役のジョニスが先ず2人を連れて行ったのは副王都の東を流れる川。王都を流れる川よりは水量もない川だが、人口も王都の3分の1なので十分に賄えていると言う。
一帯が緑地になっているが「ここにはかつて貧民窟があったんです」と言う。
全て立ち退いて現在は様々な職業に従事をしているので副王都の失業率は2%もない。
王都の失業率が19%。数字の上だけでも大きな違いだ。
「今は彼らは何をされているんです?」
「半分ほどはこの水に関係する仕事についています。生活用水ですから水路は常に清掃も必要ですからね」
「残りの半分の方は?」
「あちらの記念館でお話をしましょう」
記念館と言ってもかつてここには貧民窟がありました・・など生活雑貨を展示している訳ではない。こじんまりとした集会場に近い。
ジョニスは2人を記念館に案内をし、受付を通った直ぐ後ろにある部屋で「少し待っていてくれ」と言い部屋を出て行った。戻って来た時、職員とジョニスは幾つも縦長に丸めてロール状になった紙を持ってきた。
テーブルの上に並べて4枚を広げる。右から順番に副王都の再建計画図となっていた。
「先ず先程の川ですけども、水質は非常に良いんです。何故だかわかりますか?」
「清掃に従事している人がいるからだと仰ってましたよね」
「えぇ。でもそれだけじゃないんです。貧民窟にいた10%はこの川の上流で山の整備に携わっています。山を整備しなければ良い水が流れてきません。整備をする事で崩落も無くなりましたし、伐採と植林をする事で山の保全もしているんです」
ジョニスは3つ目の計画図を指差した。
その計画図にはもう貧民窟は緑地となり、住居区と商業区、そして工業区に街が分けられていた。
「この段階に至るまでに20年です。その20年が一番苦しい時期だったかと。王家の号令もあって同時に副王都民には学問の習得をさせたんです。年齢、性別、身分に関係なく」
「そうなんですか?」
「えぇ。仕事を覚えるのに見て覚える。それは確かに1つの方法ですけども習得するのに得手不得手、向き不向きもあります。ついでに世襲制も撤廃したんです。自由に仕事を選べるようにするためには最低限の基礎学力は必要だったので。当時は5、6歳から子供も労働力として使っていたためかなりの反発があったと聞いていますよ」
これにはコルネリアもヴェッセルも驚いた。年齢だけでなく性差も身分も関係なくとなれば選民思想のある年代には受け入れては貰えない。ヴェッセルが貧民窟に住まう者達の生活向上を目指しても立ちはだかる壁がまさに身分による差別だった。尤も当人たちは区別と言っているが。
コルネリアがレース編みも刺繍も貧民窟の人間がしているとは知らなかったのは、貧民窟の人間が携わっているとなると不買を声高らかに言い出す者が必ず出てくる。
仕立て屋も精肉業者も貧民窟の人間無くして事業は立ち行かないのに声をあげられない理由がそこにあった。
「学問と言うのは後の思想に大きく関係するんです。当時の第2王子は現在の大公殿下ですが大公殿下とシャウテン子爵殿は副王都の建物なんかと一緒に概念も壊して再構築したんですよ。そのおかげか選民思想は過去のものとなって今、そんな事を言えば白い目で見られてしまいます」
身分に関係なく学問が習得できることで職種の選択も広がる。ヴェッセルの祖父が副王都を再構築してもう40年以上。その間に住んでいる人も考え方を変え、身分ではなく実力主義になった。
「ここは同じ国とは思えないですね。凄いわ」
「えへへ。モデル地区として考えて頂ければ。独自の決まりも多いんですよ」
ジョニスを待っている間、馬車を見なかったのは馬車の通行も時間で制限をしている上に、走る道を決めているので歩車分離をしているからだった。
「事故が多かったんです。ですが馬車道と歩道を完全に分けることで事故も減りました。でもいい事ばかりじゃないんです」
ジャニスは身分制度があるようでないことで起きる弊害を語った。
到着をした日はもう時間も遅かったので夕食を役職たちと一緒に取るだけとなったが翌朝から早速案内役と一緒に視察に回ることになった。
その案内役を待っていると「おはようございまーす」と誰も彼もが声を掛けてくる。王都では絶対にあり得ない光景だった。知り合いがいれば挨拶はするが知らない者に声を掛けることなど先ずない。
待っている間に年齢も様々な男女が職場にだろうか。挨拶をしながら足早に歩いていく。その光景も王都では考えられなかった。
何がと言えば、着ている服、つまり身なりで身分が全く判らない。王都なら貴族はTHE貴族!といういで立ちだし、雇われの平民はそれと解る恰好をしている。
何より驚くのは馬車が1台も走っていない事に気が付くと馬車を2人は探した。
「どういうことかしら」
「職場が近いと言う事かな。若しくは馬車そのものが無い」
「まさか!どうやって荷を運ぶの?」
2人が想像を語り合っていると案内役が2人に向かって走ってくる。
「お待たせしましたー!!遅くなってすみませーん」
案内役はジョニスという40代の男性。副王都の役所で環境課の副課長をしているというが身分は平民。
「ごめんなさい!本当に平民?」
「えぇ。幼い頃は平民の中でも底辺暮らし。所謂貧民窟の出です。今はかつて住んでたところはもうないんですけどね」
這いあがる事など出来ないと思っていたヴェッセルは目を丸くして驚いた。
さらにジョニスは続ける。
「先代シャウテン子爵殿はお元気ですか?」
「祖父を知っているのですか?」
「知っているも何も。副王都の再建計画を立てたのは先代シャウテン子爵殿ですよ。当時は功績を称えて銅像を!って話もあったんですけども先代シャウテン子爵殿が固辞されて」
案内役のジョニスが先ず2人を連れて行ったのは副王都の東を流れる川。王都を流れる川よりは水量もない川だが、人口も王都の3分の1なので十分に賄えていると言う。
一帯が緑地になっているが「ここにはかつて貧民窟があったんです」と言う。
全て立ち退いて現在は様々な職業に従事をしているので副王都の失業率は2%もない。
王都の失業率が19%。数字の上だけでも大きな違いだ。
「今は彼らは何をされているんです?」
「半分ほどはこの水に関係する仕事についています。生活用水ですから水路は常に清掃も必要ですからね」
「残りの半分の方は?」
「あちらの記念館でお話をしましょう」
記念館と言ってもかつてここには貧民窟がありました・・など生活雑貨を展示している訳ではない。こじんまりとした集会場に近い。
ジョニスは2人を記念館に案内をし、受付を通った直ぐ後ろにある部屋で「少し待っていてくれ」と言い部屋を出て行った。戻って来た時、職員とジョニスは幾つも縦長に丸めてロール状になった紙を持ってきた。
テーブルの上に並べて4枚を広げる。右から順番に副王都の再建計画図となっていた。
「先ず先程の川ですけども、水質は非常に良いんです。何故だかわかりますか?」
「清掃に従事している人がいるからだと仰ってましたよね」
「えぇ。でもそれだけじゃないんです。貧民窟にいた10%はこの川の上流で山の整備に携わっています。山を整備しなければ良い水が流れてきません。整備をする事で崩落も無くなりましたし、伐採と植林をする事で山の保全もしているんです」
ジョニスは3つ目の計画図を指差した。
その計画図にはもう貧民窟は緑地となり、住居区と商業区、そして工業区に街が分けられていた。
「この段階に至るまでに20年です。その20年が一番苦しい時期だったかと。王家の号令もあって同時に副王都民には学問の習得をさせたんです。年齢、性別、身分に関係なく」
「そうなんですか?」
「えぇ。仕事を覚えるのに見て覚える。それは確かに1つの方法ですけども習得するのに得手不得手、向き不向きもあります。ついでに世襲制も撤廃したんです。自由に仕事を選べるようにするためには最低限の基礎学力は必要だったので。当時は5、6歳から子供も労働力として使っていたためかなりの反発があったと聞いていますよ」
これにはコルネリアもヴェッセルも驚いた。年齢だけでなく性差も身分も関係なくとなれば選民思想のある年代には受け入れては貰えない。ヴェッセルが貧民窟に住まう者達の生活向上を目指しても立ちはだかる壁がまさに身分による差別だった。尤も当人たちは区別と言っているが。
コルネリアがレース編みも刺繍も貧民窟の人間がしているとは知らなかったのは、貧民窟の人間が携わっているとなると不買を声高らかに言い出す者が必ず出てくる。
仕立て屋も精肉業者も貧民窟の人間無くして事業は立ち行かないのに声をあげられない理由がそこにあった。
「学問と言うのは後の思想に大きく関係するんです。当時の第2王子は現在の大公殿下ですが大公殿下とシャウテン子爵殿は副王都の建物なんかと一緒に概念も壊して再構築したんですよ。そのおかげか選民思想は過去のものとなって今、そんな事を言えば白い目で見られてしまいます」
身分に関係なく学問が習得できることで職種の選択も広がる。ヴェッセルの祖父が副王都を再構築してもう40年以上。その間に住んでいる人も考え方を変え、身分ではなく実力主義になった。
「ここは同じ国とは思えないですね。凄いわ」
「えへへ。モデル地区として考えて頂ければ。独自の決まりも多いんですよ」
ジョニスを待っている間、馬車を見なかったのは馬車の通行も時間で制限をしている上に、走る道を決めているので歩車分離をしているからだった。
「事故が多かったんです。ですが馬車道と歩道を完全に分けることで事故も減りました。でもいい事ばかりじゃないんです」
ジャニスは身分制度があるようでないことで起きる弊害を語った。
1,195
あなたにおすすめの小説
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
今夜で忘れる。
豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」
そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。
黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。
今はお互いに別の方と婚約しています。
「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」
なろう様でも公開中です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる