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第28話 人生に1つの潤いを
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ジェッタ伯爵家には使用人がいないので家族3人が家事を分担して行っている。全ての家事にどれほどの時間がかかるのかを知っているからこそ、時間を有効活用できる装置には興味津々だった。
「この装置なんだが、売りに出してはどうだろう。いや、山を手入れしての問題は木材をそこまで使わないので余っている現状があるんだ。王都は人口が多くなり火事となると燃えやすい木造よりも石造りやレンガ造りの建物ばかりになって木材の需要がガクンと落ちた。だから林業は廃れていくばかりでね。家を作る大きな木だって木炭にして売るしかない。勿体ないと思っていたんだ」
「なるほど。これなら段の数を多くすれば木材を使うし、常に水に浸かっているから定期的に材料の交換も必要になるって訳ですね」
「実際は耐用年数などあるだろうし需要は一時的かも知れない。でも木材なら交換後も乾燥させてチップ材などに出来るからね。仮にバルネリが行きわたったとしてもメンテという需要が見込めるよ」
王都は爆発的に人口が増えて色々な問題を抱えている。
犯罪などもそうだが、もっと身近な事でも王都に住む民衆は不便を抱えていた。
エリーゼはゴミの分別が出来ていないと批難をされたが、今の時流からすれば仕方のない事だった。
かつて人々は物を大事に使った。壊れても修理をして使ったし基本的に「ゴミ」は出なかった。
ボロボロになった衣類でさえ解いて糸にしてパッチワーク風に掛け接ぎ、掛け矧ぎに似た方法で大事に使った。
食べ物だって瓜の皮までピクルスにしたりして工夫をして食べるので食品で捨てる部分も多くなく、動物や魚も命なのだからと骨や内臓も食用以外に薬にしたり、骨も骨角器と言って魚を釣ったりする釣り針や銛、動物を狩る時の鏃に使ったりと石と併用して余すところなく使っていた。
しかし、技術が進んで人は「ゴミ」を出すようになり、昔ならまだ利用用途が見出せた物まで捨てるようになった。
この先技術がまだ進めばもっと便利で快適に過ごせる品物が沢山出てくるだろう。
既に海の向こうの国では「竈に火を起こす」という行為そのものが廃れた国もあると言う。
まだその段階には至っていないのに、この国には問題が起きていた。
モノは有限。当たり前の事を忘れて捨て捲った結果、真っ先に民衆を困らせたのは価格の高騰。
この国で買い物のゴミが分別されるようになったのも紙の原料となるパピルスにコウゾやミツマタを取り過ぎてしまって新しい紙の価格が高騰した背景がある。
再利用する紙はもう一度水に溶かして製紙をする。
日常で文字を書くためではなく、生活に密着した使い方をするので民衆も紙の価格が食べ物に上乗せになるよりマシ、何より価格が抑えられると協力的であっという間に再利用するための分別が広がった。
汚れていると洗浄するという手間が加わる。それが価格に上乗せされるので一旦持ち帰り洗って、次の買い物の時に回収箱に入れる。
品物の価格上昇に比例して給料も上がる訳ではないのだから個人が出来る最低限の事で値が抑えられるのだから協力しない手はない。
しかしそれでも紙の価格はジリジリと上昇している。
山の手入れをすればさらに紙の価格を抑えられるかもしれない。木材チップからも紙は作れるからである。
ただ、幹回りも相当にある立派な木をチップにする為に伐採するのは山に住んでいる者にしてみると許せない話。何十年、下手すれば100年以上も家を支える事が出来る立派な柱を紙が大事だからとチップ材にしようとは思わないのだ。
せめてチップ材にする前段階で「木材ならでは!」な使い道があれば、領地で山守をする領民にも納得をしてもらえる。
全てが上手くいくとは限らないが幾つかの問題がそれで改善されるのなら、考えるきっかけや突破口になるんじゃないか。ジェッタ伯爵はそう思ったのだ。
「便利、快適であると言う事と幸せ、健康は…今と昔では違うからね」
便利さと快適さを求めて価格上昇となって家計を圧迫する事になれば幸せを感じる余裕もないし、食っちゃ寝の生活は健康を損ねるが、良い暮らしをする為に多くの賃金を得ようと働き過ぎれば体と心を病む。
「洗濯の時間から解放される事で本の1冊でも読むようになれればそれで人生に1つ潤いも出来るというものだ。その為には文字を覚えてもらわねばならないが、文字を覚えれば人生にまた広がりも出来るからね。良い事の連鎖は大歓迎だ。どんな小さなとっかかりでもね」
「お父様…まともな人だったのね…」
自分の言葉にうんうんと頷きながら悦に入るジェッタ伯爵。
ぽつりと呟いたコルネリアをヴェッセルは軽く肘で突いた。
「この装置なんだが、売りに出してはどうだろう。いや、山を手入れしての問題は木材をそこまで使わないので余っている現状があるんだ。王都は人口が多くなり火事となると燃えやすい木造よりも石造りやレンガ造りの建物ばかりになって木材の需要がガクンと落ちた。だから林業は廃れていくばかりでね。家を作る大きな木だって木炭にして売るしかない。勿体ないと思っていたんだ」
「なるほど。これなら段の数を多くすれば木材を使うし、常に水に浸かっているから定期的に材料の交換も必要になるって訳ですね」
「実際は耐用年数などあるだろうし需要は一時的かも知れない。でも木材なら交換後も乾燥させてチップ材などに出来るからね。仮にバルネリが行きわたったとしてもメンテという需要が見込めるよ」
王都は爆発的に人口が増えて色々な問題を抱えている。
犯罪などもそうだが、もっと身近な事でも王都に住む民衆は不便を抱えていた。
エリーゼはゴミの分別が出来ていないと批難をされたが、今の時流からすれば仕方のない事だった。
かつて人々は物を大事に使った。壊れても修理をして使ったし基本的に「ゴミ」は出なかった。
ボロボロになった衣類でさえ解いて糸にしてパッチワーク風に掛け接ぎ、掛け矧ぎに似た方法で大事に使った。
食べ物だって瓜の皮までピクルスにしたりして工夫をして食べるので食品で捨てる部分も多くなく、動物や魚も命なのだからと骨や内臓も食用以外に薬にしたり、骨も骨角器と言って魚を釣ったりする釣り針や銛、動物を狩る時の鏃に使ったりと石と併用して余すところなく使っていた。
しかし、技術が進んで人は「ゴミ」を出すようになり、昔ならまだ利用用途が見出せた物まで捨てるようになった。
この先技術がまだ進めばもっと便利で快適に過ごせる品物が沢山出てくるだろう。
既に海の向こうの国では「竈に火を起こす」という行為そのものが廃れた国もあると言う。
まだその段階には至っていないのに、この国には問題が起きていた。
モノは有限。当たり前の事を忘れて捨て捲った結果、真っ先に民衆を困らせたのは価格の高騰。
この国で買い物のゴミが分別されるようになったのも紙の原料となるパピルスにコウゾやミツマタを取り過ぎてしまって新しい紙の価格が高騰した背景がある。
再利用する紙はもう一度水に溶かして製紙をする。
日常で文字を書くためではなく、生活に密着した使い方をするので民衆も紙の価格が食べ物に上乗せになるよりマシ、何より価格が抑えられると協力的であっという間に再利用するための分別が広がった。
汚れていると洗浄するという手間が加わる。それが価格に上乗せされるので一旦持ち帰り洗って、次の買い物の時に回収箱に入れる。
品物の価格上昇に比例して給料も上がる訳ではないのだから個人が出来る最低限の事で値が抑えられるのだから協力しない手はない。
しかしそれでも紙の価格はジリジリと上昇している。
山の手入れをすればさらに紙の価格を抑えられるかもしれない。木材チップからも紙は作れるからである。
ただ、幹回りも相当にある立派な木をチップにする為に伐採するのは山に住んでいる者にしてみると許せない話。何十年、下手すれば100年以上も家を支える事が出来る立派な柱を紙が大事だからとチップ材にしようとは思わないのだ。
せめてチップ材にする前段階で「木材ならでは!」な使い道があれば、領地で山守をする領民にも納得をしてもらえる。
全てが上手くいくとは限らないが幾つかの問題がそれで改善されるのなら、考えるきっかけや突破口になるんじゃないか。ジェッタ伯爵はそう思ったのだ。
「便利、快適であると言う事と幸せ、健康は…今と昔では違うからね」
便利さと快適さを求めて価格上昇となって家計を圧迫する事になれば幸せを感じる余裕もないし、食っちゃ寝の生活は健康を損ねるが、良い暮らしをする為に多くの賃金を得ようと働き過ぎれば体と心を病む。
「洗濯の時間から解放される事で本の1冊でも読むようになれればそれで人生に1つ潤いも出来るというものだ。その為には文字を覚えてもらわねばならないが、文字を覚えれば人生にまた広がりも出来るからね。良い事の連鎖は大歓迎だ。どんな小さなとっかかりでもね」
「お父様…まともな人だったのね…」
自分の言葉にうんうんと頷きながら悦に入るジェッタ伯爵。
ぽつりと呟いたコルネリアをヴェッセルは軽く肘で突いた。
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