婚約も二度目なら

cyaru

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第31話  新婚さんの邪魔はしたくない

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「え?まだだったの?」

ブッ!とコルネリアの口から茶が噴き出しそうになった。
ヴェッセルも交えた夕食。

ヴェッセルとジェッタ伯爵が食事の後片付けで食器などを洗って片付ける。コルネリアと夫人は食後の茶を飲んでいた。冒頭の言葉はコルネリアの母親の声。

副王都まで2人で旅をしたのだが、そういうコトを致していない、あれは視察だ!とはっきり伝えると大層驚かれたのだ。母親に。

「え?副王都まで2人きりだったのに?」
「だから何?そういう目的じゃないから。なんなのいったい…」
「ま、まぁ…婚前交渉がダメとかそういうのじゃないのよ?でも仲が良いから…孫の顔も早くに見られるかなぁって思っただけよ?」

親に言われてしまうのは気恥ずかしい気もするが、婿を迎える立場のコルネリア。更なる後継については両親も心配なのだろう。

ジェッタ伯爵は結婚が遅かったのでコルネリアはジェッタ伯爵が35歳、夫人は28歳の時の子供。孫が見られるかどうかは平均寿命からすると微妙なラインにある。

カスパルとの婚約が無くなり、次の婚約者が見つかるかどうか。入り婿はなかなか承知してくれない家も多い上に「妻に飼われている」と揶揄する者も居るので見つかり難い。
早々にヴェッセルという婚約者が出来たのは奇跡に近い。


食事の片づけが終わるとジェッタ伯爵は夫人に「行こうか」と言って離れに向かう。

「来週じゃなかったの!?」
「だって、新婚さんの邪魔はしたくないもの。ね?あなた」
「う、うん・・そうだね」

捨てられた仔犬のようにショボンとしている父親と何故かウキウキの母親。
コルネリアは両親を見て「ここでも初体験かいっ!」っと思ったのだった。

結婚式と言う華々しい事をするのは王族くらい。伯爵家と言えど届けを出せばそれで結婚成立で何が変わるかと言えば食卓を囲う人数が変わる程度。

特に代わり映えもない中で変に気を利かせた両親が離れに行ってしまうとコルネリアよりもヴェッセルが緊張しているので何とも居た堪れない。

部屋に戻り、コルネリアはお気に入りの枕を抱えた。

「私が客間で寝るから寝台は使ってくれていいわ」
「そう言う訳には!!えぇっと…何もしないって言うのは前回で判ってくれていると思うから、そのぅ」
「あのね。さっきまでのベタベタな俺様は何処に行ったの!変に緊張しないで」
「無理だよ…」
「無理とか怖い事言わないの」
「でっでも!!一緒に寝よう。ルネの準備ができるまで手は出さないよ」

そう言っても、説得力が全くない。

「あ!これは!!これはだな…生理現象で…男って損だよなぁ。見れば丸わかりで全部の言葉が打ち消しになっちゃうんだよなぁ」


だんだんとヴェッセルが気の毒になり「何もしない」という条件で先にコルネリア、次にヴェッセルが湯を浴びてくると寝台に並んで横になる。

「あ~なんか…ルネの香りがする」
「そりゃそうでしょ。私の寝台からお父様の香りがしたら大変だわ」
「それはそうなんだけど…あのさ…」
「何?眠いんだけど」
「手だけ繋いでもいいかな」
「手?ゴーストとか出ないわよ?」

意外に子供っぽいのだなと思いつつ、子爵家ではどうしてたんだろう?とシャウテン子爵と手を繋いで眠るヴェッセルを想像すると危険な絵面になったので想像をやめた。

繋いできたヴェッセルの手は大きくて温かい。

――やっぱり体温が高めなのかしら――

そう思いながらも昼間の疲れもどっと出てコルネリアは船を漕ぎ始めた。

朝起きた時、明け方の寒さに直立不動を倒した状態のヴェッセルを抱き枕にしていた自分を認識するとも知らずに…。

★~★

慣れとは恐ろしい。1週間もすると一緒に寝るのも当たり前になり、食卓にヴェッセルがいるのも普通の光景。

「蜂蜜取ってくれないか」とジェッタ伯爵。
「コレっすか?残りが少なくなってんなぁ」とヴェッセル。
「野菜の残りも少ないからリアとセルで買ってきて頂戴」と夫人。
「えぇー。そんな時間ないんだけど。お父様に言ってよ」とコルネリア。

キッチンの入り口には家事の分担表が張ってあって、ちゃんとヴェッセルの名前も入っている。

ジェッタ伯爵夫妻は毎日出掛けるわけではなく、家の中で執務をする。

「じゃぁ帰りに買い物もしてくるわね」
「お願いね。お金は足りそう?」
「大丈夫。じゃぁ行って来るわ」
「ルネ!待ってくれよ。上着とってくる」

洗い物を終えたヴェッセルは残りの食器を戸棚に戻すと上着を取りに部屋に走って行く。
今日は試作品ではあるが貧民窟に第1号となるバルトリを組み立てるのである。

上着を取って来たヴェッセルと手を繋いで家を出る。

「やっと第1号だな」
「みんな現実的なのよね。確かに時間はないんだけど」

何もかも一度には出来ない。文字を学ぶにも学ぶ時間を作らねばならず刺繍など内職をする者達は朝に30分、昼に30分と短い時間を作って学び始めたが、それ以外はまだまだ。

ただ、全く効果が無かった訳ではなく自分の名前を文字で書けるようになると家に戻って家族に教える。夢のまた夢と思っていた文字には興味があったようで意欲はある。しかし時間が無い。

なのでバルトリを設置して、洗濯に充てていた時間を勉学に回す。洗濯は直ぐに終わるようでなかなか終わらない。洗った後は濯ぎもせねばならない。そのあとは絞って干す作業がある。

「バルトリを作る時にさ。余った木材があったから加工してもらったんだ」
「それがあの丸太を2つ並べたやつ?」
「そうそう。隙間に洗濯物を差し込んで丸太を回せば水がきれるんだ。予想では」
「予想って…ダメじゃない」

こじんまりとしたものではなく、丸太のベンチに出来そうな大きさの木材。樹皮を剥いで面にヤスリをかけて木の棘になるバラが刺さらないように磨く。

丸太は両端を削って突起上にして木の枠に引っかける。

洗濯物を差し込むと子供が丸太の上に乗って道化師のように歩くと丸太が回って洗濯物が絞れる…予定である。

「面白いものを考えつくわよね」
「惚れた?もうメロメロに惚れた?」
「出来栄えを見てからね。惚れるかも知れないわ」
「惚れるさ!渾身の作だからなっ!」

繋いだ手をブンブン振りながら歩く2人を見つめる目があった。
1つは路地から。もう1つは人は行き交っているのに足を止めて帽子を深くかぶった目。

2人が通り過ぎるとその影も後を追うように動き出した。
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